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第十二章
進化-03
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行こ、とクアンタの手を引いてアルハットについていくリンナと、そんな彼女に手を伸ばしながらも虚空を手にするカルファスが、交わる事などない。
地下へと至る為の階段を下りる四人。率先してアルハットが先に進み、リンナとクアンタが続き、しゅんと肩を落とすカルファスが最後尾。
「姉さま、調整は済ませてありますか?」
「あ、うん、済ませてある。多分第四世代型は問題無いと思うんだけど、問題は4.5世代型の方で……」
「何かあったんですか?」
「いやぁ、起動できてないから私もどうなるか分かんなくて。だからいつでも緊急停止できるようにしてるし、そもそも戦闘用デバイスってだけだから、展開するだけなら危険性自体はそこまで高くないと思う」
地下室へ入る為の部屋、その扉を開けるのはカルファスの仕事だ。
少しだけ前に出て、そのドアノブに触れると、自動的にロックが解除される。恐らく彼女の静脈認証でも登録されているのだろうと考えたクアンタだが、しかしその先にあった部屋を見据え「なんだと」と驚き、率先して部屋に入る。
「どういう事だ。この部屋……イヤ、この空間は、何だ?」
「? ただっ広い地下室じゃねぇの?」
続いて部屋に入ったリンナがクアンタの驚きように首を傾げるが、しかしそこで苦笑したカルファスが「固定空間って奴だね」と解説を開始した。
「ここは、あらゆる概念から切り離された、全てが固定された空間、とでもいうのか……?」
「ちょっと違うけど、近いよ。ここは時の流れから隔絶された空間で、この空間での時間経過は外の時間経過と異なっていて、この空間でどれだけ過ごしても、外では一秒だって経過していない」
ただっ広い、真っ白の部屋だった。壁という壁は視認できず、しかも天井さえも見えないその空間が、地下室というワケも無い。
「えっと、つまりどんだけ長居しても外じゃ時間が経ってない、魔法の部屋、みたいなカンジ、ですか?」
「そうだよっ! ――ただ正確に言うと、現段階じゃ長居出来て一日が限度なの。それ以上長居すると、外に出た時に時間の強制力みたいなものが肉体に負荷をかけちゃうから」
「だから時間が惜しい時はここを使うっていうのが、姉さまのやり方ね」
この固定空間魔術は、かつて自分を殺そうと企んだ者の独自魔術であったと言う。
「こういうのも回りまわって源を見つけ出す為に必要な研究だったんだろうね。きっとこの魔術を考えた人は、時間経過に囚われずに研究できる、自分だけの工房を求めてたんだろうけど」
「全ての魔術は、最終的に源を見つけ出す為に必要な研究という事か」
「勿論それだけとは言わない。例えば私なんかは源を見つけるよりも前に、魔術を使ってどれだけ人の生活を豊かに出来るか、その方が優先事項だね。
でもそうして利便性の追求や研究を続けていく事によって、更に人々の生活を豊かに出来て、その末に源の存在を証明できるかもしれない。そうした野心がないとも言えないかな」
カルファスが左手首に装着したリングに触れつつ、アルハットの差し出した霊子端末にリングをコツンと当てた。
瞬間、何もない真っ白な空間に現れるのは、一つのデスク。
机の上に置いてあった小さな金庫に指を当て、金庫に施されていた施錠を解除。
二つの、色以外は同じに見える端末を取り出すと、まず一つ――黒の塗装が施された、第四世代型ゴルタナをクアンタに手渡した。
「こっちが第四世代型ゴルタナの試作機。これは特に問題無いと思うけれど」
デスクの端に触れると、床から数機の機材が姿を現し、カルファスとアルハットの両名が、その機材と繋がる線を有する、マジックテープで固定するバンドを取り出し、クアンタの頭部・両腕部・両脚部の五か所に取り付けていく。
クアンタが見る限りではモーションキャプチャー用の機材にも見えたが、しかしそれをアルハットは「魔術・錬金術的な観点から、様々な事象を観測するための装置よ」と解説。
「まずはクアンタの身体情報を解析し、その後第四世代型ゴルタナと4.5世代型デバイスの使用テストを行う。都度、身体情報の解析は行っているから、ここで何か変化が起こっていれば、すぐに試験は中止します――これでいい? リンナ」
「うん。まぁ何言ってんのかわかんないけど、ようは危ないかなって時に止めてくれるって事でしょ?」
「ええ」
その場で軽く身体を動かし、線で繋がれている事によって運動に支障が無いかどうかを確認、問題無いと認識した後、クアンタは第四世代型ゴルタナを手に持った。
「こちらの準備は問題ない」
「こっちも大丈夫だよぉ。クアンタちゃん、お願い」
「ゴルタナ、起動」
クアンタの声に反応してか、その黒いスマートフォンのような形状をしたゴルタナがドロリと溶け出すように形を変えていき、クアンタの全身を包んでいく。
頭部はまとわず、全身を覆っていく黒の装甲。それが甲冑のようにゴツゴツとした印象を与える程に肥大化した瞬間、展開が終わったようで、リンナは「動き辛そう」と声にした。
「展開完了。クアンタちゃん、身体的に影響はない?」
「問題無い。――しかし、これは凄いな」
身体に着せる形で展開されている筈なのに、身体への負荷は全く感じないどころか、むしろ軽くなっている感じさえする。
元々腰に巻いていた刀もそうだが、先ほど腕や足に巻いたバンドは未だに固定され、情報を送信しているのであろう線は装甲の節々から飛び出る形となっているが、断線などはされていない。
そうした物理的な影響を及ぼさない形で展開されているのもそうだが、何よりもその身体機能向上能力が素晴らしい。
「少し、動いても構わないだろうか」
「いいよぉ」
「では――」
クアンタの手が刀の柄に伸びた瞬間、アルハットが懐から三個の鉄球を取り出し、それを乱雑にクアンタに向け、投げた。
一瞬である。
一瞬の内に、クアンタは刀を抜き放ち、バラバラに宙へ放たれていた筈の鉄球を全て刀の棟で弾き、地面へと叩きつけたのだ。
リンナの目には、クアンタがいつの間にか刀を抜いて構えていて、鉄球は宙へ放たれたと思ったら地面に落ちていた、程度にしか見えなかっただろう。
「身体機能補助の機能によってか、運動性能は九十二パーセント増、パワー増加は百十三パーセント増となっている」
「おっし! 第三世代は超えたねこの数値! クアンタちゃんのマジカリング・デバイスと比較したらどうかなぁ?」
「マジカリング・デバイスの場合は全体身体機能の二百五十パーセント増を確認している。それと比べればまだ、と言った所だ」
「流石に現行技術を詰め込んだだけじゃ、ヤエさんの技術には敵わないかぁ」
じゃあ一旦テスト終了、と言ったカルファスの言葉に、クアンタが「展開終了」と声をかけ、ゴルタナの展開を終える。
展開された時の逆再生かのように、展開された装甲が溶け出し、最終的にクアンタの手へスマートフォン形態となって収まった。
「強度テストはしないのか?」
「強度テストは別に、耐久力テストの人員がやるよぉ。外注なんだけど」
「危険ではないか」
「そういう危険な事だからこそお金出せばやってくれる専門の試験員なんだよ。そういう人たちの雇用を奪うのはやめてあげてねぇ」
こうした製品においての耐久値テストも一種の雇用契約があるらしい。
今回の試作品はマジカリング・デバイスをベースとした為、起動と運動性能テストだけはクアンタに任せようという事になったそうだが、結果としてそうした製品テストで収入を得ている者たちの雇用を奪う事になりかねないので、耐久値テストは行わないとしたのだと言う。
地下へと至る為の階段を下りる四人。率先してアルハットが先に進み、リンナとクアンタが続き、しゅんと肩を落とすカルファスが最後尾。
「姉さま、調整は済ませてありますか?」
「あ、うん、済ませてある。多分第四世代型は問題無いと思うんだけど、問題は4.5世代型の方で……」
「何かあったんですか?」
「いやぁ、起動できてないから私もどうなるか分かんなくて。だからいつでも緊急停止できるようにしてるし、そもそも戦闘用デバイスってだけだから、展開するだけなら危険性自体はそこまで高くないと思う」
地下室へ入る為の部屋、その扉を開けるのはカルファスの仕事だ。
少しだけ前に出て、そのドアノブに触れると、自動的にロックが解除される。恐らく彼女の静脈認証でも登録されているのだろうと考えたクアンタだが、しかしその先にあった部屋を見据え「なんだと」と驚き、率先して部屋に入る。
「どういう事だ。この部屋……イヤ、この空間は、何だ?」
「? ただっ広い地下室じゃねぇの?」
続いて部屋に入ったリンナがクアンタの驚きように首を傾げるが、しかしそこで苦笑したカルファスが「固定空間って奴だね」と解説を開始した。
「ここは、あらゆる概念から切り離された、全てが固定された空間、とでもいうのか……?」
「ちょっと違うけど、近いよ。ここは時の流れから隔絶された空間で、この空間での時間経過は外の時間経過と異なっていて、この空間でどれだけ過ごしても、外では一秒だって経過していない」
ただっ広い、真っ白の部屋だった。壁という壁は視認できず、しかも天井さえも見えないその空間が、地下室というワケも無い。
「えっと、つまりどんだけ長居しても外じゃ時間が経ってない、魔法の部屋、みたいなカンジ、ですか?」
「そうだよっ! ――ただ正確に言うと、現段階じゃ長居出来て一日が限度なの。それ以上長居すると、外に出た時に時間の強制力みたいなものが肉体に負荷をかけちゃうから」
「だから時間が惜しい時はここを使うっていうのが、姉さまのやり方ね」
この固定空間魔術は、かつて自分を殺そうと企んだ者の独自魔術であったと言う。
「こういうのも回りまわって源を見つけ出す為に必要な研究だったんだろうね。きっとこの魔術を考えた人は、時間経過に囚われずに研究できる、自分だけの工房を求めてたんだろうけど」
「全ての魔術は、最終的に源を見つけ出す為に必要な研究という事か」
「勿論それだけとは言わない。例えば私なんかは源を見つけるよりも前に、魔術を使ってどれだけ人の生活を豊かに出来るか、その方が優先事項だね。
でもそうして利便性の追求や研究を続けていく事によって、更に人々の生活を豊かに出来て、その末に源の存在を証明できるかもしれない。そうした野心がないとも言えないかな」
カルファスが左手首に装着したリングに触れつつ、アルハットの差し出した霊子端末にリングをコツンと当てた。
瞬間、何もない真っ白な空間に現れるのは、一つのデスク。
机の上に置いてあった小さな金庫に指を当て、金庫に施されていた施錠を解除。
二つの、色以外は同じに見える端末を取り出すと、まず一つ――黒の塗装が施された、第四世代型ゴルタナをクアンタに手渡した。
「こっちが第四世代型ゴルタナの試作機。これは特に問題無いと思うけれど」
デスクの端に触れると、床から数機の機材が姿を現し、カルファスとアルハットの両名が、その機材と繋がる線を有する、マジックテープで固定するバンドを取り出し、クアンタの頭部・両腕部・両脚部の五か所に取り付けていく。
クアンタが見る限りではモーションキャプチャー用の機材にも見えたが、しかしそれをアルハットは「魔術・錬金術的な観点から、様々な事象を観測するための装置よ」と解説。
「まずはクアンタの身体情報を解析し、その後第四世代型ゴルタナと4.5世代型デバイスの使用テストを行う。都度、身体情報の解析は行っているから、ここで何か変化が起こっていれば、すぐに試験は中止します――これでいい? リンナ」
「うん。まぁ何言ってんのかわかんないけど、ようは危ないかなって時に止めてくれるって事でしょ?」
「ええ」
その場で軽く身体を動かし、線で繋がれている事によって運動に支障が無いかどうかを確認、問題無いと認識した後、クアンタは第四世代型ゴルタナを手に持った。
「こちらの準備は問題ない」
「こっちも大丈夫だよぉ。クアンタちゃん、お願い」
「ゴルタナ、起動」
クアンタの声に反応してか、その黒いスマートフォンのような形状をしたゴルタナがドロリと溶け出すように形を変えていき、クアンタの全身を包んでいく。
頭部はまとわず、全身を覆っていく黒の装甲。それが甲冑のようにゴツゴツとした印象を与える程に肥大化した瞬間、展開が終わったようで、リンナは「動き辛そう」と声にした。
「展開完了。クアンタちゃん、身体的に影響はない?」
「問題無い。――しかし、これは凄いな」
身体に着せる形で展開されている筈なのに、身体への負荷は全く感じないどころか、むしろ軽くなっている感じさえする。
元々腰に巻いていた刀もそうだが、先ほど腕や足に巻いたバンドは未だに固定され、情報を送信しているのであろう線は装甲の節々から飛び出る形となっているが、断線などはされていない。
そうした物理的な影響を及ぼさない形で展開されているのもそうだが、何よりもその身体機能向上能力が素晴らしい。
「少し、動いても構わないだろうか」
「いいよぉ」
「では――」
クアンタの手が刀の柄に伸びた瞬間、アルハットが懐から三個の鉄球を取り出し、それを乱雑にクアンタに向け、投げた。
一瞬である。
一瞬の内に、クアンタは刀を抜き放ち、バラバラに宙へ放たれていた筈の鉄球を全て刀の棟で弾き、地面へと叩きつけたのだ。
リンナの目には、クアンタがいつの間にか刀を抜いて構えていて、鉄球は宙へ放たれたと思ったら地面に落ちていた、程度にしか見えなかっただろう。
「身体機能補助の機能によってか、運動性能は九十二パーセント増、パワー増加は百十三パーセント増となっている」
「おっし! 第三世代は超えたねこの数値! クアンタちゃんのマジカリング・デバイスと比較したらどうかなぁ?」
「マジカリング・デバイスの場合は全体身体機能の二百五十パーセント増を確認している。それと比べればまだ、と言った所だ」
「流石に現行技術を詰め込んだだけじゃ、ヤエさんの技術には敵わないかぁ」
じゃあ一旦テスト終了、と言ったカルファスの言葉に、クアンタが「展開終了」と声をかけ、ゴルタナの展開を終える。
展開された時の逆再生かのように、展開された装甲が溶け出し、最終的にクアンタの手へスマートフォン形態となって収まった。
「強度テストはしないのか?」
「強度テストは別に、耐久力テストの人員がやるよぉ。外注なんだけど」
「危険ではないか」
「そういう危険な事だからこそお金出せばやってくれる専門の試験員なんだよ。そういう人たちの雇用を奪うのはやめてあげてねぇ」
こうした製品においての耐久値テストも一種の雇用契約があるらしい。
今回の試作品はマジカリング・デバイスをベースとした為、起動と運動性能テストだけはクアンタに任せようという事になったそうだが、結果としてそうした製品テストで収入を得ている者たちの雇用を奪う事になりかねないので、耐久値テストは行わないとしたのだと言う。
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