魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート

文字の大きさ
200 / 285
第十九章

戦う理由-06

しおりを挟む
「何が、違うというのじゃ……? 何を、違うと言うとるのじゃ……?」

「クアンタも、サーニスさんも……相手を殺す為に、戦ってない」

「二人はただ……戦いの先にあるモノを見つける為に、戦ってる」

「気付いたか、リンナ、アルハット。そォだ、オメェ等も何回かの戦いを経て、良く眼と心を鍛えた。ソレこそ、進化ッてヤツだ」


 リンナはただ、二者の戦いを見据えている。

  だが、これまでリンナが二人の戦いに割って入ったり、その意味を問わなかったのは、彼女が二人の戦いを見て、その意味を僅かにでも感じ取っていたからなのかもしれない。

  アルハットはイルメールが呼んで、付いてきただけだ。しかしそうした先で行われていた戦いを見て、ただの喧嘩では無いと、理解できていた。


 サーニスが一突き一突き、クアンタへとレイピアを振るう。

  その突きを躱し、受け流し、時に腕や足に突き刺されながらも、クアンタは自身の刃を振るう毎に感じる【願い】を、少しずつ、理解し始めている。

  サーニスもまた、クアンタが振るう刀の一閃一閃を受け、流し、時に肌を斬られながら、しかし彼女が心から【願う】事を感じ取る。


「クアンタは、これからどうすればいいのか、何をしたいのか、悩んでた。サーニスさんは、そうして悩むクアンタと戦う事で、クアンタの根底にある願いを、引き出そうとしてる」


 拳を握り締め、リンナは戦いの行方を見届ける。

  理解できぬ、戦いを経験した事のないアメリアへ、サーニスとクアンタの気持ちを、代弁するように。


「戦いは相手との語らいであると同時に、自分自身の心を映し出す鏡でもある。求めるモノが自覚できていないクアンタが生き残った先で何を求めるか――それを理解するための、戦い」

「でも……なんでだろ。サーニスさんも、戦いの先に、何かを求めてる……クアンタに願う事だけじゃなくて……自分の心と、折り合いをつけようとしてる、みたいな……」


 強く、振り込まれたクアンタのリュウオウによる、上段からの一閃。


「ォオオオオオ――ッ!!」

「く――ッ!」


  サーニスは回避が不可能と判断した結果、懐からゴルタナを掴み、振り下ろされる刃へと押し当てた。

 衝撃が暴風となり、リンナ宅全体を襲うようだったが、アメリア以外は誰も、その衝撃に目を覆う事は無い。

  例え目に埃や砂、ゴミが入ってきても、閉じる事など許されない。

  今二人の間にある戦いは、そうした争いである。


「ゴルタナ、起動ッ!!」


 刃の一閃を防いだゴルタナが展開されていく。クアンタはそのまま刃を振り込もうと力を籠めるが、しかし寸前にサーニスが左掌をクアンタの顎へと突き出し、首を折ると言わんばかりに下方から振り上げ、叩きつけて吹き飛ばすも、クアンタは空中でジャージの胸元を広げた後、マジカリング・デバイスを排出。手に取ったまま空中で起動した。


「変身――っ!」

〈HENSHIN〉


 マジカリング・デバイスから放出される光を待ちきれないと言わんばかりに、光に包まれながらもリュウオウを構えつつ空中を蹴り、サーニスへと迫るクアンタ。

  漆黒の外装――ゴルタナの展開を終えたサーニスのレイピアと、朱色を基本色とした外装――斬心の魔法少女へと変身を遂げたクアンタの刀が合わさり、接触音が鳴り響いた瞬間、サーニスはゴルタナで隠れて誰にも見えぬにも関わらず、不敵に笑みを浮かべる。


「そうだ! 純粋に戦いを果たせる者こそ、生き残り、その先にあるモノを掴み取る価値があるッ!」

「戦いの先にあるモノを、私は理解したいっ!」

「ならばどうするッ!」

「お前に、サーニスに勝ち、生き残る――ッ!!」

「果たしてみせろッ! 自分とお前の実力は同等、それがお前の望みならば、お前自身の手で掴み取れ――ッ!!」


 互いの刃を弾き合った結果、二者の手から得物が離れた。

 クアンタとサーニスは得物に執着などしない。相手に得物が無ければ、ただ殴るだけであると言わんばかりに腰を捻り、互いの拳同士を合わせた。


  パン――と、まるで発砲音のような弾ける音が響く。

  だが中心にいるクアンタとサーニスの間には、そんな音など意味を成さない。

  二者の身体は既に、勝手に動く。

 思考は互いの想いを拳に乗せ、相手の拳に乗せられた想いを処理するだけの事。


「クアンタ――ッ!!」

「サーニス――ッ!!」


 名を叫び、拳に力を籠め、互いの身体を吹き飛ばす。

  転がる身体を起き上がらせつつ、サーニスは丁度転がった先にあったレイピアを手に取り。

  クアンタは同じく転がりながらもマジカリング・デバイスを取り出して、左手首に出現させたエクステンデッド・ブーストのスロットにデバイスを挿入、指紋センサーに触れた後、アタッチメントを九十度回転させる。


〈Devicer-Extended・ON〉

「フォームチェンジッ!!」

〈Form-Change.〉


 エクステンデッド・ブーストによるフォームチェンジが行われ、クアンタの装着している装備が姿を変化させていく。

  サーニスとの戦いを経て高揚した肉体に合わせ、エクステンデッド・ブーストの効果で虚力とマナの結合が起こり、彼女の感情をより昂らせていくような感覚が、クアンタの口を大きく開かせた。


「私は、生きるッ! 生きて――ッ!」


  そのスカート丈は伸び、リボン型のスラスターモジュールが装着されると共に、黒髪は僅かに薄い朱色を混ぜ、伸びる。

  そうしてエクステンデット・フォームへと成り代わった彼女は、自身の肉体から青白い光――錬成反応を放出すると共に、自身の背後に十二刃に及ぶ刃だけを顕現、サーニスへと投擲した。


  だが、サーニスにそんな小細工は通じない。それをクアンタも分かっている。そうした牽制によって、先ほど弾かれたリュウオウを広い、構える時間を作る事が真の目的だ。


  飛来する刃を避け、弾き、時に掴んで投げ返しとして全てやり過ごした彼は、腰を低くしながら疾く、地面を蹴りつけた。

  サーニスによる、クアンタの首元を狙って突き付けられるレイピアの一突。

  クアンタもリュウオウの刃に虚力を通しながら、今まさに迫るサーニスの首を目掛けて、刃を突き付ける。


  
「私は、皆の願いや感情を守る……【魔法少女】でありたい――ッ!!」


  
  互いに互いの喉を狙った刃の一突きは、しかしだからこそ、貫く事が出来ず、互いの頭部をぶつけ合うだけに留まった。

  沈黙と共に、クアンタとサーニスは流れる汗を拭う事もせず、荒れる息を整えていたが。


「……そうか」


 そんな中で呟かれた言葉は、クアンタの口から放たれた。

  戦いの高揚と、エクステンデッド・ブーストの効果によって昂った彼女の感情が吐き出した言葉を、自分の中で反芻するように、目を見開きながら。


「私が求めていたのは、こんな単純な事だったんだな……」

「見つける事が……出来たか?」

「ああ――感謝する、サーニス」


 ゴルタナの展開と、エクステンデッド・フォームの変身を解除した二者。

  そんな二人は、観衆であるアメリア達に向けて歩き出すのではなく、ただ向き合って、睨み合う。


「私は、この世界に来て、感情を、自分の個を知った」


 臆病者で責任感の強い、怖がりな女の子。

  そうしたクアンタの個が、彼女を惑わせた。

  けれど――決して、惑わせただけではなかったのだ。


「失ったゴルサという星を取り戻す事なんて出来ない。そんな事は分かってる。でも、でもこれから、失われようとする命を……一人ひとりの意思や願いを、守る事は出来る」


 父の遺作を渡したくないと嘆くリンナを襲うヴァルブ・フォン・リエルティックの傲慢に怒った。

 アメリア皇居で美術品の剣を割ってしまった事に焦燥した。

  リンナに惚れ、彼女を抱こうとするイルメールに嫉妬した。

  源の泉へと向かう道中、姫巫女達の亡骸が襲い掛かってくる光景に恐怖した。

  失われたゴルサという星の結果に、自分自身が拒絶されるのではないかと、怯えた。


 そして何より――この世界に来て、リンナの刀を初めて見た時に感じた、言いようのない胸の高鳴り。

 それが今も、クアンタの心を、感情を、動かしている。


  クアンタがこの星に、この世界に来て短い時の中で、これだけの感情と巡り合えたように、この世界にある多くの命はこれまでも、これからも多くの感情と巡り合い、喜怒哀楽を表しながら生きていく。

  リンナも、シドニアも、サーニスも、ワネットも、アメリアも、アルハットも、カルファスも、そうした感情の中で、決して長いとは言えぬ人生を歩んでいく。


  ――クアンタは、その意思を、感情を、命を、守りたいと思えたのだ。


  ――サーニスとの戦いで、死にそうになりながらも、殺されそうになりながらも、思考や感情を最大限にまで研ぎ澄ませた結果として、気付いたのである。


「私は、私という個を教えてくれた人間が――感情を持つ者が好きなんだ、きっと。だから、それを一つでも多く、守る為に戦いたい。



 守る為の――【魔法少女】で、あり続けたい」



 ――マリルリンデや刀匠・ガルラの望む世界を、許容なんて出来ない、と。


  クアンタは、普段の彼女らしからぬ、目元を細め、口角を上げて、頬を赤く染めた表情で、そう言い切った。

  そしてサーニスも、そんな彼女の笑顔を見て、笑みを返す。


「クアンタ、自分は……最初に会った時から、貴様が気にくわなかった」


 シドニアは好んだ所だったが、彼女はあまりに人間と異なり過ぎたのだ。

  感情的にならず、自分の事も含めて盤面上の駒としか見ず、ただ自分のしなければならない事をするだけの、機械的なクアンタの事を、サーニスは好ましく思っていなかった。


「だが……自分も今の斬り合いで分かった。思えば自分は、そうしたお前にかつての自分を重ねていたんだ。同族嫌悪……という奴だな」


 幼い頃のサーニスは、イルメールと出会い、シドニアに見初められるまでは、自分という個が無かった。

 ただ、拾ってくれた父に従い、公権力の殺害にのみ従事する機械。

  闇に紛れて公権力を討つ、殺すだけの兵器。

  そうした中でイルメールという強大な力を目の当たりにして、ようやく初めて、死ぬ事の恐怖を、生きる事の出来ない辛さを知った。


  ――何も果たす事が出来ず、ただ死んでいく事の恐ろしさを知った。

  ――シドニアに認められ、存在を認識して貰えた事で、初めて自分が誰かの為に戦う事に【夢】を見い出せた。


 そこでようやくサーニスは、兵器から人になれたのだ。

  クアンタにも、そうであって欲しいと願えるような、一人の人間に。


「ありがとう、クアンタ。お前と果たし合う事で、自分も、自分なりに心と折り合いをつける事が出来た。今のお前を、自分はとても好ましく思う。


 初めて出会った時、ただの兵器でしかなかったお前が、個の感情を有して、誰かの為に、自分の為にと戦う姿は――とても輝いて見えるぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ニートを生贄に。

ハマハマ
ファンタジー
『勇者ファネルの寿命がそろそろやばい。あいつだけ人族だから当たり前だったんだが』  五英雄の一人、人族の勇者ファネルの寿命は尽きかけていた。  その代わりとして、地球という名の異世界から新たな『生贄』に選ばれた日本出身ニートの京野太郎。  その世界は七十年前、世界の希望・五英雄と、昏き世界から来た神との戦いの際、辛くも昏き世界から来た神を倒したが、世界の核を破壊され、1/4を残して崩壊。  残された1/4の世界を守るため、五英雄は結界を張り、結界を維持する為にそれぞれが結界の礎となった。  そして七十年後の今。  結界の新たな礎とされるべく連れて来られた日本のニート京野太郎。  そんな太郎のニート生活はどうなってしまう? というお話なんですが、主人公は五英雄の一人、真祖の吸血鬼ブラムの子だったりします。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた
ファンタジー
【空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!】 台風の夜、魔女はホウキで空を翔け――嵐と戦う! この街で台風と戦うのは、ホウキで飛ぶ魔女の仕事だ。 空を飛ぶ魔女に憧れながらも、魔法が使えない体質のため夢を諦めたモチコ。 台風の夜、嵐に襲われて絶体絶命のピンチに陥ったモチコを救ったのは、 誰よりも速く夜空を飛ぶ“疾風迅雷の魔女”ミライアだった。 ひょんな事からミライアの相方として飛ぶことになったモチコは、 先輩のミライアとともに何度も台風へ挑み、だんだんと成長していく。 ふたりの距離が少しずつ近づいていくなか、 ミライアがあやしい『実験』をしようと言い出して……? 史上最速で空を飛ぶことにこだわる変な先輩と、全く飛べない地味メガネの後輩。 ふたりは夜空に浮かんだホウキの上で、今夜も秘密の『実験』を続けていく――。 空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

黒木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜

狐隠リオ
ファンタジー
 偉大なる魔女の守護者、それが騎士。  大勢の若者たちがその英雄譚に魅了され、その道へと歩み始めていた。  だけど俺、志季春護は騎士を目指しながらも他とは少し違かった。  大勢を護るために戦うのではなく、残された二人の家族を護るために剣を振るう。  妹の夏実と姉の冬華。二人を護るために春護は努力を続けていた。  だけど……二人とも失ってしまった。  死の淵を彷徨った俺は一人の少女と出会い、怪しげな彼女と契約を交わしたんだ。  契約によって得た新たな力を使い俺は進む。騎士の相棒である水花と共に。  好意的だけど底の知れないナニカの助力を受け、少年は強さを求める。  家族の仇を取るために、魔族を討滅するために。

処理中です...