中庭の幽霊

しなきしみ

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まねかれざる客

10・まねかれざる客

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 理人はとらえどころの無い人物である。

 兄の落とした電話を呆然と眺めていたかと思えば
「これ、君の? 勝手に中を見てごめん」
 こんな状況の中で呑気に携帯電話を見えるように俺の視線の高さまで持ち上げた理人が首をかしげる。
 携帯電話に俺からの送信があったってことは、その持ち主が俺ではないことは分かると思うんだけど。

 今にも意識を失いそうな俺よりも、理人を野放しにしている方が危険と判断をしたのか、首を絞めていた人物が動き出す。
 首に巻き付けていた腕を外すと、理人の元へ向け足を進め始めた。

 呼吸が出来るようになったものの、勢いよく息を吸いこもうとして激しく咳き込むことになる。
 突然支えを失ったため咄嗟に足を一歩引いたものの、大きくのけ反っていたため時すでに遅く、激しく床に後頭部を打ち付けている自分の姿が頭をよぎった。

 強い衝撃に襲われる事を予想して目蓋を閉じる。

 そろそろか?
 いや……もう少し後か?

 なかなか衝撃が来ないんだけど……。
 ゆっくりと閉じていた目蓋を開けると、偽の妙子が背後にまわり体を支えてくれていた。

「有り難う」
 偽の妙子に頭を下げる。
 すぐに視線を理人に向けると、今にも拳を振り下ろそうとしている男を目の前にしながら、呑気に携帯電話を眺める理人の姿があった。
「まぁ、君からこの電話あてに連絡が来てるってことは君の物ではないのだろうけど……知り合いの物なら返しといてよ」

 漫然まんぜんと言葉を続けた理人が突然手にしていた電話を放り投げるものだから咄嗟に俺の体を支えていた偽の妙子が手を伸ばし受けとめようとした。
 しかし、実態を持たない偽の妙子は携帯電話に触れることが出来ずに、電話は俺の腕のなかに。

 放り投げられた電話に気をとられている間に男は理人の元へたどり着いたのだろう。
 バキッと鈍い音が響き、理人が男に殴られている姿を想像する。

 咄嗟に視線をあげると上半身を大きく仰け反らせた男の姿があり、一歩足を引くことにより姿勢をただしている。表情を歪めながら、理人を睨み付けていた。

 どうやら、殴られたのは理人に襲いかかった男のようで
「いてぇ……顔面狙うかよ普通」
 真っ赤に染まった頬を手で押さえながら文句を漏らしている。

 一歩二歩と足を引き、男が理人から距離をとった。

「君だって僕の顔面をねらったでしょう? お互い様だよ」
 対する理人は冷静で、後退した男に向け一歩二歩と足を進めると腕を手に取り力任せに引き寄せる。
 理人に後退を阻まれた男は足をつまずかせて前のめりになると、すかさず理人が腕を振り下ろした。

 手のひらの側面で男の急所、首を攻撃する。男は姿勢をただす暇もないまま、顔面を床に打ち付けた。

 声をあげることもなく床に俯せに倒れた男を理人は呆然と見下ろしている。



「ねぇ、遅いよ」
 ポツリと独り言を漏らすようにして、視線を男から反らすことなく声を漏らした理人に
「通報を受けてすぐに駆けつけたんだけどな。危険な真似をするなと返信したのだがな」
 声をかける人物がいた。随分と呼吸が乱れている。 

 声のした方へ視線を向けると、黒縁の眼鏡が印象的な理人によく似た顔立ちをもつ男性が佇んでいた。
 理人の髪色が黒に対して、男性の髪の毛は灰色をしており、分厚い眼鏡をかけているため隠れてはいるものの灰色の瞳を持つ。



「襲いかかってきたから抵抗したんだよ」
 悪びれた様子もなく、それよりもと言葉を続けた理人が鉄格子の向こう側でぐったりとしている女子高生を指差した。
 男性の視線が監禁されていた女子高生に向く。

 鉄格子の向こう側で衰弱する女子高生は目蓋を閉じたまま乱れた呼吸を繰り返している。顔色は悪く青白い。唇は乾燥しており、かさかさ。

「早く解放してあげないと」
 理人が男性に声をかけると
「早く教えてくれよ。衰弱しているじゃないか」
 慌てて女子高生の元へ向かう男性が文句を口にする。
「監禁されている女子高生がいるって書いてあったでしょう?」
 男性の集中が女子高生に向き、理人の問いかけに対して
「確かに書いてあったな」
 考える素振りを見せた男性が眉尻を下げる。
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