それは、偽りの姿。冒険者達の物語

しなきしみ

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森の主編

146話 ちぐはぐ

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 重力を操ることの出来る青年を真っ先に倒さなければならないのに攻撃が当たるどころか掠りもしない。
 男子生徒の隙をつき、死角から横一線に切り払った剣による攻撃はあっさりと避けられてしまった。
 迫り来る木のツルを空中で後方宙返りを行う事により避けることに成功をしたヒビキが、両手を掲げて武舞台上に着地をする。
 ヒビキの足が床につくのとほぼ同時。
「後ろへ」
 パートナーである男子生徒がヒビキの背後に迫る木のツルに気付き大声を上げる。
 
「うん」
 小さく頷いて背後を確認すること無く、男子生徒の声を信じて大きく後退をしたヒビキの目と鼻の先をシュッと、空気を裂くような摩擦音と共に木のツルが通過する。
 先は丸くなっているとはいえ直撃すれば体を貫通するほどの勢いだった。 

「今の攻撃が直撃をしていたら俺の体を貫通していたよね」
 身体への攻撃を避けることに成功をしたヒビキが肝を冷やす。
 恐怖心から小刻みに体を震わせて女子生徒に視線を向ける。顔面蒼白となったヒビキの集中力が散漫になったところで、木のツルが父からプレゼントされた剣の側面に勢い良く打ち付けられた。
 
 完全にヒビキの視線は女子生徒に向いていたため、急な衝撃に対応することが出来なかった。
 剣はヒビキの手から放れて、弧を描くようにして空中に押し上げられる。
 今さら剣に視線を向けても後の祭りだった。
 
 ヒビキを狙った攻撃を避けられてしまったとは言え、対戦相手の武器を弾くことに成功をした女子生徒は感情を包み隠すこと無くピョンピョンと何度も跳び跳ねる。
 武器を弾かれて焦っているヒビキを視界に入れて喜んでいた。
 女子生徒の視線はヒビキに向いているため僅かな隙が出来た。些細な隙を見落とすことなく、いち早く反応を示したヒビキのパートナーは女子生徒目掛けて一目散に駆け出した。
 
 チラッと横目で銀騎士団騎馬隊員達の視線が自分に向けられていることを確認する事を忘れない。
 大勢の騎士達と目が合った。
 今度はしっかりと銀騎士達の視線を一身に集めていた。

 既に小柄な男子生徒の頭の中では、今後自分がどのような動きをするのか未来像が出来上がっていた。
 背負っている剣を素早く手にとって、女子生徒に向かって振り下ろす。
 その時に女子生徒に打ち付けるのは剣の側面側。
 敢えて剣の側面を打ち付けることによって、女子生徒の皮膚に切り傷がつかないように手加減をする。
 
 そんな男子生徒を銀騎士団が何て気が利くんだ、敢えて剣の側面を打ち付ける事により女子生徒が大怪我をすることを避けるなんてと、接戦の中でも余裕を見せる男子生徒を褒め称える。

 そんな先の未来を想像して、にやけ顔を隠しきれないでいる小柄な男子生徒は、自分の方に観戦者全ての視線が向くように大声を上げる。

「ふぉー!」

 他に全身に力が入るような掛け声は無かったのだろうか。
 何とも力の抜けるような奇妙な掛け声を上げた男子生徒を不審ふしんに思った生徒や、教師達や、銀騎士団員の視線が男子生徒に向けられる。

 剣を両手に持ち高々と掲げた男子生徒の目の前に、思い描いていた光景が広がった。
 後は女子生徒に向けて振り上げた剣を振り払い、その側面を打ち付けるだけ。

 キメ顔をして剣を右上から左下へ振り下ろそうとした男子生徒の後頭部に、先ほど弾かれたヒビキの剣の柄が直撃したのは偶然だった。
 鈍い音が会場内に上がり、音から痛みを想像した生徒や教師達が渋い顔をする。
 男子生徒の気持ちになり、自らの頭を両手で抑えて痛みを想像し表情を歪める生徒も複数名確認することが出来る。

「あいたぁ!」
 後頭部に強い衝撃を受けた男子生徒は、驚きと共に大声を上げて大きく仰け反った。
 全く予想外の攻撃を思わぬ方向から受けて、目を白黒させる。
 背後に敵が迫っていることに全く気づかなかったと今さら後悔をしても遅い。
 これ以上攻撃をされては堪らない。
 素早く背後を振り向いて、剣を構えた男子生徒の視界にそれは入り込んだ。

 カランカランカランと音を立てて武舞台上に打ち付けられたのは、パートナーであるはずのヒビキが手にしていた剣である。
 柄に豪華な龍の装飾品が施された剣は見るからに高級品。
 レア物の剣なのだろうと予想をしていた男子生徒の頭の中は疑問符で埋め尽くされる。
 対戦相手の女子生徒や男子生徒、観戦者達の視線を一身に集めている小柄な男子生徒は時期にいたたまれない気持ちに苛まれることになるだろう。

 ほんの一瞬出来た隙をヒビキは見逃さなかった。
 カランカランカランと剣が音を立てている間に、素早く重力を操る男子生徒の背後に移動をしたヒビキは手加減することなく手の尺側面を打ち付けた。

 重力を操ることの出来る男子生徒の術は、発動し相手を捕えることが出来れば簡単には抜け出すことの出来ない最強の拘束魔法になるのだろうけれど、敏捷性を著しく上げる術を操るヒビキの前では手も足も出なかった。
 舞台上に倒れ込んだ男子生徒を肩に担ぎ上げて、素早く場外に転がしたヒビキは警戒心が強い。
 場外に出てしまえば、その場で敗北が決まる。
 1人残された女子生徒は、不安を抱きつつも勝利を諦めてはいない。
 ありったけの魔力を込めて舞台上に発動した魔法陣から複数の木のツルを出現させる。
 
 重力使いを倒した事により油断をしていたヒビキの足首を、木のツルは見事に捕えることに成功した。
 呪文の詠唱を阻止そしするためにヒビキの口を封じ、指を鳴らしたり腕をスライドさせたりと術を発動するのに何らかのアクショを行わなければならないヒビキの行動を制するために、その両手足を拘束する。

 逆さ吊りにされることは無かったものの、頭の上で一纏めにされた両腕。両足や口を封じられてしまったため囚われの身となってしまったヒビキは羞恥心から、そっと目蓋を閉じて現実逃避をする。

 手を握りこぶしにした状態のまま拘束されてしまったため、ヒビキの特殊能力の1つである、刀や剣を自由に出現させる能力も使えない。
 完全にお手上げ状態である。

「え、うそ……身動きを封じられちゃった」
 女子生徒が発動した木のツルがヒビキを拘束するのはまたたく間だった。まばたきをしている間に二番目の兄が拘束され、身動きを封じられてしまったためため焦ったアヤネの顔から血の気が引く。

「手足と共に口を封じられてしまっては呪文を唱えることすら出来ませんね。ヒビキ君は完全にお手上げ状態ですか。頼ることが出きるのは、パートナーである彼だけですが果たして助けに行きますかね」
 まるで他人事のように表情に笑みを浮かべて言葉を続ける副会長は、ヒビキのパートナーである小柄な男子生徒に視線を向ける。
 
 小柄な男子生徒は顔を真っ赤にして怒りを露にしていた。
 歯を食いしばりヒビキを睨み付けているため、助けに行くどころかヒビキに向かって攻撃を仕掛けそうな勢いである。

「さっき剣の柄が当たっちゃったのは、おに……ヒビキ君は悪くないのに」
 会長と副会長の前で、お兄様と口に出してしまえば兄妹であることを知られてしまう。
 身元を隠して密かに学園に通っているアヤネは、ヒビキと兄妹である事実を友達である会長や副会長に知られることを拒んだ。
 兄と言いかけてヒビキ君と言い直したアヤネの表情は強張っている。

 お兄様の事を名前で呼んでしまったと、恐れるアヤネは兄であるはずのヒビキに対して一体どのようなイメージを持っているのか。
 身内であると知られる前は、あれほど気軽に声をかけて来てくれて、驚くほど近い距離でコロコロと変わる表情を見せてくれていたのに僅かに開いた目蓋の隙間から、うっすらと見えるアヤネの顔からは血の気が引き表情が強張っている。

 離れた距離にいるとは言えアヤネの甲高い声は良く通るため、ヒビキの耳にもアヤネの言葉はしっかりと入っていた。

 怯えながらもヒビキ君と名前を呼んでくれた妹に対する嬉しい気持ちと、名前を呼ぶ声がか細くて怯えているようなアヤネの気持ちを察してしまって、悲しい気持ちと複雑な感情を抱いたヒビキは再び目蓋を閉じる。

 50,000,000Gに目が眩んでしまった過去の自分を恨んだ。
 手足を拘束されてしまっては、相手を倒すどころか指先1つ動かすことが出来ない。
 これ以上、妹であるアヤネに嫌われたくはない。恥をさらしたくはない。
 無様に拘束されてしまった兄の姿を目にしてアヤネは幻滅しただろうか。
 声を聞いている限りでは心配してくれているようにも思える。しかし、顔は真っ青のため兄であるヒビキに対して怯えているようにも思える。
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