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振り向けば、そこに君がいる!!
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講義の初回に出席し、グループワークが必要だとの説明に詰んだことを知った。そういうことはシラバスに書いておいてほしい。マジで。
自慢じゃないが、俺はブサイクだし、陰キャだ。
いや、本当に何の自慢にならないな。自分で言ってみて引いた。卑屈すぎる。周囲に美形が多いだけという可能性も捨てきれないが、俺の背が170cmに届かないってのに体重が100キロの大台に乗りかけていることは言い訳できない。
唯一友人と言える刈谷はこの講義を履修していないし、他に知り合いもいない。
オロつく俺に、隣の席に座っていた男が不意にこちらへ顔を向けた。
「ねぇ。一緒にやらない?」
肘をついた姿勢で、小首を傾げてきた顔に、一瞬見惚れる。
すっげー顔、整ってんな。隣に座ってきたときから、薄々そんな気はしてたけど。ってか、あれ。コイツ――ここまで近くで見たの初めてだから人違いしてるかもだけど、なんか有名なヤツじゃね?
え? 俺に言ったのであってるよな? いや、この誘いが勘違いだとしたら。俺には後がない。多分。
「お、おう、是非っ」
躊躇している場合じゃないと飛びつけば、
「良かった。よろしくね、イソちゃん」
綺麗な笑顔で、手を差し出してきた。
握手の習慣などないので面食らったが、無視するわけにもいかずその手に触れた。
海外育ち、なのか?
見た目からして、純和って感じじゃないもんな。
なんちゅーか、全体的に色素が薄い感じだ。長めの髪に編み込みが施されていて、美青年エルフといった印象。ただ、美人というには、骨格がしっかりしている。
初対面で、こちらが名乗る前からの馴れ馴れしいイソちゃん呼びにも、少し引く。イケメン族ってみんなこうなのか。
「い、磯部です、よろしく。えっと……」
この手、いつ離せばいいんだろう。握られたままいつまでも離れない手に、目が泳ぐ。
「あ。もしかして俺の名前、わからない? 俺、スズーー」
「あ、多分、知ってる。上田だろ?」
やべっ。呼び捨てにしてしまった、とまた薄っすらと脇汗をかく。
よく知らない芸能人を話題にだすとき、つい呼び捨てにしてしまうのと同じノリだった。
「うん。上田であってる。上田涼。涼しいって書いて涼」
上田の顔から一瞬だけ笑顔が消えた気がしたが、見なかったことにした。
とにかく。上田と最初に組めたおかげで、俺史上初といっていいほど早く残りのメンバーも決まった。せっかく決まったグループから追い出されないよう、上田が中心になって話し合う様子を、気配を消して拝聴させていただく。
「イソちゃん、俺と工数の洗い出し調査の担当してくれる?」
上田に言われてうなずき返す。
コミュニケーションを取ろうと無理せずとも役割が決まっていく。
当たりのグループに紛れ込めたツキの良さに、出だしで感じた絶望をあっさり忘れて安堵の息をもらした。
◇◇◇
上田の距離が、めっちゃ近い。
精神疲労に耐えきれず、カフェのテーブルに突っ伏した。
初回から近かったが、2回目、3回目と会うたび、「お前どんだけ近視なんだよ?」とツッコミたくなる距離で話しかけてくる。
「しんど」
肩を抱く、頭を撫でてくる、髪をクシャクシャに弄る、出ている腹を叩いてくる――少なくとも俺みたいな男にやることじゃない。と誰か教えてやってくれ。俺は怖くて言えない。
面のいいヤツラの大半が無礼で、距離の近い振る舞いをしがちな生態であることは把握済であるが――なんで俺に対してやるんだよ。
あの距離で俺が上田の顔を見てるってことは、向こうも同じ距離で俺を見てるってことだぞ。恐怖だろ。
上田の整った顔を思い出して、呻き声が漏れてしまう。
「イソちゃん、ごめん。待たせた?」
突っ伏していた俺に声をかけてきたのは、昼食の約束をしていた刈谷だ。
「あれ。イソちゃん、また太った?」
刈谷の後ろから身を覗かせた直武が、先制攻撃をしかけてくる。
大して親しくもないのに、イソちゃん呼びしてくるのなんなんだろ。
朝イチから浴びた上田の顔圧による疲労がぶり返し、背筋に震えが走った。
――アイツの距離の詰め方、マジ怖ぇ。陰キャには恐怖でしかない。だが、グループ・リーダ様だ。単位のために絶対逆らわないでおこう。
「嫌なことしか言えないなら、無理して声かけてくれなくていいから」
伸びてきた直武の手を軽く叩く。
「イライラしすぎだろ、このぐらいで。ってか、痩せたいなら、イソちゃんも一緒にフットサルやる?」
別にそこまで怒っていないのに、いつも茶化してくる。
毎回不快な気持ちになるのに、午後イチの講義が同じ日に刈谷と昼を取る約束をやめられないのは、他に友人がいないからだ。
ってか、なんで直武が毎回ついてくるんだよ。
「俺も、イソちゃんと一緒にやりたい。せっかく同じとこに住んでいるのに、ヘタしたら何日も家で顔を合わせないとかさ。あれ、結構寂しいの俺だけ?」
心の友よっ!
刈谷の言葉に、心の中のジャイ〇んが喝采を叫んでむせび泣く。本格的にキモイと思うが、刈谷は俺にとって特別だ。高校時代、イジメに発展しそうな弄りから救ってもらってから頭が上がらない。
同じ大学に進学するにあたり、誘われてルームシェアをしている。
さっぱりとした性格に似合わず、刈谷は美人系の見た目だ。小中高と偶々同じ学校に通っていた気安さから声をかけてくれたんだろうが、刈谷は、今でも後悔してないだろうか。容姿も性格もかけ離れているのに、一緒にイヤにならないだろうかと時々不安になる。
「フットサルは無理。そう言ってもらえるのは嬉しいけど」
えー、と刈谷が残念そうな声を上げた。
その反応が正直嬉しい。
が。交友範囲の広い刈谷が、俺を友人に紹介をしてくれるときの、あの上から下まで観察される視線がキツイ。
基本的に刈谷の友人は見栄えのいいやつが多く、無礼者が多い。さっきからチョイチョイ嫌味を言ってくる直武も襟足のすっきりした男前で、これでもだいぶマイルドになったが、最初は俺を目障りなものでも見るような目をしていた。
正直、刈谷ナシで関わるのは未だに怖い。
「イソちゃん、今晩飲み会があるんだけど」
締めのコーヒータイムにかけられた刈谷の声に、顔を上げる。
「あぁ、わかった。泊まってくるようだったら、一応連絡入れて」
「イソちゃんも一緒に行かない? 今日の、サークル外のヤツも参加できるヤツだから。紺ちゃんもくるって言ってたし、直武も」
な、と食後のコーヒーに口を付けていた直武に振った。
「刈谷もこう言ってるんだし、別に無理にとは言わないけど。たまには来たら?」
相変わらずスカしたその目元をスっと細め、
「ってか、イソちゃんって、上田と知り合い?」
珍しく嫌味を含まない、純度100%の唐突な問いにビビる。
「え、上田? なに突然?」
「いやだって、後ろ」
直武がさした指先をたどって振り返り、
「ギャーーーーーー。上田っ!?」
マジで上田だった。上田が背後に立っていた。
「はい、上田です。俺もその飲み会、参加していいですか?」
いつからそこに。そしてサラっと飲み会に参加表明してくるコミュ力、怖い。
「え、上田君」
「上田じゃん、珍しっ」
「おー上田」
上田は、思っていた以上に有名だった。飲みの場のあちこちから声があがる。
「顔がいいから?」
「優秀らしいよ」
「成績がいいだけで? ってか、上田って、純日本人なん? エルフみたいな見た目なんだけど?」
顔と成績がいいだけでこんなに人気が出るものなのか? 成績が良いと言ったところで、たかが地方大学のそれだ。
俺と刈谷の会話を黙って聞いていた直武が、エルフ発言にツボったらしく、口に含んでいた酒をむせる。
「名前は、普通の日本人だよね。上田、涼だっけ? ミドルネームがあるとか、もしかして?」
「どうだろ。あ、名前を名乗るときにスズだか何だか言おうとしてた気がするから、それがミドルネームとか?」
「エルフ……え、でも、エルフにしては体格良すぎだろ?」
目の端に涙をためて直武が言う。
確かに。直武と殴り合っても、上田の方が強そう。意外と、イイ身体してますね? もしかして鍛えてる? と尋ねたくなるようなガタイしてる。
「刈谷と足して2で割れば、完璧エルフなんだけどな」
「上田がエルフなら、イソちゃんは、ドワーフってとこか。上田と二人で、中ツ国にでも旅に出て来いよ」
「いや一般的に、エルフとドワーフは仲悪いだろ」
ちょい前までの直武なら、ドワーフじゃなくてゴブリンとか言ってたに違いない。その変化に刈谷の躾を感じて、心の中で手を合わせた。
ふと目が合った刈谷が、薄い笑みを口元にうかべ、
「ってか、イソちゃんと上田君ってどこで知り合ったの?」
「知り合ったっていうか、グループワークで…」
ちょうどそのタイミングで、離れた席にいるはずの上田の声が妙にはっきりと聞こえた。
「それで俺も一緒させてもらおうと思って、イソちゃんが参加するなら。ほら、同じ釜の飯を食うと親しくなれるって言葉あるし」
”誰だイソちゃんって”
上田ほど有名でもなんでもない一学生でしかない俺を特定しようとする声が聞こえた気がして、汗が出てきた。
「イソちゃん、呼ばれてんじゃん。なに、マジで上田のお気になわけ?」
酒の入った直武の、ボリュームを絞りそこなった声に何人かがこちらを見てくる。
どいつがイソちゃんなんだ、と。俺たち3人の間で視線がさまよう。
その視線を避け、グラスを片手に唐揚げへ手をだしたところに影がさした。
「イソちゃん。隣、イイかな?」
上田。お前それ、脅迫だろ。
ここでイヤだって言える兵がいるかよ。
無言で横に詰めれば、空いたそこへ腰を下ろしてきた。せっまっ。狭っ。
「上田って、イソちゃんとどういう関係なわけ?」
「あなたはどういう関係なんです?」
上田がその顔面に綺麗な笑顔を張り付かせて、直武に尋ね返した。
「俺と刈谷が同じサークルで。刈谷がイソちゃんとルームシェアしてる関係から知り合った感じ?」
「イソちゃんと同じところに住んでいるんですか?」
上田の目が、俺の隣に座る刈谷を捉えた。
「うん。小中高と一緒で、大学も同じ。サークルにも誘ってんのに、イソちゃん出不精で付き合い悪い」
「いや、お前とつるむとな……ほら、痛い目にあうってか。釣り合わないって言われたり、刈谷から良く思われたくてイイ顔してきたりとか――繊細な心がダメージ受けちゃうわけ」
「まだそんなことするヤツいるの?」
刈谷が綺麗な眉を顰めた。
あ、ミスった。
ただでさえ周辺美形率の急騰で空気が薄いのに、もう一段息苦しくなった。
「いや、最近は――」
「ねぇ」
イソちゃん、と会話を遮るように声をかけられて。振り返れば、頬を上気させた上田が。
「俺と付き合って」
「「「えっ」」」
俺たちだけでなくその発言が聞こえたらしき周囲で驚きの声が多重に上がった。なんなら、ひょぇっという声が混じっていた気もする。
「ちょっ、いきなりナニ? 変な言い方するなよ。え、どこに付き合えって? トイレ?」
キョドりすぎて、めっちゃ早口になってんじゃん、俺。
「好き。付き合って」
「飲みの場に話題を提供してんじゃねーよ」
間髪入れずに返してきた上田に、思わず同じ速度で打ち返してしまった。
「困ってることがあるなら、俺に相談してよ。守ってあげるから」
「今、困らせてんのお前だよっ!」
「本気で彼氏にしてほしいんだって。恋人になってよ」
聞けよっ!!
どこまでも綺麗な笑顔を浮かべる上田がいた。話が通じなさ過ぎて、恐怖しかない。
あ。以前まで良くあった刈谷狙いの踏み台ってやつか?
そういうの、一番イヤなヤツだ。人の心を何だと思ってんだ。バカにしやがって。
そうなんだろ? むしろ、そうだと言ってくれ。
俺は。
上田の射るような視線にジリジリと耐えきれなくなって――。
その日の記憶はそこまでしかない。
直武の手にあった度数の高い酒を奪い取り、強制的に意識を飛ばすことにしたからだ。
自慢じゃないが、俺はブサイクだし、陰キャだ。
いや、本当に何の自慢にならないな。自分で言ってみて引いた。卑屈すぎる。周囲に美形が多いだけという可能性も捨てきれないが、俺の背が170cmに届かないってのに体重が100キロの大台に乗りかけていることは言い訳できない。
唯一友人と言える刈谷はこの講義を履修していないし、他に知り合いもいない。
オロつく俺に、隣の席に座っていた男が不意にこちらへ顔を向けた。
「ねぇ。一緒にやらない?」
肘をついた姿勢で、小首を傾げてきた顔に、一瞬見惚れる。
すっげー顔、整ってんな。隣に座ってきたときから、薄々そんな気はしてたけど。ってか、あれ。コイツ――ここまで近くで見たの初めてだから人違いしてるかもだけど、なんか有名なヤツじゃね?
え? 俺に言ったのであってるよな? いや、この誘いが勘違いだとしたら。俺には後がない。多分。
「お、おう、是非っ」
躊躇している場合じゃないと飛びつけば、
「良かった。よろしくね、イソちゃん」
綺麗な笑顔で、手を差し出してきた。
握手の習慣などないので面食らったが、無視するわけにもいかずその手に触れた。
海外育ち、なのか?
見た目からして、純和って感じじゃないもんな。
なんちゅーか、全体的に色素が薄い感じだ。長めの髪に編み込みが施されていて、美青年エルフといった印象。ただ、美人というには、骨格がしっかりしている。
初対面で、こちらが名乗る前からの馴れ馴れしいイソちゃん呼びにも、少し引く。イケメン族ってみんなこうなのか。
「い、磯部です、よろしく。えっと……」
この手、いつ離せばいいんだろう。握られたままいつまでも離れない手に、目が泳ぐ。
「あ。もしかして俺の名前、わからない? 俺、スズーー」
「あ、多分、知ってる。上田だろ?」
やべっ。呼び捨てにしてしまった、とまた薄っすらと脇汗をかく。
よく知らない芸能人を話題にだすとき、つい呼び捨てにしてしまうのと同じノリだった。
「うん。上田であってる。上田涼。涼しいって書いて涼」
上田の顔から一瞬だけ笑顔が消えた気がしたが、見なかったことにした。
とにかく。上田と最初に組めたおかげで、俺史上初といっていいほど早く残りのメンバーも決まった。せっかく決まったグループから追い出されないよう、上田が中心になって話し合う様子を、気配を消して拝聴させていただく。
「イソちゃん、俺と工数の洗い出し調査の担当してくれる?」
上田に言われてうなずき返す。
コミュニケーションを取ろうと無理せずとも役割が決まっていく。
当たりのグループに紛れ込めたツキの良さに、出だしで感じた絶望をあっさり忘れて安堵の息をもらした。
◇◇◇
上田の距離が、めっちゃ近い。
精神疲労に耐えきれず、カフェのテーブルに突っ伏した。
初回から近かったが、2回目、3回目と会うたび、「お前どんだけ近視なんだよ?」とツッコミたくなる距離で話しかけてくる。
「しんど」
肩を抱く、頭を撫でてくる、髪をクシャクシャに弄る、出ている腹を叩いてくる――少なくとも俺みたいな男にやることじゃない。と誰か教えてやってくれ。俺は怖くて言えない。
面のいいヤツラの大半が無礼で、距離の近い振る舞いをしがちな生態であることは把握済であるが――なんで俺に対してやるんだよ。
あの距離で俺が上田の顔を見てるってことは、向こうも同じ距離で俺を見てるってことだぞ。恐怖だろ。
上田の整った顔を思い出して、呻き声が漏れてしまう。
「イソちゃん、ごめん。待たせた?」
突っ伏していた俺に声をかけてきたのは、昼食の約束をしていた刈谷だ。
「あれ。イソちゃん、また太った?」
刈谷の後ろから身を覗かせた直武が、先制攻撃をしかけてくる。
大して親しくもないのに、イソちゃん呼びしてくるのなんなんだろ。
朝イチから浴びた上田の顔圧による疲労がぶり返し、背筋に震えが走った。
――アイツの距離の詰め方、マジ怖ぇ。陰キャには恐怖でしかない。だが、グループ・リーダ様だ。単位のために絶対逆らわないでおこう。
「嫌なことしか言えないなら、無理して声かけてくれなくていいから」
伸びてきた直武の手を軽く叩く。
「イライラしすぎだろ、このぐらいで。ってか、痩せたいなら、イソちゃんも一緒にフットサルやる?」
別にそこまで怒っていないのに、いつも茶化してくる。
毎回不快な気持ちになるのに、午後イチの講義が同じ日に刈谷と昼を取る約束をやめられないのは、他に友人がいないからだ。
ってか、なんで直武が毎回ついてくるんだよ。
「俺も、イソちゃんと一緒にやりたい。せっかく同じとこに住んでいるのに、ヘタしたら何日も家で顔を合わせないとかさ。あれ、結構寂しいの俺だけ?」
心の友よっ!
刈谷の言葉に、心の中のジャイ〇んが喝采を叫んでむせび泣く。本格的にキモイと思うが、刈谷は俺にとって特別だ。高校時代、イジメに発展しそうな弄りから救ってもらってから頭が上がらない。
同じ大学に進学するにあたり、誘われてルームシェアをしている。
さっぱりとした性格に似合わず、刈谷は美人系の見た目だ。小中高と偶々同じ学校に通っていた気安さから声をかけてくれたんだろうが、刈谷は、今でも後悔してないだろうか。容姿も性格もかけ離れているのに、一緒にイヤにならないだろうかと時々不安になる。
「フットサルは無理。そう言ってもらえるのは嬉しいけど」
えー、と刈谷が残念そうな声を上げた。
その反応が正直嬉しい。
が。交友範囲の広い刈谷が、俺を友人に紹介をしてくれるときの、あの上から下まで観察される視線がキツイ。
基本的に刈谷の友人は見栄えのいいやつが多く、無礼者が多い。さっきからチョイチョイ嫌味を言ってくる直武も襟足のすっきりした男前で、これでもだいぶマイルドになったが、最初は俺を目障りなものでも見るような目をしていた。
正直、刈谷ナシで関わるのは未だに怖い。
「イソちゃん、今晩飲み会があるんだけど」
締めのコーヒータイムにかけられた刈谷の声に、顔を上げる。
「あぁ、わかった。泊まってくるようだったら、一応連絡入れて」
「イソちゃんも一緒に行かない? 今日の、サークル外のヤツも参加できるヤツだから。紺ちゃんもくるって言ってたし、直武も」
な、と食後のコーヒーに口を付けていた直武に振った。
「刈谷もこう言ってるんだし、別に無理にとは言わないけど。たまには来たら?」
相変わらずスカしたその目元をスっと細め、
「ってか、イソちゃんって、上田と知り合い?」
珍しく嫌味を含まない、純度100%の唐突な問いにビビる。
「え、上田? なに突然?」
「いやだって、後ろ」
直武がさした指先をたどって振り返り、
「ギャーーーーーー。上田っ!?」
マジで上田だった。上田が背後に立っていた。
「はい、上田です。俺もその飲み会、参加していいですか?」
いつからそこに。そしてサラっと飲み会に参加表明してくるコミュ力、怖い。
「え、上田君」
「上田じゃん、珍しっ」
「おー上田」
上田は、思っていた以上に有名だった。飲みの場のあちこちから声があがる。
「顔がいいから?」
「優秀らしいよ」
「成績がいいだけで? ってか、上田って、純日本人なん? エルフみたいな見た目なんだけど?」
顔と成績がいいだけでこんなに人気が出るものなのか? 成績が良いと言ったところで、たかが地方大学のそれだ。
俺と刈谷の会話を黙って聞いていた直武が、エルフ発言にツボったらしく、口に含んでいた酒をむせる。
「名前は、普通の日本人だよね。上田、涼だっけ? ミドルネームがあるとか、もしかして?」
「どうだろ。あ、名前を名乗るときにスズだか何だか言おうとしてた気がするから、それがミドルネームとか?」
「エルフ……え、でも、エルフにしては体格良すぎだろ?」
目の端に涙をためて直武が言う。
確かに。直武と殴り合っても、上田の方が強そう。意外と、イイ身体してますね? もしかして鍛えてる? と尋ねたくなるようなガタイしてる。
「刈谷と足して2で割れば、完璧エルフなんだけどな」
「上田がエルフなら、イソちゃんは、ドワーフってとこか。上田と二人で、中ツ国にでも旅に出て来いよ」
「いや一般的に、エルフとドワーフは仲悪いだろ」
ちょい前までの直武なら、ドワーフじゃなくてゴブリンとか言ってたに違いない。その変化に刈谷の躾を感じて、心の中で手を合わせた。
ふと目が合った刈谷が、薄い笑みを口元にうかべ、
「ってか、イソちゃんと上田君ってどこで知り合ったの?」
「知り合ったっていうか、グループワークで…」
ちょうどそのタイミングで、離れた席にいるはずの上田の声が妙にはっきりと聞こえた。
「それで俺も一緒させてもらおうと思って、イソちゃんが参加するなら。ほら、同じ釜の飯を食うと親しくなれるって言葉あるし」
”誰だイソちゃんって”
上田ほど有名でもなんでもない一学生でしかない俺を特定しようとする声が聞こえた気がして、汗が出てきた。
「イソちゃん、呼ばれてんじゃん。なに、マジで上田のお気になわけ?」
酒の入った直武の、ボリュームを絞りそこなった声に何人かがこちらを見てくる。
どいつがイソちゃんなんだ、と。俺たち3人の間で視線がさまよう。
その視線を避け、グラスを片手に唐揚げへ手をだしたところに影がさした。
「イソちゃん。隣、イイかな?」
上田。お前それ、脅迫だろ。
ここでイヤだって言える兵がいるかよ。
無言で横に詰めれば、空いたそこへ腰を下ろしてきた。せっまっ。狭っ。
「上田って、イソちゃんとどういう関係なわけ?」
「あなたはどういう関係なんです?」
上田がその顔面に綺麗な笑顔を張り付かせて、直武に尋ね返した。
「俺と刈谷が同じサークルで。刈谷がイソちゃんとルームシェアしてる関係から知り合った感じ?」
「イソちゃんと同じところに住んでいるんですか?」
上田の目が、俺の隣に座る刈谷を捉えた。
「うん。小中高と一緒で、大学も同じ。サークルにも誘ってんのに、イソちゃん出不精で付き合い悪い」
「いや、お前とつるむとな……ほら、痛い目にあうってか。釣り合わないって言われたり、刈谷から良く思われたくてイイ顔してきたりとか――繊細な心がダメージ受けちゃうわけ」
「まだそんなことするヤツいるの?」
刈谷が綺麗な眉を顰めた。
あ、ミスった。
ただでさえ周辺美形率の急騰で空気が薄いのに、もう一段息苦しくなった。
「いや、最近は――」
「ねぇ」
イソちゃん、と会話を遮るように声をかけられて。振り返れば、頬を上気させた上田が。
「俺と付き合って」
「「「えっ」」」
俺たちだけでなくその発言が聞こえたらしき周囲で驚きの声が多重に上がった。なんなら、ひょぇっという声が混じっていた気もする。
「ちょっ、いきなりナニ? 変な言い方するなよ。え、どこに付き合えって? トイレ?」
キョドりすぎて、めっちゃ早口になってんじゃん、俺。
「好き。付き合って」
「飲みの場に話題を提供してんじゃねーよ」
間髪入れずに返してきた上田に、思わず同じ速度で打ち返してしまった。
「困ってることがあるなら、俺に相談してよ。守ってあげるから」
「今、困らせてんのお前だよっ!」
「本気で彼氏にしてほしいんだって。恋人になってよ」
聞けよっ!!
どこまでも綺麗な笑顔を浮かべる上田がいた。話が通じなさ過ぎて、恐怖しかない。
あ。以前まで良くあった刈谷狙いの踏み台ってやつか?
そういうの、一番イヤなヤツだ。人の心を何だと思ってんだ。バカにしやがって。
そうなんだろ? むしろ、そうだと言ってくれ。
俺は。
上田の射るような視線にジリジリと耐えきれなくなって――。
その日の記憶はそこまでしかない。
直武の手にあった度数の高い酒を奪い取り、強制的に意識を飛ばすことにしたからだ。
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※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
めちゃくちゃ好きです😭😭😭上田もっといけって思っちゃいます💗私も美形×ブサイク(平凡)めっちゃ好きなのでこれからも応援しています💗‼️
ありがとうございます!
イイですよね、美形×ブサイク(平凡)💗!!!