名前を呼んで

栗鼠

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第3章

ニコライside ②







「…禁忌」

「竜の卵を使用されたと聞いております。と言っても命の入っていない不完全なものだったそうです。
…藁をも縋る思いだったのでしょうね。
不完全であったとしても竜の卵ですから…術は成功しました。…神によってジュリ様は彼方の世界に戻されてしまいましたが。」

「…余計な事を」そう呟いたエイタが、お茶に手を伸ばした。俺も喉が渇いていたが…お茶を飲む気にはなれなくて…じっとエイタの動きを目で追っていた。

その後、マクシム様が夢で魔女に遭い『其方の神は痛みを知らぬ未熟者か!神らしく沈黙を守れば良いならばものを!』と神を罵倒し、魔女が何を対価にしたのかは教えてもらえなかったが、魔女が逝く時まで待つなら…2人を其方に送る事が出来ると言われ、マクシム様は無事に2人を受け取れる様に術式を組んでいたと話した。

……エイタは黙ってそれを聞いていた。

エイタを見ていたバレンティンが俺を見て…

「ニコライ様は、エイタ様を侯爵家に奪われるのではないか?と思われているのですよね?それならば、心配は無用です。
万が一、マクシム様が先に逝かれる事があった時にはエイタ様は番の近くに導かれる様に術が組まれておりました。
そもそもマクシム様とジュリ様が番われた事でニコライ様とエイタ様の縁が生まれたのです。
エイタ様が侯爵家でお育ちになっていたなら…声を掛けるのも難しいほど身分差があったとしてもです。」

バレンティンは嘘は言わない。
それでも口を吐いてしまう言葉。 

「…絶対に?」
「私は話さない事はあっても嘘は申しません。」 

エイタがやっと俺の顔を見てくれた。
「エイタ様が彼方の世界から来られたと聞き、もしや?と思っておりましたがエイタ様はお祖母様の話はされても親御様のお話はされませんでしたし、根掘り葉掘り聞く話でもございませんので確認が遅れました。お詫び申し上げます。」

「…僕の話を信じるの?」
バレンティンが苦笑した。 

「人族が狼を相手に何か策略を練るのは難しい話です。
それに山羊はとても目がいいんです。些細な事も見逃しません。エイタ様、ジュリ様は愛されておりましたよ。」

「…うん。」

……こんな時に俺は何を思っているのか。
エイタの頬を伝い顎から滴る涙が綺麗で…引き寄せて舐めとりたい。

「エイタ様は望まれて生まれたのですよ。」
「…うん。」
バレンティンに目配せされた。
抱きしめていいのかな?

そっとエイタを抱きしめた。
エイタが …身体を預けてくれて 涙が俺のシャツに滲みていく…

バレンティンが立ち上がって自分の分の茶器を片付け
「夜も遅くなりましたので、私は下がらせていただきます。ニコライ様は明日はお休みですのでお食事はフードケースに入っております。後はお二人でお話されてください。」

エイタが俺の腕の中にいる。

バレンティンが閉めかけたドアを開けて、さも今思い出したかのように白々しく。

「ああ。そうそう。ニコライ様は侯爵家に行く際に強い抑制剤を飲まれております。そろそろ解剤が効いてくる頃だと思われます。抱かないのではなく抱けなかったんですよエイタ様。ニコライ様は遮断をお忘れなく。」



バレンティンは出て行った。
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