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ヒビキの奪還編

66話 ガーゴイルVSユタカと妖精王

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 ユタカの伸ばした手、その指先に触れるようにして水色の粒子が集まっていく。
 武器を形成する気だと判断した妖精王は、素早くユタカの元へ移動をした。
「待ちなさいと言ってるでしょう!」
 ユタカの肩に手を添えて引き寄せると、集中力が解けたようで水色の魔法陣と共にユタカの回りを駆け巡っていた粒子が消えた。
 宙に浮かんでいたユタカの体が地面に降りる。

 咄嗟の事とは言え、人間界を統べる王様の肩を力任せに引き寄せてしまった。
 表情には笑みを浮かべているものの、内心はハラハラしている妖精王が冷や汗を流す。
「しかし、困りましたね。私が術を発動してガーゴイルと戦ったとしても神殿を破壊してしまう可能性がありますし、どうしたものか」
 
 動揺している事を悟られないように平静を装って、言葉を続ける妖精王の表情は引きつった笑みを浮かべたまま。
 その表情と冷や汗から、妖精王が激しく動揺している事を読みとったユタカが腹を抱えて笑い出す。

「だったら、二人で力を合わせてガーゴイルを倒そうよ。僕は剣を使って戦うから、君は手にしている弓を使って戦えばいいじゃん」
 レベルの封印を受けている間、ずっと使っていた弓は人の手によって作られた物。
 妖精王が術を使って形成する弓とは違って攻撃の威力は落ちるため、神殿を破壊するような事にはならないだろう。
 ユタカの提案を受けて妖精王は苦笑する。

「そうですね。神殿を破壊されては困りますし力を合わせてガーゴイルを倒しましょう」
 妖精王は使用可能レベル150の弓の連続攻撃を使ってガーゴイルのヒットポイントを削って止めをユタカに任せればいいと考える。

 弓を構えて佇む妖精王のすぐ隣でユタカが一度、鞘に戻した剣を手に取った。
 ガーゴイルに向かって武器を手に取り構えを取る。

 安全な場所から見守っているヒビキの体は透明な防御魔法に包まれている。ふわふわと宙に浮かんでいた。
 ヒビキの見ている目の前で、ユタカが呪文を唱えると水色の魔方陣がユタカと妖精王の足元に現れる。
 
「敏捷性を上げる魔法ですね。とても、体が軽く感じます」
 何度も飛び跳ねて身軽さをアピールしている妖精王が頬を綻ばせる。
「敏捷性を上げる魔法を受けるのは初めて?」
「はい。私は弓使いですから。接近戦を行う貴方とは違って移動速度が遅くても支障はありませんし」
 
 クスクスと笑みを浮かべる妖精王にめがけて放たれた泥は三日月型の刃に変化。
 近くに佇んでいたユタカも巻き込んだ。

 激しく床に打ち付けられた刃が爆発する。共に爆風が発生すると、砕けた床の破片を巻き上げた。
 
「敏捷性を上げる魔法をかけて頂いたことに感謝します」
 頬をかすめようとした破片を、後方に大きくジャンプした事により避ける。妖精王が身軽さを存分に活かしつつ全ての破片を避けて言葉を漏らす。

「そうかな? 術をかけていなかったとしても君には、飛んできた破片を避ける事など造作もないよね?」
 剣を振り回すことによって飛んできた石を砕く。ユタカの問いかけに対して妖精王は苦笑した。

「確かにその通りですが、無駄な体力は使わずに済みそうです」
 素直に首を縦にふった。
 迫り来る破片の軌道を、弓を使い矢を放つことによって変える。妖精王が道を作り出すとユタカが走り出す。

 無数に降り注ぐ三日月型の刃を踏み台にして、大きく飛び上がるとユタカが自分の体を纏うようにして防御壁を張り巡らせた。
 ユタカは爆発する刃と、そうでない刃の見分けがついている様子。
 ガーゴイルに真っ正面から突っ込んでいく。
 迫り来るユタカに抵抗するために、ガーゴイルは青白い防御壁を張り巡らせる。

「よし、思惑通り」
 ぽつりと本音を漏らしたユタカが勢いよく、ガーゴイルに体当たりをした。

 衝撃音と共に、防御壁を纏ったままユタカの体が弾かれる。
 爆風と共に大きく歪んだ防御壁。
 しかし、大きく歪みはしたものの、すぐに形を取り戻した防御壁が床に叩きつけられたユタカを衝撃から守る。

 背中から藍色に光輝く石で作られた床に打ち付けられた。
 防御壁が石を砕く。
 それでも、青白い壁はユタカが受けるはずだった衝撃を緩和する。
 手足がビリビリとしびれる程度に終わった。

 指をパチンと鳴らし防御壁を解いたユタカが急いで上半身を起こすと、ガーゴイルに目掛けて2本、3本、4本、5本、6本、7本、8本と次々に矢が向かう。

 ユタカの思惑通り、防御壁が衝突した衝撃によって大きく傾いたガーゴイルが矢を受ける。
 背中から床に倒れることがないように、纏っていた防御壁を解除してバランスをとろうとするガーゴイルに容赦なく矢が突き刺さる。 

 矢筒から矢を取り出し、指先を器用に動かして、くるんっと回す。
 弓弦に矢を設置して放つまでのスピードが尋常ではない。
 妖精王の早業を見てユタカは、あんぐりと口を開くほど驚いたようで手にしていた剣を床に落とす。

 30本の矢が全てガーゴイルの右肩に突き刺さる。
 パチンッと妖精王が指先をならす。
 爆発音と共にガーゴイルに突き刺さっていた矢が爆風を巻き起こした。
 

「凄いって、呆けてる場合じゃなかった」
 砕けたガーゴイルの右肩に大きな穴が開く。
 あんぐりと口を開き妖精王の術に見入っていたユタカは、急に我にかえる。剣を手に取って慌てて腰をあげる。
 しっかりと両手で剣を握りしめて、ガーゴイルに向かって走り出した。

 妖精王の攻撃により、ガーゴイルのヒットポイントを半分に減らす。
 攻撃をするなら今がチャンスだと判断をしたユタカが床を蹴りつけ、空中に飛び上がる。
 大きく傾いたガーゴイルの頭上に移動。

 漆黒の刃が光る。
 
 目の前に迫った漆黒の刃を、避けることは出来ないことを瞬時に悟ったガーゴイルが顔の前で両腕をクロスする。
 
 ドキドキと胸を高鳴らせるヒビキが透明な膜に両手をつき見守っている。

 妖精王がガーゴイルの隙を見つけて攻撃を仕掛けるために、警戒を解くことなく弓を構えている。
 ユタカは掲げていた剣を勢いよく振り下ろした。
 攻撃は見事に成功したと、思った矢先の出来事だった。



 スポンと何とも間抜けな音がした。

「あっ」
 ユタカが、ぽつりと声を漏らす。

「へ?」
 眉間にシワを寄せて弓を構えていた妖精王が、あんぐりと口を開き

「いやいやいや、そんなことってある?」
 透明な膜に両手を当てて見守っていたヒビキが目を見開く。思ったことが全て口に出てしまっている。
 勢いよく振り下ろした剣はユタカの指の間をすり抜けて、勢いを弱めること無くガーゴイルの頭を掠めてから地面に突き刺さった。

 予想外の出来事に対してヒビキが、あんぐりと口を開く。妖精王は大事な場面で、まさか国王がへまをするとは考えてもいなかったため頭を抱え込む。
 にんまりと笑みを浮かべたガーゴイルが、顔を真っ青にしたユタカを嘲笑う。
 武器を失ったユタカが防御壁を張るとすぐに、ガーゴイルは掲げた腕を振り下ろす。
 防御壁を張り巡らせたとは言え、至近距離からの物理攻撃の威力は凄まじく勢いのままユタカを防御壁ごと地面に叩きつける。
 強い衝撃と共に防御壁は大きく歪む。
 強引にユタカの張り巡らせた防御壁を破壊して、ユタカの体をガーゴイルは鷲掴みにした。
 
 軽々と持ち持ち上げたユタカの体を、力を込めて握りしめる。骨が軋む音と共に全身を襲う圧迫感。ガーゴイルの拘束から抜け出そうと踠くユタカを助け出すために、妖精王の放った矢が飛ぶ。
 防御壁を張る事により矢を弾いたガーゴイルに目がけて、妖精王は立て続けに攻撃魔法を発動する。腕を伸ばし指先をガーゴイルに向けると巨大な竜巻が発生した。
 竜巻はガーゴイルの巨体を宙に浮かす。

 弓を構えたまま隙を狙う妖精王のすぐ隣を、巨大な剣を手に持った中性的な顔立ちの女性が通過する。
 床を強く蹴ることにより飛び上がった女性が、ガーゴイルの頭上に移動する。振り上げた剣を力任せに振り下ろそうとしたところで、身の危険を感じたガーゴイルが防御壁を唱え全身を包みこむ。

 ユキヒラの持つ剣は術を纏っているため防御壁を破壊する。

 ガーゴイルの張った防御壁を剣を振り下ろす事により、スパンと音を立てて真っ二つに切り裂いた。
 捉えられているユタカを逃すために、ガーゴイルの腕を切り落とす。
 ユキヒラが、呼吸を乱しながら走ってくるサヤに指先を向ける。

「ライトニング!」
 サヤはへとへとになりながらも杖を掲げて雷属性の魔法を唱えた。
 ガーゴイルの足元に出現した黄色の光を放つ魔法陣から、電気が渦を巻いて現れる。
 渦を巻きながらガーゴイルの体にまとわりつくと、ビリビリビリとガーゴイルの体に電流を走らせる。雷属性と土属性の相性は悪い。
 雷魔法を受けても平然とするガーゴイルに目がけて、ユキヒラが巨大な剣を振り下ろした。 

 力任せに振り下ろされた剣は鈍い音を立てる。

「硬いなぁ」
 剣は予想以上に硬いガーゴイルによって弾かれる。

 剣を弾かれた反動で姿勢が崩れてしまったけれどもユキヒラは攻撃を諦めることなく、本音を漏らすと弾かれて軌道の逸れた剣を両手で強く握りしめる。
 片手では攻撃を弾かれてしまったため、今度は両手で力を込めてガーゴイルの胴体を真っ二つにするべく剣を横一閃に薙ぎ払った。
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