前世の彼女が狼だった件

うさみん

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帰り路

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 非常階段をゆっくり降りていく。

 腕の中の重みが君の確かな存在を伝えてくる。

 もう離さない。

 妄執の様に心に刻み込む。

 時折こちらを気遣い様子を伺ってくる君が愛しい。
 
 俺はそんなに脆弱じゃないよ。

 これでも体は鍛えてるし、格闘技も嗜んでいるから体力もあるし心配無い。

 けど、気遣う君が可愛いから内緒にしておこう。

 長い階段を二人きりで、言葉を交わす時間も惜しみながら、降り続ける。

 漸く、1階の踊り場に辿り着く。

 相変わらず人気はないが、来た当初とは雰囲気が違い、穏やかな静寂に包まれている。

 ユーカリ、彼に関しては油断する気は毛頭ないが、なんとなくもう関わって来ないような気もする···。

 どちらにせよ、誰にも渡すつもりはないけれど···。

 エントランスを抜け外に出る。

 此処に来てから然程時間は経っていない。

 もうじき日付は替わるだろう。

 此処まで乗り付けて来た車に彼女を乗せる。

 彼女もやっと緊張の取れた表情になった。

 安堵と取り返せた達成感に笑みがこぼれる。
 
 運転席に回りエンジンを掛けると静かに車を走らせた。

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