魔法少女の異世界刀匠生活

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第二十章

餓鬼とアルハット-06

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「じゃあ、これから神経接続を行うよ。猿ぐつわ、いる?」

「いらねェ。さっさと始めろ」


 義腕と身体の接続に関しては脳との繋がりも重要になる。故に脳が痛みを認識出来なくなる麻酔を使用できず、神経接続時の痛みは緩和する方法が無い。

  恐らく、愚母から受けた浸蝕現象並みの痛みが走る事だろうが――しかしイルメールはその痛みに耐えられるとした。

  そしてカルファスもそう信じて――今、彼女の左腕と義腕の位置を調整した後、その切断面にマナを通した。

  マナが義腕と腕の境を消していく。しかし境が無くなっていくに連れて、義腕に搭載されている擬似神経とイルメールの神経が結合されていき、その齟齬を埋めていくために、接続部分の神経が変質していく。

  変質すると同時に擬似神経が通常神経に直接触れる。そして擬似神経と通常神経が同調を始めれば、今度は擬似神経の感覚も脳へと送られるようになり――痛みはさらに増す。


 だが、イルメールはただ、唇を噛んで耐える。

  痛いと言う事は生きていると言う事だ。

 生きていると言う事は、痛みに耐える事が出来ているという事だ。

 痛みに耐えられるという事は、この痛みは大した事など無いと言う事だ。

 そんな頭の悪い意識の保ち方で、彼女はこれまでの戦いで気を失う事無く、戦い続ける事が出来たのである。


「……神経接続、完了」

「っ、……終わったか?」

「うん」


 想像より痛みはあったが、しかし耐えきる事が出来たイルメールが、椅子から立ち上がろうとする。

  だが脳が揺れるような感覚と共にガクンと足を崩し、彼女はそのまま床に寝そべった。


「無理に動いちゃダメ。自然結合よりは早く処置できるとは言え、本来自分の神経じゃない擬似神経を繋げる形なんだから、身体と脳への負担は大きいよ」

「……ちゃんと、動くか……確かめ、ねェと」

「じゃあ、ちょっと休憩。それとお話ししよ。話したら脳も動くようになって、身体を動かす為にもいいから」


 手術椅子に再び彼女を腰かけさせると、カルファスは甘いチョコレートを取り出してイルメールへ与えると、それを口に含み、問うた。


「……なぁカルファス。オメェ、敵のアジトがどこにあるか、大体予想ついてンじゃねぇか?」

「イル姉さまもどうせアタリは付けてるんでしょ?」

「……ああ、リュート山脈辺り、ッてのはな」


 アメリア領外れに位置する、開発の進んでいない地域……リュート山脈。

  広く植生が濃い一帯故に警戒する事も難しく、イルメール領との境でもあり、また他領土とも近い関係上から、イルメールはこのリュート山脈が災いの進行ルートとして使われていると以前から踏んでいたが、ここまで敵の本拠地を掴めていない関係から、恐らく進行ルートとして使っているだけではなく、拠点としても用いている事は間違いないだろう。


「既にアメちゃんが動いてて、黒子さん達をリュート山脈の捜索にあたらせてたよ。そろそろ結果も出るんじゃないかな?」

「……そのアメリアが逝ってちゃ、世話ねェよ」


  黒子は皆、遺伝子情報を操作され、生み出された子供たちである。

  彼らはヒトを超えた能力を持ち、それは戦闘能力だけではなく、時にその才能は「ヒトを惹きつける顔立ち」であったり「ヒトの心を震わせる美声」であったり、様々特出した才能を持ち得ていた者もいた。

  あくまで研究のために、そうした遺伝子情報操作を施され、生まれた彼らは、その実証が成されると同時に殺処分される予定だった。

  遺伝子操作をされた、強力な力を持つ者達。

  そうした存在が知れてしまった時の影響力も計り知れない。

  さらには、そうした者たちが野に放たれた時――自分たちより能力の低い下等な人類への、生み出された復讐をしないと、誰が保障できるだろう。


  ――そうした子供の処分を止め、世に顔や声を出さぬ黒子にする事で生を許した人物こそが、アメリアだった。


『ヒトは神ではない。じゃが、神に近付く事は出来てしまうし、その過程で大いなる発見もする事もあるじゃろう。……そしてもし、自分たちが生み出した結果があるのならば、その結果と向き合い、生まれた命に祝福するべきじゃ』


 黒子たちはそうしたアメリアによって、生きる権利を得た。

  彼らは故にアメリアへ忠誠を誓い、平伏し、彼女の命に従うとしていた筈であるのに。

  今は、その王たるアメリアがいない。

  それが彼らにとってどれだけの苦痛かは、カルファスにもイルメールにも分からない。


「聞いても無駄だと思うケドよ」

「うん。……正直さっきからずっと考えているけど、餓鬼ちゃんの能力に関しては、分からない事の方が多すぎる。正直、餓鬼ちゃんの能力が何か、って考えからアメちゃんを助け出す方法は思いつかないね」


 暗鬼の能力も、豪鬼の能力も、斬鬼の能力も、概ね理解しやすい能力ではあった。

  勿論彼らの能力も、普通の人間が使役できるような能力ではない事は確かだが、しかし能力としては分かりやすく、対処法も比較的浮かびやすい事は間違いなかった。

  だが、愚母と餓鬼の能力だけは別だ。

  彼女達の能力にはまだ謎が多く――その謎を理解できるよりも前に、アメリアが被害にあってしまったのだ。


「個人的には興味深い題材なんだよねぇ。置換能力によって炎に物質を置き換える。それも、虚力を使って燃やすとかの分かりやすい能力じゃなくて、置換なんだ。何で置換なんだろー、とか色々考えてるし、そもそも置換したモノはどこに行くんだろーとか考えたら夜しか眠れないよ」

「オメェもオメェで平気そうだな」

「平気? な訳ないじゃない。正直まだアメちゃんの死が証明できた訳じゃないから冷静だけど、確定したらイル姉さまよりも先に餓鬼ちゃん見つけ出して、今度こそ身体バラバラにしてブッ殺してやる。私だって、アメちゃんのお姉ちゃんなんだもん。それ位の権利、あるよね?」


 同じ気持ちだったか、と考えながら、イルメールがようやく落ち着いてきたと言わんばかりに息を深く吐き、立ち上がる。


「……まだ、痺れる感覚はあるが、問題なさそうだな」


 腕を動かし、指の可動域までも確かめた後、軽くその場で拳を振るう。

  拳を振るった事で一瞬室内に暴風が舞ったが、カルファスは気にせず機材を片付け始めた。


「そう言えば、アルちゃんがどこ行ったか、知らない?」

「それはむしろオレが聞きてェ。霊子端末で場所位追えねェのか?」

「普段は追えるんだけど、今アルちゃんってば霊子端末の通信遮断してるみたいでね~」

「……オメェに隠してるっつー事は、あそこじゃねェの?」

「あそこ……って、もしかして」

「源の泉。アイツ、確かパワーの奴に管理権限とかいうの譲渡されてたろ?」

「ええー、泉行くなら私も連れて行ってほしかったなぁ。あの時聴覚機能以外遮断されてたから詳細な位置データわかんないし、私だけで霊子転移出来ないんだよねぇ。……もうこの地盤ブチ抜いてやろうかなぁ」


 源の泉はカルファス・ファルム魔術学院の地底深くに存在するからこそ、カルファスならばやりかねないと思いつつ、イルメールは「学校ごと崩れ落ちても良いならやれよ」と乱雑に相対し、理事長室の扉を開けた。


「助かった。しばらくシドニアに指示を仰げ。オレは山籠もりする」

「山籠もりって――もしかしてイル姉さま、リュート山脈に行くつもり?」

「アァ。どうせココに、色々仕込ンでンだろ?」


 今まさに神経接続までを終わらせ、動かす事が出来る左腕を持ち上げると、カルファスはグッと息を詰まらせるように押し黙り、イルメールや「やっぱかよ」と笑う。


「オレの反応が消えたら、まぁそう言うこった」

「起こり得なさそうな事言わないでよ。……せめて、私も一緒に」

「豪鬼とは、一人で決着を付けたいモンでな。……それに、オメェはオメェでやらなきゃならねェ事があるンだろ?」

「……凄いな。なんでわかったの?」

「姉ちゃんだからな。妹の事は誰よりも知ってなきャならねェ義務があンだよ。……何するか知らねェケド、せめてシドニアに迷惑かけねェようにしろよ?」


 去っていくイルメールの姿を、カルファスはただ見送る事しか出来ない。


「……うん。私にしか、出来ない事があるもんね」


 霊子転移を開始。カルファスはシドニア領皇居にあるシドニアの自室へと転移して、誰もいない事を確認した後、霊子端末を彼の机に置いたのだが、するとそこに、いつの間にか現れたワネットが背後に立った事に気付く。


「……驚くからいきなり後ろに立たないでくれるぅ?」

「ふふふ。不法侵入をなされてるカルファス様がおっしゃられても説得力がありません」

「全く。ワネットちゃんに会いたくないから、黙ってコレ置いてこうと思ったのに」


 だがワネットが伝えてくれるのならば、それはそれで都合がいい。カルファスは一度霊子端末を持ち上げてそれを示した後、再びデスクへと置いた。


「霊子端末を置いて、どちらへ?」

「アメちゃんを助けに行く」


 カルファスの思わぬ言葉を聞いて、ワネットは思わず声を荒げる。


「アメリア様をお救いする方法が、あるのですか!?」

「ある……かもしれないだけなんだよねぇ、残念な事に。そんでもって、もしあるとしても危険な事には変わりないから、子機があって何度も死ねる私がやるべきってワケ」

「ならばわたくしも」

「ワネットちゃんはシドちゃんの護衛でしょ? 自分の仕事サボっちゃダメ」


 じゃあ行くね、と残して立ち去ろうとする彼女に、ワネットは声をかける。


「何故、シドニア様へお声をかけないのです?」

「んー……まぁ、必ず助けられるって保障ないしねぇ。無駄に希望持たせてダメでしたーって事になったら、絶対シドちゃん泣くよ?」

「それは、そうかもしれませんが」

「それに――黙って妹をカッコよく連れ戻してくるみたいな、カッコいいお姉ちゃんの姿を、見せてあげたいじゃない」


 同じお姉ちゃんだから分かるよね、と言いながら、指を鳴らしたカルファス。

 すると――何か空間を捻じ曲げるようにして開いた、謎の門が出現した。


  黒い靄に包まれ、その一歩先も視えぬ門。

  しかしカルファスは怯える事無く、その先に進んでいく。


「行ってらっしゃいませ――同じ姉の立場にある者として、貴女を応援いたします、カルファス様」


 ペコリと頭を下げ、給仕服のスカートを持ち上げながら、見送るワネットの視線を受け続けた。

  今、黒い門は閉じられ――先に進んだカルファスは、不意に明るくなった先の光景を見据えて、強く睨む。



「初めまして――カルファス・ヴ・リ・レアルタ。ここへヤエの助けも借りずに来れるとは、流石の俺も驚いたよ」



 突如として現れた空間で、一人優雅に紅茶を飲み、一冊の本を机に置いた男――


 成瀬伊吹が、カルファスを見て、笑った。
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