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先ずは緊急性のある依頼6

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「報酬は確かに頂きました。実は村長のガジェスさんにご相談があるのですが···。」


 響は柔らかな笑みを崩さないまま、語りかける。


「何ですかな?ワシらに出来る事なら相談に乗れるんじゃが。」


「キラービーの残骸が村中に残っているんです。巣も解体して、卵や幼虫やサナギに至るまで不活性の処理は行ってあるので危険は有りません。本来ならその残骸の後始末まで行わなければならないんですが、生憎その時間が取れそうにないんです。そこで後始末をお願いできないものかと思いまして···。後始末をしていただけるのであれば、残骸のその後の処理については全て村長にお任せしますので、どうにかお願いできないですか?」


 俺の言葉に村長は驚きの表情を見せる。

 それもそのはずだ。

 素材として換金すれば一財産は築けるであろう量は確実に有るのだから。


「後始末は構わんですが、ヒビキさんはそれで良いんじゃろか?あきらかに···。」


 『損をする』と言葉を続けようとする村長を遮る。


「報酬は頂いていますからご心配無く。村を立て直すために色々と入り用でしょうが、どうか力を落とさずに村の安命の為に尽力下さい。それでは失礼します。」


 偽善ぶるつもりは無いが、依頼を受けたのも何かの縁だ。

 このくらいの手助けは構わないだろう。

 クィーンキラービーの素材だけは回収してあるのでそれで充分だ。

 未だなにか言いたそうにしている村長に笑みを返して、村長の家を後にする。

 村の中を歩きながら、見張りをしていたティアに声を掛ける。


「ティア!見張りをありがとう。次に行こう。」


 ティアは直ぐに響の道具袋の上の定位置に戻ると笑う。


「ヒビキ様はお優しいですね。」


「何の事かな?時間が惜しいから急いで次に向かおう。」


 ティアは地獄耳だなと思いつつ村の外に向かう。

 何処からともなく村人達が出てきて、静かに頭を下げる。

 村人達は疲弊した様子ではあったが、その瞳に強い光が見られて安堵する。

 直ぐに村は平静を取り戻せるだろう。

 本来の職種とは違うが、冒険者も悪くないと思える一時ひとときだった。
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