魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート

文字の大きさ
上 下
78 / 285
第八章

アルハット・ヴ・ロ・レアルタ-04

しおりを挟む
 少し時間は遡る。

  朝日が昇りきる前から、クアンタが打刀『カネツグ』の素振りをしながら辺りを警戒していると、身体を大きく伸ばして起きるリンナの姿があった。


「んー……っ! 気持ちのいい朝っ!」


 カルファスが施した催眠魔術の影響で長く眠っていた事もあり、随分とスッキリとした彼女を見据え、クアンタは「おはようお師匠」と挨拶をする。


「うん、おはようクアンタ。アンタも朝早いね」


 実は災いを警戒して眠っていない、とは言わず、クアンタは「まぁ」とだけ答えて濁し、その後朝食を作る前に、リンナが庭へ出る。


「今日あたり届くと思うんだけどなぁ」

「何がだ」

「打った刀を研磨師が研いで、その後は金具屋に流れてハバキとかセッパとか付けて、鞘師に渡って専用の鞘に入れてーってした、完成品の刀が数本。ウチは一度完成度合いを確かめてから美術商に流すようにしてっからさ。

 何時もこの位か夕方頃に来るから、もし配達人のトワイスが来たら受け取ってね」

「了解した」

「んじゃ、アタシ朝食作っちゃうから、クアンタは……ん?」


 スンスン、とクアンタに鼻を近づけるリンナに、首を傾げる。


「なんだろうか」

「クアンタ、アンタそういえばこの黒い着物、ぜんぜん洗ってないっしょ」

「問題無い」

「アンタ、女の自覚ある!? ちょっとこっち来なさい! いい材質してんだから、ちゃんと洗って大切に着ないと!」

「服など着れれば問題ない。それに元はこの衣服もフォーリナーとしての形を衣服化させたものだ」

「いいお召し物っつーのは大切にしないと神さまが怒るの!」

「……神さまが? あの神さまがそのような事で怒るとは思えないが」

「いや、あの神さまじゃねぇから!? なんつーか、人間は一つ一つの身近な物に感謝しながら大切に使いまわすものなの。だからちゃんと服は洗って、長く使える様にしないといけないの、分かった!?」

「理解。では脱ぐ」

「ちょ、外で脱がない! 家ん中で脱ぎなさい中で!!」


 と、そうして漫才をする二者の所に、馬車が到着。

  馬車を降りた三人。

  外で全裸になろうとするクアンタ、それを必死で止めようとするリンナという構図に、シドニアは無表情で、アルハットは僅かに顔を赤めながら、サーニスは顔を逸らしているが、耳まで真っ赤にしている。


「シドニア、アルハット、サーニスか。昨日の今日で何か用だろうか」

「その前に服を着たらどうかしら」


 外で平然と服を脱ぎ捨てるクアンタと、それを回収して急ぎまた着せようとするリンナだったが、しかしクアンタは面倒に感じたのか、胸の中からマジカリング・デバイスを取り出し、その頭頂部にあるボタンを押す。


〈Devicer・ON〉

「変身」

〈HENSHIN〉


 乱雑にマジカリング・デバイスを放り投げるクアンタの左手人差し指が画面に触れると同時に発光、裸体の彼女へ赤い布地が展開され、包んでいく。

  斬心の魔法少女・クアンタへと変身し終えた彼女は、そこで脱いだ衣服をまとめて「お師匠、どのように洗えばいい?」と首を傾げる。


「クアンタ、一ついいかい?」

「ああ、何だシドニア」

「その【マホーショージョ】というのは、いったい何なのだ?」

「簡単に説明すれば、地球における幼い少女が魔法を用いて変身する者の俗称らしい。本来であれば私の様な成人に近い女性がなる者ではない」

「それを着替え代わりに使ってもいいのかい?」

「戦闘以外に用いてはならない、等とは言われていないからな」

「クアンタ、何か着たか!?」

「着たからこっちを向けサーニス」

「本当だな!? 正直お前と会う度にお前の肌を見ている気がするぞ!?」

「大丈夫だ」


 幾度も確認した上で真っ赤な顔のままチラリとクアンタを見据え、変身した後の姿である事を確認し、はーっと息をつく。


「お前の露出癖を何というつもりはないが、せめて人前で肌を晒す行為は慎んでくれ、目のやり場に困る……っ」

「露出癖とは失礼な。脱げと言われたから脱いだり、必要があるから脱ぐだけだ。私にそうした癖は無い」


 そうして魔法少女の姿となったクアンタの事をじ……っ、と観察するアルハットに「どうした」と言葉をかけると、彼女は材質を確かめる為か、スカートなどに触れながら「ヤエさんに貰っていたデータ通り、ゴルタナに近い外装ね」と感心している様子だった。


「一度その状態のままデータを取らせて頂いて構わないかしら」

「構わないが、何か用では無かったのか」

「ああそうだ。リンナ、一ついいだろうか?」

「え、あ、はい。そういえば何かご用だったんでしょうか?」


 最近はシドニア達と行動する事が多かった為か、皇族という象徴がいると言う事態に疑問を抱かなくなってきた自分に恐怖しつつ、リンナが問う。


「少々、災いの対策に刀が入り用で。出来れば美術商に流しているもの以外にも、買い取らせて頂きたいのだが」

「あー……えっと、今用立てる事が出来るの、クアンタが使ってる『カネツグ』か、脇差の『ウンゴウ』、後は大太刀の『イッセン』位しかないんですよね。しかも家で自衛用として残してた刀だから、既に何度か使っちゃってるし……んと、多分今日位に完成品の刀が何本か、多分四、五本位届くと思うので、それが売り出せる品であればお売りしますけど」


 顎に手を付け、思考するシドニア。出来ればクアンタとリンナをなるべく早くアルハット領に連れていき、今後の玉鋼に関する課題やスラム街の火災関連に関する政策を打ち出したいと考えている彼にとって、時間のロスは避けたいのだろうが、しかし用立てる刀の問題も放置しがたい。特にコレからリンナやクアンタを連れていくので、一日から数日は用立てる事が難しくなるのならばなおさらだ。


「如何致しますか、シドニア様」

「届くのは何時位になるか分かるかな?」

「今日だとは思うんですけど、ただこれもあくまで予定なので」

「運送業は国営運送かな」

「はい、多分」

「サーニス、至急確認を」

「はっ」


 サーニスは「ここからならば走った方が早いな」と確認しつつ、駆け足でリンナ刀工鍛冶場から去っていく姿を見据え、シドニアは「それまで待たせて頂いても?」と確認する。


「大丈夫ですけど……災い対策に刀がそんだけ必要になったんですね。何かあったんすか?」


 首を傾げるリンナに、サーニスはそこでクアンタとアルハットに視線を向ける。


(どこまで話すべきだろうな)

(神さまは、お師匠の事についてを話すなと言っていたが、その後の災い関連や五災刃に関してを話すなと言われていない。つまりお師匠の虚力に関する事を喋らなければ問題は無いと言う事だ)

(そうね――リンナが知らないと面倒な事になるかもしれないし、なるべく多くは伝えておくべきだと思うわ)
しおりを挟む

処理中です...