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魔族の思惑は?2
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棚から古く分厚い本を取り出すと、アイシャは気忙しくパラパラと捲っていく。
「有りました···。この町の古代遺跡についての記述です。『かつて古き神が光と闇の眷属達の供物により、神の力を分け与えるための儀式を行う神殿がこの地に存在したと伝えられている。光の眷属は供物として光の伊吹と歓喜を、闇の眷属は供物として死の伊吹と血肉を捧げたという記録が遺跡に刻まれ残されていた。』これが真実だとすると、魔族の目的は供物を捧げ力を得る事なのでしょうか?こんな古いおとぎ話の様なものを信じて実行に移そうと?まさか···そんな馬鹿な話が?」
アイシャは呟きながらも半信半疑の様子であったが、強ち的外れでは無いように響は感じていた。
何等かの目的を持つ者は、其なりの指針が有ってこそ統率された動きが出来る筈だ。
その指針が、古代の遺跡に関わる物ならば、自ずと魔族の次の動きが読めるのではないだろうか?
確証が有るわけではなかったが、可能性として無視出来るものでは無いだろう。
響の意図が分かったのか、アイシャは古文書のページを真剣に捲っていく。
「魔族が力を求めて古代の遺跡を辿っているとするならば、次に現れる可能性が高いのは精霊の森に程近い[試しの祠]と呼ばれる場所と南に位置するミネール湖の地下にある[決意の神殿]と呼ばれる場所のどちらかですね。どちらの遺跡も最奥の間での試練を乗り越えられれば新たなる力を得られるという伝承が真しやかに言い伝えられている場所です。ただし、どちらも前人未踏とされていますが···。」
魔族の目的が、急に現実味を帯びてきているように、アイシャにも感じられてきた。
アイシャは響に向き直ると、謝罪の言葉を告げる。
「ヒビキ···。先刻は頭に血が上り感情的になってしまいました。すみません。ギルドマスターである私がこんな体たらくでは嗤われてしまいますね。冷静に考えるべきでした。」
少し項垂れるアイシャに、響は控え目な笑みを返しながら伝える。
「アイシャさんの様子が何時もと違うとは思いましたが、気にしないで下さい。抑えきれない想いが有ったとしても誰にでもある普通の事ですから、取り乱す事もありますよ···。」
「いえ···。私の未熟さ故です。魔族とは少なからず因縁が有りまして、何年経とうとも魔族に関わるとどうしてもその時の感情につい引きずられてしまうのです。」
アイシャをそこまで苦しめる因縁とは、きっと計り知れない物に違いないと、響は心苦しく感じる。
「私も若かったのです···。当時最年少で最上級魔法使いまで上り詰め、エルフ族の名誉とまで褒め称えられて図に乗っていた···。そこに魔族の襲来の報せがあり、満を持して魔族に挑戦した迄は良かったのですが、中級魔族相手に高位の魔法も大したダメージを与えることが叶わず手も足も出ない状態で、更にその魔族に鼻で嗤われあしらわれてしまうという最大の屈辱を味あわされたのですから···。あの悔しさといったら言葉にもなりません···。」
アイシャの告白に響は言葉を失う。
あの意味深な様子は一体何だったのだろうか?
エルフは案外プライドが高いんだな···と苦笑するしかなかった。
交渉の末、アイシャから魔石を受け取ることが出来た。
「この件に関しては、もしかするとヒビキには、またギルドから依頼をお願いする事があるかもしれません。」
何と無く仮定の話では終わらなさそうだと思いながら、響はギルドを後にした。
「有りました···。この町の古代遺跡についての記述です。『かつて古き神が光と闇の眷属達の供物により、神の力を分け与えるための儀式を行う神殿がこの地に存在したと伝えられている。光の眷属は供物として光の伊吹と歓喜を、闇の眷属は供物として死の伊吹と血肉を捧げたという記録が遺跡に刻まれ残されていた。』これが真実だとすると、魔族の目的は供物を捧げ力を得る事なのでしょうか?こんな古いおとぎ話の様なものを信じて実行に移そうと?まさか···そんな馬鹿な話が?」
アイシャは呟きながらも半信半疑の様子であったが、強ち的外れでは無いように響は感じていた。
何等かの目的を持つ者は、其なりの指針が有ってこそ統率された動きが出来る筈だ。
その指針が、古代の遺跡に関わる物ならば、自ずと魔族の次の動きが読めるのではないだろうか?
確証が有るわけではなかったが、可能性として無視出来るものでは無いだろう。
響の意図が分かったのか、アイシャは古文書のページを真剣に捲っていく。
「魔族が力を求めて古代の遺跡を辿っているとするならば、次に現れる可能性が高いのは精霊の森に程近い[試しの祠]と呼ばれる場所と南に位置するミネール湖の地下にある[決意の神殿]と呼ばれる場所のどちらかですね。どちらの遺跡も最奥の間での試練を乗り越えられれば新たなる力を得られるという伝承が真しやかに言い伝えられている場所です。ただし、どちらも前人未踏とされていますが···。」
魔族の目的が、急に現実味を帯びてきているように、アイシャにも感じられてきた。
アイシャは響に向き直ると、謝罪の言葉を告げる。
「ヒビキ···。先刻は頭に血が上り感情的になってしまいました。すみません。ギルドマスターである私がこんな体たらくでは嗤われてしまいますね。冷静に考えるべきでした。」
少し項垂れるアイシャに、響は控え目な笑みを返しながら伝える。
「アイシャさんの様子が何時もと違うとは思いましたが、気にしないで下さい。抑えきれない想いが有ったとしても誰にでもある普通の事ですから、取り乱す事もありますよ···。」
「いえ···。私の未熟さ故です。魔族とは少なからず因縁が有りまして、何年経とうとも魔族に関わるとどうしてもその時の感情につい引きずられてしまうのです。」
アイシャをそこまで苦しめる因縁とは、きっと計り知れない物に違いないと、響は心苦しく感じる。
「私も若かったのです···。当時最年少で最上級魔法使いまで上り詰め、エルフ族の名誉とまで褒め称えられて図に乗っていた···。そこに魔族の襲来の報せがあり、満を持して魔族に挑戦した迄は良かったのですが、中級魔族相手に高位の魔法も大したダメージを与えることが叶わず手も足も出ない状態で、更にその魔族に鼻で嗤われあしらわれてしまうという最大の屈辱を味あわされたのですから···。あの悔しさといったら言葉にもなりません···。」
アイシャの告白に響は言葉を失う。
あの意味深な様子は一体何だったのだろうか?
エルフは案外プライドが高いんだな···と苦笑するしかなかった。
交渉の末、アイシャから魔石を受け取ることが出来た。
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