最愛の敵

ルテラ

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エウダイモニア

86話 英雄の誕生

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 作戦の概要こうだ。全勢力を注ぎ込み、チャムク軍を殲滅する。だがそれはあくまで表向きだった。
「2人には暗殺を頼みたい」
「暗殺?」
「そうだ。こちらが全勢力で来るなら向こうも全勢力を注ぎ込むだろう。そうなればおのずと司令塔が手薄となる。そこを狙う」
「なるほど、司令塔がなければ機動力を失う。そこを叩くと言うことですか」
「そうだ。3週間後に決行する。準備をしておけ」
「はい」
 これをパーチミのみ話す。パーチミは動揺を隠せないでいる。
「本当か?」
 ホルスは頷く。
「レアは?」
「流石に言えない」
 レアに話せばきっと倒れてしまうだろう。
「終わったら怒られるよ」
「そもそも上手く行くのか?」
「分からない。だが僕達の実力を買ってのことだろう」
 分かった、パーチミはそれ以上何も言わなかった。
 3週間あっという間に時間が過ぎた。作戦実行、前日。
「ラズリ」
 パーチミが1人いる。ラズリ呼ぶ。
 分かっていた。これから言う言葉がラズリの足枷となることを。それでも、
「あいつこと頼んだよ。俺はお前達と一緒には行けないから、お前に頼むことしか出来ない。ホルスを頼む」
「仰せのままに」
 やはりそこには何の感情もなかった。

 最終決戦あり緊張はピークにたしていた。それを横目にホルス、ラズリは目的地へと向かう。
「ラズリ、これを着けておきなさい」
 綺麗なブレスレットを手首に着けられる。
「これは?」
「お守りだよ」
 幸いなことに今日は霧が濃い。隠密行動には最適だ。

「ふむ、丁度、真ん中だね」
 スイマール軍とチャムク軍の境界線まで来た。
「ここからは慎重に・・・」
 ホルスがラズリを押す。辺りが明るくなり、耳につんざく様な音が響く。
 何が起こったのだろうか。ラズリは瞬時に状況の分析をする。
 光、爆発、おそらく地雷類。押された無傷、魔力包まれ・・・
 ホルスの姿が浮かぶ。
「ホルス!」
 辺りを見渡すと大量の血で塗られた。岩を見つける。駆け寄る。
「あ・・・あ“・・・」
 岩に叩きつけられたホルス見つける。
「ホル・・・ス」
 ラズリは頭を回転させる。
「ラ・・・ズリ」
 その声で我に帰る。
「ようやく・・・名前呼んで・・・くれたね」
 血だらけの顔で笑う。
「そんなこといい。はやく治療しなきゃ・・・」
「ラズリ」
「何で笑ってんだ!」
「嬉しいんだ。君が・・・こんなに慌てふためくの初めてみた・・・よかった最後に見れて・・・」
 
 何が起こった?体が動かない。目は見えている。いや、暗い。聞こえている?いや、聞こえな・・・
「バハ・・・」
 地面に血は滴る。血?
 バタッ
 地面が近くなった。何故?任務中だ、立たなければ?足あれ?手は?息しているのか?
「・・・ラズ」
 誰だ?
「・・・ラズリ!!!」
「パージミ?」
「もう喋るな!」
「(何があった。何が起こった)」
 ラズリは薄れゆく意識の中考える。
『子供達を守ってくれ、君はきっとそれが生きる原動力となる・・・生きて、守れ!』
 今にも消えそうな、でもどんな光よりも強い光がホルスの目に宿っていた。

「そうだ。守らなきゃ」
『無理だ。やめておけ』
 久しぶりに聞く声。
『サマエル、お前は私の命令に背いた時点で価値はないんだ』
「違う」
『いい加減分かったらどうだった!価値がないものが生きたからこうなった』
「違う」
『お前など産まなければ』

「黙れ!!」
 ラズリは起き上がる。
「ラズリ!」
 聞き馴染みのある声を聞く。レアと子供達の声。ラズリはそちらを向く。
「えっ・・・」
 レアと子供達は血塗れだった。

『サマエル、お前は私の命令に背いた時点で価値はないんだ』
『価値がないものが生きたからこうなった』
『お前など産まなければ』
 夢の記憶が蘇る。だが今ラズリとってそれは夢ではなく現実だった。
「わわぁぁぁぁ」
 ラズリの叫びに全員が驚く。
「ごめんなさい。生きて、ごめんなさい。違うんだ。生まれてきたかった訳じゃない。仕方がなかった。生きたいなんて思ったこと一度もない」
 ラズリは自身の手で顔を覆う。そして爪で顔や首を引っ掻く。
 手には包帯が巻かれていた。実際には手だけではなく全身に巻かれていた。それほどまでに大怪我だったという訳だが、構わず引っ掻く。まるで自身罪の押し潰される様に。
「ラズリ!やめて」
「(ホルス、ごめんなさい。守れなかった。他の誰よりも守りたかったはずなのに)」
「だめです」
「ラズリ!」
 レアと子供達は何とか引き離そうとするがラズリの腕力には勝てない。
「ラズリ、ごめんね」
 レアはラズリの口を手で覆う。しばらくするとラズリ意識を手放す。
 
 
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