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第十四章

ズーメイ-03

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 リェータが、何かを言いながら睦へと近づき、それでも反応を示さない彼女の手を取り、コックピットへ押し込んだ。

  サブシートに座らされたと気づき、マニピュレーターを手で触れると、僅かに電流の流れる感覚が。

  生体認証終了。機体が起動し、全機に修一からの通信が入る。

  ガントレットが率いる四六の面々が、今まさに、樺太島近海まで接近していると聞かされたが、睦は詳しく聞いていない。

  聞きたくない、という言葉が最適か。

  しかし、左手に座るリェータの平手が睦の頬を叩いた事によって、彼女の意識も戻される。


「目が覚めた?」

「え、あの」

「貴女が機体の操縦補助を行うのでしょう? なら、私の命は貴女にも預けなければならないの。ぼうっとして役に立たないなら、私はアルトアリスで出る」

「……いえ、大丈夫、です」

「リントヴルムに、何か言われたの?」


 機体のシステムチェックを行いながら、話を続けてくるリェータに、何も言う事は無い。


「大体予想は付くけれど。彼は、貴女や私の様な存在を、毛嫌いしてるみたいだから」

「……いえ、貴女達を、毛嫌いしているんじゃ、無いです。貴方達を産んだ、そして戦いを強制する私や、修一様のような人類の強欲に、怒っているんです」

「そう。私も正直同意見よ」


 押し黙るしかない。睦は哨によって組まれたシステムデータに目をやり、自分が操縦や管理を行うシステムの変更を若干だが行いつつ、リェータの言葉を聞く。


「私は超兵士として生み出された一人。戦う以外に生きる術がない、それだけしか道を与えられなかった者。今もこうして、戦うしか私に出来る事は無い」


 でも、と。リェータの言葉は続いた。


「そんな私にも、トモダチが出来た。そして、トモダチと生きる為に、これからも戦おうと決めたの。この道は――決して間違いじゃない」

「……ええ」

「だから、私の邪魔をしないで。邪魔をするなら風神から共に降りましょう」


 彼女の眼には、確かな決意があった。

  睦は、今まで彼女の様な目を、織姫がしていたか、それを見た事が無かったと、思い出す。


 雷神プロジェクトのコックピットパーツとして生み出され、戦う力がある事を知った彼は、数奇な運命から戦いに身を投じた。

  それは、彼が選択したのか、それともガントレットがそうなるように仕組んだかは分からない。

  そして彼は仲間へ銃弾を撃ち込み、心を傷つけた。

  彼は、戦場で傷ついた心を癒す為にAD学園へと戻って、そんな彼を戦力として迎え入れたかった睦は、彼に直接会う事は無く、雷神プロジェクトを推し進める為に、城坂聖奈という部下を使って、生徒会に招き入れさせた。


  けれど聖奈は、睦を出し抜こうとした。

  愛おしい弟と妹に、危険な戦場に出て欲しくなかったから。

  そんな彼女の心意に気付いていながら、睦は彼女を利用する形で、織姫の心を意図的に傷つけた。

  そして、立ち直ったその時にこそ、彼は力を発揮するはずだ、と。

  実際に彼は立ち直り、あのリントヴルムを倒した。


  リントヴルムの言葉に、偽りはない。


  何時も自分は、自分の正しいと思った事に他人を巻き込んで、他に選択肢を与えぬ方法ばかりを取って来た。

  そしていざ、自分が使われる番になって、自分のしてきた罪を断定されて、彼女はこれだけ傷ついた。

  けれど、織姫はもっともっと、傷ついたのだ。

  けれど、織姫はそれでも、強かに生きていたのだ。


  ――ならば、彼の倍を生きる自分が、彼よりも強くなくてどうする。


  パンッと、自分の頬を叩いた睦。

  リェータは何も言わない。ただ、そうした睦を見て、ただ前を向いて、風神を稼働させる。


「武装は、UIG内での取り回しが非常に困難な事から、60㎜機銃とレーザーサーベルで行く」

「ええ。火器管制への登録は既に済ませてあります。トリガーのタイミングは、貴女に」

「緊急回避はなるべく避けて。私はお姉ちゃん程身体が頑丈じゃないから、少しでも内臓を揺らされると、そのまま死ぬ」

「その場合はなるべく遮蔽物を利用する形で、10Gを超えない範囲で稼働させます」

「……私、今まで8Gを超える加速の経験は無いのだけれど」


 むしろ8Gはあるのか、と思う睦だったが、しかしそんな中、一つの通信が入っている事を確認し、それが哨からであると分かったから、リェータへと繋げる。


『あ、ズーウェイ?』

「ミハリ、作戦前だから、こうした通信は控えないと」

『ごめん、でも一つだけ、お願いがあるの』

「なに?」

『相手は、四六なんだよね?』

「そう」

『身勝手なお願いだって事は分かってる。他の人にお願いする事が出来ないって事も。――でも、お願い。皆を殺さないで』

「……ミハリにとって、四六のADパイロット達は、皆友達なの?」

『うん』

「私よりも、大切?」

『どっちが大切なんじゃない。どっちも大切なの。……お願い。皆も、ズーウェイも、無事に帰ってきて……っ!』


 ミハリの言葉は、ただの綺麗事だ。

  でも彼女は、それを理解した上で、それでもお願いとして、リェータへと頼んだ。

  そして、リェータも、大切なトモダチからのお願いを、無下に出来る程、成熟していない。


「……ええ。殺せと命令は受けていないのだもの。オースィニにもお願いするわ」

『……ありがと、ズーウェイっ』


 通信は、終わった。
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