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第十九章
戦う理由-06
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「何が、違うというのじゃ……? 何を、違うと言うとるのじゃ……?」
「クアンタも、サーニスさんも……相手を殺す為に、戦ってない」
「二人はただ……戦いの先にあるモノを見つける為に、戦ってる」
「気付いたか、リンナ、アルハット。そォだ、オメェ等も何回かの戦いを経て、良く眼と心を鍛えた。ソレこそ、進化ッてヤツだ」
リンナはただ、二者の戦いを見据えている。
だが、これまでリンナが二人の戦いに割って入ったり、その意味を問わなかったのは、彼女が二人の戦いを見て、その意味を僅かにでも感じ取っていたからなのかもしれない。
アルハットはイルメールが呼んで、付いてきただけだ。しかしそうした先で行われていた戦いを見て、ただの喧嘩では無いと、理解できていた。
サーニスが一突き一突き、クアンタへとレイピアを振るう。
その突きを躱し、受け流し、時に腕や足に突き刺されながらも、クアンタは自身の刃を振るう毎に感じる【願い】を、少しずつ、理解し始めている。
サーニスもまた、クアンタが振るう刀の一閃一閃を受け、流し、時に肌を斬られながら、しかし彼女が心から【願う】事を感じ取る。
「クアンタは、これからどうすればいいのか、何をしたいのか、悩んでた。サーニスさんは、そうして悩むクアンタと戦う事で、クアンタの根底にある願いを、引き出そうとしてる」
拳を握り締め、リンナは戦いの行方を見届ける。
理解できぬ、戦いを経験した事のないアメリアへ、サーニスとクアンタの気持ちを、代弁するように。
「戦いは相手との語らいであると同時に、自分自身の心を映し出す鏡でもある。求めるモノが自覚できていないクアンタが生き残った先で何を求めるか――それを理解するための、戦い」
「でも……なんでだろ。サーニスさんも、戦いの先に、何かを求めてる……クアンタに願う事だけじゃなくて……自分の心と、折り合いをつけようとしてる、みたいな……」
強く、振り込まれたクアンタのリュウオウによる、上段からの一閃。
「ォオオオオオ――ッ!!」
「く――ッ!」
サーニスは回避が不可能と判断した結果、懐からゴルタナを掴み、振り下ろされる刃へと押し当てた。
衝撃が暴風となり、リンナ宅全体を襲うようだったが、アメリア以外は誰も、その衝撃に目を覆う事は無い。
例え目に埃や砂、ゴミが入ってきても、閉じる事など許されない。
今二人の間にある戦いは、そうした争いである。
「ゴルタナ、起動ッ!!」
刃の一閃を防いだゴルタナが展開されていく。クアンタはそのまま刃を振り込もうと力を籠めるが、しかし寸前にサーニスが左掌をクアンタの顎へと突き出し、首を折ると言わんばかりに下方から振り上げ、叩きつけて吹き飛ばすも、クアンタは空中でジャージの胸元を広げた後、マジカリング・デバイスを排出。手に取ったまま空中で起動した。
「変身――っ!」
〈HENSHIN〉
マジカリング・デバイスから放出される光を待ちきれないと言わんばかりに、光に包まれながらもリュウオウを構えつつ空中を蹴り、サーニスへと迫るクアンタ。
漆黒の外装――ゴルタナの展開を終えたサーニスのレイピアと、朱色を基本色とした外装――斬心の魔法少女へと変身を遂げたクアンタの刀が合わさり、接触音が鳴り響いた瞬間、サーニスはゴルタナで隠れて誰にも見えぬにも関わらず、不敵に笑みを浮かべる。
「そうだ! 純粋に戦いを果たせる者こそ、生き残り、その先にあるモノを掴み取る価値があるッ!」
「戦いの先にあるモノを、私は理解したいっ!」
「ならばどうするッ!」
「お前に、サーニスに勝ち、生き残る――ッ!!」
「果たしてみせろッ! 自分とお前の実力は同等、それがお前の望みならば、お前自身の手で掴み取れ――ッ!!」
互いの刃を弾き合った結果、二者の手から得物が離れた。
クアンタとサーニスは得物に執着などしない。相手に得物が無ければ、ただ殴るだけであると言わんばかりに腰を捻り、互いの拳同士を合わせた。
パン――と、まるで発砲音のような弾ける音が響く。
だが中心にいるクアンタとサーニスの間には、そんな音など意味を成さない。
二者の身体は既に、勝手に動く。
思考は互いの想いを拳に乗せ、相手の拳に乗せられた想いを処理するだけの事。
「クアンタ――ッ!!」
「サーニス――ッ!!」
名を叫び、拳に力を籠め、互いの身体を吹き飛ばす。
転がる身体を起き上がらせつつ、サーニスは丁度転がった先にあったレイピアを手に取り。
クアンタは同じく転がりながらもマジカリング・デバイスを取り出して、左手首に出現させたエクステンデッド・ブーストのスロットにデバイスを挿入、指紋センサーに触れた後、アタッチメントを九十度回転させる。
〈Devicer-Extended・ON〉
「フォームチェンジッ!!」
〈Form-Change.〉
エクステンデッド・ブーストによるフォームチェンジが行われ、クアンタの装着している装備が姿を変化させていく。
サーニスとの戦いを経て高揚した肉体に合わせ、エクステンデッド・ブーストの効果で虚力とマナの結合が起こり、彼女の感情をより昂らせていくような感覚が、クアンタの口を大きく開かせた。
「私は、生きるッ! 生きて――ッ!」
そのスカート丈は伸び、リボン型のスラスターモジュールが装着されると共に、黒髪は僅かに薄い朱色を混ぜ、伸びる。
そうしてエクステンデット・フォームへと成り代わった彼女は、自身の肉体から青白い光――錬成反応を放出すると共に、自身の背後に十二刃に及ぶ刃だけを顕現、サーニスへと投擲した。
だが、サーニスにそんな小細工は通じない。それをクアンタも分かっている。そうした牽制によって、先ほど弾かれたリュウオウを広い、構える時間を作る事が真の目的だ。
飛来する刃を避け、弾き、時に掴んで投げ返しとして全てやり過ごした彼は、腰を低くしながら疾く、地面を蹴りつけた。
サーニスによる、クアンタの首元を狙って突き付けられるレイピアの一突。
クアンタもリュウオウの刃に虚力を通しながら、今まさに迫るサーニスの首を目掛けて、刃を突き付ける。
「私は、皆の願いや感情を守る……【魔法少女】でありたい――ッ!!」
互いに互いの喉を狙った刃の一突きは、しかしだからこそ、貫く事が出来ず、互いの頭部をぶつけ合うだけに留まった。
沈黙と共に、クアンタとサーニスは流れる汗を拭う事もせず、荒れる息を整えていたが。
「……そうか」
そんな中で呟かれた言葉は、クアンタの口から放たれた。
戦いの高揚と、エクステンデッド・ブーストの効果によって昂った彼女の感情が吐き出した言葉を、自分の中で反芻するように、目を見開きながら。
「私が求めていたのは、こんな単純な事だったんだな……」
「見つける事が……出来たか?」
「ああ――感謝する、サーニス」
ゴルタナの展開と、エクステンデッド・フォームの変身を解除した二者。
そんな二人は、観衆であるアメリア達に向けて歩き出すのではなく、ただ向き合って、睨み合う。
「私は、この世界に来て、感情を、自分の個を知った」
臆病者で責任感の強い、怖がりな女の子。
そうしたクアンタの個が、彼女を惑わせた。
けれど――決して、惑わせただけではなかったのだ。
「失ったゴルサという星を取り戻す事なんて出来ない。そんな事は分かってる。でも、でもこれから、失われようとする命を……一人ひとりの意思や願いを、守る事は出来る」
父の遺作を渡したくないと嘆くリンナを襲うヴァルブ・フォン・リエルティックの傲慢に怒った。
アメリア皇居で美術品の剣を割ってしまった事に焦燥した。
リンナに惚れ、彼女を抱こうとするイルメールに嫉妬した。
源の泉へと向かう道中、姫巫女達の亡骸が襲い掛かってくる光景に恐怖した。
失われたゴルサという星の結果に、自分自身が拒絶されるのではないかと、怯えた。
そして何より――この世界に来て、リンナの刀を初めて見た時に感じた、言いようのない胸の高鳴り。
それが今も、クアンタの心を、感情を、動かしている。
クアンタがこの星に、この世界に来て短い時の中で、これだけの感情と巡り合えたように、この世界にある多くの命はこれまでも、これからも多くの感情と巡り合い、喜怒哀楽を表しながら生きていく。
リンナも、シドニアも、サーニスも、ワネットも、アメリアも、アルハットも、カルファスも、そうした感情の中で、決して長いとは言えぬ人生を歩んでいく。
――クアンタは、その意思を、感情を、命を、守りたいと思えたのだ。
――サーニスとの戦いで、死にそうになりながらも、殺されそうになりながらも、思考や感情を最大限にまで研ぎ澄ませた結果として、気付いたのである。
「私は、私という個を教えてくれた人間が――感情を持つ者が好きなんだ、きっと。だから、それを一つでも多く、守る為に戦いたい。
守る為の――【魔法少女】で、あり続けたい」
――マリルリンデや刀匠・ガルラの望む世界を、許容なんて出来ない、と。
クアンタは、普段の彼女らしからぬ、目元を細め、口角を上げて、頬を赤く染めた表情で、そう言い切った。
そしてサーニスも、そんな彼女の笑顔を見て、笑みを返す。
「クアンタ、自分は……最初に会った時から、貴様が気にくわなかった」
シドニアは好んだ所だったが、彼女はあまりに人間と異なり過ぎたのだ。
感情的にならず、自分の事も含めて盤面上の駒としか見ず、ただ自分のしなければならない事をするだけの、機械的なクアンタの事を、サーニスは好ましく思っていなかった。
「だが……自分も今の斬り合いで分かった。思えば自分は、そうしたお前にかつての自分を重ねていたんだ。同族嫌悪……という奴だな」
幼い頃のサーニスは、イルメールと出会い、シドニアに見初められるまでは、自分という個が無かった。
ただ、拾ってくれた父に従い、公権力の殺害にのみ従事する機械。
闇に紛れて公権力を討つ、殺すだけの兵器。
そうした中でイルメールという強大な力を目の当たりにして、ようやく初めて、死ぬ事の恐怖を、生きる事の出来ない辛さを知った。
――何も果たす事が出来ず、ただ死んでいく事の恐ろしさを知った。
――シドニアに認められ、存在を認識して貰えた事で、初めて自分が誰かの為に戦う事に【夢】を見い出せた。
そこでようやくサーニスは、兵器から人になれたのだ。
クアンタにも、そうであって欲しいと願えるような、一人の人間に。
「ありがとう、クアンタ。お前と果たし合う事で、自分も、自分なりに心と折り合いをつける事が出来た。今のお前を、自分はとても好ましく思う。
初めて出会った時、ただの兵器でしかなかったお前が、個の感情を有して、誰かの為に、自分の為にと戦う姿は――とても輝いて見えるぞ」
「クアンタも、サーニスさんも……相手を殺す為に、戦ってない」
「二人はただ……戦いの先にあるモノを見つける為に、戦ってる」
「気付いたか、リンナ、アルハット。そォだ、オメェ等も何回かの戦いを経て、良く眼と心を鍛えた。ソレこそ、進化ッてヤツだ」
リンナはただ、二者の戦いを見据えている。
だが、これまでリンナが二人の戦いに割って入ったり、その意味を問わなかったのは、彼女が二人の戦いを見て、その意味を僅かにでも感じ取っていたからなのかもしれない。
アルハットはイルメールが呼んで、付いてきただけだ。しかしそうした先で行われていた戦いを見て、ただの喧嘩では無いと、理解できていた。
サーニスが一突き一突き、クアンタへとレイピアを振るう。
その突きを躱し、受け流し、時に腕や足に突き刺されながらも、クアンタは自身の刃を振るう毎に感じる【願い】を、少しずつ、理解し始めている。
サーニスもまた、クアンタが振るう刀の一閃一閃を受け、流し、時に肌を斬られながら、しかし彼女が心から【願う】事を感じ取る。
「クアンタは、これからどうすればいいのか、何をしたいのか、悩んでた。サーニスさんは、そうして悩むクアンタと戦う事で、クアンタの根底にある願いを、引き出そうとしてる」
拳を握り締め、リンナは戦いの行方を見届ける。
理解できぬ、戦いを経験した事のないアメリアへ、サーニスとクアンタの気持ちを、代弁するように。
「戦いは相手との語らいであると同時に、自分自身の心を映し出す鏡でもある。求めるモノが自覚できていないクアンタが生き残った先で何を求めるか――それを理解するための、戦い」
「でも……なんでだろ。サーニスさんも、戦いの先に、何かを求めてる……クアンタに願う事だけじゃなくて……自分の心と、折り合いをつけようとしてる、みたいな……」
強く、振り込まれたクアンタのリュウオウによる、上段からの一閃。
「ォオオオオオ――ッ!!」
「く――ッ!」
サーニスは回避が不可能と判断した結果、懐からゴルタナを掴み、振り下ろされる刃へと押し当てた。
衝撃が暴風となり、リンナ宅全体を襲うようだったが、アメリア以外は誰も、その衝撃に目を覆う事は無い。
例え目に埃や砂、ゴミが入ってきても、閉じる事など許されない。
今二人の間にある戦いは、そうした争いである。
「ゴルタナ、起動ッ!!」
刃の一閃を防いだゴルタナが展開されていく。クアンタはそのまま刃を振り込もうと力を籠めるが、しかし寸前にサーニスが左掌をクアンタの顎へと突き出し、首を折ると言わんばかりに下方から振り上げ、叩きつけて吹き飛ばすも、クアンタは空中でジャージの胸元を広げた後、マジカリング・デバイスを排出。手に取ったまま空中で起動した。
「変身――っ!」
〈HENSHIN〉
マジカリング・デバイスから放出される光を待ちきれないと言わんばかりに、光に包まれながらもリュウオウを構えつつ空中を蹴り、サーニスへと迫るクアンタ。
漆黒の外装――ゴルタナの展開を終えたサーニスのレイピアと、朱色を基本色とした外装――斬心の魔法少女へと変身を遂げたクアンタの刀が合わさり、接触音が鳴り響いた瞬間、サーニスはゴルタナで隠れて誰にも見えぬにも関わらず、不敵に笑みを浮かべる。
「そうだ! 純粋に戦いを果たせる者こそ、生き残り、その先にあるモノを掴み取る価値があるッ!」
「戦いの先にあるモノを、私は理解したいっ!」
「ならばどうするッ!」
「お前に、サーニスに勝ち、生き残る――ッ!!」
「果たしてみせろッ! 自分とお前の実力は同等、それがお前の望みならば、お前自身の手で掴み取れ――ッ!!」
互いの刃を弾き合った結果、二者の手から得物が離れた。
クアンタとサーニスは得物に執着などしない。相手に得物が無ければ、ただ殴るだけであると言わんばかりに腰を捻り、互いの拳同士を合わせた。
パン――と、まるで発砲音のような弾ける音が響く。
だが中心にいるクアンタとサーニスの間には、そんな音など意味を成さない。
二者の身体は既に、勝手に動く。
思考は互いの想いを拳に乗せ、相手の拳に乗せられた想いを処理するだけの事。
「クアンタ――ッ!!」
「サーニス――ッ!!」
名を叫び、拳に力を籠め、互いの身体を吹き飛ばす。
転がる身体を起き上がらせつつ、サーニスは丁度転がった先にあったレイピアを手に取り。
クアンタは同じく転がりながらもマジカリング・デバイスを取り出して、左手首に出現させたエクステンデッド・ブーストのスロットにデバイスを挿入、指紋センサーに触れた後、アタッチメントを九十度回転させる。
〈Devicer-Extended・ON〉
「フォームチェンジッ!!」
〈Form-Change.〉
エクステンデッド・ブーストによるフォームチェンジが行われ、クアンタの装着している装備が姿を変化させていく。
サーニスとの戦いを経て高揚した肉体に合わせ、エクステンデッド・ブーストの効果で虚力とマナの結合が起こり、彼女の感情をより昂らせていくような感覚が、クアンタの口を大きく開かせた。
「私は、生きるッ! 生きて――ッ!」
そのスカート丈は伸び、リボン型のスラスターモジュールが装着されると共に、黒髪は僅かに薄い朱色を混ぜ、伸びる。
そうしてエクステンデット・フォームへと成り代わった彼女は、自身の肉体から青白い光――錬成反応を放出すると共に、自身の背後に十二刃に及ぶ刃だけを顕現、サーニスへと投擲した。
だが、サーニスにそんな小細工は通じない。それをクアンタも分かっている。そうした牽制によって、先ほど弾かれたリュウオウを広い、構える時間を作る事が真の目的だ。
飛来する刃を避け、弾き、時に掴んで投げ返しとして全てやり過ごした彼は、腰を低くしながら疾く、地面を蹴りつけた。
サーニスによる、クアンタの首元を狙って突き付けられるレイピアの一突。
クアンタもリュウオウの刃に虚力を通しながら、今まさに迫るサーニスの首を目掛けて、刃を突き付ける。
「私は、皆の願いや感情を守る……【魔法少女】でありたい――ッ!!」
互いに互いの喉を狙った刃の一突きは、しかしだからこそ、貫く事が出来ず、互いの頭部をぶつけ合うだけに留まった。
沈黙と共に、クアンタとサーニスは流れる汗を拭う事もせず、荒れる息を整えていたが。
「……そうか」
そんな中で呟かれた言葉は、クアンタの口から放たれた。
戦いの高揚と、エクステンデッド・ブーストの効果によって昂った彼女の感情が吐き出した言葉を、自分の中で反芻するように、目を見開きながら。
「私が求めていたのは、こんな単純な事だったんだな……」
「見つける事が……出来たか?」
「ああ――感謝する、サーニス」
ゴルタナの展開と、エクステンデッド・フォームの変身を解除した二者。
そんな二人は、観衆であるアメリア達に向けて歩き出すのではなく、ただ向き合って、睨み合う。
「私は、この世界に来て、感情を、自分の個を知った」
臆病者で責任感の強い、怖がりな女の子。
そうしたクアンタの個が、彼女を惑わせた。
けれど――決して、惑わせただけではなかったのだ。
「失ったゴルサという星を取り戻す事なんて出来ない。そんな事は分かってる。でも、でもこれから、失われようとする命を……一人ひとりの意思や願いを、守る事は出来る」
父の遺作を渡したくないと嘆くリンナを襲うヴァルブ・フォン・リエルティックの傲慢に怒った。
アメリア皇居で美術品の剣を割ってしまった事に焦燥した。
リンナに惚れ、彼女を抱こうとするイルメールに嫉妬した。
源の泉へと向かう道中、姫巫女達の亡骸が襲い掛かってくる光景に恐怖した。
失われたゴルサという星の結果に、自分自身が拒絶されるのではないかと、怯えた。
そして何より――この世界に来て、リンナの刀を初めて見た時に感じた、言いようのない胸の高鳴り。
それが今も、クアンタの心を、感情を、動かしている。
クアンタがこの星に、この世界に来て短い時の中で、これだけの感情と巡り合えたように、この世界にある多くの命はこれまでも、これからも多くの感情と巡り合い、喜怒哀楽を表しながら生きていく。
リンナも、シドニアも、サーニスも、ワネットも、アメリアも、アルハットも、カルファスも、そうした感情の中で、決して長いとは言えぬ人生を歩んでいく。
――クアンタは、その意思を、感情を、命を、守りたいと思えたのだ。
――サーニスとの戦いで、死にそうになりながらも、殺されそうになりながらも、思考や感情を最大限にまで研ぎ澄ませた結果として、気付いたのである。
「私は、私という個を教えてくれた人間が――感情を持つ者が好きなんだ、きっと。だから、それを一つでも多く、守る為に戦いたい。
守る為の――【魔法少女】で、あり続けたい」
――マリルリンデや刀匠・ガルラの望む世界を、許容なんて出来ない、と。
クアンタは、普段の彼女らしからぬ、目元を細め、口角を上げて、頬を赤く染めた表情で、そう言い切った。
そしてサーニスも、そんな彼女の笑顔を見て、笑みを返す。
「クアンタ、自分は……最初に会った時から、貴様が気にくわなかった」
シドニアは好んだ所だったが、彼女はあまりに人間と異なり過ぎたのだ。
感情的にならず、自分の事も含めて盤面上の駒としか見ず、ただ自分のしなければならない事をするだけの、機械的なクアンタの事を、サーニスは好ましく思っていなかった。
「だが……自分も今の斬り合いで分かった。思えば自分は、そうしたお前にかつての自分を重ねていたんだ。同族嫌悪……という奴だな」
幼い頃のサーニスは、イルメールと出会い、シドニアに見初められるまでは、自分という個が無かった。
ただ、拾ってくれた父に従い、公権力の殺害にのみ従事する機械。
闇に紛れて公権力を討つ、殺すだけの兵器。
そうした中でイルメールという強大な力を目の当たりにして、ようやく初めて、死ぬ事の恐怖を、生きる事の出来ない辛さを知った。
――何も果たす事が出来ず、ただ死んでいく事の恐ろしさを知った。
――シドニアに認められ、存在を認識して貰えた事で、初めて自分が誰かの為に戦う事に【夢】を見い出せた。
そこでようやくサーニスは、兵器から人になれたのだ。
クアンタにも、そうであって欲しいと願えるような、一人の人間に。
「ありがとう、クアンタ。お前と果たし合う事で、自分も、自分なりに心と折り合いをつける事が出来た。今のお前を、自分はとても好ましく思う。
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