それは、偽りの姿。冒険者達の物語

しなきしみ

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学園都市編

117話 幼い国王と銀騎士

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 パタパタと慌ただしい足音を立て城の中を駆け回っているのは、身を隠すことの出来る場所を探し求めている銀騎士達である。
 スポッと音を立てて壁と扉の間に身体を滑り込ませた者もいれば、ベッドの下に向かって勢いよくスライディング。
 ごつっと頭をベッドに激しく打ち付けた者もいる。

「くぉあああ」
 何とも奇妙な叫び声が上がった。
 オレンジ色の髪色をした男性騎士が頭部を押さえて、のたうち回っている。
 普段の落ち着き払った態度は何処にいったのやら。
 ベッドの下から顔だけを覗かせたまま、くねくねと体を動かしている。
 大丈夫かと一声かければ良いのに、のたうち回る青年に視線を向けたまま小さなため息を吐き出している人物がいた。

「何をしているのですか」
 普段は落ち着きがないと注意を受ける側である青年は綺麗な青色の髪が印象的な銀騎士である。
 呆れた様子で仲間の失態に冷静に突っ込みを入れる。

「頭を強打した。本当に痛いんだけど」
 顔を床に伏せたまま横たわっている青年は、急いでいたとはいえ何故ベッドの下に潜り込もうとしてスライディングをしてしまったのだろうかと、過去の自分の行動を激しく後悔する。
 本当に何故スライディングをしてしまったのか、ヒビキ様やアヤネ様が帰宅する。
 もしかしたら、一目だけでも二人のお姿を見ることが出来るかもしれないと考えた騎士は密かに舞い上がっていた。
 気持ちが高ぶってしまってスライディングをしてしまったため、見事にベッドの下に頭を打ち付けてしまった。

「まぁ、頭を打ち付けた事は見ていたので分かりますが、あなたが取り乱す何て珍しいですね」
 落ち込む青年に、友人である青色の髪を持つ騎士が声をかける。
 普段は何事に対しても冷静に対処していたはずだ。
 それなのに、突然スライディングをするから驚いた。
 視界も狭くなっていたようで、ベッドに頭を打ち付けるしまつ。

「アヤネ様は国王が死滅したとの情報を得て一時帰還を望まれたんだと思う。もしも、アヤネ様と城内で鉢合わせをして、御父上の死に悲しむ姿を目にしてしまったら私は情に流されて、きっと余計なことまでぺちゃくちゃと喋ってしまう」
 頭部に手を添えたまま、顔を伏せるオレンジ色の髪の毛が印象的な青年が考えを口にする。

 身を隠す事を優先したがために、周囲が見えていなかった青年は思い切り頭を打ち付けた。
 
「何処までアヤネ様に情報をお伝えして良いのかも分からない状況の中で、鉢合わせするのは避けたいです。それは、同意見ではありますが早く身を隠そうとして急ぐのは良いでしょう。しかし、視界を狭くしなければ今みたいにベッドに頭を打ち付けて痛い思いをする事も無かったでしょう?」
 少し冷静になりましょう。
 そう言葉を続けた仲間の考えを耳にして、思わずクスッと笑ってしまった青年が伏せていた顔を上げる。

「あぁ。確かにその通り、痛い思いをする事は無かったな。今度から気を付ける事にする。一つ聞いてもいいか?」
 頭の痛みがおさまって、ほんの少しの余裕を取り戻したオレンジ色の髪が印象的な青年が表情を引き締める。
 青色の髪をした友人と会話を重ねるうちに、ある疑問が浮かんだ。

「えぇ」
 今のやり取りの中で一体、何に対して疑問を抱いたのか。
 別に疑問を抱くようなやり取りはしていなかったと思うのだけど。
 何てことを考えていた友人は、全く予想もしていなった疑問を受けて唖然とすることになる。

「いつもの、ちょこまかとせわしなく動き回り人の話を聞かずに何処かへ行ってしまうような、ふざけた性格は何処へ行った?」
 ひどい言われようである。

「あぁ、確かに」
 しかし、事実であるため言い返すことは出来ない。
 普段は物事に動じること無く落ち着いた態度を取る青年が急に予想もしていない行動をとったため、調子が狂ってしまった。
 数秒間の沈黙後、見事に開き直った友人は苦笑する。

 パシッと頬に手の平を打ち付けることにより、表情をだらしなく歪ませると深く息を吸い込んで頭の中を切り替える。
「真似だよ。真似。似ていたっしょ?」
 うけけけけと奇妙な笑い声を上げる友人の姿は見慣れたものであり、落ち着いた態度をとっていたはずの友人が見事に態度を変える。

「一体誰の真似だよ」
 誰の真似かすら分からないほどの落ち着き払った態度は何処へ行ったのやら。
 
「なぁ、そろそろ身を隠さないといけないな。何だか腹が減って腹が鳴りそうなんだけど」
 腰を屈めてベッドの下に身体を滑り込ませると腹部を抑えて空腹を訴える。

「いや……」
 本当に、さっきまでの落ち着き払った態度は何処へ行ったのやら。

「いつも言っているだろ。言葉のキャッチボールをしような」
 普段のお前との会話は疲れるんだよなと、ぽつりと本音を漏らした青年が肩を落とす。
 小さなため息を吐き出した。

 ベッドに打ち付けた頭部に手を添えてみると、ぷっくらと膨らんでいた。
 瘤になっていることに気付いて、ため息を吐き出す。

「たん瘤になってる。まぁ、放っておけば治るだろうけど」
 しかし、放っておけば自然に治るだろうと考えを改めた青年は、瘤を放置しておく気満々である。
 
「内出血をしているのでしょう。放っておいてはいけません。後で治癒魔法をかけてもらいに行きましょう。放っておけば治るだろうじゃありませんよ。突然何を言い出すのですか。自分の耳を疑ってしまったではありませんか」
 冗談は顔だけにしてくださいと、さりげなく毒を吐いた青色の髪の毛が印象的な友人が早い口調で言葉を続ける。
 
「大丈夫だろ」
 尚も大丈夫だろうと言葉を続ける青年を友人は睨みつけた。

「私が瘤を作ったときは、治療が面倒で逃げようとした私の首根っこをつかんで動きを封じてまで、治癒魔法を扱える人物の前に移動させたでしょう? 自分の時は、まぁいいかで済ませるのですか?」
 仰向けだった身体を、寝返りを打つことにより青年の方へ向ける。

 ピシッと青年の顔めがけて指をさすと
「駄々をこねるようでしたら、治癒魔法の得意な国王様の前に引きずり出しますからね」
 真剣な眼差しを向けて呟いた。
 まさか、ここで国王が話の話題に上がってくるとは思ってもいなかった青年の顔から血の気が引いていく。
 
「国王に回復魔法を使わせるなど恐れ多い。考えただけでも鳥肌が立つ。恐ろしい事を言わないでくれないか?」
 顔面蒼白である。
 国王の前に引きずり出されて治癒魔法を受ける姿を思い浮かべてしまって、ぶるりと身震いをする。 
 冗談じゃないと言葉を続けた青年が首を左右にふる。

「それが嫌なら、回復担当者の元に赴き、治癒魔法を受けましょう」
 友人の言葉を聞いて
「あぁ、分かった。そうしよう」
 すぐさま口を開いた青年が大きく頷いた。
 即答だった。

 そんな彼らのやり取りを呆然と見つめている人物がいた。

「身を隠しているのに大声で話をしているから、居場所がバレバレだよ」
 床に膝をつき、ベッドの下を覗き込んでいた幼い子供が口を開く。
 一体いつ気づいてもらえるだろうかと、ずっと騎士達の会話を耳にしていた国王がしびれを切らして声をかけた。
 全く予想もしていなかった方向から声をかけられて驚いたのだろう。

「わっ」
 たん瘤に手を添えていた青年が大声をあげる。

「びっくりした。子供?」
 声のした方向に視線を移した青年が考えをそのまま口に出してしまう。

「随分と幼い子供さんですね。誰のお子さんでしょうか?」
 寝返りをうち、子供に視線を向けた友人は落ち着いた様子を見せる。
 ユタカに向かって首を傾げて問いかけた。

「髪色はクリーム色。瞳は水色。まさか、国王の身内とか言いだすんじゃないだろうな」
 青ざめた顔をする青年が幼い子供の髪色や瞳の色から、国王の身内ではないのかと予想する。

「身内というよりは、国王様にそっくりです。まさか、国王様の隠し子ですか?」
 真面目な顔をして首をかしげた友人は、幼い子供の容姿が国王に似ている事から、国王の隠し子だと予想する。
 全く予想もしていなかった質問を受けてユタカは、あんぐりと口を開いて放心状態に陥ってしまう。
 しばらくの間、口を開いたまま固まっていたユタカが
「隠し子がいるわけないじゃん。恐ろしいこと言わないでよ」
 全力で否定する。

「ごめんなさい。冗談ですよ」
 ごめんなさいと言葉を続けた人物は、ユタカが全力で否定する姿を可笑しく思ったのか、肩を小刻みに震わせ笑ってしまっている。

「ねぇ、何だか性格が違うよね。普段はもっと、そわそわと言うか挙動不審と言うか。落ち着いた性格じゃなかったよね」
 上品に笑う騎士を見て違和感を覚えていた。
 その違和感が何なのか、気づいたユタカが問いかける。

「えぇ。この人がらしからぬ行動をとるから、こっちまで調子が狂ってしまったのですよ」
 調子が狂ってしまったのは、たん瘤を作ってベッドの下でのたうち回っていた青年のせいだと、はっきりと言い切った。
 言い切ってすぐにユタカに対して疑問を抱いた騎士が首をかしげて見せる。

「何故、普段の私を知っているのですか? 会ったことがありましたか?」
 笑顔が印象的。
 人懐っこい子供と過去に話したことがあれば、絶対に記憶に残っているはず。
 しかし、目の前に佇む子供と話をしたことがある所か出会った記憶もない。

「うん。話したこともあるよ」
 しかし、子供は話したことがあると言う。

「ごめんなさい。全く記憶にないですね」
 唖然とする騎士の素直な発言を耳にしたユタカが吹き出した。
 それはそうだと、言葉を続けたユタカが苦笑する。

「うん。そうだよね。記憶にあるわけが無いよ。今は、こんな姿にされてしまったけど、本当なら君達より私の方が年上なんだから」
 衝撃的な事実を耳にした騎士が互いに顔を見合わせた。

「長話をしている余裕はなかったんだ。時期にヒビキやアヤネが帰還するだろうからね」
 ヒビキやアヤネと呼び捨てにしたことにより、目の前の子供の正体に気づいたのだろう。
 
「ちょっと待ってください。ヒビキ様やアヤネ様を呼び捨てにしました? お二人を呼び捨てに出来る方なんて城内には国王様かタツウミ様くらいしかいませんよ。本当は私達よりも年上だと言っていましたよね。国王様ですか?」

 騎士の顔から血の気が引く。

「いえ、そんなわけがありませんよね。しかし……」
 ユタカが口を開く前に、考えを改めようとした騎士が口を開く。
 しかし、考えを改めることの出来なかった騎士が小さなため息を吐き出した。

「馬鹿。何きやすく声をかけてるんだよ。もしも、国王であれば土下座もんだぞ」
 ため息を吐き出した友人を横目に見ていた青年が慌てだす。
 目の前に佇む幼い子供が、術によって体が小さくなってしまった国王である可能性を考えて友人に声をかけた。

「土下座どころか今の私達は床に寝そべっている状況ですよ」
 自分の姿勢を忘れてしまっているのですかと、透かさず青年の言葉に突っ込みをいれる。
 騎士達の話を聞いていたユタカが苦笑した。

「重苦しく考えなくてもいいんだけどね。今この部屋には私と君達しかいないのだから」
 言葉を終えるのと、たん瘤を作ってしまった青年の頭に手を添えるのはほぼ同時だった。
 黄金色に輝く光が青年を包み込む。

「数分もすれば光は消えるはずだから、後は傷が回復するのを待つだけだよ」
 床に左手を当て、前のめりとなったユタカが青年に治癒魔法を施した。

「ありが……有り難うございます」
 随分とか細い声が出たのだろう。
 有り難うございますと言葉を続けようとした青年が、思ったよりもか細い声が出ていることに気が付いて言葉を言い直した。

「うん。お役にたてて良かったよ」
 笑顔で頷いたユタカが素早くその場に立ち上がって伸びをする。

「騎士達が全員身を隠せたか確認しないといけないね。それでは私は失礼するよ」
 終始笑顔だった。
 普段は表情の乏しい国王の性格の変わりように驚いてはいるものの、それを言葉には出さない騎士達が互いに顔を見合わせる。
 バイバイと手をふって見せた国王に、無意識のうちに手を振りかえしていた騎士達が放心状態に陥っている頃。
 
「そうだ! ヒビキ様の寝室に向かおう!」
 身を隠す場所を見つけ出せたものもいれば、未だに身を隠す場所を探し求めている騎士もいる。
 良い案を思いつき、両手を合わせて音を鳴らす。
 考えを口にしたのは騎馬隊に所属する男性だった。
 ヒビキの寝室であれば、ヒビキが訪ねてくることはあってもアヤネが足を踏み入れることは無い。
 
「しかし、ヒビキ様の寝室に許可なく足を踏み入れるなど……」
 男性の提案にいち早く反応を示したのは、数日前に騎士になったばかりの新入りだった。

「いや。事は一刻を争う。ヒビキには私から伝えておくから、早く身を隠しなさい」
 中性的な声に反応を示して騎士達が一斉に背後を振り向くと、そこには愛らしい容姿をした幼い子供が佇んでいた。

「ほぉ。賢い子供じゃのぉ。お言葉に甘えるとするかのぉ」
 白髪の老人が、いち早く反応を示す。
 自分の考えを口にした幼い子供の頭に手を乗せると、わしゃわしゃと頭をなでる。
 勢いよく頭をなで回されて、目を回したユタカがふらついた。

「悪かったのぉ。少し力を込めすぎたわい」
 ふぉっふぉっふぉっふぉっと笑い声を上げた老人が、ゆったりとした足取りで身を翻す。

「バイバイ」
 小柄な女性騎士がユタカに向かって手をふった。
「うん。またね!」
 ユタカが透かさず笑顔で女性騎士に手を振り替えす。
 その後に続いて、騎士達がぞろぞろと移動を始めた。
 愛嬌のある子供は何者だろう。
 誰の子供だろうと、騎士達がユタカを話題にして会話を続けている頃。
 ヒビキは洞窟内をアヤネと共に全速力で駆け抜けていた。

「嫌ぁあああああ!」
 けたたましい叫び声を上げながらドワーフ達から逃げ回っているのは、パニック状態のアヤネである。

「数が多いのよ!」
 くるんと背後を振り向いて、ピシッとドワーフを指差した。

「きゃぁあああああ! 来ないでよぉ!」
 牽制けんせいを試みてみるものの、ドワーフは足を止めることなく迫り来る。
 ドワーフとの距離が縮まっただけに終わった。
 悲鳴をあげたアヤネが身を翻すと、堪えきれなくなったのだろう。
 ヒビキが吹き出すようにして笑いだした。
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