最愛の敵

ルテラ

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チャムク帝国

101話 説得

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「だから、目を背ける。目的の為にお前を創った。光と闇を持った者を本来ならそれで完成だったが・・・」
「死なずに魔法が移植できるから、それも移植しよとした」
 ラズリはソロモンの眼帯を外す。
「そうだ。まあ、執念深い奴だったのか強がりだったのか最後まで分からなかったね」
「そうか」
 眼帯を捨て、セイレを見る。
「これからソロモンが起こすことを、これから来るパイロンに言え、そうそれば多少は融通してくれるだろう」

「っていうことだよ」
「何故、俺に話す。これからソロモンが起こすことだけを言えばいいんじゃないのか?」
 レオはセイレに問う。
 セイレはソロモンがホルスであることは言っていない。
「さあね。ただ不便に思ったんじゃない?」
 セイレは天井を見上げる。
「それで、ソロモンはこれから何を起こす」
「それはね」
 レオに向き直る。

「ラズリさん、それをレオさんはライは知っているんですか?」
 ラズリの告発に耳を疑う。
「知らないだろうな」
 ラズリはソロモンがホルスであること、そしてソロモンは自身が殺したくことをトートに告発した。
「なら、もういいでしょう。帰りましょう。皆んなに誤解だったといいましょう」
「トート、法は誰の為にある?」

『トート、人は人によって裁かれるのではなく、法によって裁かれる。なら法で裁かれない者は人にあらず?』

ずっと考えていた。
「答えてくれ」
「法は平等というものを確立する為、実現する為にあるものだと思います。だから人は安全に幸せに暮らせると思います。法がなければ世界は混沌とかしてしまうと思います」
分かってはならない。
「誰のことを言っているんですか?」
 トートは眉を顰める。
「多くの者を殺した。それなのに裁かれなかった。それどころか英雄として祭り上げられた」
「違います。あなたは悪くない!あれはあなたのせいではないんです」
「法に例外があってはそれは無秩序の世界と同じだ」
何か言わなきゃ
 トートは言葉を詰まらせる。
駄目だ。何か言わなきゃ言わなきゃ。
 トートの顔をラズリは真っ直ぐ見る。
「殺してくれ」
 分かっていました。貴方がそれを望んでいると、でもヤダよ!!
 風が優しく体に触れる。
「・・・出来ません」
 そこからは一瞬よりも速く、亀よりも遅く感じた。
「そうか」
 ラズリは消え、たかと思うと自分の目の前に現れる。剣をトートに突きつける。
「ふぐ!・・・う“!」
 切られそうになるのを何とか防ぐ。トートは後ろに跳ぶ。
「(重い!)」
「トート構えろ、死ぬぞ」
「ラズ・・・」
 再び、剣と剣が交わる。
「(剣が・・・)」
 トートは自身が持っている剣が壊れてしまいそうに感じ、自身の魔力、魔法を通す。
カン ドン
「カハッ!」
 ラズリはトートの溝落ちを蹴る。
「上手くなったな。見違えたな」
 舐めていた訳ではなかった。だがトートは心の隅で思っていた。少しは渡り合えるのではないかと思っていた。
「(甘かった。甘すぎた、絶対的な強敵、勝てない不可能)」
「立つんだ」
「(これは戦いじゃない、一方的な虐殺)」
 トートは何とか立ち上がる。衝撃を緩和させるために魔力を纏う。
「ラズリさんお願いです。こんなことやめて下さい!」
 トートは懇願するしかなかった。
何で・・・何で
「トート、戦え」
 何で!!
「(ずっと疑問に思っていた)」
「トート」
 トートは歯を食い縛る。
「何で!!殺してと頼むなら!何で自分に頼むんだ。仲間に入れたんだ。強い人なら他にもいただろう!!」
 ずっと聞きたかった。でも自分が惨めになるから聞けなかった。
「お前が似ていたから」
「え?(自分が?)」
 トートの困惑を無視しラズリは続ける。
「お前ぐらいだな、あの『リテラシー』を間に受け、銃を持ち続けているなんて」
「え?覚えていたんですか?でもあの時は知らないって・・・」
「あの時はそう言うしかなかった」
「いつから自分に?」
「初めは皇帝から面白い奴がいるっと言われたことだ。中々、仲間に引き込みたい奴がいなくてダメ元で授業という名目で訪れたのが始まりだ」
 そうたまたまでしかなかった。

 これはまだ、トートが軍人学校に入学した頃だった。トートは友達も作らず、1人いた。
「(つまらない。早く戦場に行きたい。行って早く・・・)」
 空は青くともトートの目には全てが白黒に見えた。だが、トートはその色ですら鬱陶しく、目を瞑る。
「(そういえば、今日は特別なリテラシーがあるとか行ってたな。いつもなら何のリテラシーか言ってくれるに教えてくれなかったな。誰がするとも教えてくれなかったな)」
 まあ、何でもいいか。関係ない。

 
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