魔法少女の異世界刀匠生活

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第二十章

餓鬼とアルハット-08

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 アルハットの驚く表情と、餓鬼の狂気に塗れた表情は、同時に浮かび上がった。


「待ってパワーさん。倒すって……もしかしてこの、管理権限は」

〈ああ、そうだよ。管理権限を持つ君が見定める者、もしくは管理権限を持ち得る君を倒し得る者。それこそが、源の泉が持つ力を受けるに相応しい者、という事さ〉


 申し訳ないけれど、と表情をしかめるパワー。だが彼女はアルハットに向けて、言い放つ。


〈これは管理権限を引き受けた君への試練でもある。……こうして餓鬼ちゃんがココに来られているという事は、少なからず今後もこうした事態が起こり得る。だから、君にも泉を守る為に戦う、覚悟をしてほしいんだ〉

「泉を守る為に、戦う覚悟……」


 ヤエが餓鬼を監視するように見ている為か、餓鬼は決して今のアルハットを襲いはしない。

  だが、彼女は何時でも動ける用意は出来ていると言わんばかりに身体を動かし始め、アルハットへと殺意の視線を向ける。


〈ゴメン、アルハットちゃん。こうした事はヤエちゃんと話して、災い騒動が終った後にじっくりと教えていくつもりだった。まさか餓鬼ちゃんがここまで辿り着くなんて、思ってなかったんだよ〉

「……いいえ、気にしないで」


 驚きはしたが、確かに源の泉が持つ力というのは強大で、そのパワーを誰にも扱えるようにするわけ等行くはずもない。

  だが、力を求める者へ与える試練は常に対等にあるべきだ。善し悪しというのは何時の時代も変わりゆくものであり、唯一変わらないのは【強さ】という一点のみ。

 強き者が強き力を管理し、適切に扱う。泉の力と言うのはそういったものなのだろう。

 特にパワーは、どんな形であれ【力】という存在を愛おしむべくある神霊だ。

  故にこうして、力の泉を求める餓鬼を、否定できる筈もない。


「大丈夫。……私も、ただ守られているだけの、か弱い女であり続けるつもりはない。餓鬼を倒して、泉の力を守るわ」


 念の為、護身用として一丁の脇差は用意してある。これで餓鬼を消滅させることも視野に入れた上で、しかし無茶をせず、この戦いで生き残り彼女を撃退する事を主な目的として戦闘を行う事としたアルハット。

  武装用として扱えそうな素材は、六角ボルトを三十個、マッチ一箱、そして水銀錬成用の水銀が試験管一本分。

  そして現状、餓鬼は正常な判断能力を失っている可能性もある。故に冷静な判断は難しいだろうとして、戦闘準備を整えた。


「そっちもやる気、満々ってコトで、いいんだよね」

「ええ。何時でもいらっしゃい、餓鬼」

「分かったよ――アメリアとおんなじで、お前も炎にしてやる」


 一瞬、彼女がなにを言っているのかを理解できず、思考してしまった事が要因で。

  アルハットは、数メートルは距離が開いていた餓鬼との間を、その思考している一瞬を利用され、埋められてしまった。


「――ッ!」


 急ぎ、自身の身体に魔術強化を施して身体機能の向上を図りつつ、餓鬼の手を弾き、離脱。

  以前戦った時の感覚から、彼女の触れたモノは0.5秒程度の感覚で触れられたモノを炎に置換する性質があるようで、一瞬触れるだけであれば良いが、あまり長時間の接触は避けねばならない。

  だが触れるのを怖がるあまり、彼女の行動を逃してばかりいると、今度はこちらのペースを乱されて、触れられた上に払いのける事も出来ないと言う最悪のパターンになる可能性もある。


  ――だが今、餓鬼は何といった?


「ちょっせぇ――ッ!」


 思考と共に、餓鬼の両手にのみ集中していた結果、肩部に振りこまれる回し蹴り。それを受けるだけならばすぐに彼女から離れる事が出来る故に甘んじて受け、蹴り飛ばされながらも足で滑り、六角ボルトを取り出して空中へ投げる。

  パチンと指を鳴らした瞬間、錬成反応の青白い光に包まれたボルトは変形と推力を得て、射出された。

  餓鬼へと迫る、先端部分が鋭利な刃状に形成されたボルトを、乱雑にステップを踏みながら避けていく餓鬼。

  流石にこれまで多くの警兵隊や皇国軍人を屠ってきただけあって、目と感覚は鍛えられている。こればかりは如何に正常な判断を失っていても、これまでの経験によって身体が勝手に動く事だろう。

  現在は互いに、泉とは数メートル離れた場所に位置している。

  アルハットは泉の瘴気にあてられぬ為にと理性的にそう判断した故であるが、恐らく餓鬼は野生の勘にも近い、状況認識能力故。

 感覚で判断しているからこそ、彼女は泉へと近付かない。彼女が液体に苦手意識があるからこそ、でもあるだろうが。


「答えて、餓鬼。アメリア姉さまが、なんといった?」

「……アルハットはさぁ、ホントにアタシをナメてるよね」

「ナメてなんかいないわ。……良いから、答えて」

「そうやってさぁ……自分が殺されそうな状況なのに世間話出来るっつーコト自体が、ナメてるって事じゃん……ッ!」

「良いから答えなさいと言ったのよ……!」


 答えろ、とは言ったが、アルハットも餓鬼の言葉は、それこそ文字としては理解している。

『アメリアとおんなじで、お前も炎にしてやる』と言ったのだ。

 文字通り、この言葉を受け止めれば――理解は一つしかない。


『餓鬼がアメリアを置換能力で炎へと置き換えたのだ』と……理解はしているが、それを受け止めたくなかったのだ。


「貴女は、アメリア姉さまを、殺したの?」

「……だったら何? アルハットも、イルメールみたいにブチ切れて、アタシをボコるつもり?」

「それが事実なら、そうするに決まってるわ」

「はぁ……お前ホント、マジで……ナメ過ぎてンなァ!?」


 激高と同時に、餓鬼は全身から溢れる炎を顕現させた。

  体表面を炎へと置換した結果なのだろう。そして、今全身に燃え盛る炎を引き連れたまま、アルハットへと迫りくる。


「お前程度が、あのイルメールみたいにアタシをボコれると思ってんの!?」


 あまりの熱さに全身から吹き出た汗でさえも蒸発しそうな温度。

  そのまま熱されていれば、恐らく体内の水分でさえも燃やされ尽くされるかもしれない。

  だが、そこにアルハットは一つの、勝機を見出した。


(これなら……イケる!)


 まずは熱され続けられる事を回避する為、遠く飛び退いて彼女から距離をとった。

  だがそれだけでは不十分、水銀を保管してある試験管のコルクを外し、ドロリとした水銀が地面へと落ちる寸前、全身から放出した錬成反応によって、周囲へ壁として展開させる。

  水銀自体は沸点が低いので炎の壁としては不十分だ。だがこうした水銀を物体ではなく液体として認識し、置換能力が適応されない餓鬼を相手にする際は、アルハットに触れる事を回避する手段として優秀だ。


  ――そしてそれだけでは終わらない。


  六角ボルトを十二本を天井に向けて投擲。

  それと同時にマッチを一本乱雑に火を付け、これも投擲。


「っ、バカの一つ覚えみたいに……!」

「バカは貴女よ。――錬金術師には錬金術師なりの、戦い方があるのよ」


  宙へ浮いた、計十三本のそれらを視線で追う餓鬼の目線を確認した後、アルハットが指を鳴らすと、バチバチと錬成反応が周囲を囲い、展開される。

 餓鬼はアルハットが放っている錬成反応が全て、投げたマッチやボルトへ向けて展開されたと勘違いしているが、起こした錬成反応が行っている工程は多い。


  まずは錬成反応に触れている大気中の成分を解析・識別を行う事。

 窒素・酸素・アルゴン・二酸化炭素・ネオン・ヘリウム等と、多くの成分が存在するが、その中でもアルハットが集中して識別を行っているのは、体積比割合でいう所の0.00005%しか含まれていない【水素】である。

  解析・識別を終えた大気の中から、酸素と水素を主に凝縮を開始。酸素濃度を5%以上、水素濃度を4%以上含ませた凝縮された空気――それが、一瞬の内に形成されて、宙へ浮かんだのだ。


  そして最後に――その酸素と水素が凝縮された、一種の火薬庫とも言ってよい空気の塊を、アルハットの簡易的な魔術操作によって、動かす。

  目に見えぬ爆弾は、宙へ浮くボルトと、周囲にまとわれる炎へと落ちたマッチの火に意識を向けていた餓鬼へと向けて駆け抜けていく。


「ぶっ飛べ」

  
 凝縮された酸素と水素の塊が、餓鬼の炎――それも千数百度の熱を放出し続ける炎へと接触する事で、一瞬にして強く爆ぜた。

  急激に周囲へと放たれた爆風と共に、餓鬼の上半身が吹き飛び、肉片をまき散らす。

  爆風や飛び散る炎は身体の周りに展開していた水銀の壁で防ぎつつ、ドチャ……と音を立てて倒れる餓鬼の下半身を確認したアルハットは、それでも気を緩めない。


「まだ――っ」


  そう、まだだ。餓鬼は災い故に再生を果たす。再生までにかかる時間は損傷具合によるだろうが、しかしそれがどれ位長い時間か分からない限り、急ぐしかない。

  王服の懐に隠していた、名も無き脇差を抜き放ち、その輝きに視線を向ける事無く、アルハットは駆けた。

  倒れた餓鬼の身体へと逆手持ちした刃を突き付け、今まさにその刃が、餓鬼の胸に刺し込まれる――と、思われた寸前。


  餓鬼の残った下半身が、炎へと変貌を遂げたのだ。

  より正確に言えば、餓鬼の下半身は炎へと置換され、アルハットは全身に襲い掛かる炎を浴びて、思わず声をあげてしまう。


「あ――アアアアッ!!」


 身体に強化魔術を展開していた事も幸いして、熱によって死ぬ事は無かったが、全身を引き裂かれるような痛みが走り、地面へ転がった。


『あー……痛かった。マジで、痛かった』


 燃え盛る炎の中から、再生を終えた餓鬼がゆっくりと姿を現し、着ていた衣服が燃え、地肌を火傷によって爛れさせるアルハットを見下し、その腹を蹴りつけた。


「ぐぼ……っ」

「安心してよ、アルハット。ただ炎にして殺すなんて、味気ない事しないから。イルメールにボッコボコにされた恨み、お前をボコる事で晴らすもんね――ッ!」


 アルハットの顔面を強く、餓鬼が踏みつける。グギ、と鼻の骨が折れる様な感覚、さらに溢れ出る鼻血が口内に入り気持ち悪かったが、すぐに身体全体に走る火傷の痛みにより、気持ち悪さ等は吹き飛んだ。


「ア、ハハハァッ!! 泣けよッ、喚けよッ!!」


 胸を、脇腹を蹴りつけ、痛みに悶えるアルハットの姿を見て、餓鬼は狂気の笑みをより強めていく。

  散々手こずらされた皇族の一人を、自分の力で追いつけることが出来ている快感。

  これまで彼女の姉二人に痛めつけられた苦しみを、彼女達が大切にしている妹に与える事が出来ると言う優越感。

  それらが今の餓鬼を、より増長させていく。

 だがまだ足りない、彼女をより大きく絶望させ、その上で殺さなければ気は晴れないと――そんな時に彼女が見据えたのは、アルハットが大切そうに握る脇差である。


「……へぇ」
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