派遣先は異世界!!

月影 冥華

文字の大きさ
上 下
2 / 2

2 業務内容

しおりを挟む
私はこれからこの神様にこき使われることになるらしい。
そもそも神様なんだから自分で何でも出来るんじゃないの?って顔をして恨めしそうに見てやった。
けれどやっぱり無表情。
私の視線に気が付いたのか、私の心の声が聞こえたのか、神様は首を横に振った。
「神は地上の出来事に直接介入は出来ぬ。力を使えば影響が出る。故に出来ることは見守ることだけとなる」
「どうして無表情なんですか?」
私はどうでもいいような質問をした。でも気になっていたからしょうがない。
「感情は我には必要ない」
以前とても優しい神様がいた。人間が必至になって祈りを捧げるから、その神様は願いを叶えた。けれど願いを叶えたのに今度は余計な事をしたと恨み言を言う人間も現れた。
人間の感情に振り回されその神様は壊れてしまったと。
「神は感情を持つ必要はない、何も感じず、ただ見て聞いていればよい」
「だが、見ているだけでは解決できぬこともある」
神様が直接介入できないから私みたいな人間を眷属にして使うらしい。
「じゃあ、眷属って皆人間?私以外も沢山いるの?」
「いない」
「・・・・・」
他の神が昔人間を眷属にしたことがあるが、その人間は最後世界を壊そうと力を揮ったらしく、それ以降人間を眷属にしようという動きは無くなったという。
「何で世界を壊すんですか?」
「飽きたことが理由だ」
(飽きる…?)
私が首をかしげていると、神様は続けて話した。眷属になることは人間ではなくなるということ。老化が遅くなり寿命が延びる。そして親しかった者たちが皆先に亡くなるということ。神様にとっては何でもないことが人間には辛いということが誰も理解出来なかったと。話の内容は何だか切なくなるものだが、私は感慨にふけている場合ではない。
重要なワードが含まれていることに気が付いた。
「あの私人間じゃなくなってるの?老化しない?寿命延びてる?」
「其方は我の眷属、簡単に死ぬことはないはずだ」
死にたいって何度も言っているのになぜか丈夫な肉体を手に入れてしまったようだ。
(取り合えず仕事っていうのを聞こうかな、グスッ)
涙が出そうになった。こんな時でも真面目に仕事の確認をしなければと思う自分の性格が憎くなる。

「それで仕事って?違う場所でとか言ってましたよね」
「其方は派遣社員というものだろう?」
「え?いや、うん、まぁ」
返答に困る。そういう就業形態なんですといえば伝わるのか。
私が悩んでいても神様には関係ないらしく、
「其方には異なる世界へ行ってもらう」
「・・・・はい?」
私が理解していないことに気が付いた神様の異世界講座が始まった。
そもそも世界はいくつも存在しているというのだ。私のいる世界はここでは〈アズール〉と呼ばれており、私が行く世界は〈エレオーラ〉というらしい。
世界は互いに干渉していない、けれど影響はあると。特に表裏の関係にある世界は影響が強く出るものらしく、〈アズール〉と〈エレオーラ〉は表裏の関係にあるとか。
〈アズール〉で大規模な水害が発生すれば裏の〈エレオーラ〉は干ばつが発生するらしい。
(もう私は驚かない、何を聞いても!)
ふと私は思った。
(夢オチだったりして)
「夢ではないぞ」
神様によって私の希望は一瞬で砕かれた。
異世界講座を修了したところでいよいよ仕事内容の説明だ。
私が送られようとしている世界は国が4つある。4つだけかぁと思っていたら正確には大きな大陸が4つありその中で各々自治制度を取っているらしい。
4つの国は種族で別れている。
人間が治める国、獣人が治める国、龍人が治める国、霊人が治める国。
「・・・・」
人間以外に聞きなれないワードが飛び出してきた。
「あの、神様…その世界って」
「人間以外に人型の獣なども住んでいる。また人間以外は魔法を使用し生活している」
人間はあまり魔法が使えないのだとか。人間で魔法が使える者は神官や神子と呼ばれ特権階級らしい。
「そんな奇天烈な世界で私に何をしろと…?」
「其方も魔法は使える。問題はないはずだ」
「問題しか見えません、魔法使ったことないんですけど!!」
慣れればいいと言われた。世の中は不条理だ。
「仕事についてだが、最近人間の治める国で奇妙な力を感じる。だが見えない。何かに阻まれているようだ」
「神様ってすべての世界を見てるんですか?」
「それは我だけだ」
私の疑問は膨れるばかりなのだが、それ以上は神様は答えず私が何をするかの説明になった。私の仕事は大きく三つとなる。
一つ、人間の治める国の奇妙な力について調査。
二つ、龍人の治める国の王様にあたる龍神のお妃様探し。
三つ、不測の事態へ対応。
(二つ目意味不明。私いらないよね?)
(三つ目が大雑把すぎるし、不測の事態に対応する能力が私にあるとは思えません…)
私の心の声はやっぱり神様に聞こえているらしく、
「龍神の妃、番というが100年見つかっていない。龍人の治める国は5つの自治に分かれている。王である龍神を中心としそれぞれの地を龍王が統治している。龍人には番と呼ぶ存在が必要不可欠だ。番がいれば力は安定するが、いないと不安定となる。200年、300年不在になると壊れてしまうだろう。龍王はそれぞれ番が見つかっているが肝心の龍神に見つかっていない。今は大きな問題にはなっていないが力が弱まれば人間の治める国が行動を起こす可能性もある。そうなる前についでに探してもらいたい。」
私はへーとしか言いようがない。業務内容はお妃様探しとすべきか番探しとすべきか。
龍人に関しての注意事項は龍人は嫉妬深く、粘着質だとか。とくに番に対しては凄いらしい。番が異性といると殺したくなるのだとか、番が悲しむと悲しませたものを殺したくなるだとか、何だか関わりたくない。
「淡泊な其方には理解できぬ世界だ。探すだけでいい」
断ることは出来ないらしい。
とにかくこれが私に与えられた業務内容ということになる。
ここで私は重要なことに気が付いた。
「お金ってどうなるんですか?」
「貨幣が異なるから〈エレオーラ〉に行ってからしか手には入らない」
「えっ?無一文?」
すると神様が鞄をくれた。斜め掛けのショルダーだ。持つとズッシリ重い。
「宝石や金貨が入っている。換金すればよい。後は服なども入っている」
(うーわ、すごい)
さすが神様。初めて後光が見えた気がする。
「言い忘れたが我の名は白陽(はくよう)だ。あと、一応其方は我と繋がっている。右の耳に石がついているはずだがそれで通信していると考えてもらえればいい。異なる世界においても我の声が聞こえるはずだ。困ったことがあれば呼ぶといい」
手を出すように言われて出したら何かをのせられた。
それは剣…
私は目が点だ。神様、改め白陽様は
「安全とは言い難い世界だ、魔法も初めは扱えないだろう。これは神剣だ。魔法が上手く使えない間はこれで身を守るといい」
無表情で淡々と話す白陽様に私は殺意が芽生えた。
(そもそも武器とか使ったことないから!!)

私の新たな派遣先、それは異世界だ!!

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...