私たちの試作機は最弱です

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幕間-02

かつての出来事-05

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 日米合同訓練が始まる。

  横須賀基地の在日米軍と日本自衛隊の隊員達は、巨大ロボットを前にして、興奮を隠せぬように群がっていた。


「日本スゲェ!?」

「ついにガ○ダム開発したのか!?」

「日本イッちゃってるよ。あいつ等未来に生きてんな」

「流石日本。俺たちに出来ない事を平然とやってのける。そこに痺れないし憧れもしない」


 反応は様々だが、やはり嘲笑に近いものである事に変わりは無かった。試み自体は面白くあっても、現場で命を預けられるものでは無い、という意見が多い。

 そして何より演習が始まると――何しろ十メートル弱の機体だからこそ、戦車より放たれる模擬弾頭一発でよろけ、そのまま後方へ転んだ。起き上がる事も出来ず、演習が終了するまでそのままだった。

  なお倒れる事を想定していた指揮官の命令で、半径二十メートル付近まで誰もおらず、幸いにもけが人は出なかった。


「……ま、そうなるか」


 現地観戦を行っていた彰が呟き、彼の隣で観ていた修一も頭を抱えた。巨体故に【的扱い】を想定していても、一発で終わるとは考えていなかったのだ。


 **

  
「えー、試みは良いかと思いますが、何より重量によって動きが鈍重になること自体が、まずは課題でしょう」

「大きければ大きい程、現状では誘導弾頭による狙い撃ちが激しくなるでしょう。どうせロボット型にするのならば、戦闘機のような曲面デザインにするべきでは?」

「後はステルス問題もありますね。あれでは如何にセンサーの阻害を行っていても、目視でいくらでも認識できてしまいます」


 現地隊員による意見会も散々な結果である事も忘れてはならない。修一は「いちいち言われなくても分かってる」と心の中で思いつつも、大切な意見だと全てをメモする。その間、彰は喫煙所でタバコを吸っていた。
  

  **

  
「概ねこんな所だな」


 日米合同訓練の後、製作記録に今日一日分の恥を書き連ねた修一。本当に一年分の努力が無駄になった気はしていたが、妙な達成感だけはあった。


「お。トイッターの反応、上々だぞ」

「何」


 そこで彰がタブレット端末を修一に差し出し、開発部の名前で開設されていたトイッターアカウントの書き込みを見せた。


『やっぱあんなのじゃダメですよねwwww』


「草生やすなッ!」

「いやぁフランクな方がいいかなぁ、と」

「……で、反応は?」

「えー。『変態だなこいつ等』、『そもそも人型にする理由なくね?』、『マジでガ○ダム作るとは思わんくて草』、『自衛隊員に死ねって言ってんの?』……こんな所か」

「うむ……最後の意見だけは取り組まなければならないな。自衛隊が使用するかはともかくとして、安全配慮の出来ていない兵器など使う理由は無い」

「しかし――元祖のコックピット、あれどうなってんだ?」


 彰が、そこで真面目なトーンで話題を変えたので、修一が彼を見る。


「どう、とは?」

「いや、金森曹長に衝撃位は行ってんのかなぁ、と思ってたんだが、思いの他平気そうでびっくりしたんだ」

「ああ、当然の結果だ。今回コックピット回りの装甲強度は、下手すれば戦車より強固だからな。例え戦車砲の一撃が実弾だったとしても、コックピットを貫通させる事は出来なかっただろう」

「スゲェ事言ってねぇか?」

「そうか? 現状の口径では貫けないだけで」

「いや、安全性だけ見れば強度がどんな兵器よりも優れてるって事じゃねぇか。そりゃ鈍重にもならぁな」


 と、そんな話をしている所で。

  AD開発部署のドアをノックする音が聞こえた。


「? どうぞ」


 来室の予定もなかったものだから、誰が来たのかもわからず、ただ返事を返した修一。

  しかし、来賓は彼らが思うよりも、驚くべき人物が立っていた。


「失礼する」


 初老の男性ではあった。しかしスッと伸びた背筋と、何より鍛え抜かれた筋肉が全身を包んでいて、その上に着込まれているスーツによって、より屈強な印象を強く持たされている。


「貴方は――!」

「突然失礼した。あのADという兵器システムを開発している部署と聞いてやってきたのだが」

「ひとまずお掛け下さい」


 慌てるように修一がパイプ椅子を一つ差し出した。


「――碌な場所では無いな」

「申し訳ございません。我々が使用できる環境がこの程度で御座いまして」

「いや、けなしているのではない。褒めているのだ。良くこの環境で、あの兵器を完成までこぎつけた、と」

「はぁ……?」

「申し遅れた。私は防衛装備庁長官、遠藤勉だ」

「はい、存じております。ですから、驚いているのです」


 そう、修一は老人の事を知っていた。しかし彰は違っていたようだ。


「なぁ修一、防衛装備庁って省庁の一つ?」

「はは。まぁ一般人にはその程度の認識だろうな」

「バカ、お前はその防衛装備品を扱う会社の一員だろうが!」

「防衛装備庁は簡単に言うと防衛省の外局で、装備品等の開発や、生産基盤の強化を図りつつ、研究開発や調達、補給や管理の適正かつ効率的な遂行を行う組織だ」

「あー、つまりは自衛隊とかで使う装備品を整えるのが仕事、的な?」

「そうだね、そう考えて貰えれば早いだろう」


  彰へ簡単な講義を行った勉は、少し目つきを変えて「さて」と本題に移る。


「本日の日米合同訓練は見させて頂いた。防衛装備庁も通さずあれだけの無茶をやらかした事を、まずは説明願おうか」

「あれ、各省庁に願い出たって言ってなかったか、修一」

「正確には各省庁へ願い出る様に上層部へ話を通しておいた、というだけだ。……もしや」

「高田重工は本当に変わったな。昔は許可申請一つ取っても少々面倒な部分も多かったのだが、今やそんな余裕も無いという事かね」


 つまり、上層部が防衛装備庁や他の関係省庁への願い出を提出する事を忘れていた、もしくは意図的に行わなかった事も考えられる。

 修一は表情を真っ青にさせつつ、土下座の準備だけは整えたが、次に勉が放った言葉で、土下座までは行わなくても大丈夫である事を知る。


「では私から以後気を付ける様に代表へ話は通しておく。この話は忘れて貰って構わない」

「は――宜しいのですか?」

「この部屋の惨状を見れば、君たちがこの高田重工でどんな扱いを受けているかも予想はできるしな。そんな事よりあのADについてだ」

「何、出資してくれんの?」

「彰!」

「気にする必要は無いよ。今の私は防衛装備庁の遠藤勉としてでは無く、一人の兵器マニアとしてここに来ていると思ってくれていい。

 だから口調などは気にせず、素の君たちを見せてくれたまえ。――まぁ、その点から言えば、出資をこの場で決める事は難しい」


 どこから聞けばいいか、勉はそう考える様に顎へ手を置いた上で、まずは「そう言えば君たちの名を聞いていなかったな」と思いついたように二人を見る。


「あ――城坂修一と申します。ADプロジェクトのリーダーを勤めさせて頂いております」

「霜山彰っす。ADのソフトウェア周りを設計させて貰ってます。あー、あと広報も一応」

「他にメンバーは」

「設計図を元にした機体設計等を行う社内外のスタッフはおりますが、プロジェクト参加メンバーという意味では、私と霜山の二人だけです」

「驚いた。本当に二人だけなのか? 他からアイデアを貰う事も無く?」

「アイデアはこれから貰うさ。自衛隊の人達も在日米軍の人達も、嬉々として感想言ってくれたしな」

「では私からも意見をさせて貰おうか」


 勉から出た意見は鈍重な機体を操縦するシステムの簡略化に関するものだった。そしてこの意見は、金森曹長や修一本人からも出ているものである。


「逆に言ってしまうと、あの兵器自体にはこれ位しか欠点が見つからなんだ」

「他にも色々あるのでは?」

「正確に言えばあるにはある。しかし既に問題として挙がっている中で、特に欠点として挙げるものではない」

「そんで、その防衛装備庁としては、このADの配備についてどう思うんすかね?」

「まぁ、今のままでは不可能だ。しかし――」


 勉は、二人の目を見据え、押し黙る。

  修一と彰は、何も言わない。

  彼の目を見るだけで、決して自らが行った開発を、恥じていない。


「……機体システムの鈍重さを無くす算段は?」

「並列処理システムの改修に関しては、一年もあればモノにしてみせます」

「並列処理が改修されりゃ、操縦システムも、それに伴い簡略化はある程度可能っすよ。あ、タバコ良いっすか?」

「私も吸おう。城坂君はやる口かね?」

「タバコは吸わないですね……」


 修一に遠慮する事なく、タバコを吸い始める二人の事を見据えながら、修一は一束の資料を、勉へと差し出した。


「これは?」

「次の原案です。――まずはGIX-002【希刃】ですが、これはデータ上作成したGIX-001の機体フレームに、開発予定の並列処理システムを搭載します」

「並列処理システムを回収した機体を動かし、処理制度を確かめる試作品か」

「そして中京の横槍さえなければ、来年度の日米合同訓練で、操縦システムを回収した機体を披露出来ないかを検討しております」

「なるほど――これを成す為に、君たちはこの場で戦わねばならない、と?」

「その通りです。私と霜山のクビを、繋げて頂くお手伝いをお願いできませんか?」

「その心意気や良し。大和男児たるもの、そうでなくてはな」


 吸い切ったタバコを灰皿に押し付けた勉は、二人の手を取って、約束する。


「流石に援助は今この場で決定は出来ないが、しかし高田重工の方には、私から声をかけておこう。


 私は――君たちの作る未来が見たい」
  

  こうして、歴史は動き始めた。
  

  この時、三人の男たちは――この場所で生み出されたADという兵器が、後に世界の軍事レベルを示す指標になるという事を、まだ知らない。
  

  それは彼らにとって、未来の話だ。
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