魔法少女の異世界刀匠生活

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第二十四章

愛-01

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 斬心の魔法少女・クアンタがリュート山脈の山道を駆ける中、幾度か山全体を揺らすような振動が起こった事は、彼女自身認識をしていた。

  恐らくイルメールと豪鬼の戦闘によるものだと感じていたが、しかし自分の仕事に集中すべきと考えていたその時、開かれた広場のような場所へと出て、その中心地に小さな家屋を発見した。

  既に長年使われていなさそうな家屋は先ほどまでにあった幾度かの振動で僅かにギシギシと音を立てており、とてもそこが敵のアジトには見えなかったが――しかし、クアンタは二つの理由を以て、そこをアジトと確信した。

  まず一点、家屋の中――というよりはその地下から、クアンタでも感じ取れる虚力を識別した事。そしてその虚力は、今のクアンタが有する虚力の半分を占める、愚母から奪い取った虚力と同様の波動を感じ取った為である。


  もう一点は――家屋を守るように、幾十体の名無しの災いが、周囲を警戒しているからに他ならない。


  現在クアンタは木々の影に隠れるようにして見つからぬようにしているが、アジトが家屋の中にあるという事ならば、突破せずに侵入する事は難しいし、もし愚母との戦闘中に乱入でもされれば、面倒になる事は間違いない。

  クアンタは腰に携えた二本の刀――打刀【リュウセイ】と脇差【ホウキボシ】の二本へ手を伸ばし、その柄を握り締めた。


「準備運動と行くか」


 識別できる数は二十四体、その程度ならば今のクアンタで特に問題はない。

  木々の影から身体を出して、災いの群衆に突撃するように駆け出すクアンタ。

  そんな彼女の存在にいち早く気付いた数体が、他との連携を考えぬ、愚直な突撃によってクアンタと肉薄する。

  だが、幾度となく強敵と渡り合ってきたクアンタにとって、武器も持たず成長もしない、思考の伴わない名無しを相手にする程度は造作も無い。

  振り回される、漆黒の両腕を避けながら、すれ違いざまに引き抜いたホウキボシの短い刃で脇腹を切り裂き、消滅させつつ、近くへとやってきていたもう一体に、今度はリュウセイを引き抜いた上で下段から上段への振り上げで切り裂き、消滅させる。


  そうして残る二十二体の名無しが一斉にクアンタへ襲い掛かる光景を目にすると、彼女は一度両刀を鞘へ納めた後、左手首を軽く振る。

  瞬間、浮かびあがるようにして出現した、ブレスレットタイプのデバイス。

  右手で持ったマジカリング・デバイスをブレスレットにある挿入口へ差し込み、指紋センサーで起動しながら、アタッチメントを九十度回転させた。


〈Devicer-Extended・ON〉


 放たれる機械音声、クアンタは両腕を広げながら、音声コマンドを入力。


「フォームチェンジッ」

〈Form-Change.〉


 展開されている戦闘フォームの姿が、徐々に変化されていく。展開されているフォームのスカートをより長く変化させ、それに加えて背中にはリボン型のスラスターユニットが増設され、更に彼女の髪は伸び、色は元々の黒髪の内側に赤を加えたツートンのインナーカラーに染め上がり、より彼女を彩った。

  フォームチェンジを終えると同時に、複数同時に襲い掛かる名無しの群れ。

  しかしクアンタは冷静に、全身よりエネルギーを一気に噴出し、それによって名無しの幾体は拡散されていき消滅、消滅しなかった数体も身体を吹き飛ばされ、彼女――斬心の魔法少女・クアンタ-エクステンデッド・フォームとの距離が開く。

  残りの数は十七体。この程度の名無しを相手にするだけならば、彼女が直接動く理由はない。

  全身より放出される、青白い錬成反応と共に、クアンタの肉体が僅かに縮小化される。

  彼女の肉体を一部用いて行われる錬成により、計十七本の刃が空中に顕現し、それぞれが独立して動き出すと、目標へ切先を向けた。


「行け」


 まるで刃そのものに推進力があるかのように、瞬発的に空中を駆け出していく。

  射出された刃は基本直線的ではあるものの、それらが動く事によって九体あまりは何もアクションを起こす事が出来ず、刃に貫かれて消滅していくが、残る八体はそれぞれが刃を避けていく。

  しかし刃は地面などに当たる事で自動的に避けた敵を追尾するように軌道を変え、再び空中を駆けていく。

  結果として残る八体も急に軌道を変える刃の動きに対応する事が出来ず、全てが胸を貫かれる事で消滅。

  刃たちはクアンタの周囲を囲むようにしていたが、再びクアンタが錬成反応を放出すると一つの塊となり、クアンタの手に収まると彼女の肉体へと沈んでいき、僅かに縮小化していたクアンタの身体が元に戻る。


「よし、問題無い。行ける」


 以前手にした、泉の原液を結晶化である【神秘の翡翠】によって、クアンタの体内には高純度のマナが溢れ、さらには高純度のマナとクアンタが展開した【エクステンデッド・ブースト】による拡張機能が、クアンタの錬成回路に大きく負担をかける事無く錬金術の演算を行ってくれる上、虚力とマナを混合させる事により、少ない虚力で効果を増幅させる効果を十分に発揮できるようになっている。

  愚母の固有能力には、まだ不透明な部分が多い。故に攻守共に真価を発揮できるエクステンデッド・フォームがしっかりと機能するかどうかを図ったが、問題はなさそうだ。


 敵がいない事を確認しつつ、家屋内へと繋がる扉を開く。先ほどの振動のせいか元々なのか、立て付けが悪い扉を強引に開ける。

  生活感はほとんどない、シンプルな机と椅子が幾つか用意され、ベッドが二つほどあるシンプルな家宅、という印象だ。しかしあまりに生活感が無く、辺りを見ていると、家宅の奥……元々書斎でもあったのか、本棚が多くある部屋に、幾つか埃を踏んだ足跡を発見した。

 中でも、足跡が途中で途切れている場所があった。階段などの縁に足を乗せた場合こうなると観察したクアンタが、もしやと感じて床に手を触れると、僅かに隙間がある事を認識。


「ここか」


 見た所、扉を開ける取っ手のようなものは見当たらない。恐らくマリルリンデ辺りが展開した魔術的な結界を構築している可能性があると仮定し、となると侵入防止用のトラップ等も展開されている可能性もある。

  しかし、罠を怖がり時間を多く取る事は避けたい。クアンタは覚悟を決め、トラップがあった場合の防御用に、多く虚力とマナを展開し、ついでに拳へマナを投じ、少し学んだだけの【強化】魔術を使用。

  強く振り込んだ拳、数トン程のパンチ力を以て破られた扉がメキメキと音を立て、クアンタを地下へ続く階段へ落とす。

  どうやら罠は無かったようだ。舞い上がった埃を気にする事無く、クアンタは着地した階段をゆっくりと降りていき――そして、広々とした部屋に辿り着いた。

  大広間、と言えば良いだろうか。部屋の中央に長机が配置され、幾つかの椅子があるだけの構図は先ほどの家宅と同様だが、広さ以外にもう一つ、先ほどの部屋とは異なる所があった。


「ようこそ、クアンタちゃん」


 出入口にある階段から最も遠い、上座と言うべき椅子に腰かける、一人の女性。

  足元まで伸びる長く、真っすぐな黒髪と、女性の身にまとわれる黒い衣服と、そのぽっこりと膨らんだ妊婦のようなお腹が印象強い、母性的な美貌を表現する者。


  ――マリルリンデと共に、五災刃を率いる災いであり、母体・愚母。


  彼女は優雅に腰かけながらクアンタへ声をかけた後、薬指に指輪がはめられた左手を口元へ持っていき、クアンタを見据えて微笑んだ。


「貴女とお会いするのは、二度目ですわね」

「ああ。ルワン・トレーシーの一件で、貴様が重犯罪者収容施設へと訪れた時だけだ」

「ふふ、ごめんなさいね。わたくしは母体という存在であるからして、基本的には巣であるこのアジトから離れずに、名無しの子供たちを産む事に集中しているの。……一度、ヘンシンを解いて、おかけになって頂戴」


  愚母は長机を挟んで反対側にある椅子へ手を向けて、クアンタへ変身解除と着席を求めるが、彼女は首を横に振る。


「断る。敵に促される行為等、利点が見当たらない」

「では、対等な立場でお話をするという意味合いを込めて、二つ貴女に先んじてお話をしてあげましょう」


 一つ、と指を立てた愚母。クアンタは戦闘に移る姿勢だけは崩さずに、しかし彼女の言葉を聞く事にする。


「まずは一つ目なのだけれど、わたくしは貴女と交渉をしたいと思っているわ」

「交渉」

「ええ。……マリルリンデ様から伺っております。貴女は彼と同じく、フォーリナーという外来種である、と」


 外来種、という言い方は気になったが、しかしクアンタは頷き、彼女は続ける。


「そして貴女はこの星に来る事で『責任感が強い臆病者の女の子』という自我を有した、ともね。そんな貴女に、わたくしなりの……五災刃なりの譲歩をしたいと思うの」

「……二つ目は」

「ふふ、品の良いレディは慌てない事よ」


 二つ目、と先ほど立てた人差し指に続けて、中指も立てる愚母は、微笑みを崩す事なく、その視線をクアンタの唇へと向ける。


「貴女はわたくしから虚力を奪っている。わたくしの唇と、貴女の唇を重ね合わせてね。アレ、とっても恥ずかしかったの。その代金として、お話しを聞いてくれる位は良いのではなくて?」


 二つ目を聞いて損をした、と言わんばかりにため息をつきながら、クアンタは一度、変身を解除。

 黒を基本色としたジャージになったクアンタは、椅子を引いて腰かけ、しかしいつでも変身が出来るように、マジカリング・デバイスは手元に置く。


「譲歩、とは何だ?」

「その前に、以前イルメールちゃんに『理想を語らずに他者へ理解しろとというのはどうか』と言われてしまったから、まずはわたくしの理想とする世界を、語らせて頂戴」


 目を細め、愚母の言葉に聴覚機能を傾けるクアンタ。

  愚母はクスクスと笑いながらも、しかしそうした真面目な彼女を愛でる様な視線を向け、口を開く。


「わたくしの理想とする世界は、人類を淘汰した後に、わたくしたち災いが人類に代わり、世界を統べるというものよ」

「単純な理想だな」

「ええ。でも物事は単純な方が分かりやすく、また楽しいでしょう?」

「楽しい? どこかだ。貴様の理想とする世界は、貴様にとっては理想郷だとしても、人類からしてみれば終末だ」

「ええ。――でも、何故貴女が人類の事を慮る必要があるのかしら? 人間ではない、貴女が」


 愚母はそもそも、この星に元々住まう者ではないフォーリナー……クアンタやマリルリンデという存在が、今回の件に介入している事自体がイレギュラーであると言う。


「マリルリンデ様は、人類への怒りと言う確かな意思があり、我々の同胞となり得ましたわ。しかし、貴女は違う。……貴女は何故、わたくし達に敵対するのかしら?」

「私は、私に【個】という存在を教えてくれた、感情を持つ人間を好ましいと考えている。故に、私は人間の虚力を奪い、感情や意思を剥奪する貴様たち災いの暴虐を、許すわけにはいかない」

「そう――子供ね、クアンタちゃん」
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