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転生幼児は友達100人は作れない11
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タウカの肩で眠りに落ちて、目が覚めたらもう日が落ちていた。
どうやら寝ている間に体を洗ってもらっていたらしく、御腐れ汁臭ではなく柑橘類と薬草の香りが自分からしている。
着ている貫頭衣も薬草を焚きしめたような匂いがしていた。
昼寝落ちをした私の小さな体は、煮炊きする台所の片隅、藁をぎっしり詰めた木の箱の中に横たえられていた。
私がもっと小さい頃、台所仕事をするタウカの邪魔をしない、かつ目が行き届くようにこの箱に入れられていたものだ。
私はいつもこの箱に入れられる度、ちょっと良いメロンになった気分になったのを思い出した。とても懐かしい。
ノスタルジーに浸りながら、仰向けに寝ている自分の鼻先に前身頃を持ってきてスンスン匂いを嗅いでいると、不意に伸びてきた大きな手が私の額を撫でた。
「ようやく起きたな、ティカ」
視線を上げると、こっちを見下ろしているタウカと目があった。
オッドアイが笑みの形に細められて、その目が自分をずっと見守ってくれていたのだと気付いたら、お腹の奥がポカポカしてきた。
「おはよう、お父さん」
「夜だけどな!」
さも可笑しげに笑って、大きな手が私の前髪をかき混ぜる。
起きたら家族が居て、寝ていても傍に家族が居て。そんな奇跡のようなことが自分の毎日になったのだということが、まだ信じられない。
ワシャワシャと頭を撫でてくれる節くれ立った手を両手で捕まえ、頭から引き離して胸に抱える。
「いいんだよ! 夜でも起きたらおはようだよ!」
「はいはい」
「はいは一回だけだよ!」
「……確かに俺がそう言ったけども」
「一回だけだよ!」
「はーい! ったく、すっかり口達者になっちまって!」
苦笑したタウカは、抱え込まれた手で私のお腹をくすぐってきた。
「ワッキャー! アハハハハハ!! ズルい! お父さんそれズルい! アハハハハハ!」
「ずるくなんか無いぞ。ティカがお腹をくすぐって欲しそうだったから、こちょこちょしてやってるんだ」
「欲しくないもん! ギャハー! くすぐったい! ヒャアア! もう駄目だ! 漏れるー!」
最後の手段で下の限界を訴えると、タウカの手はようやく止まってくれた。
「服変えたばっかりだから漏らすなよ!」
慌てたようにそう言って、タウカは私の両脇に手を差し込んで抱き上げた。
「昼飯も食べないで夜まで寝てたんだぞ。夜ご飯はしっかり食べような!」
今世の父の首に両腕を回してしがみつく。
「うん」
「今夜は黄魚の塩煮と、ティカが採ってきてくれた草と茸の炒め物だぞ」
「やったー!」
「ティカは茸と塩煮好きだもんなー」
前世の日本人時代、コンビニもスーパーもレストランも至るところにあった。味のバリエーションも豊富で、味付けは塩のみなんて料理は食べたことがなかった。前世は食に関しては贅沢な人生を送ってきたのだと思う。
それでも、タウカが作ってくれる今世のご飯のほうが私は何倍も好きだ。
塩だけのはずなのに、私には何億倍も美味しく感じられる。
どんなに複雑で繊細な味の食べ物も、自分しかいない家で一人で食事をすると、全てが味気なく感じられた。レストランに行けば誰かと隣り合って座ることはできたが、余計に孤独を感じて淋しくなった。
でも今は違う。
家族と一緒に温かい食べ物を一緒に食べられるのだ。
口にするものは全てほっぺが蕩けるほど美味しくて、胃袋も体の中もいつも暖かいもので満たされるのだった。
「大好き!」
「おう! 今夜はティカがしっかりお腹いっぱい食べられるように、お前の好きなものばっかり作ったからな!」
ポンポンと背中を叩かれて、いっそう強くタウカの首にしがみつく。
夢ならば醒めないで。
一心にそう祈った。
「ん? どうした、ティカ? 今日は甘えん坊だな」
優しくゆすられながら運ばれ、丸太感全開の椅子に座らせられる。
服越しに伝わってきていたタウカの体温が無くなり、寒くて心細くなった。
おそらく私の顔は不安そうに歪んだのだろう。タウカは慈愛深い微笑みで私を見ながら、再び額をぺろんと撫でてくれた。
「後でいくらでも抱っこしてやるから、先に夕飯にしような」
大丈夫だ。
これは夢じゃない。
私はもうあの一人ぼっちの部屋に帰らなくて良いのだ。
大きな手が私を撫でるその感触に勇気付けられ、私は今世の父に笑顔を返した。
「よし! じゃあご飯にしような!」
「うん!」
頷いたら、私のお腹がぐう、と大きく鳴った。
どうやら寝ている間に体を洗ってもらっていたらしく、御腐れ汁臭ではなく柑橘類と薬草の香りが自分からしている。
着ている貫頭衣も薬草を焚きしめたような匂いがしていた。
昼寝落ちをした私の小さな体は、煮炊きする台所の片隅、藁をぎっしり詰めた木の箱の中に横たえられていた。
私がもっと小さい頃、台所仕事をするタウカの邪魔をしない、かつ目が行き届くようにこの箱に入れられていたものだ。
私はいつもこの箱に入れられる度、ちょっと良いメロンになった気分になったのを思い出した。とても懐かしい。
ノスタルジーに浸りながら、仰向けに寝ている自分の鼻先に前身頃を持ってきてスンスン匂いを嗅いでいると、不意に伸びてきた大きな手が私の額を撫でた。
「ようやく起きたな、ティカ」
視線を上げると、こっちを見下ろしているタウカと目があった。
オッドアイが笑みの形に細められて、その目が自分をずっと見守ってくれていたのだと気付いたら、お腹の奥がポカポカしてきた。
「おはよう、お父さん」
「夜だけどな!」
さも可笑しげに笑って、大きな手が私の前髪をかき混ぜる。
起きたら家族が居て、寝ていても傍に家族が居て。そんな奇跡のようなことが自分の毎日になったのだということが、まだ信じられない。
ワシャワシャと頭を撫でてくれる節くれ立った手を両手で捕まえ、頭から引き離して胸に抱える。
「いいんだよ! 夜でも起きたらおはようだよ!」
「はいはい」
「はいは一回だけだよ!」
「……確かに俺がそう言ったけども」
「一回だけだよ!」
「はーい! ったく、すっかり口達者になっちまって!」
苦笑したタウカは、抱え込まれた手で私のお腹をくすぐってきた。
「ワッキャー! アハハハハハ!! ズルい! お父さんそれズルい! アハハハハハ!」
「ずるくなんか無いぞ。ティカがお腹をくすぐって欲しそうだったから、こちょこちょしてやってるんだ」
「欲しくないもん! ギャハー! くすぐったい! ヒャアア! もう駄目だ! 漏れるー!」
最後の手段で下の限界を訴えると、タウカの手はようやく止まってくれた。
「服変えたばっかりだから漏らすなよ!」
慌てたようにそう言って、タウカは私の両脇に手を差し込んで抱き上げた。
「昼飯も食べないで夜まで寝てたんだぞ。夜ご飯はしっかり食べような!」
今世の父の首に両腕を回してしがみつく。
「うん」
「今夜は黄魚の塩煮と、ティカが採ってきてくれた草と茸の炒め物だぞ」
「やったー!」
「ティカは茸と塩煮好きだもんなー」
前世の日本人時代、コンビニもスーパーもレストランも至るところにあった。味のバリエーションも豊富で、味付けは塩のみなんて料理は食べたことがなかった。前世は食に関しては贅沢な人生を送ってきたのだと思う。
それでも、タウカが作ってくれる今世のご飯のほうが私は何倍も好きだ。
塩だけのはずなのに、私には何億倍も美味しく感じられる。
どんなに複雑で繊細な味の食べ物も、自分しかいない家で一人で食事をすると、全てが味気なく感じられた。レストランに行けば誰かと隣り合って座ることはできたが、余計に孤独を感じて淋しくなった。
でも今は違う。
家族と一緒に温かい食べ物を一緒に食べられるのだ。
口にするものは全てほっぺが蕩けるほど美味しくて、胃袋も体の中もいつも暖かいもので満たされるのだった。
「大好き!」
「おう! 今夜はティカがしっかりお腹いっぱい食べられるように、お前の好きなものばっかり作ったからな!」
ポンポンと背中を叩かれて、いっそう強くタウカの首にしがみつく。
夢ならば醒めないで。
一心にそう祈った。
「ん? どうした、ティカ? 今日は甘えん坊だな」
優しくゆすられながら運ばれ、丸太感全開の椅子に座らせられる。
服越しに伝わってきていたタウカの体温が無くなり、寒くて心細くなった。
おそらく私の顔は不安そうに歪んだのだろう。タウカは慈愛深い微笑みで私を見ながら、再び額をぺろんと撫でてくれた。
「後でいくらでも抱っこしてやるから、先に夕飯にしような」
大丈夫だ。
これは夢じゃない。
私はもうあの一人ぼっちの部屋に帰らなくて良いのだ。
大きな手が私を撫でるその感触に勇気付けられ、私は今世の父に笑顔を返した。
「よし! じゃあご飯にしような!」
「うん!」
頷いたら、私のお腹がぐう、と大きく鳴った。
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