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44,実力の程

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    カインズが戻る迄、あとわずかだ。

 見通しを立てる為にも、それなりの実力の確証が欲しかった。

 怪しまれぬ程度の短時間で確める為に、危険を承知で町外れ迄足を延ばす。

 気配を極力消しながら、以前ダン達が罠を作った周辺を注意深く探る。

 それと併せながら、魔力操作を応用して魔力感知を試してみる。

 感知出来る範囲は50メートル以内だか、精度はまずまずだ。

 反応は2つ。

 動きはないので、未だ気付かれて居ないようだ。

 今のうちに態勢を整えようと思った途端に、反応の1つに動きが有った。

 それは、真っ直ぐ此方に向かって来る。

 10メートル···8メートル···5メートルと徐々に距離を縮め、魔物が視界に躍り出る。

 この前手傷を負わせたネザードックだ。

 臭いを覚えられていた様だ。

 立っていた場所が、いつの間にか風上に成ったらしい。


 姿を捉えるとネザードックは前回の不意討ちを警戒しているのか、じわりじわりと距離を詰めて来る。

 俺は静かに得物を鞘から引き抜くと、剣にアースクエイクを無詠唱で重ね掛けする。


 貧乏揺すり程度の威力であっても、重ね掛けする事によって予想以上の力を生むのは実証済みだ。

 ネザードックに油断なく注意を払いながら、何度も重ね掛けを繰り返し行う。

 ひたすら重ね掛けを続けて、音が聞こえる程になれば高周波ソードの完成だ。

 不穏な空気を感じたのか、ネザードックが性急に飛び掛かって来た。

 グガアッ!

 俺は冷静に剣を構えるとピンポイントで狙いを付け、ネザードックを貫いた。

 まるで豆腐を貫くみたいに、すんなりと剣がネザードックを貫いた。

 胸骨の奥の魔石を上手く捉えられた様だ。

 ネザードックが剣に串刺しのまま、動きを止める。

 直ぐ様剣を引き抜き、再度身構える。

 もう1つの反応に動きが出た。

 なるべく静かに戦いを運んだのだが、気付かれた様だ。

 ドドドドドッ!

 地鳴りが、近付いて来る。

 程無くして現れたのは、猪の様な魔物のタンクボアだ。

 2メートル程の巨体が猛スピードで突進してくる。

 俺は態勢を立て直す為に1度かわすと、片膝を付き1メートル程の高さに剣を構える。

 ドカッ!!

 強い衝撃が身体に走ったが受け止めずに、事前に掛けておいた風魔法の重ね掛けにより体を僅かに浮かす事で、上手に衝撃を後方に逃がす。

 剣は何の抵抗も無くタンクボアの眉間を貫いた。

 流石は高周波ソード、力が無くても刺す事も引き抜く事も楽々だ。

 確かな手応えを感じると、力を抜くため息を吐く。


 誰も居ない事を改めて再度確認して、精神を集中させ自分自身を思い描く。

 そして、本来の自分の姿に戻る。

 魂の回復も、幸い残り僅かだ。


 風魔法を重ね掛けして魔物の体を僅かに浮かす。

 ロープを掛けて引っ張って持っていく事にした。

 わざわざこう言う手間を掛けなくてはならなかったのは、6歳児が魔物を売りに行くのは流石に不自然だったからだ。

 悪目立ちするわけにはいかない。

 準備は着々と整いつつあった。

 


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