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幕間-02
かつての出来事-02
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「私は、城坂修一と申します。本日から就業、またこの部署でお世話になります」
「ん、ああ。お前も新入社員なんか」
「……お前も、とは」
「俺も新入社員よ。宜しくな城坂」
「……先輩かと思いましたが、同僚だったのですか」
溜息を一つ。そして換気扇の強度を上げた上で、彰の対面へと腰かけた。
「お前幾つよ」
「十八です」
「おお、同い年か」
「……ちょっと待ってください。という事はあなた、未成年じゃないですか!」
「堅い事いうなって。オラァ、システム構築してるときにタバコ吸うのが何より好きなんよ」
「今はしてません!」
「それよりお前、同い年なんだし敬語止めようぜ。同僚だってんなら尚更、敬語使う理由は無いさね」
「……では、そうさせてもらう」
「んで、聞いたか城坂。この部署俺とお前しかいないみてぇだぞ」
「は――なんだと!?」
「こりゃぜってぇ俺らのクビ飛ばす気満々だぜ。お互い気の毒になァ」
「税金対策の窓際部署を!?」
「そりゃオメェただの窓際族にするだけならパワードスーツ流用案の部署なんて金かかる部署にしねぇよ。せいぜいはした金程度で留める為に、新人二人にプロジェクト任せてさっさと解体するつもりだなぁ、こりゃ」
開発プロジェクトは、チームの不手際により進まなかったと世に納得させた上で、責任を新人二人に押し付けてクビを切り、部署を無くす。
正規雇用就労規程の改訂によって、現在は正社員のクビを切りやすい世の中だ。実績を作れなかった新入社員を切った所で、高田重工は痛くもない。
――なるほど確かに、それならば短期間の税金対策も行えるし、おまけに大義名分も得られる。落ち目の高田重工らしいと納得した所で、修一は落ち着きを無くしたように彰へ怒鳴りつけた。
「それが分かっていながら、なぜそれほど冷静なんだ! 少なくとも君も生活が懸かっているだろうに!」
「あー、そうさなぁ。じゃあ――適当に実績作って予算割らせて、部署が潰れない程度には頑張りますかね」
彼は、一応持っていたカバンの中から一つのタブレット端末を取り出した。少しばかり古い機種に見えたが、よく観察してみると改造の跡がある。
「これは」
「こないだ余ったパーツで自作してみた。どうよ」
「少しばかりパーツの組み合わせが歪すぎる。これでは排熱板の性能が生かされないと思うが」
「おお、お前は機械工学に精通してんだな。後でいろいろ教えてくれ――と、本題はそこじゃねぇ」
彼はタブレットを起動すると、端末内部に保存が成されていた資料のデータを読み込んだ。
「……これは、JPES-011Wか」
「そ。ウチが開発した新型パワードスーツ。コイツの資料を拝借してきた」
「でかした」
修一は、まずその資料を熟読した。この資料は世に出回っておらず、会社に勤務して最初の仕事は、この資料をかき集める事だと思っていたのだ。それが、この男によって既に成されていた。
「まず電子筋肉繊維に関しては油圧式と電圧式のハイブリットか。フレームに負担がかかる場合は油圧式に、通常時は電圧式と言う使い分けができる点は大きいな」
「その上でスラスターは一パワードスーツにやるにゃあデカすぎるし多すぎると思うね。ここで駆動系のパワーを多く持ってかれてるじゃねぇか」
「宇宙探査を行う事を目的に開発されたパワードスーツならば仕方ない。そこはジェットエンジンを開発している高田重工ならではだな」
「軍用って事は、基本的に大気圏内での活動目的だよな」
「未だに人類は宇宙空間での生活を強いられてはいないからな。宇宙仕様にする必要が無い」
「だったら陸戦兵器用にスラスターは最小限でいいはずだろ。と言うかそもそも、この重量だと自立は困難だ。そこをJPESに拒否られたんだろコイツ」
「そうだな。そこがまず改善点だ」
駆動系および重量の改善点をメモに残した修一に続いて、今度は彰が最初の言葉を放った。
「装甲強度はこのまま残したい所だが、しかしパワードスーツと言うには身体全体を覆い過ぎやしねぇかな」
「どっちかと言うと、ロボットに似ているな」
「どうする、骨格だけ残して低予算化する事もできるっちゃあ出来るが」
「それも視野に入れよう。だが軍用兵器としてどの程度のものを指すかによって、その結論は変わるだろう」
「どの程度っつーのは」
「前線で敵を叩く役割なのか、それとも後方での支援を目的とするか、の二つだな。前者ならば今の装甲強度を保つ全身を覆う形の方がいいだろう。後者ならばオミットだ」
「今世に出回ってるパワードスーツは?」
「後者が多い。前者に関しては研究途上だ」
「なら前者だな。今出回ってるもんと同じにしてたら買い手やスポンサー付かなくて、それこそ俺らのクビが飛ぶ」
「良し、とりあえずここはオミット無しの方向だな」
段々と、方向性が定まってきた事を確認すると、修一は紙とペンを取り出した。
「前線での活躍を目的としたパワードスーツ案。基本的な外格・骨格は残すとして、武装を持って敵に威圧感を与えるパワードスーツだな」
「となると問題は」
「ああ。やはり――駆動系および重量だ」
駆動系のスラスターモジュールは大きく分けて二つ。
頭部、胸部、臀部に搭載された姿勢制御用小型スラスター。
腕部、脚部、背部に搭載された大型スラスターモジュール。
その内幾つをオミットし、幾つを残すか。
「ん、ああ。お前も新入社員なんか」
「……お前も、とは」
「俺も新入社員よ。宜しくな城坂」
「……先輩かと思いましたが、同僚だったのですか」
溜息を一つ。そして換気扇の強度を上げた上で、彰の対面へと腰かけた。
「お前幾つよ」
「十八です」
「おお、同い年か」
「……ちょっと待ってください。という事はあなた、未成年じゃないですか!」
「堅い事いうなって。オラァ、システム構築してるときにタバコ吸うのが何より好きなんよ」
「今はしてません!」
「それよりお前、同い年なんだし敬語止めようぜ。同僚だってんなら尚更、敬語使う理由は無いさね」
「……では、そうさせてもらう」
「んで、聞いたか城坂。この部署俺とお前しかいないみてぇだぞ」
「は――なんだと!?」
「こりゃぜってぇ俺らのクビ飛ばす気満々だぜ。お互い気の毒になァ」
「税金対策の窓際部署を!?」
「そりゃオメェただの窓際族にするだけならパワードスーツ流用案の部署なんて金かかる部署にしねぇよ。せいぜいはした金程度で留める為に、新人二人にプロジェクト任せてさっさと解体するつもりだなぁ、こりゃ」
開発プロジェクトは、チームの不手際により進まなかったと世に納得させた上で、責任を新人二人に押し付けてクビを切り、部署を無くす。
正規雇用就労規程の改訂によって、現在は正社員のクビを切りやすい世の中だ。実績を作れなかった新入社員を切った所で、高田重工は痛くもない。
――なるほど確かに、それならば短期間の税金対策も行えるし、おまけに大義名分も得られる。落ち目の高田重工らしいと納得した所で、修一は落ち着きを無くしたように彰へ怒鳴りつけた。
「それが分かっていながら、なぜそれほど冷静なんだ! 少なくとも君も生活が懸かっているだろうに!」
「あー、そうさなぁ。じゃあ――適当に実績作って予算割らせて、部署が潰れない程度には頑張りますかね」
彼は、一応持っていたカバンの中から一つのタブレット端末を取り出した。少しばかり古い機種に見えたが、よく観察してみると改造の跡がある。
「これは」
「こないだ余ったパーツで自作してみた。どうよ」
「少しばかりパーツの組み合わせが歪すぎる。これでは排熱板の性能が生かされないと思うが」
「おお、お前は機械工学に精通してんだな。後でいろいろ教えてくれ――と、本題はそこじゃねぇ」
彼はタブレットを起動すると、端末内部に保存が成されていた資料のデータを読み込んだ。
「……これは、JPES-011Wか」
「そ。ウチが開発した新型パワードスーツ。コイツの資料を拝借してきた」
「でかした」
修一は、まずその資料を熟読した。この資料は世に出回っておらず、会社に勤務して最初の仕事は、この資料をかき集める事だと思っていたのだ。それが、この男によって既に成されていた。
「まず電子筋肉繊維に関しては油圧式と電圧式のハイブリットか。フレームに負担がかかる場合は油圧式に、通常時は電圧式と言う使い分けができる点は大きいな」
「その上でスラスターは一パワードスーツにやるにゃあデカすぎるし多すぎると思うね。ここで駆動系のパワーを多く持ってかれてるじゃねぇか」
「宇宙探査を行う事を目的に開発されたパワードスーツならば仕方ない。そこはジェットエンジンを開発している高田重工ならではだな」
「軍用って事は、基本的に大気圏内での活動目的だよな」
「未だに人類は宇宙空間での生活を強いられてはいないからな。宇宙仕様にする必要が無い」
「だったら陸戦兵器用にスラスターは最小限でいいはずだろ。と言うかそもそも、この重量だと自立は困難だ。そこをJPESに拒否られたんだろコイツ」
「そうだな。そこがまず改善点だ」
駆動系および重量の改善点をメモに残した修一に続いて、今度は彰が最初の言葉を放った。
「装甲強度はこのまま残したい所だが、しかしパワードスーツと言うには身体全体を覆い過ぎやしねぇかな」
「どっちかと言うと、ロボットに似ているな」
「どうする、骨格だけ残して低予算化する事もできるっちゃあ出来るが」
「それも視野に入れよう。だが軍用兵器としてどの程度のものを指すかによって、その結論は変わるだろう」
「どの程度っつーのは」
「前線で敵を叩く役割なのか、それとも後方での支援を目的とするか、の二つだな。前者ならば今の装甲強度を保つ全身を覆う形の方がいいだろう。後者ならばオミットだ」
「今世に出回ってるパワードスーツは?」
「後者が多い。前者に関しては研究途上だ」
「なら前者だな。今出回ってるもんと同じにしてたら買い手やスポンサー付かなくて、それこそ俺らのクビが飛ぶ」
「良し、とりあえずここはオミット無しの方向だな」
段々と、方向性が定まってきた事を確認すると、修一は紙とペンを取り出した。
「前線での活躍を目的としたパワードスーツ案。基本的な外格・骨格は残すとして、武装を持って敵に威圧感を与えるパワードスーツだな」
「となると問題は」
「ああ。やはり――駆動系および重量だ」
駆動系のスラスターモジュールは大きく分けて二つ。
頭部、胸部、臀部に搭載された姿勢制御用小型スラスター。
腕部、脚部、背部に搭載された大型スラスターモジュール。
その内幾つをオミットし、幾つを残すか。
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