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第十八章

戦いの中で-04

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 言葉を失った修一が、目を見開いて、ただ楠を呆然と見続ける。

  楠は言い放った事でスッキリとしたのか、乱れた髪の毛を手櫛でまとめると、そのまま彼へ背を向ける。


「ご視聴の皆さん。これからこのAD総合学園は、交渉決裂によって戦場となるでしょう。

 この男は、娘である私が言った投降の呼びかけや、一般市民と子供たちの解放を良しとしなかった。

 安全を保障しろと言ったにも関わらず、それを確約できないと言った。

  であるならば、私達は自分たちの安全を守り、生き残る為に、戦うしかありません。テロリストの言い分を信じるわけにはいきません。

 けどね、コレはそんな大それた戦いなんかじゃない。

  ――この男が勝手に仕出かした、規模の大きい、親父から売って来た、親子喧嘩です。せいぜい、私達を笑って下さい」


 楠が歩き出した先に、どこからか一機のADが着地した。

  それは、GIX-P001【雷神】

  その向かいには、同じフレーム、同じ装甲、しかし装備の有無だけが違う風神がある。

  それを交互に映した藤堂は、そのままギリギリまで引きで映して、雷神と風神、そして今まさに雷神へと乗り込もうとする楠、呆然と立ち尽くす修一を、映した。

  
「今アンタを踏みつぶしたら、私が悪になるじゃない。機体に乗りなさいよ、城坂修一」

「僕は……僕は……っ」

「もしやる気がないんならさっさと降伏しなさい」

「僕は間違っているか!? 僕が成そうとしている事は! 僕がもう二度と、織姫と楠のような子供を作らない為と願った理想は!」

「だから――願うだけなら勝手だけど、やり方間違えんじゃねぇっつってんのよ。何度も言わすな」


 娘に否定され、父と認めないと言われ、そうして立ち尽くす彼の姿は――ひどく、滑稽に映った。
  

  これが、城坂楠が立てた、真の作戦。

  この作戦には、二つの理由がある。


  一つ、城坂修一の戦意低下。

  彼がどう受け止めるかはわからないが、彼は以前、織姫に否定された時、酷くショックを受けていた。

  お前たちが幸せに暮らせる世界を作る為だと言った言葉に、織姫が否定した時の彼が取り乱した様子を、楠も見ていた。

  だが、楠はその場で、彼を否定していない。

  だから、こうして織姫のいない場で彼と対等な立場で話す時――彼を強く否定すれば、きっと彼は動揺するだろうと、分かっていた。

  その結果どの程度戦意を低下させるかは分からなかったが、随分と大きなダメージを負っただろう事は、目に見えて明らかだ。
  

  そしてもう一つ。

  それは、彼の掲げる理想へのイメージ低下。

  例えば彼が、それこそ格好つけて堂々と先ほどの宣言をして、それが全世界へと流れてしまえば、確かな影響力となり、AD総合学園の人質を守るという大義名分、彼を支持する者達による抗議活動などがあれば、それこそ彼の望む世界へ意味もなく向かっていくだろう。

  そしてその先にある結果が正しかったとしても――その先に向かうまでにある犠牲を、決して城坂修一も、彼を支持する者も、見はしない。

  
  だから、彼女はこのテロ行為が『城坂修一による革命』ではなく『ただの親子喧嘩』だと印象付けた。

  そして、口喧嘩で娘が勝利し、情けない父親は、反抗期の娘による拒絶を受け入れる事が出来ず、項垂れている。

  今この画は――そうとしか見えぬように、予め楠が演出した。

  
 今の戦争は、情報戦だ。

  それは、戦場に出る者だけでなく、戦場から遠く離れた一般市民にとっても同様だ。

  例えば民主主義国家では、多くの国が選挙制度を導入し、政治家を選定し、政治家は集めた票の力によって成り上がり、結果として国民や国を守る為、外交に力を注ぐ。

  そしてそれが、戦争を回避する術ともなる。

  
  人々はそれぞれ心を持ち、誰もが何かへ信仰する。

  時に、その信仰が多く集まってしまえば、それは国すらも大きく動かす要因になりかねない。

  城坂修一へと向ける信仰を可能な限り減らすマスメディアによる印象操作を――自分自身と父親を笑い者にするという手段を持って、それを成したのだ。


  そう、それこそ――城坂修一の嫌った、マスメディアのやり方だった。

  
「そうか……それが目的か、楠……」

「それで、アンタはどうするっての? 投降するなら今の内よ」

「する筈が無い……僕は、僕の理想を、叶える」

「で? 私達子供を、殺すの?」

「もう手段を選んでられないんだよ……っ」

「……ホント、バカな親を持つと、子供は大変なのよね」


 ヨタヨタと歩き、風神へと向かっていく、哀愁漂う後姿を、映し続ける。

  楠と修一が、それぞれの機体マニピュレーターへ体を乗せると、コックピットへと入っていき、両機が動いた。


『自分の子供に否定されたって、構うものか。例え全世界の人間が僕の事を笑いものにしたって構うものか。僕は、理想を叶える……っ』

『心まで機械に落とし込められて、それ以上の事を言えない、愚かで、下らない奴』


 二機は、スラスターを強く吹かして――空高く舞い上がる。

  そしてそれが、休戦終了の合図となり、AD総合学園島は再び、戦場となった。
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