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魔道具職人

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 夕闇が忍び来る時間まで極僅かなので、急ぎ店の扉をくぐる。


「今晩は。」


 日没間近で店仕舞いをしていたエリスは顔を上げ笑顔を見せる。


「ヒビキ!いらっしゃい!」


 駆け寄って来るエリスに笑みを返す。


「時間を取って貰っても構わないかい?」


 響の言葉に異存が有る筈もなく、エリスは奥のプライベートスペースに招き入れる。


「エリスを腕の良い職人だと見込んでお願いがあるんだ。」


 仕事の話にエリスは内心ガッカリしたが、耳を傾ける。


「何かしら?ヒビキ?」


 響は魔族探知機と設計図を取り出し、エリスに見せる。


「実は魔族探知機とその設計図を手に入れたんだ。見て貰って、もし依頼があればこの設計図通りに作って貰えないかな?」


 製作者は敢えて伏せて手渡す。

 エリスは設計図を受け取ると綿密に凝視する。


「なんて、綺麗で芸術的な回路かしら!今はまだ解明されてない古代の高度な技術が含まれてる···。」


 エリスの言葉に、設計図が有ってもSSレアは流石に再現は無理なのかな?と響はエリスの顔をそっと覗き見る。

 エリスは回路を指で丁寧にたどり、頷く。


「そうね···この設計図なら、回路に添えばもたらす効果の原理が判るから再現出来るわ!」


 エリスは響に笑顔で答える。


「流石エリスだ!本職の魔道具職人だけはあって、頼りになる!」


 響の賛辞にエリスは照れてはにかむ。


「それで実際に作ったとして、掛かる材料費はどのくらいになるだろうか?それに販売価格をエリスだとどのくらいに設定する?」


 現実的な話に、色気も何も有ったものじゃないと少し不愉快に思いながら、エリスは響の問いに答える。
 

「材料費は本来なら金貨8枚から10枚は掛かるでしょうけど、私は贔屓の鉱石加工師が居るから金貨5枚程度までなら抑えられるわ、価格は最安値で考えても白金貨1枚以上が妥当だと思うけど、ヒビキになら内緒で金貨7枚でもいいわよ!」


 精一杯の贔屓のアピールをしながらエリスは響の顔色をうかがう。

 それに気付かずスルーしたまま、響は柔らかく笑んで礼を言いながら尋ねる。


「ありがとう。1つ造るのに工期はどのくらいを目処にすればいい?」


 脈なしの様子に内心ガッカリしながら、エリスは真面目に答える。

「そうね···。材料が揃っていれば3ゴウ(日)もあれば造れるけど、材料から揃えると7ゴウ(日)くらい見てもらえればいいかしら!」


 響はエリスの手を握り、最高の笑顔を見せる。


「本当にありがとう!エリスのお蔭で悩みが解決したよ!この設計図は置いていくから、依頼が来たら頼むよ!」


 響の笑顔に顔を赤らめたが、エリスは直ぐに真顔になる。


「依頼については了承したけど、設計図は適正な価格で買い取らせて貰うわ!ヒビキ、言わせて貰うけれど、こういうことは公正にしないと設計図を書いた職人に失礼だわ!設計図の技術はその職人の注ぎ込んだ魂そのものなのよ!正当な評価をされないのは悲しい事だわ···。」


 エリスの熱い言葉に響は素直に謝罪する。


「すまない!軽んじる気持ちは無かったんだ。」


 エリスは立派な本物の職人なんだと、改めて響は尊敬した。


「わかってもらえれば嬉しいわ!ただし、設計図の代金はもう少し待って貰える?本来なら私の身の丈にはまだ合わない代物だから···。」


 エリスの謙虚さを微笑ましく思いながら、響は頷く。

 そしてまた訪れる事を約束して、店を出た。

 辺りは既に夕闇に包まれており、響は宿に急ぎ戻った。
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