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第一章

第49話 クソ爺と

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「クソ爺、帰ったぞ? ん? いねえのか?」

 アシア達は教会前の広場まで来たが、ベンチに座りまだ話を続けている。

 まだ土産を渡せてないんだけどよ……。

 とりあえず教会に入り、礼拝場所を見渡したんだがクソ爺はいない……。

 また司教さんとどっか言ったんかな。

『裏に一人の気配がありますね』

「墓の掃除してんのかな、まあ良いや、おいアンラ、どこ行くんだよ」

「ん? 着替え何か良いのないかなぁ~って思ってね。この服もらった部屋を見に行こうと思ったんだけど、駄目だった?」

 アンラはなにも言わずに礼拝場所から奥へ向かってたから聞いたんだが、それならまあ良いか。

「まあ良いけどよ、俺は裏にクソ爺を探しに行ってくっからな、あんまりぐちゃぐちゃにすんなよ」

「ほ~い。まあ、この服が一番まともって言ってたし、小物でも探してみるよ~」

 俺に背中を向け、歩いていきながら手をひらひらさせて奥に消えていった。

 まあ俺のお下がりばっかだし良いか。

 俺はアンラを見送った後、教会の裏手にまわり、扉のなくなった小屋の脇を抜けて墓地に向かう。

『いますね、あの老人がケントの?』

 ザザッ、ザザッと箒で落ち葉や引き抜いた草を掃き集めているクソ爺が見えた。

「おう、そうだぜ――おいクソ爺! 帰ってきたぞ!」

 声をかけた瞬間より早く動いた気がするが、まあクソ爺なら先に気付いてもおかしくねえな。

「ケントか、無事に戻ったようだな」

 クソ爺は手を止め俺の足元から頭のてっぺんまでジロジロと見ながらニヤリと笑った。

「おう、クソ爺こそ元気そうじゃねえか、俺がいねえから寂しくてしょぼくれてんのかと思ったがよ」

 俺も同じようにニヤリと笑い返してやる。

「なんだよ、街でいじめられて逃げ帰って来たって訳じゃなさそうだな……ケント、お帰り」

「おう、ただいまだ」

 足元に担いでいたクローセの入っている鞄を下ろし、ソラーレをその上にのせる。

 クソ爺も手に持っていた箒を集めた草の上にパサリと手放し乗せる。

『何をやろうとしているのですか?』

 まあ見てろって、いつもの事だ。

 お互いに腰を落とし、構えをとる。

 鞄からクローセが顔を覗かせ『んにゃ』とひとなきした瞬間――ドン!

 同じ拍子で地面を蹴り相手に向かって踏み込み、クソ爺の右拳がブオンと風を起こしながら俺の傾けた頭の横を通りすぎる。

 俺はさらに膝を曲げ懐に潜り込み、胸にひじ打ちを叩き込むように下から延び上がる。

「しっ!」

 が、半身だけひねって簡単に避けやがった。

 俺もクソ爺もその一撃だけで、バッと後方に飛び退き離れる。

「なんだ、少しやれるようになったじゃねえか」

「クソ爺も怠けてはいないみたいだな」

 俺は顔を出してこっちを見ているクローセ入りの鞄を持ち上げ背負い、クソ爺は箒を拾い上げる。

「おい、荷物を置いて手伝う気はないのか?」

「そうだな、うっし、後は集めたヤツを捨てるだけだよな、やっちまうか」

 そうだ、ソラーレは草とか落ち葉は食えるんかな?

 鞄の上から俺の肩に戻ってきたソラーレを、そっと手に乗せクソ爺が集めた物の上に乗せてみる。

「なんだ? スライムか? ってかそりゃ……グラトニースライムかよ、珍しいじゃないか」

「おう、リチウムの街の前で仲間になったんだ。ソラーレ、これって食ってしまえるか?」

 クソ爺は知ってるみてえで、ソラーレを覗き込んでくる。

 ソラーレはぷるぷると震えた後、集めて山になっていた物を包み込むように広がると、瞬く間に草と落ち葉の山が溶かされ消えてしまった。

「「スッゲーな!コイツはすげえ!」」

 ぷるぷると自慢気に震えるソラーレを拾い上げる。

「くははっ、小せえのにやるな、ソラーレだったか、ありがとうな」

「おう、感謝しやがれ、っとそうだ、街の土産で酒を買ったからよ、掃除も終わったんなら戻ろうぜ」

 ツンツンとソラーレをつつくクソ爺を連れて教会に戻る。

「そういやクローセもついて行ってたんだな」

(エンペラーキャット……大人しいヤツだから放っておいたが……見た感じ問題は無さそうだ、それに今度はグラトニースライムか、ったくケントは珍しいもんに好かれる奴だな)

 二人で教会に戻り、まだ話し込んでるアシア達を横目に一度部屋に荷物を置きに行く。

(ケント~、この靴って片方しかないの?)

 部屋の前に来た時アンラがかかとと爪先が木で補強された靴の片割れを持って奥から歩いてきた。

「あっ! その靴は! 片方無くして俺も探してたんだよ! 倉庫にあったんか!」

 昔、アンラが持ってる靴は戦闘用で、蹴りで使う部分を補強してあるんだが、クソ爺との修練中に補強部分が割れて修理していたはずだ。

 それで手直ししている内に失くしてしまったと思っていたんだが……。

「まあ、もう俺にはキツいからな、アンラが使っても良いぞ、片方は部屋にあるはずだ」

(ケント、独り言になるから気を付けなさいよ、私は構わないけどさ、誰かに聞かれたら頭がおかしくなったと思われるんじゃないの?)

 おっと、そうだったな。

 まあ良い、こっちに確か……。

 アンラを連れて部屋に入り、寝台にしてる木箱の一つ、その蓋を開け、中を覗く。

 拳闘用の籠手や、探していた片方の靴なんかが入ってる。

 靴を取り出し見てみると、少しホコリで汚れているが、補修は終わっている。

(おお! あるじゃん♪ ねえねえもらっても良いんだよね? その籠手も格好いいじゃない、それもちょうだいよ)

 俺は靴を渡し、言われた籠手を手に取る。

「これは無理なんじゃねえか? 抜手の練習したから、指先が破れてしまってるしよ」

 ちとキツくなった籠手を嵌めてみるが、親指以外は全部爪が見えてるな……ん? アンラは爪を伸ばして攻撃していたし、いけるか……。

「手直しするしかねえな、アンラ、嵌めてみろよ、アンラ用に詰めて、指先が出るようにしてやるよ」

(だから声でてるって、でもそうね、直してもらえるんなら使えるわ、どれどれ)

 おっとそうだったな。

 開けた木箱の横に座り靴を履き替えているアンラに籠手を渡し嵌めてもらう。

 指先や、余っている所を確かめる。

 簡単に手直しすれば行けそうだと確信した俺は、籠手に印をしてから外してもらい、さあ手直ししようとして、机に向かいかけた時、部屋に近付く気配がした。
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