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第十六章
リェータ-05
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明宮哨と明宮梢の両名は、名も場所もわからぬUIGにやってくると、すぐに自室として割り当てられた部屋に入れられ、次の作業がやってくるまでの間、待機を命じられていた。
前にいた樺太UIGで、何があったかはわからない。四六との交戦という事は知っているが、四六と交戦した末に、自分の知る誰かが死んだり、怪我をしているかもしれないと考えただけで、二者は言葉を発する事も怖かった。
そんな二人の部屋をノックする音が聞こえる。
哨が声をあげそうになるも、梢が彼女の口を押えて声を止め、ノックした者からの言葉を待つ。
『リントヴルムだ。リェータちゃんもいる』
「ズーウェイ……っ」
「ま」
待ちなさい、と梢が止めようとするも、哨は梢の腕を振り払い、ドアを開ける。
リントヴルムは開けられたドアにリェータの体を押し込み、自身は周りを警戒しつつ入室。
「ズーウェイ、無事だったんだね、良かった……っ」
涙を流しながらリェータ――ズーウェイの体を抱きしめ、彼女の無事を喜ぶ哨だったが、何やら様子がおかしいと感じた梢は、リントヴルムへ視線を送る。
「ミハリちゃん、君に二つ言わなきゃなンねェ事がある」
「? あの、何です?」
「一つ。リェータちゃんの搭乗したフウジンのせいで、フルフレームのパイロットは死んだかもしれねェ。生死は確認できてねェけどな。
二つ。反対にフルフレームの砲撃で、ズィマーちゃんが死ンだ。こっちは確認もしてる」
沈黙が訪れた。
梢がリントヴルムを強く睨むも、しかし彼は抱き合う哨とズーウェイを見据えたままだ。
「……そ、っか」
なんて言葉をかければいいのか、哨は分からないと言わんばかりに、ズーウェイの頭を一度撫でた後、目と目を合わせ、彼女の事をしっかりと見据える。
「ホントなの、ズーウェイ」
「……ええ、本当。でも、貴方に知らせるつもり、無かった」
「どうして? ボク、ズーメイさんとお話出来てないけど、それでも悲しいよ。だって、ボクの知ってる人が、ボクの知ってる人に殺されたんだよ?」
「だからよ。……私も、フルフレームのパイロット、クゼ・リョージが、憎くて、憎くて、殺したくて殺したくて、しょうがないの」
「それは、しょうがないよ。だって、お姉さんを、殺されたんだもん。ボクもお姉ちゃんを殺されたら、相手を殺したくて殺したくて、しょうがないと思う」
「……ミハリ、怒らないの? 私は、貴女が殺さないでって言った、貴女のトモダチを、殺したくて、殺したくて堪らないのに。
貴女のトモダチなのに、私はそんな事どうでもいいって思える位、初めてこんなに感じた、どす黒い感情を、貴女に暴露してるのに……ッ」
ボロボロと涙を流すズーウェイの小さな体を、哨はもう一度抱きしめる。
先ほどよりも強く、細く繊細なズーウェイの体が、潰れるかもしれないと思えるくらいに。
「怒らないよ。そんなの、人間が持ってる当たり前の感情だもん。ボクにそれを、怒る権利なんかない。
戦争は、いつ誰が死んだって、おかしくなんかないんだ。
ちょっとした間違いで先輩が死んで、ズーメイさんが生き残る未来だってあったかもしれないし、どっちも死んじゃう未来だって、あったかもしれない。もしかしたら、久世先輩はもう死んじゃってるかもしれないし。
勿論、受け入れる事は難しいし、いざボクもその時が来たら、どうするのかなんか、わかんないけど……でも、受け入れるしかないんだ。
だって、受け入れなかったら、その人が戻ってくるわけでも無いんだもん。
生き残ったボク達は、受け入れて、その後にどうするのか、しっかりと決めないと」
ズーウェイはどうしたい?
哨は、彼女の涙を拭いながら、そう聞いた。
「どう、したい……?」
「うん。久世先輩を殺したくてしょうがないなら、殺してもいいと思う」
でも、と。そこで初めて哨は、ズーウェイに触れる手を、離す。
「そうしたら今度は、ボクとお姉ちゃんが、ズーウェイを殺したくなるかもしれない。
……実際になってみないと分からないけど、少なくともボクは、ズーウェイの事を許せないと思う」
「でも、じゃあ何で殺していいなんて……ッ」
「それは誰かに決められる事じゃない。ボクが決める事じゃないし、ズーウェイが自分の中でどう決着を付けたいか、それを自分で考えなきゃいけないんだ。
でも、久世先輩がもしズーウェイに殺されたら、今度はボクやお姉ちゃんが考える番。
復讐を決意したり、ズーウェイの事を一生恨んでいく事も出来るんだ。
ボク、復讐はいけない事だなんて思わない。その人が今後の人生、前を向いて歩いていくために必要だったら、どんな些細な復讐だってすればいい。
でも、その後には、自分も復讐される立場に立つんだって、その覚悟が、ズーウェイにはある?」
ある、とも。ない、とも言えなかった。
ズーウェイはただ涙を流して、哨の胸に飛び込み、彼女も決してそれを拒みはしない。
「私は……私は……ッ、お姉ちゃんに、最後、笑って……って、トモダチを、大切に、って……そう、言われたの……ッ!」
「うん。それを破ってでも、復讐したい?」
「したいけど、したくない……ッ! お姉ちゃんの仇、取りたいけど、取りたくない……ッ! もう、頭ぐっちゃぐちゃで、よく、わからない……っ」
「これから、考えていけばいい。だから――ズーウェイは、死なないで。ボクの、大切な友達だもん」
最後まで――哨は、ズーウェイから目を逸らす事は無かった。
梢は、そんな彼女の事を見て、ただ驚き、目を疑った。
――幼い頃、母親と喧嘩し、何時だって泣いていた、弱虫の哨。
――お姉ちゃんが守ってあげなきゃと誓った、か弱かった哨。
そうであったはずなのに、今の哨は、その面影を残しつつ、けれど慈母のような抱擁を以てして、ズーウェイの想いを受け止めきったのだ。
「ミハリちゃんは強ぇな」
それは、リントヴルムが呟いた言葉。
声量からして、誰かに聞かせるために放った言葉では無いと、梢も気付いていた。
だから彼の言葉に返事はしないが、それでも最愛の妹が、狂人であるリントヴルムでさえも動かす程に、大きくなった事を、ただ喜ぶ。
そして――さらにリントヴルムは、三人にとって思いもよらない言葉を、今度は全員に聞こえるように、言い放つ。
「お三方。ここから脱出するって計画をオレが立ててるって言ったら、ノるかい?」
前にいた樺太UIGで、何があったかはわからない。四六との交戦という事は知っているが、四六と交戦した末に、自分の知る誰かが死んだり、怪我をしているかもしれないと考えただけで、二者は言葉を発する事も怖かった。
そんな二人の部屋をノックする音が聞こえる。
哨が声をあげそうになるも、梢が彼女の口を押えて声を止め、ノックした者からの言葉を待つ。
『リントヴルムだ。リェータちゃんもいる』
「ズーウェイ……っ」
「ま」
待ちなさい、と梢が止めようとするも、哨は梢の腕を振り払い、ドアを開ける。
リントヴルムは開けられたドアにリェータの体を押し込み、自身は周りを警戒しつつ入室。
「ズーウェイ、無事だったんだね、良かった……っ」
涙を流しながらリェータ――ズーウェイの体を抱きしめ、彼女の無事を喜ぶ哨だったが、何やら様子がおかしいと感じた梢は、リントヴルムへ視線を送る。
「ミハリちゃん、君に二つ言わなきゃなンねェ事がある」
「? あの、何です?」
「一つ。リェータちゃんの搭乗したフウジンのせいで、フルフレームのパイロットは死んだかもしれねェ。生死は確認できてねェけどな。
二つ。反対にフルフレームの砲撃で、ズィマーちゃんが死ンだ。こっちは確認もしてる」
沈黙が訪れた。
梢がリントヴルムを強く睨むも、しかし彼は抱き合う哨とズーウェイを見据えたままだ。
「……そ、っか」
なんて言葉をかければいいのか、哨は分からないと言わんばかりに、ズーウェイの頭を一度撫でた後、目と目を合わせ、彼女の事をしっかりと見据える。
「ホントなの、ズーウェイ」
「……ええ、本当。でも、貴方に知らせるつもり、無かった」
「どうして? ボク、ズーメイさんとお話出来てないけど、それでも悲しいよ。だって、ボクの知ってる人が、ボクの知ってる人に殺されたんだよ?」
「だからよ。……私も、フルフレームのパイロット、クゼ・リョージが、憎くて、憎くて、殺したくて殺したくて、しょうがないの」
「それは、しょうがないよ。だって、お姉さんを、殺されたんだもん。ボクもお姉ちゃんを殺されたら、相手を殺したくて殺したくて、しょうがないと思う」
「……ミハリ、怒らないの? 私は、貴女が殺さないでって言った、貴女のトモダチを、殺したくて、殺したくて堪らないのに。
貴女のトモダチなのに、私はそんな事どうでもいいって思える位、初めてこんなに感じた、どす黒い感情を、貴女に暴露してるのに……ッ」
ボロボロと涙を流すズーウェイの小さな体を、哨はもう一度抱きしめる。
先ほどよりも強く、細く繊細なズーウェイの体が、潰れるかもしれないと思えるくらいに。
「怒らないよ。そんなの、人間が持ってる当たり前の感情だもん。ボクにそれを、怒る権利なんかない。
戦争は、いつ誰が死んだって、おかしくなんかないんだ。
ちょっとした間違いで先輩が死んで、ズーメイさんが生き残る未来だってあったかもしれないし、どっちも死んじゃう未来だって、あったかもしれない。もしかしたら、久世先輩はもう死んじゃってるかもしれないし。
勿論、受け入れる事は難しいし、いざボクもその時が来たら、どうするのかなんか、わかんないけど……でも、受け入れるしかないんだ。
だって、受け入れなかったら、その人が戻ってくるわけでも無いんだもん。
生き残ったボク達は、受け入れて、その後にどうするのか、しっかりと決めないと」
ズーウェイはどうしたい?
哨は、彼女の涙を拭いながら、そう聞いた。
「どう、したい……?」
「うん。久世先輩を殺したくてしょうがないなら、殺してもいいと思う」
でも、と。そこで初めて哨は、ズーウェイに触れる手を、離す。
「そうしたら今度は、ボクとお姉ちゃんが、ズーウェイを殺したくなるかもしれない。
……実際になってみないと分からないけど、少なくともボクは、ズーウェイの事を許せないと思う」
「でも、じゃあ何で殺していいなんて……ッ」
「それは誰かに決められる事じゃない。ボクが決める事じゃないし、ズーウェイが自分の中でどう決着を付けたいか、それを自分で考えなきゃいけないんだ。
でも、久世先輩がもしズーウェイに殺されたら、今度はボクやお姉ちゃんが考える番。
復讐を決意したり、ズーウェイの事を一生恨んでいく事も出来るんだ。
ボク、復讐はいけない事だなんて思わない。その人が今後の人生、前を向いて歩いていくために必要だったら、どんな些細な復讐だってすればいい。
でも、その後には、自分も復讐される立場に立つんだって、その覚悟が、ズーウェイにはある?」
ある、とも。ない、とも言えなかった。
ズーウェイはただ涙を流して、哨の胸に飛び込み、彼女も決してそれを拒みはしない。
「私は……私は……ッ、お姉ちゃんに、最後、笑って……って、トモダチを、大切に、って……そう、言われたの……ッ!」
「うん。それを破ってでも、復讐したい?」
「したいけど、したくない……ッ! お姉ちゃんの仇、取りたいけど、取りたくない……ッ! もう、頭ぐっちゃぐちゃで、よく、わからない……っ」
「これから、考えていけばいい。だから――ズーウェイは、死なないで。ボクの、大切な友達だもん」
最後まで――哨は、ズーウェイから目を逸らす事は無かった。
梢は、そんな彼女の事を見て、ただ驚き、目を疑った。
――幼い頃、母親と喧嘩し、何時だって泣いていた、弱虫の哨。
――お姉ちゃんが守ってあげなきゃと誓った、か弱かった哨。
そうであったはずなのに、今の哨は、その面影を残しつつ、けれど慈母のような抱擁を以てして、ズーウェイの想いを受け止めきったのだ。
「ミハリちゃんは強ぇな」
それは、リントヴルムが呟いた言葉。
声量からして、誰かに聞かせるために放った言葉では無いと、梢も気付いていた。
だから彼の言葉に返事はしないが、それでも最愛の妹が、狂人であるリントヴルムでさえも動かす程に、大きくなった事を、ただ喜ぶ。
そして――さらにリントヴルムは、三人にとって思いもよらない言葉を、今度は全員に聞こえるように、言い放つ。
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