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第十三章
災滅の魔法少女-08
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フン、と鼻で嘲笑いながら、シドニアの望み通り会議室へと歩を進めていくアメリアと、彼女にチッと舌打ちをしながら付いていくシドニア。
その様子をふぅとため息を付きつつ、見届けたのがアルハットとカルファス、そして何も考えてなさそうなイルメールである。
「……カルファス姉さま、どうしてシドニア兄さまに、根源化の紛い物に関してを伝えていなかったのですか?」
「色々理由があるから、一口には言えないかな」
「あのバカな弟はゼッテェそういう技術を無茶な事に使いやがるからな。伝えてなくて正解だぜ」
あくびを溢しながら先へ進んでいくイルメールを追うように、三人も会議室へと進むと、既に黒子たちが準備を施して五人分の席が用意された円卓に、それぞれ腰かけていく。
「じゃあまず、どこから説明したらいいかなぁ?」
「リンナやサーニスの理解はともかく、私たちは全員、その【根源化の紛い物】とやらのシステムについては、アメリアとアルハットより伺っている。そこの説明は良い」
情報を整理するかのように言ったシドニアが、顎に手をやりながら、彼の一番知りたい事を尋ねる。
「サーニスに伝えない理由は分かる。彼は確かに私の補佐だが、政治家というワケでもない。だが少なくとも弟でもあり皇族の一人でもある私に伝えない理由とはなんだ?」
「幾つかあるんだけどね、まず一つ……というより一番大きな理由は、イル姉さまの言うように『シドちゃんに伝えたらこの技術をどう扱うか分からなかったから』……かな?」
ピクリ、とシドニアが眉を動かし、イルメールへと視線をやる。当のイルメールは眠そうに机に肘をついてあくびをしている。
「意味が分からないが?」
「シドちゃん、貴方の目指すレアルタ皇国のあるべき姿とは、どんなもの?」
話を逸らしているのではないか、と考えたシドニアだが、彼女は元から結論に至るべき過程の話を重要視する。つまり、そうした問いに意味があるのだろうと信じ、端的に答える事とする。
「……まぁ、そうだな。優秀な人材が持ち得る技能を遺憾なく発揮でき、無能な存在が淘汰された世界、というべきか」
「そんな貴方の目指す世界を容認できないと考えたから、私は貴方にこうした技術を多く伝える事が出来ないと踏んだのよ」
「だから、私の思想とそうした技術の存在認知がイコールとなる意味が理解できないと言っているのですが」
「私のこの身体、シドちゃんが知る本物のイルメールと相違ないでしょう?」
胸に手を当てながら自分の身体を一度クルリと回転させて見せたカルファスと、それを見据えて頷いたシドニア。
「擬似的な私を量産する事の出来る、生体魔導機技術。私はただの子機だけれど、こうした『生命への冒涜』というのが出来てしまうのも、魔術という神秘を体現する事の出来る技術であり、そうした技術は得てして、為政者に渡すべきじゃない……それが私の持論よ」
「……技術の政治的利用、思想的利用を危惧している、という事だな」
「端的に言っちゃえばそうだね。そして、その技術が一番渡っちゃいけない存在が貴方……シドニア・ヴ・レ・レアルタだと、私は考えている」
血の繋がった弟である筈のシドニアに向けて、臆面もなく言い切ったカルファスの言葉は、むしろシドニアにとっても心地良い。下手な言葉で解答をはぐらかされるよりは、よほど面倒は無い。
「なるほど、私はその為政者であり、時に国の為と宣いながら非人道的な方法を以て技術を扱う可能性がある、と」
「ええ」
「だがそれは姉上自身がそうではないか。貴女ほどの危険思想は多くいないというのに、貴女にはそうした技能がある。あり過ぎる。それを貴女自身が危惧していないと?」
「私は別に、私が皇族になるつもりはないよ。……むしろ、私が皇族に一番ふさわしいと考えるのは、アルちゃんよ。時点でアメちゃん。その次に私で、下にイル姉さまときて、シドちゃんは最下位」
「……私は嫌われていると」
少し、寂しそうな表情を浮かべたシドニアに、カルファスは言いようのない感情に襲われたが、今はその感情が何かを探る時ではないと首を横に振り「子供じみた事を言わないで」と突き放す。
「……子供じみた事? コレを嫌われていると感じずに何だという。
確かに私は、姉上たちやアルハットには遠く及ばないよ。皆にはそれぞれ人を惹き付ける力があるし、その上で特化した技能を持ち得ている。
だが能力の如何はともかく、アルハットには経験が少なく、自領土を一人でやりくりする力は今の所ない。
アメリアやイルメールは領民を脅かす独裁的思想を持ち得ているし、事実としてそれを成している。
貴女は、貴女が言ったような危険思想を自分自身でも我慢しきれていない、そうした技術を使役出来てしまう異常者だ。
そんな面々の中で、私が一番下だと言われているのに、それを険悪故の結果と考えず、何だと言うんだカルファス……っ」
「オイ、シドニア。その辺にしとけ」
聞いていられない雑音だとでも言いたげな、鬱陶しそうな表情で声を放つイルメールの言葉を聞いても、シドニアは止まらない。
「……何時だってそうだ! 優秀な貴女達に囲まれて、私は何時も比べられた!
そんな想いをただ一人の妹に感じて欲しくないと手を回したら、それすらも利用していると勘ぐられる!
私は、私はただ――ッ!!」
最後まで、シドニアは言葉を放つことを許されなかった。
イルメールが座っている椅子から起き上がると同時に床を蹴り、シドニアの眼前にある机に脚をつけると、上段から振り込んだ拳の一撃が、シドニアの頬を殴りつけたからだ。
「ご――ッ」
本気ではないだろう。本気であれば、身構えてもいないシドニアの首等は簡単に吹き飛んでいた筈だ。
だがそれなりに力が込められていたようで、シドニアは一度地面に叩きつけられると、ぶつけた頭部から血が滴り、アルハットが急いでシドニアの下へと駆け寄った。
「イルメール姉さま、止めて下さい!」
「ぴーちくぱーちくウルセェ奴だ。人の言う事を素直に聞けねェ奴に、他人を罵倒する権利なンざねェよ」
「っ……、! イルメール……っ!」
急ぎ、止血を行おうとするアルハットを押しのけ、今までの恨みや嫌悪感を以てイルメールを睨みつけるシドニアだが、既にイルメールは彼の事など、眼中にない。
「座れ。ンで、静かにしてろや」
「貴女に指図される謂れはない……っ」
「話が進まねェから黙ってろッつってンだよ。オレへの喧嘩だったら何時だって買ってるけどヨ、今はオレらの事じゃなくてリンナやクアンタっつー、オレらが守らなきゃいけねェ領民を守る話し合いの方が先決だろうよ。
その為の発言だったら幾らでもしろ。オレはその辺よく分かんねェから黙る。……それだけの事なのに話を逸らしてウジウジしやがって。ホントにオレの弟か、オメェ」
フン、と鼻を鳴らして自分の席に腰かけ直したイルメールの言葉を受けて、何か言い返そうと口を開きかけたシドニアだが、そこで心配そうなアルハットが「ひとまず止血だけでも」と言うので、溜飲を飲み込んだ。
「シドニアよ、主にカルファスの事を教えるか否かは、吾輩とカルファスで決めた故な。もし何か意見があるならば、この話し合いの後に吾輩が聞く」
止血をするシドニアへ付け足すように、アメリアが黒子の入れた紅茶を飲みながら発言する。
「じゃがイルメールの言うように、今はそれが問題ではない。むしろそうした手段を用いてでもカルファスという象徴が生きておる事自体を良しと思うべきじゃ。そうは思わんか?」
「……それは、その通りですが」
「後で少し話すとしよう。しかし、今はそれよりも決めるべきことがあるのじゃ」
「決めるべき事、とはいったい何でしょう、アメリア姉さま」
黒子から救急セットを受けとりながら、シドニアの手当をしようとするアルハットが問いかけると、アメリアは「はー……」と深いため息をついた。
「……主ら護衛も付けずにほっつき歩きおって! そもそも今回カルファスが狙われたにも関わらず警兵隊も皇国軍も出張れなかったのは、カルファス皇居の警備体制に問題があるじゃろうてっ!!」
我慢できなくなったようにアルハットが叫び散らすと、アルハットと、カルファス、そして今ひと悶着あったシドニアでさえも顔を青くした。
「アルハット、主は護衛も付けずにリンナとクアンタの送迎を担当しておったな!?」
「ひっ、すみませんっ!」
思わず腰を九十度曲げて深々と頭を下げてしまったアルハットだが、しかし今のアメリアにはそれだけの勢いがあったのだ。
「シドニアもシドニアじゃっ! 前回のアルハット領視察の時もそうじゃが、本来は護衛される立場じゃろうに! せめてサーニスを付けいっ!」
「い、いえ、サーニスは今姉上の護衛に……」
「そもそも吾輩は黒子共を護衛にしておる故、安全性だけで言えば一番高いのじゃッ!!」
「わ、私はある程度自衛できるしィ~、そもそも死んでも別の子機いるしィ~?」
「そうやって個々が勝手に護衛も付けずフラッフラしとるから災いに狙われる格好の標的になるんじゃろうがいッ!!」
「そこでなぜイルメールを叱らん……?」
「イルメールは……まぁ、のぉ」
その様子をふぅとため息を付きつつ、見届けたのがアルハットとカルファス、そして何も考えてなさそうなイルメールである。
「……カルファス姉さま、どうしてシドニア兄さまに、根源化の紛い物に関してを伝えていなかったのですか?」
「色々理由があるから、一口には言えないかな」
「あのバカな弟はゼッテェそういう技術を無茶な事に使いやがるからな。伝えてなくて正解だぜ」
あくびを溢しながら先へ進んでいくイルメールを追うように、三人も会議室へと進むと、既に黒子たちが準備を施して五人分の席が用意された円卓に、それぞれ腰かけていく。
「じゃあまず、どこから説明したらいいかなぁ?」
「リンナやサーニスの理解はともかく、私たちは全員、その【根源化の紛い物】とやらのシステムについては、アメリアとアルハットより伺っている。そこの説明は良い」
情報を整理するかのように言ったシドニアが、顎に手をやりながら、彼の一番知りたい事を尋ねる。
「サーニスに伝えない理由は分かる。彼は確かに私の補佐だが、政治家というワケでもない。だが少なくとも弟でもあり皇族の一人でもある私に伝えない理由とはなんだ?」
「幾つかあるんだけどね、まず一つ……というより一番大きな理由は、イル姉さまの言うように『シドちゃんに伝えたらこの技術をどう扱うか分からなかったから』……かな?」
ピクリ、とシドニアが眉を動かし、イルメールへと視線をやる。当のイルメールは眠そうに机に肘をついてあくびをしている。
「意味が分からないが?」
「シドちゃん、貴方の目指すレアルタ皇国のあるべき姿とは、どんなもの?」
話を逸らしているのではないか、と考えたシドニアだが、彼女は元から結論に至るべき過程の話を重要視する。つまり、そうした問いに意味があるのだろうと信じ、端的に答える事とする。
「……まぁ、そうだな。優秀な人材が持ち得る技能を遺憾なく発揮でき、無能な存在が淘汰された世界、というべきか」
「そんな貴方の目指す世界を容認できないと考えたから、私は貴方にこうした技術を多く伝える事が出来ないと踏んだのよ」
「だから、私の思想とそうした技術の存在認知がイコールとなる意味が理解できないと言っているのですが」
「私のこの身体、シドちゃんが知る本物のイルメールと相違ないでしょう?」
胸に手を当てながら自分の身体を一度クルリと回転させて見せたカルファスと、それを見据えて頷いたシドニア。
「擬似的な私を量産する事の出来る、生体魔導機技術。私はただの子機だけれど、こうした『生命への冒涜』というのが出来てしまうのも、魔術という神秘を体現する事の出来る技術であり、そうした技術は得てして、為政者に渡すべきじゃない……それが私の持論よ」
「……技術の政治的利用、思想的利用を危惧している、という事だな」
「端的に言っちゃえばそうだね。そして、その技術が一番渡っちゃいけない存在が貴方……シドニア・ヴ・レ・レアルタだと、私は考えている」
血の繋がった弟である筈のシドニアに向けて、臆面もなく言い切ったカルファスの言葉は、むしろシドニアにとっても心地良い。下手な言葉で解答をはぐらかされるよりは、よほど面倒は無い。
「なるほど、私はその為政者であり、時に国の為と宣いながら非人道的な方法を以て技術を扱う可能性がある、と」
「ええ」
「だがそれは姉上自身がそうではないか。貴女ほどの危険思想は多くいないというのに、貴女にはそうした技能がある。あり過ぎる。それを貴女自身が危惧していないと?」
「私は別に、私が皇族になるつもりはないよ。……むしろ、私が皇族に一番ふさわしいと考えるのは、アルちゃんよ。時点でアメちゃん。その次に私で、下にイル姉さまときて、シドちゃんは最下位」
「……私は嫌われていると」
少し、寂しそうな表情を浮かべたシドニアに、カルファスは言いようのない感情に襲われたが、今はその感情が何かを探る時ではないと首を横に振り「子供じみた事を言わないで」と突き放す。
「……子供じみた事? コレを嫌われていると感じずに何だという。
確かに私は、姉上たちやアルハットには遠く及ばないよ。皆にはそれぞれ人を惹き付ける力があるし、その上で特化した技能を持ち得ている。
だが能力の如何はともかく、アルハットには経験が少なく、自領土を一人でやりくりする力は今の所ない。
アメリアやイルメールは領民を脅かす独裁的思想を持ち得ているし、事実としてそれを成している。
貴女は、貴女が言ったような危険思想を自分自身でも我慢しきれていない、そうした技術を使役出来てしまう異常者だ。
そんな面々の中で、私が一番下だと言われているのに、それを険悪故の結果と考えず、何だと言うんだカルファス……っ」
「オイ、シドニア。その辺にしとけ」
聞いていられない雑音だとでも言いたげな、鬱陶しそうな表情で声を放つイルメールの言葉を聞いても、シドニアは止まらない。
「……何時だってそうだ! 優秀な貴女達に囲まれて、私は何時も比べられた!
そんな想いをただ一人の妹に感じて欲しくないと手を回したら、それすらも利用していると勘ぐられる!
私は、私はただ――ッ!!」
最後まで、シドニアは言葉を放つことを許されなかった。
イルメールが座っている椅子から起き上がると同時に床を蹴り、シドニアの眼前にある机に脚をつけると、上段から振り込んだ拳の一撃が、シドニアの頬を殴りつけたからだ。
「ご――ッ」
本気ではないだろう。本気であれば、身構えてもいないシドニアの首等は簡単に吹き飛んでいた筈だ。
だがそれなりに力が込められていたようで、シドニアは一度地面に叩きつけられると、ぶつけた頭部から血が滴り、アルハットが急いでシドニアの下へと駆け寄った。
「イルメール姉さま、止めて下さい!」
「ぴーちくぱーちくウルセェ奴だ。人の言う事を素直に聞けねェ奴に、他人を罵倒する権利なンざねェよ」
「っ……、! イルメール……っ!」
急ぎ、止血を行おうとするアルハットを押しのけ、今までの恨みや嫌悪感を以てイルメールを睨みつけるシドニアだが、既にイルメールは彼の事など、眼中にない。
「座れ。ンで、静かにしてろや」
「貴女に指図される謂れはない……っ」
「話が進まねェから黙ってろッつってンだよ。オレへの喧嘩だったら何時だって買ってるけどヨ、今はオレらの事じゃなくてリンナやクアンタっつー、オレらが守らなきゃいけねェ領民を守る話し合いの方が先決だろうよ。
その為の発言だったら幾らでもしろ。オレはその辺よく分かんねェから黙る。……それだけの事なのに話を逸らしてウジウジしやがって。ホントにオレの弟か、オメェ」
フン、と鼻を鳴らして自分の席に腰かけ直したイルメールの言葉を受けて、何か言い返そうと口を開きかけたシドニアだが、そこで心配そうなアルハットが「ひとまず止血だけでも」と言うので、溜飲を飲み込んだ。
「シドニアよ、主にカルファスの事を教えるか否かは、吾輩とカルファスで決めた故な。もし何か意見があるならば、この話し合いの後に吾輩が聞く」
止血をするシドニアへ付け足すように、アメリアが黒子の入れた紅茶を飲みながら発言する。
「じゃがイルメールの言うように、今はそれが問題ではない。むしろそうした手段を用いてでもカルファスという象徴が生きておる事自体を良しと思うべきじゃ。そうは思わんか?」
「……それは、その通りですが」
「後で少し話すとしよう。しかし、今はそれよりも決めるべきことがあるのじゃ」
「決めるべき事、とはいったい何でしょう、アメリア姉さま」
黒子から救急セットを受けとりながら、シドニアの手当をしようとするアルハットが問いかけると、アメリアは「はー……」と深いため息をついた。
「……主ら護衛も付けずにほっつき歩きおって! そもそも今回カルファスが狙われたにも関わらず警兵隊も皇国軍も出張れなかったのは、カルファス皇居の警備体制に問題があるじゃろうてっ!!」
我慢できなくなったようにアルハットが叫び散らすと、アルハットと、カルファス、そして今ひと悶着あったシドニアでさえも顔を青くした。
「アルハット、主は護衛も付けずにリンナとクアンタの送迎を担当しておったな!?」
「ひっ、すみませんっ!」
思わず腰を九十度曲げて深々と頭を下げてしまったアルハットだが、しかし今のアメリアにはそれだけの勢いがあったのだ。
「シドニアもシドニアじゃっ! 前回のアルハット領視察の時もそうじゃが、本来は護衛される立場じゃろうに! せめてサーニスを付けいっ!」
「い、いえ、サーニスは今姉上の護衛に……」
「そもそも吾輩は黒子共を護衛にしておる故、安全性だけで言えば一番高いのじゃッ!!」
「わ、私はある程度自衛できるしィ~、そもそも死んでも別の子機いるしィ~?」
「そうやって個々が勝手に護衛も付けずフラッフラしとるから災いに狙われる格好の標的になるんじゃろうがいッ!!」
「そこでなぜイルメールを叱らん……?」
「イルメールは……まぁ、のぉ」
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