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第八章

城坂織姫・楠 VS 天城幸恵 にて-01

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 オレたち三人はそれぞれの機体へと向かう。

  楠がサイドシートにかけ、オレもメインシートで操縦桿を握りしめる。

 一瞬手に走る、痺れる様な感覚。生体認証システムによって雷神が起動を開始し、楠が各部チェックを行いつつ、エンジンを始動させた。


「ハッチ閉鎖、モード調整省略、マッスルパッケージリンク。――イケるな」

「はい、出撃可能です」


 雷神を稼働させ、訓練グラウンドの中央で既に待ち構えている天城先輩の秋風より、十五メートルほど距離を置く。

  天城先輩は相変わらず高速戦パックである。正直彼女の場合はどのパックを用いても性能を万全に引き出してくるから、基礎能力値が高い高速戦パックだと非常に戦い辛い事は、島根戦を見れば明らかだろうし、そもそも俺は一回敗北している。

  油断ができる相手では無い。


「楠」

「何でしょう」

「生徒会メンバーに天城先輩を入れてなくて、後悔するな」

「……そうですね。彼女の技能は、あの女と同様、余所に持っていかれる事が惜しくはあります。雷神プロジェクトに居れば、どれほど心強いか」


 しかし、負けるわけにはいかない。


『ではこれより、城坂織姫・秋沢楠、両名による雷神と、

 天城幸恵による秋風・高速戦パックの、試合を開始します!

  
  試合、開始!!』
  

  雷神と秋風は、コールと共に脚部キャタピラーを稼働させ、それぞれの左方向へ機体をひねり込ませながら、互いに距離を取る。

  秋風は60㎜突撃機銃――アサルトライフルを構え、短く銃弾を三発ほど放つ。

 機体は高速で移動をしているので本来は着弾コースにはないが、銃口の動きとロックオン情報が無い事から、ロックオンを用いた射撃ではない。


  ――つまり、こちらの動きを予測した上で、ロックオン無しに自前のセンスのみを用いた射撃だ!


  トリプルD稼働で宙へ舞い、暴風で弾丸のコースを若干乱す。結果、確かに雷神へと向かって放たれた銃弾が僅かに逸れ、着弾は免れる。


「城坂さん!」

「おう!」


 長引けばこちらが不利になる。上空へと舞い上がった機体を制御しながら秋風より僅か五メートルの位置に着地すると同時に、機体を一度左方向に転回しつつフェイントをかけ、一気に右方向へ回り込む。

  背部スラスターを吹かしながら右脚部を振り込んで蹴りつけるが――しかし動きは見抜かれており、左腕で蹴りを受け止めたばかりか、右手で掴むアサルトライフルの銃口を、コックピットに押し付けてくる!


「ッ!」


 楠が緊急駆動で雷神の左腕を使って秋風の右腕を上方へ向かせ、銃弾は空へ放たれた。

  けれど、天城先輩はまるで一連の流れすらわかっていたかの様に、両者が僅かに得た時間を使って、雷神の用いる電磁誘導装置の磁場を解析・反する磁場を放って、雷神を吹き飛ばす。


「っぅ、!」

「こなくそっ!!」


 更には吹き飛ばした雷神の着地点すら見計らい、既に銃弾は放たれていた。

 後で哨を怒らせる事覚悟でスラスターに負荷をかけると同時に両腕を真横に振る事での姿勢制御運動が功を期して、銃弾は一発の着弾のみだった。

  正直、荒っぽい操縦のリントヴルムや島根とは正反対の理屈をとことんまで突き詰めた理詰めの行動が、どれだけ俺を苦しめているか。


「あの人ホントに人間ですか!?」

「正直潜在能力だけならリントヴルムと島根並みだな……っ!」

『私は過去、能力のある先輩や若い子をいっぱい見てきた。けれどみんな感覚に頼って、ADを動かす甘ちゃんばかり。のどかちゃんもそうだし、何だったら久世くんもそうかな。


  ADは機械。そして自分のもう一つの体であり、敵を倒す兵器。

  本来の肉体は脳から伝わる電気信号を元に筋肉が動いてくれるけど、ADはそうじゃない。

  もう一人の自分を的確に動かす為に、何より必要なのは基礎。

  操縦桿をこう動かせばこう稼働する、そうした一連の動きを愚直に追い求めるからこそ、応用は生まれる。

  姫ちゃんも楠ちゃんも強い事は認めるけれど、どの様な状況においても確実に作用する兵器システムを運用するには、まだまだお子ちゃまなの』


  言ってくれるが、確かに彼女の言う通りかもしれない。

  ADは兵器だ。そして兵器というモノに何より必要な要素は『確実に作用する安定性』だ。


  昔ダディが言っていた。――最前線で正確無比に稼働するシステムが、兵器システムというモノだ、と。


  それが確立されているから、戦場でADというモノは実力を発揮できている、と。

  天城先輩はこの体現だ。

  如何なる状況であろうと、最小の動きで最大の作用をする効率を求めたが故に、基礎を極めた。


「――ならオレは、そんなアンタにも勝たなきゃならない」

『何ですって?』

「オレや楠、そしてこの雷神は、こうして武器も持たない『兵器足りえない兵器』だ。戦場で武器を持たずに誰かを守れる力として作られた。

 だからこそ――兵器システムの体現であるアンタを倒せば、この兵器の存在意義が証明できるって事さ」


 そうだ。雷神プロジェクトは、本来あるべき高性能兵器としてではなく、兵器足りえない兵器を運用し、平和へと至るべく作られた。


  こんなの、夢物語だ。実現できるわけがない。


  けれど……実現できないと唾を吐き、敵を殺して『これが平和だ』と豪語する大人には、確かになりたくはない。


「オレはアンタに勝って、雷神プロジェクトを体現する。そうすれば、ひょっとすれば、ホントにこの夢物語を、勝ち取る事が出来るかもしれない」

『雷神プロジェクトって?』

「いつの日か――戦争のない世界を作るって、夢物語さ」


 ただ、全力でスラスターを吹かす。暴風は雷神の機体全体を覆い、地面の砂は舞い上がって、砂塵は視界を殺した。


「オレ達は、その為のケモノとなる」
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