ふざけるな!

うさみん

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4,(ライナスside)

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 僕が騎士を目指したのは、単純に分かりやすく正義の執行者として敵を倒すことが許されているからだった。
 幼い頃から、相手を徹底的に痛め付ける事に固執していた僕は、一族の中ではかなり浮いた存在だった。
 魔法も戦闘技術も人より優れていて、人を傷付ける事に躊躇ちゅうちょの無い僕は、職業を冒険者か戦士か騎士のどれかから選ぶ事に成ったのだが、冒険者は戦いだけでなく他の依頼も受けなければならないし、戦士は戦いになっても善悪の区別が明確では無く自己責任と成ってしまうし、そんな風に消去法で残ったのが騎士だったのだ。
 そこで1番重要視したのが、躊躇無く敵を倒す事が正当化されていて、悪目立ちしない所に所属する事だった。
 騎士団の実際の役割の話を聞いて、魔族戦の多い第2騎士団か他国と戦争する可能性のある第4騎士団を希望する事にした。
 そして騎士に成るための訓練に入ったのだが、そこには僕の本能を刺激する様な気高く美しい理想的な天使が居た。

 それが長い付き合いとなるレオンその人だった。

 彼は華奢な身体つきなのに強く、決して逆境でも折れる事が無く、常に高潔な騎士で在ろうとしていて、その姿は本当に凛としていて気高く美しい。
 からかいや嘲りも飄々ひょうひょうと交わし、かといって親しみが無い訳でも無く、誰にでも公平で優しく正に理想的な存在だった。

 その気高い強さを僕が崩したい。
 僕が与える痛みに耐えている、美しい表情を堪能したい。
 僕からの恥辱に耐えながら、反撃の隙を狙う強い視線を僕に向けて欲しい。
 共に過ごす日々の中で、少しずつ欲望が募っていく。

「模擬戦を行う!レオン、ライナス前へ!」

 僕にとっては、訓練の中では模擬戦が1番愉しい。
 外面の好青年である必要が無く、本来の自分で居られるからだ。
 相手が僕に向ける印象を裏切り、躊躇無く相手をじわじわと痛ぶり追い詰めて、その心を絶望に落とす。
 それが僕の戦いの楽しみ方だ。

「正々堂々と戦おう!ライナス!よろしくお願いします!」

「手加減は必要無いよ!全力で来てね!よろしくレオン!」

 美しい声と共に、剣ダコの無い艶やかな手が差し出される。
 あれだけ厳しい訓練や日々の鍛練を行っているのに、レオンは剣ダコも出来ないし、筋肉質に成る事も、生傷が絶えないという事も無い。
 不思議に思うが、レオンだからという事で、納得してしまう自分が居るのも事実だ。
 模擬戦の組み合わせで、レオンが対戦相手をする事に成り、僕は歓喜に湧くのを押さえるのが大変だった。
 レオンを直接痛ぶる事の出来る大義名分があるチャンスは、そんなに無いからだ。

 レオンとは同室だったが、6人という大部屋で個人的な接触は皆無に近い。
 しかも同室の他のメンバーもレオンを秘かに注目している様で、二人きりになれる事が決して無い。

 僕の内心の高揚に気付いたのか、レオンの気配が隙の無い物に変わる。
 模擬剣なので、僕の得意とする戦い方とは少し変えなければいけないが、基本方針は変わらない。
 
「始めっ!!」

 教官の声と共に、僕は特攻を掛ける。
 特攻を掛けながら無詠唱で風の魔法を唱え、レオンの動きを拘束する。
 レオンの表情に驚きを見て取り、笑みを浮かべて剣を振りかぶりその肢体に打ち付ける。

ガキッ!

 しかし、それはレオンには届かず、掬い上げる様にいなされる。
 風の魔法の拘束を打ち消し、反撃して来たレオンに、僕は驚き慌てて距離を取る。
 まさかこれを破られるとは思わなかった。
 出鼻をくじく事で優位に立ち、独壇場に持ち込むつもりが覆させられた。
 直ぐにレオンの優雅でいて鋭い剣激が、僕に猛攻を掛けてくる。

 この見た目を裏切る強さ・・・。
 やっぱりレオンは最高だ!

 貶め屈辱に落とし、無理矢理にでも屈伏させたい。
 だけど、残念ながら模擬戦は僕の負けで終わり、その後も訓練中は何度か対峙したものの、勝てる事は1度も無かった。

 騎士に成ってからはレオンの一人称が『俺』から『私』に替わって、清廉潔白な騎士として隙が無くなってしまった。

 嗚呼っ!あのレオンの自由を奪い、僕の与える恥辱に震えさせたい。
 僕の欲望は尽きる事が無く、燻り続けるのだった。


 その日は早朝から王城に呼び出され、僕は退屈な式典を、眼前に控えているレオンをこっそり愛でる事で、遣り過ごしている。
 正装をきっちりと着こなしたレオンの姿は、後ろ姿さえも綺麗で、背中から腰に掛けてのラインやスラリとした下半身が服の上からも良く分かる。
 あの体を縄で縛り上げたら、とても似合いそうだなと、秘かに喉を鳴らす。
 王の前で膝を付き下げた横顔に、少し癖のある金髪が落ちて、レオンの白いうなじが髪の隙間から見えた。
 あの染み1つ無い無垢なうなじに噛み付きたい!
 滲み出る血を舐めとり痛みの快感を植え付けたい・・・。
 思わず欲望全開の視線を向けたら、斜め前のカイルが一瞬、僕に殺気を向けて来る。

 カイルは、レオンの近くを常にキープしている、手強い相手だ。
 仲間としてはウマが合い、共闘も良くする。
 しかし、牽制し合うライバルとしては最悪だ。

 誰にでも愛されるレオンは、本人の預かり知らぬ所でモテる。
  本人から恋愛めいた話題は一切出ないが、欲情を抱いてる者は多い。

 訓練中に同室だった全員が、レオン狙いだったのは驚いたけど、他のメンバーの執着感を知るのは、性癖的には共感はしないものの面白かった。

「我が国の勇敢な第2騎士団の者達よ!魔界から侵略して来ている、民を脅かす魔性の森の魔族達を一刻も早く殲滅せよ!」

 国王の声が謁見用のホールに響く。

 漸く、戦場に移動出来る。

 僕は第2騎士団の中では上位から10位以内には入っているので、部隊編成の時にレオンと同じ部隊に成りやすい。

「はっ!勅命を賜りました!」

 騎士団長のクラウスが勅命書を受け取り、団員が合図と共に一斉に出立の隊列を作る。
 僕もそれに合わせて動き出す。

 レオンの後ろ姿を凝視しながら、カイルとレオンのやり取りを聞き取る事に神経を遣う。
 騒がしい中でも、レオンの毅然とした美しい声は僕の耳に届く。
 
「いよいよだな。怖じ気付くなよ。」

「私がそんな腰抜けだとも?」

 カイルはレオンと軽口を言いあえる様な関係が出来ていて、気楽に話す事の少ない僕にとっては悔しい所だ。

 「前回みたいに精々、足を引っ張らないことだな。」

 カイルがレオンを挑発する様に、前回の植物系魔族に蔓で巻き付かれて苦戦した事をからかっている。
 蔓で身体を拘束されていたレオンは淫靡で、僕の想像の遥か上を行っていて、僕は興奮の余り彼方此方に節操無く、魔族の血糊の絨毯を大量に作ってしまい、後方の第2部隊にドン引きされてしまった。

「どんな相手でも倒してきた!魔族相手に遅れを取る私では無い!」

「ハハッ!レオンは馬鹿だな?騎士は慢心は大敵だろう?」

 レオンの言葉に揚げ足を取って嗤うカイルが、レオンに無視を決め込まれた。
 自業自得だと笑ってやろうと思ったのに、カイルが気に止めて無かったので馬鹿にする事も出来ずに、ため息が出た。
 レオンが騎士団の馬車に乗り込み、その後をカイルが続く。
 僕も同じ馬車に乗ると、カイルがレオンの正面に座ったので、僕はレオンの隣を陣取る。
 カイルが隣に座らないのは珍しく思ったが、すぐにその理由が分かる。
 カイルは正面からレオンにニヤニヤと視線を向け、面白く無さそうに視線を合わせようとしないレオンの反応を楽しんでいる。
 レオンがカイルだけに向けるそんな反応に、明らかにカイルが優越感を抱いてるのを感じてチリチリと焦燥感が沸き上がる。

 僕はレオンの意識をカイルから逸らせたくて、無詠唱で微小な風の魔法を起こして、レオンの首筋に向けて放つ。
 ピクリとレオンの肩が跳ねて、プルプルッと身動ぎする。
 レオンは攻撃魔法を弾く守護を、常時発動させているけれど、僕がおこした弱すぎる風は攻撃魔法と認定されずレオンの守護に弾かれずに済み、彼の首筋をくすぐるのに成功したらしい。
 くすぐったかったのか、耳が秘かにピンクに色付き、誤魔化す様に少し俯く。
 そのお陰でカイルに向けていた意識が外れて、僕はホッとする。
 動じなさそうな見掛けによらず感度がいいんだね、レオンって・・・。

「今回はゲートの規模が大きいらしい。」

 グリードが眼鏡越しに視線をレオンに向けながら話し掛ける。
 グリードは長身で深緑の髪と緋色の瞳が印象的で、鋭い目付きであるけれど、銀縁眼鏡を着けている知的でクールな印象の美形だ。
 腹黒インテリ眼鏡だとカイルが愚痴る程、戦いに於いては用意周到に罠を張り巡らせて敵を追い込む。
 闇属性と無属性の魔法に特化していて、戦闘時に部隊のサポートもこなしながら上位5位以内に入っている。
 第1部隊の作戦参謀も兼ねていて、レオンと打ち合わせと称して二人きりになろうとするので、カイルが強引に割り込むのが通例になっている。
 
「前回のゲートが開いた時からそんなに期間が開いてないのに、規模が大きいのは厄介だな。」

 思案顔のレオンは少し俯き、癖のある金髪が揺れる。
 グリードの隣のアルベルトが、その体格に似合わせずに息を乱し身悶えして、気持ち悪い。
 アルベルトはがっしりとした体型でピンクの長髪で赤い瞳の精悍な男だ。
 レオンの前では色々妄想しているのか、何かと挙動不審な上に、中身はかなり変態らしいけど、あんなのでも『兄貴』と第2部隊から慕われる上位10位以内に入る猛者だ。
 脳筋タイプで、特注のウォールハンマーでの『凪ぎ払い』で、5~6人の魔族を1度に一掃出来る豪腕だ。

「小さな物なら分かるけど、それだけの規模のゲートが開く為に必要な魔素が貯まる前に開いたのは異常だと思うよ?」

 僕の隣のルイが、訳知り顔で口を差し挟む。
 ルイは諜報や斥候を得意とする暗器遣いで、特化した魔法属性は無いものの、下位から中位クラスの火・水・風・土・闇・光・無の属性がバランス良く使え、魔性の森の調査にもレオンと良く同行している。
 細身でありながらもスピードと隠密には定評が有り、黒髪の金の瞳がしなやかな肉食獣を連想させる。
 戦闘時以外では、少し離れた場所から気付かれない様に、こっそりレオンに付きまとっているストーカーだ。
 訓練生時代に、ルイの収集しているレオンコレクションを偶然見る機会が有ったけど、空間魔法や時魔法を現状のまま保つ為に惜しみ無く使って、レオンの私物やゴミ等を、大切に保存して居たのには流石にドン引きしたよ・・・。

 相変わらず馴染みのメンバーが濃いので、僕も含めてレオンにはゴメンねと思わない事も無いけど、欲しい物は我慢したくないんだよね、僕も・・・。
 
「こう言う時は、何か起こりうるかもしれない。参加している団員全てに、油断せずに注意を怠らない様にと伝達を行おう。」

 自然と取り纏めの動きが多いレオンは、第1部隊でもリーダーに成っている。

 キリッとした横顔が綺麗で何時も見惚れてしまう。
 馬車の中のレオンを除く全員が、レオンの言葉に了承の意を表す。

「今回も更なる上位目指してポイントを稼ぐぞ!」

 アルベルトが拳を握りガッツポーズをしたので、隣のグリードが鬱陶しそうに、視線を向ける。

 その言葉にレオンが微かに反応して、愛剣を握る手に力を入めて、一瞬だけ鋭い視線をカイルに向けた。
 広域攻撃が出来るカイル相手だと、殲滅数で遥かに及ばないらしく、カイルの順位を追い抜けない事を秘かに気にして居るらしい。

 グリードが酒の席で、うっかり口を滑らせて居るのを聞いた。
 参謀相手にそんな打ち解けた話もするのかと、嫉妬を感じたのは言うまでもないけど、レオンの前だと好青年を取り繕って会話しようとしても何故か上手く行かない。

「アルベルト、今回も上位は譲る気はないぞ?」

 カイルが挑発的にアルベルトに返しながらも、レオンから視線を外さない。
 馬車の中の半数が上位5位以内で、残りも皆10位以内なので、こう言うことは日常茶飯事だが、カイルが故意にレオンと2人の世界を作るのは御免だ。

「僕も更に上位を狙うかな!」

 好青年を前面に出して、レオンの肩を軽く叩くと、レオンが此方を見て苦笑する。

「ライバルが増えたな。皆が意欲的で私も嬉しいよ。兎に角、正々堂々と全力を尽くすのみだな。結果は自ずとついてくる。」
 
 静かな、だけど力強い声にうっとりする。

「さあ、戦場に着いたぞ!油断せずに行ってくれ!」

 馬車が静かに止まる。
 レオンが声をかけると、皆が行動を開始した。

 野営の準備も終わり、天幕の中で式服を脱ぎ、防具を装備しているレオンを、然り気無く見ながら自分の装備を整えていく。
 レオンの脱ぐ姿は、所作が綺麗で何故かとても色っぽい。
 見えている素肌は陶器のように染み1つ無く、完璧な佇まいが美しくて、生きた美術品の様だ。

 僕の他にも視姦している視線を感じるが、レオンは気にしていないのか気付いていないのか常にスルーだ。

 僕は動きやすさと守りを重視するため、ハーフプレートと攻撃反射効果のハーフコートに、愛用のブレードウィップを腰の定位置に装備する。

「準備は出来ただろうか?まず、第1部隊の第1陣の私とカイルとライナスの3名で討って出る。何時も通りに6時間後情報交換と交代を行う。第2陣のグリードとルイとアルベルトは、補給の準備と合間で他部隊との情報交換と休息を交代で取りながら、拠点で待機をしていてくれ。」

「ああっ!」

「了解!」

「分かった!」

「第1陣頼んだぞ!」

「任せておけ!」

 個々の思い思いの返事が、天幕の中に響く。
 レオンの声で、皆が一体感を持って気を引き締める。
 レオンが居なければ、此処まで纏まらない。

 天幕での段取りを終えると、レオンとカイルと連れ立って魔性の森に入る。
 ゲートがひらいて居なければ穏やかな森だけど、ゲートが開くと一変して魔素が濃いく禍々しい森へと変貌する。

 ゲートを目指して移動して行くと、低級魔族の第1陣と遭遇する。

 僕は、髪を靡かせると軽い足取りで20人程の低級魔族の群れに特攻を掛ける。
 先制攻撃として、風属性の魔法で複数の低級魔族を風の檻に閉じ込めて、ブレードウィップで相手が苦痛を感じられる様に小さく深く切り刻みながら、込み上げる衝動に笑みが浮かぶ。

 視界の端ではカイルが広域魔法を使い、雑魚の低級魔族を派手に纏めて殲滅して、取り零しを氷撃と雷撃の槍で余すこと無く屠る。

 2人で遠慮無しに速攻で蹴散らしていっていると、レオンから安堵する声が聞こえた。

「これなら、後陣の第2部隊は温存出来そうだ。」

 レオンが銀白に煌めく愛剣を流れる様に操り、僕達の攻撃範囲外の下級魔族を次々と殲滅して行く。
 優雅でいながら途切れなく縦横無尽に走る剣が美しい軌道を描く。
 僕は楽しみながら、3人で殲滅を続けた。

「数は減らせたが、相変わらず幾らでも湧き出て来るな・・・。」

 数日が経ち、数だけは多い下級魔族を瞬時に一掃しながらレオンが珍しくぼやく。
 今回は悪魔系の魔族が多く、引き寄せられる様にレオンに集中する。
 いくら下級魔族と言えども、数の暴力にレオンの負担は少なく無いと感じる。
 闇属性の悪魔系魔族からしたら聖属性のレオンは誘蛾灯と同じなのだろう。                    
 本来なら聖属性を持ちは神殿で聖職や聖騎士になる事が多く、神殿入りしてしまうと俗世との接点は無いに等しい。
 一般の中で聖属性を使える騎士は本当に稀なので、レオンの選択に感謝したい。 
 レオンと出逢えた事は幸運としか言い様が無い。
 レオンと違い、心置き無く殲滅するのを楽しんでる僕としては、この状況は美味しいけどね。
 不謹慎だけど、苦しむレオンも見たいと下心も有った。

「下級魔族が頭打ちに成ったから、中級魔族や上級魔族が出てくる。と伝令が入った。」

 少し安堵した様に伝令を告げるレオンの言葉に、カイルと僕が楽しそうに笑みを浮かべたのを見て、レオンが冷たい視線を向けてきた。
 冷ややかな視線も、貶めたい程綺麗・・・。

 作戦が第2段階に入り、第1部隊の第1陣は中級魔族や上級魔族対策の夜戦に挑んでいる。

 悪魔系魔族は夜間活性化するから、上級魔族を間引き第2部隊に被害が行かない様に勢いを殺ぐのが目的だ。
 僕は夜戦が結構好きで、活性化で優位に居ると勘違いしている上級魔族の心を折るのが、特に楽しい。

 今夜は晴天に満月で、森の中を移動するレオンの金髪がフワフワと揺らめき輝く。
 そんなレオンの美しさに惹かれる様に闇から影が生まれ出る。

「やっと本気で遊べるね!」

 思わず嬉しくて、殺伐としている筈の場に似合わない、爽やかに好青年な笑みを浮かべたらレオンが明らかに引いていているのが分かった。
 何年も一緒に戦っているから、僕の事は理解しているのに、たまに普通の反応をこっそりと見せるレオンは可愛い。

「少しは蹂躙し甲斐が有ればいいんだがな。」
 
 カイルがニヤリと口角を上げた。
 僕と同じで物足りないと感じていたのは確実だ。
 徐々に増えていく中級魔族と上級魔族の反応に愉しくなり笑みが深まる。

  戦闘狂だと、明らかに毒づいているだろう視線を向けながら、レオンが固有の特殊な癒しの魔法を僕達に使う。
 強くて気遣いもサポートも出来るレオンは、凄いと素直に思わせてくれる。

 湧き出てくる上級魔族を絶望に落としながら殲滅しつつ、不意に感じた違和感に前方のレオンを見た。
 レオンの目の前に、が居るのが見えた。
 撫で回される様な不快感に、警戒心が身構えさせた。
 次の瞬間、強い幻惑に包まれる。
 レオンが対悪魔系上級魔族用の守護魔法を掛けてくれていたのに、五感と風魔法の認識の落差が大きくて、正確に把握出来ない。
 更に暗雲が月を隠し、闇に包み込まれる。
 何時に無く焦りが生じ、風魔法でレオンとカイルにコンタクトを取ろうとして、レオンだけ弾かれる。

「カイル!術に嵌まった!レオンとは繋がらない!」

 僕は焦りを隠しきれずに切羽詰まった声で、カイルにコンタクトを取る。

「レオンは最上級魔族と交戦中だ!俺達は周辺の雑魚の上級魔族を蹴散らすぞ!」

 カイルからの返事に、『最上級魔族!?』と驚いたものの、レオンなら大丈夫だと直ぐに切り替える。
 僕は風魔法の認識を頼りに、楽しむのは止めて襲い来る魔族達を一網打尽に殲滅して行く。
 直ぐに風魔法の索敵範囲内の魔族の反応が無くなる。
 そしてレオンの側の強い魔族の反応も消えている。
 幸いにもレオンを見失っていたのは、時間にして僅かな間だった。

  暗雲が晴れ、穏やかな月の光が周辺に降り注ぐ。
  レオンの後ろ姿が、目視出来た途端に崩れ落ちた。
  急いで駆け寄ったカイルに続いて、僕も走ってレオンに近付こうとしていた。

「レオン!」

 カイルの声に金髪の髪が揺らいだのがカイルの影から見える。
 だけど、何だかシルエットが小さい?

「カイル・・・。」

 甲高い可愛い声が僕の耳に届いた。

「お前、レオンなのか?」

 カイルの驚きを秘めた声が聞こえた。
 何が起きている?

「そうだ・・・。」

 泣き出しそうな少女特有の甲高い声?

「そうか。」

 それにカイルが短く答えているのが聞こえた。
 僕がレオンに近付こうとするよりも早く、カイルがレオンを抱き上げたのが見えた。
 何が有ったのか問い質そうとするよりも、カイルが振り向き走り出す方が先だった。
 有無を言わさず走り出したカイルが、僕にすれ違い様に短く告げて更にスピードを上げる。

「拠点に戻る。第2陣とシフトする。」

 「カイル!待て!」

 僕の声は、脱兎の如く走って距離の離れたカイルには、届かなかった。

 カイルがあそこまで急ぐなんて、とんでもない事態が起きているに違いない。
 風の魔法でスピードを上げて、僕は急いで後を追った。
 風の魔法でスピードを上げたにも関わらず、カイルには追い付けず、いくらか遅れて天幕に戻る。

 第2陣の3名は、まだ王都からの物資の振り分けに駆り出されて出掛けているから、天幕にはカイルとレオンが二人きりで居る筈だ。

「う・・・っん・・・っ。」

 天幕からは明らかに情事の最中な声!?
 慌てて天幕の入り口から覗くと濃厚な淫魔特有のピンク色の魔力が溢れだして来た。
 そこには、カイルに犯されているレオン似の少女が、カイルの下でぐったりとしているのが見えた。

 もしかしてレオン?
 あの最上級魔族に淫魔の呪いを掛けられて姿が変わった?
 誰が見ても、淫魔に呪いを受けた状態だと分かるほどに、少女から淫魔特有の誘惑の魔力が滲み出しているのが見える。
 あれがレオンなら、清楚な少女なのに恐ろしい迄に淫靡に魅せていているギャップに眩暈がした。
 
 この美味しい状況を独占しているカイルに、自然と怒りが湧く。
 僕に気付いてるくせに、犯す為の動きを止めようとすらしない。

「カイルが余りにも急いで先に行くと思ったら・・・。何を1人で楽しんでるんだい?」

 思わず殺気を込めて天幕の入り口を大きく開く。
 そして、カイルと視線が合った。




 





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