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ドラゴンクエスト編
41話 遭遇
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魔族の聴力は人間の約3倍と言われている。
調査員は何故ギャーギャーと大声を上げながら森の中を逃げ回っていたのか、それは飛行術を使って森の上空に現れるであろうギフリードに自分の位置を知らせるためだった。
調査員の思惑通り、騒ぎ立てる声から調査員の位置を特定する事に成功したギフリードが闇属性の攻撃魔法を発動する。
複数の闇属性攻撃魔法を容赦すること無く急降下させてしまうと、衝撃で森を破壊してしまうだろう。
先の未来を予想して、強張った表情を浮かべるヒビキに視線を向けると、ギフリードは首を縦に振る。
「そのつもりだが? 迷いの森は1か月もすれば再生する。幸い森の中には調査員と敵2名の計3名しかいないようだし」
迷うことなく即答したギフリードは爽やかな笑顔を浮かべていた。
事は一刻を争うためギフリードは空に向けていた人差し指を、迷いの森に向かって勢い良く振り下ろす。
ギフリードの指先が合図になったのだろう。
無数のブラックボールが、まるで雨が森に降り注ぐようにして木々に打ち付けられて枝葉が朽ちる。
成り行きを見守っていた鬼灯がギフリードの動きに合わせて向きを変えるブラックボールを眺めて
「すげぇ」
ぽつりと感想を漏らしていた。
ヒビキが頭を抱えて大きなため息を吐き出した。
大規模な魔法攻撃は暗黒騎士団の調査員を務める青年も巻き込んだ。
「ちょっとぉ!」
激しい地響を立て大地が揺れる。
木々が倒れ大岩が破壊される程の威力を持つ魔法攻撃が1つだけ、調査員めがけて急降下する。
「あ、手元が狂った」
迷いの森の上空ではギフリードが本当に小さな声で本音を漏らしていた。
調査員の目の前でユキヒラが巨大な剣を振り回し、降り注ぐブラックボールを弾き飛ばす。
右足を引き左足を軸に体を横に回転して薙ぎ払う。
「こっちに攻撃を向けないでよ、もぉ!」
悲鳴を上げる調査員の頭上に迫るブラックボールは、ギフリードが手元を狂わせたものである。加えてユキヒラの弾いたブラックボールが調査員の腹部めがけて飛ぶ。
甲高い悲鳴を上げながら右往左往する調査員はパニック状態に陥っていた。
頭上を覆っていた枝葉が無くなり朝日が差し込む。
視界が開けて、調査員の視界に空に浮かぶギフリードの姿が入り込んだ。
ギフリードの位置を把握した途端、調査員は唖然とする。
空に浮かぶ複数のブラックボールを視野に入れて大声を張り上げた。
「ちゃんと狙いなさいよ、敵はあっちよ!」
ピシッピシッと何度もユキヒラを指さして言葉を続ける調査員から、ギフリードはゆっくりと視線を逸らす。
文句を漏らしながらも助けが来た事に対して安堵する調査員が小さなため息を吐き出した。
武器を持たない調査員と入れ替わるようにギフリードが飛行術を解き森の中に降りたった。
代わりに調査員が急ぎ足で飛行術を使って空中に飛び上がる。
安全な位置に移動した調査員が、色っぽいため息を吐き出すと喋る事をやめてしまう。
黒い紙を懐から取り出すと暗黒騎士団No.2であるアリアスに向けて手紙を書き記す。
現在の状況をはじめとした長文には場所と敵の数、仲間の数を詳しく書き込みパチンと指を鳴らすと黒い手紙は姿を消す。
遠く離れた場所にいるアリアスの元に転移した。
魔界から人間界へ、一瞬で手紙はアリアスの元に届けられた。
人間界のお城は左右対称。
白を基調とした建物の4階には銀騎士団が生活をするために国王が準備をした寝室がいくつもあり、その中の一室。
寝室の中央に設置されたベッドに腰を下ろしていたアリアスの元に調査員からの手紙が届く。
銀色の鎧を身に纏った髭面のおっさん騎士が、目の前に現れた手紙を手に取って内容を確認する。
魔界から人間界へ、魔界で起こっている出来事を伝えるためにアリアスの元へ遠路はるばるやって来たランテが、手紙に記されている内容をいくつか補正する。
「あのね、白い狐耳のケープを纏っている子はヒビキ君。アリアスにギフリードからの手紙を届けた後、帰宅するため魔界に向かって飛行している時に崖の下で大けがを負い意識を失っているこの子を見つけたの。家に連れて帰って看病をしたから今は元気にしているんだけどね。あ、いい子だから安心して。それと黒いコートを纏っているのは鬼灯君。ヒビキ君の仲間なんだけどね、幻術の魔法を使うちょっと特殊な青年よ」
笑みを浮かべて調査員からの手紙に記されていた2人の説明を行ったランテにアリアスは、ぽかーんとした表情を浮かべて固まってしまう。
手紙を床に落として瞬きを繰り返しているアリアスにランテが、どうしたのと首を傾ける。
暗黒騎士団No.2であるアリアスは魔王の指示に従って人間界と魔界の友好関係を結ぶために、身元を隠して国王に仕える銀騎士の一員として人間界についての情報収集を行っていた。
「ヒビキ君とは、もしかして彼の事か?」
口を半開きにして固まっていたアリアスが寝室の扉を開きランテを廊下に連れ出した。
部屋を出ると、すぐに一枚の肖像画を指差して確認する。
クリーム色の髪の毛が印象的な水色の瞳の少年が肖像画には大きく描かれていた。
無表情を浮かべる少年の目には光がない。
もしも肖像画に描かれている人物が目の前に現れたなら、きっと何て話しかけづらい雰囲気の持ち主なのだろうかと思ってしまうだろう。
しかし、少年の容姿はランテの良く知る人物と類似する。
髪色や瞳の色だけじゃなく、顔のつくりまで共通する点が多くある。
「この肖像画に描かれている子に確かによく似ているわね。でも、肖像画のような冷たい雰囲気の子ではないわよ。よくリビング中央にあるソファーに腰を掛けて眠っている子よ? ヒナミちゃんの能力を使って、少年を写しとった写真があるのだけど」
確認してよと言って一枚の写真をアリアスに渡す。
目蓋を閉じ真っ白な肌をした少年の姿を眺めていたアリアスの顔から徐々に血の気が引いていった。
顔を真っ青にしてランテの方へと視線を向けたアリアスがプルプルと唇を震わせながらか細い声を出す。
「国王の息子であるヒビキ様で間違いないぞ」
「え」
アリアスの言葉を聞いたランテが顔面蒼白になるのは一瞬の出来事だった。
「え、噓でしょ? 私は王族を魔界に連れ帰っちゃったって事?」
ヒビキの身元を知らなかったランテは今まで彼に対して失礼な行為を行わなかったかと必死に過去の記憶を遡っていた。
そして、王族であるヒビキに対してやらかしてしまった行動を思い浮かべて唇をわなわなと震わせる。
ランテがアリアスに意見を求めて再び口を開く。
「どうしよう。ヒナミちゃんを敵の攻撃から守ってくれた彼に思いきり飛びつき冷たい床に押し倒しちゃった。それに何度も無茶をしようとする彼に対して説教をしたわ」
「押し倒しただけじゃなく、説教までしたのか?」
あんぐりと口を開くアリアスの問いかけにランテは何度も首を上下に動かした。
「ヒビキ様は兄のタツウミ様とは違って冷たい性格をしているからな。今から、すぐに城を出て魔界に飛ぼう。そして、ヒビキ様に許しを請う事にしよう。もしも、自害しろと言われたら人間界を敵に回してもいい一緒に戦おう」
真剣な面持ちを浮かべて言葉を続けたアリアスにランテが首を傾ける。
「ちょっと待って。ヒビキ君は自害をしろなんていうような子じゃないわよ。冷たい性格? どこが?」
首を傾けて問いかけたランテに、すかさずアリアスが言葉を続ける。
「行方不明になる前のヒビキ様のイメージはそんな感じだったんだよ。笑う所か表情をピクリとも変えなかったから鉄仮面と、あだ名をつけて陰でヒビキ様の事を呼ぶ騎士もいたんだからな。まぁ、魔界と人間界を繋ぐゲートからヒビキ様が姿を現した時は穏やかな雰囲気を醸し出していたけど一時の事だったし次に出会った時はどうなるのやら」
寝室を抜けたアリアスが向かう先は銀騎士の特攻隊隊長を務める金髪の女性騎士の元。
アリアスの身元を知る唯一の存在である彼女の種族は天使。
彼女は天界から神の指示を受けて天界と人間界の友好関係を結ぶために身元を隠して人間界に潜り込んでいた。
金髪の女性騎士の寝室の扉をランテがノックする。
「はい」
淡々とした口調の返事に対してランテが声を上げる。
「入ってもいいかしら?」
久しぶりに会う友人の声を聞き金髪の女性は勢いよく、その場に立ち上がったようで室内でガタッと何かが倒れるような大きな音が響く。
カツカツカツカツと規則正しい足音が室内から聞こえ、バンッと開いた扉から金髪の女性が姿を現した。
「ランテ!」
銀色の鎧を身に纏っている金髪の女性がランテの名前を呼び、瞬きを繰り返しているランテに抱き着いた。
「国王が一人で魔界に行っちゃたのよ。追いかけようにも天界からの指示で私は動けないし、アリアスも魔界からの指示で動けない。人間界の騎士は飛行術を使えないし。ランテに頼んでいい? 国王を見つけたら人間界に連れ帰ってほしいのよ」
お願いと言葉を続けた銀騎士にアリアスが口を開く。
「その事についてだが、ギフリードからの手紙が俺の元に届いてな。俺を魔界に帰還させると記されていた。だから、魔界に帰還をしたら人間界を抜け出した国王を探そうと思ってな」
「そうなの? それは助かる。もしも、国王を見つけたら人間界に連れ帰ってほしいんだけど」
金色の髪の毛が印象的な女性騎士はアリアスが魔界に帰還する事に対して許可を出す。
「あ、今まで世話になったね」
ポツリと言葉を続けた金髪の女性にアリアスが苦笑する。
「それは、こっちのセリフだな」
笑みを浮かべて窓枠に足をかけたアリアスが城の窓から外へと飛び出すと、その後にランテが続き城を抜け出した。
人間界の城を抜け出した事を調査員から届いた紙に書き記すと突然、紙はアリアスの手元を離れて調査員の元に転移する。
アリアスからの返事の手紙を受け取り内容を読んだ調査員が紙を懐にしまう。
調査員の視線の先にはユキヒラと対峙するギフリードと、ドラゴンと対峙をするヒビキと鬼灯の姿があった。
ドラゴンの背中に乗っていたサヤは、ヒビキと鬼灯がドラゴンに向け攻撃を開始したため、いそいで近くの物陰に移動をする。
黒いコートを身に纏っている魔術師の青年に視線を向けてから、ゆっくりと視線を青年の隣に佇む少年に向ける。
「あの子」
サヤがか細い声で呟いた。
サヤの視線の先に白いケープを身に纏った狐耳のフードを被る少年の姿がある。
探し求めていた人物に思わぬ場所で出くわしたため、サヤの表情が瞬く間に明るくなった。
調査員は何故ギャーギャーと大声を上げながら森の中を逃げ回っていたのか、それは飛行術を使って森の上空に現れるであろうギフリードに自分の位置を知らせるためだった。
調査員の思惑通り、騒ぎ立てる声から調査員の位置を特定する事に成功したギフリードが闇属性の攻撃魔法を発動する。
複数の闇属性攻撃魔法を容赦すること無く急降下させてしまうと、衝撃で森を破壊してしまうだろう。
先の未来を予想して、強張った表情を浮かべるヒビキに視線を向けると、ギフリードは首を縦に振る。
「そのつもりだが? 迷いの森は1か月もすれば再生する。幸い森の中には調査員と敵2名の計3名しかいないようだし」
迷うことなく即答したギフリードは爽やかな笑顔を浮かべていた。
事は一刻を争うためギフリードは空に向けていた人差し指を、迷いの森に向かって勢い良く振り下ろす。
ギフリードの指先が合図になったのだろう。
無数のブラックボールが、まるで雨が森に降り注ぐようにして木々に打ち付けられて枝葉が朽ちる。
成り行きを見守っていた鬼灯がギフリードの動きに合わせて向きを変えるブラックボールを眺めて
「すげぇ」
ぽつりと感想を漏らしていた。
ヒビキが頭を抱えて大きなため息を吐き出した。
大規模な魔法攻撃は暗黒騎士団の調査員を務める青年も巻き込んだ。
「ちょっとぉ!」
激しい地響を立て大地が揺れる。
木々が倒れ大岩が破壊される程の威力を持つ魔法攻撃が1つだけ、調査員めがけて急降下する。
「あ、手元が狂った」
迷いの森の上空ではギフリードが本当に小さな声で本音を漏らしていた。
調査員の目の前でユキヒラが巨大な剣を振り回し、降り注ぐブラックボールを弾き飛ばす。
右足を引き左足を軸に体を横に回転して薙ぎ払う。
「こっちに攻撃を向けないでよ、もぉ!」
悲鳴を上げる調査員の頭上に迫るブラックボールは、ギフリードが手元を狂わせたものである。加えてユキヒラの弾いたブラックボールが調査員の腹部めがけて飛ぶ。
甲高い悲鳴を上げながら右往左往する調査員はパニック状態に陥っていた。
頭上を覆っていた枝葉が無くなり朝日が差し込む。
視界が開けて、調査員の視界に空に浮かぶギフリードの姿が入り込んだ。
ギフリードの位置を把握した途端、調査員は唖然とする。
空に浮かぶ複数のブラックボールを視野に入れて大声を張り上げた。
「ちゃんと狙いなさいよ、敵はあっちよ!」
ピシッピシッと何度もユキヒラを指さして言葉を続ける調査員から、ギフリードはゆっくりと視線を逸らす。
文句を漏らしながらも助けが来た事に対して安堵する調査員が小さなため息を吐き出した。
武器を持たない調査員と入れ替わるようにギフリードが飛行術を解き森の中に降りたった。
代わりに調査員が急ぎ足で飛行術を使って空中に飛び上がる。
安全な位置に移動した調査員が、色っぽいため息を吐き出すと喋る事をやめてしまう。
黒い紙を懐から取り出すと暗黒騎士団No.2であるアリアスに向けて手紙を書き記す。
現在の状況をはじめとした長文には場所と敵の数、仲間の数を詳しく書き込みパチンと指を鳴らすと黒い手紙は姿を消す。
遠く離れた場所にいるアリアスの元に転移した。
魔界から人間界へ、一瞬で手紙はアリアスの元に届けられた。
人間界のお城は左右対称。
白を基調とした建物の4階には銀騎士団が生活をするために国王が準備をした寝室がいくつもあり、その中の一室。
寝室の中央に設置されたベッドに腰を下ろしていたアリアスの元に調査員からの手紙が届く。
銀色の鎧を身に纏った髭面のおっさん騎士が、目の前に現れた手紙を手に取って内容を確認する。
魔界から人間界へ、魔界で起こっている出来事を伝えるためにアリアスの元へ遠路はるばるやって来たランテが、手紙に記されている内容をいくつか補正する。
「あのね、白い狐耳のケープを纏っている子はヒビキ君。アリアスにギフリードからの手紙を届けた後、帰宅するため魔界に向かって飛行している時に崖の下で大けがを負い意識を失っているこの子を見つけたの。家に連れて帰って看病をしたから今は元気にしているんだけどね。あ、いい子だから安心して。それと黒いコートを纏っているのは鬼灯君。ヒビキ君の仲間なんだけどね、幻術の魔法を使うちょっと特殊な青年よ」
笑みを浮かべて調査員からの手紙に記されていた2人の説明を行ったランテにアリアスは、ぽかーんとした表情を浮かべて固まってしまう。
手紙を床に落として瞬きを繰り返しているアリアスにランテが、どうしたのと首を傾ける。
暗黒騎士団No.2であるアリアスは魔王の指示に従って人間界と魔界の友好関係を結ぶために、身元を隠して国王に仕える銀騎士の一員として人間界についての情報収集を行っていた。
「ヒビキ君とは、もしかして彼の事か?」
口を半開きにして固まっていたアリアスが寝室の扉を開きランテを廊下に連れ出した。
部屋を出ると、すぐに一枚の肖像画を指差して確認する。
クリーム色の髪の毛が印象的な水色の瞳の少年が肖像画には大きく描かれていた。
無表情を浮かべる少年の目には光がない。
もしも肖像画に描かれている人物が目の前に現れたなら、きっと何て話しかけづらい雰囲気の持ち主なのだろうかと思ってしまうだろう。
しかし、少年の容姿はランテの良く知る人物と類似する。
髪色や瞳の色だけじゃなく、顔のつくりまで共通する点が多くある。
「この肖像画に描かれている子に確かによく似ているわね。でも、肖像画のような冷たい雰囲気の子ではないわよ。よくリビング中央にあるソファーに腰を掛けて眠っている子よ? ヒナミちゃんの能力を使って、少年を写しとった写真があるのだけど」
確認してよと言って一枚の写真をアリアスに渡す。
目蓋を閉じ真っ白な肌をした少年の姿を眺めていたアリアスの顔から徐々に血の気が引いていった。
顔を真っ青にしてランテの方へと視線を向けたアリアスがプルプルと唇を震わせながらか細い声を出す。
「国王の息子であるヒビキ様で間違いないぞ」
「え」
アリアスの言葉を聞いたランテが顔面蒼白になるのは一瞬の出来事だった。
「え、噓でしょ? 私は王族を魔界に連れ帰っちゃったって事?」
ヒビキの身元を知らなかったランテは今まで彼に対して失礼な行為を行わなかったかと必死に過去の記憶を遡っていた。
そして、王族であるヒビキに対してやらかしてしまった行動を思い浮かべて唇をわなわなと震わせる。
ランテがアリアスに意見を求めて再び口を開く。
「どうしよう。ヒナミちゃんを敵の攻撃から守ってくれた彼に思いきり飛びつき冷たい床に押し倒しちゃった。それに何度も無茶をしようとする彼に対して説教をしたわ」
「押し倒しただけじゃなく、説教までしたのか?」
あんぐりと口を開くアリアスの問いかけにランテは何度も首を上下に動かした。
「ヒビキ様は兄のタツウミ様とは違って冷たい性格をしているからな。今から、すぐに城を出て魔界に飛ぼう。そして、ヒビキ様に許しを請う事にしよう。もしも、自害しろと言われたら人間界を敵に回してもいい一緒に戦おう」
真剣な面持ちを浮かべて言葉を続けたアリアスにランテが首を傾ける。
「ちょっと待って。ヒビキ君は自害をしろなんていうような子じゃないわよ。冷たい性格? どこが?」
首を傾けて問いかけたランテに、すかさずアリアスが言葉を続ける。
「行方不明になる前のヒビキ様のイメージはそんな感じだったんだよ。笑う所か表情をピクリとも変えなかったから鉄仮面と、あだ名をつけて陰でヒビキ様の事を呼ぶ騎士もいたんだからな。まぁ、魔界と人間界を繋ぐゲートからヒビキ様が姿を現した時は穏やかな雰囲気を醸し出していたけど一時の事だったし次に出会った時はどうなるのやら」
寝室を抜けたアリアスが向かう先は銀騎士の特攻隊隊長を務める金髪の女性騎士の元。
アリアスの身元を知る唯一の存在である彼女の種族は天使。
彼女は天界から神の指示を受けて天界と人間界の友好関係を結ぶために身元を隠して人間界に潜り込んでいた。
金髪の女性騎士の寝室の扉をランテがノックする。
「はい」
淡々とした口調の返事に対してランテが声を上げる。
「入ってもいいかしら?」
久しぶりに会う友人の声を聞き金髪の女性は勢いよく、その場に立ち上がったようで室内でガタッと何かが倒れるような大きな音が響く。
カツカツカツカツと規則正しい足音が室内から聞こえ、バンッと開いた扉から金髪の女性が姿を現した。
「ランテ!」
銀色の鎧を身に纏っている金髪の女性がランテの名前を呼び、瞬きを繰り返しているランテに抱き着いた。
「国王が一人で魔界に行っちゃたのよ。追いかけようにも天界からの指示で私は動けないし、アリアスも魔界からの指示で動けない。人間界の騎士は飛行術を使えないし。ランテに頼んでいい? 国王を見つけたら人間界に連れ帰ってほしいのよ」
お願いと言葉を続けた銀騎士にアリアスが口を開く。
「その事についてだが、ギフリードからの手紙が俺の元に届いてな。俺を魔界に帰還させると記されていた。だから、魔界に帰還をしたら人間界を抜け出した国王を探そうと思ってな」
「そうなの? それは助かる。もしも、国王を見つけたら人間界に連れ帰ってほしいんだけど」
金色の髪の毛が印象的な女性騎士はアリアスが魔界に帰還する事に対して許可を出す。
「あ、今まで世話になったね」
ポツリと言葉を続けた金髪の女性にアリアスが苦笑する。
「それは、こっちのセリフだな」
笑みを浮かべて窓枠に足をかけたアリアスが城の窓から外へと飛び出すと、その後にランテが続き城を抜け出した。
人間界の城を抜け出した事を調査員から届いた紙に書き記すと突然、紙はアリアスの手元を離れて調査員の元に転移する。
アリアスからの返事の手紙を受け取り内容を読んだ調査員が紙を懐にしまう。
調査員の視線の先にはユキヒラと対峙するギフリードと、ドラゴンと対峙をするヒビキと鬼灯の姿があった。
ドラゴンの背中に乗っていたサヤは、ヒビキと鬼灯がドラゴンに向け攻撃を開始したため、いそいで近くの物陰に移動をする。
黒いコートを身に纏っている魔術師の青年に視線を向けてから、ゆっくりと視線を青年の隣に佇む少年に向ける。
「あの子」
サヤがか細い声で呟いた。
サヤの視線の先に白いケープを身に纏った狐耳のフードを被る少年の姿がある。
探し求めていた人物に思わぬ場所で出くわしたため、サヤの表情が瞬く間に明るくなった。
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