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1章 結成
30.傾国の宝
しおりを挟む話を振られたたてのりは背中に手をやって空を切り、剣を部屋に置いてきたことを思い出して顔を顰めた。
「…前王朝の祭剣とか……」
「え~もう!たてのんはいつも剣のことばっかり…」
呆れてたてのり手を叩くアルアスルを遮って向かいに座るタスクがテーブルに身を乗り出す。
「俺の出身の鉱山くらいでっかい宝石とか…!」
「そんなん家に入らへんのちゃう?きっと何百年も前の時代の葡萄酒とかやで」
石と酒を思い描き笑う横並びに座ったサイズ違いのドワーフにアルアスルはさらに呆れた。
「莉音ちゃんは聖職者がそれでええんか…?トウカちゃんは?なんやと思う?」
とてつもないお宝の予想で賑やかになった雰囲気に気分が良くなったトウカは、振り返ったアルアスルに話を振られてヘラッと笑ってみせた。
「まァ、ギルドには色んな人が来るからね。あたしが見たことないのはそれこそ古代ハイエルフのミイラくらいなもんだよ」
トウカの言葉にゼーローゼは意外そうに目を丸くして頷いた。
「いや、惜しいものだな。ミイラではないのだ。伝説と謳われる君のように美しい逸品でね。ここへ」
手を叩いたゼーローゼの後ろの扉が開く。
使用人によって大切に運ばれてきたものを見てトウカのペリドットの瞳から光が消えた。
仰々しい台車で運ばれたのは精巧な銀細工に乗せられた陶人形だった。
四肢はなく、本来肩の位置であるところには土台とお揃いの銀細工が施されている。
艶かしい鎖骨から細く伸びる首の先には凍るほど美しい造りの顔があり、ヘテロクロミアの瞳が瑞々しく潤っていた。
絹糸のような薄紫の髪は少しの乱れもなく背中へと流されて一つの束に結われて台座にまとめられている。
あまりに美しいそれが人形ではないと気が付いたのは、その瞼がわずかに震えたからだった。
「アロイス様、これが…?」
人形ではない、と気が付いた瞬間にそのものの口がはっきりと動いて澄んだ声が響く。
「なんだ、珍しく興味を持つんだなアレク」
「あれだけ興奮していらっしゃったのだもの」
アレクと呼ばれた人形のようなものは流暢にゼーローゼと言葉を交わした。
「えっ…え?えっ!?ちょ、ちょお待ってください!この…えっと…こちら?は…?」
最も早く言葉を取り戻せたタスクは上擦った声でゼーローゼの方を向く。
ゼーローゼよりも早く、考え込んでいたアルアスルが嫌な汗をかきながら口を開いた。
「聞いたことある…闇オークションの最高額を叩き出す他にはない極上品…伝説だと言われているセントエルフの…手足を切り落として装飾品にした生きたトルソー、セントエルフトルソー…」
「なんだと…?」
「い、生きた…?」
たてのりが嫌そうに眉を顰める。
莉音が目を回したのをタスクが咄嗟に支えた。
「まぁ、驚くのも無理はない。私も実際にこの目で見るまでは伝説だと思っていたからね」
ゼーローゼはパイプに火をつけて煙を吐く。
「しかも、これはトルソーの中でも特に希少価値の高い逸品であるネームドというものだ」
自慢げな声は話したくて仕方がないといった様子で一行の様子など気にした風もない。
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