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1章 結成
35.シュテルンツェルトへ帰還
しおりを挟むあまりに狭すぎる車内にたてのりが本気で怒りを爆発させそうになったとき、馬車は歩みを止めた。
「ツェントルムのシュテルンツェルト前にございます」
御者が扉を開けると全員が転がり出てきた。
夜は星の光を見せまいとしているネオンの光も夕方ではなりを潜め大人しくしている。
官能的だった通りや建物は毛色を変え、ただただ豪華な雰囲気だけが辺りに漂っている。
「はぁ、昼間やとこんな感じか。思ったより上品やな」
転がりおちる莉音を受け止めて担いだタスクがシュテルンツェルトの噴水を見て素直な感想を溢す。
等加は慣れたように一行を連れて中へと入った。
「マスター、ただいま」
支度中の酒と香ばしい匂いが充満する店内にはカウンターの奥に立って作業をしているシリウスだけがいた。
シリウスは等加の声に気付くと顔を上げて笑顔を振り撒く。
「あぁ!お帰りなさい。いかがでしたか、ゼーローゼ邸は?豪勢だったでしょう」
一行をテーブルに案内して飲み物を出しながらシリウスは尋ねる。
さっさと奥に引っ込んでしまうと思っていた等加も一緒になって席についたのを見て少し意外そうに目を丸めるが、特に声をかけることもせず等加の分も出した。
「いやそりゃ豪華やったけどさ!」
「とーんでもない目にあったんやで!もう二度と行かんわ!」
なんの遠慮もなく差し出された飲み物を飲んでアルアスルとタスクは口々に愚痴を話した。
どこまで話してしまうべきかは迷って少し濁したものの、シリウスは何となく察していたようだった。
「それはそれは…トウカ、大丈夫かい?」
「あぁ、問題ないよ。人違いだなんて酷い話さ」
等加の様子が少し変なことがゼーローゼ邸での出来事のせいだと踏んだシリウスは心配するが、等加は思いの外あっさりしていた。
しばらく店に滞在して好き勝手話していたが、続々と他の従業員が出勤し始めてたてのりは居心地が悪そうに眉を顰める。
「おい、ネコ。そろそろ行くぞ」
「あ、そうやな~そういえば大事な話せなあかんの忘れてたわ」
アルアスルは等加を一瞥するとそろそろ忙しくなってきたと食器を片付けるシリウスに声をかける。
「お帰りですか?またいらっしゃってくださいね。トウカを送ってくださってありがとうございました。トウカ、お友達をお見送りなさい」
「ううん。マスター、あたしついていくことにしたから」
立ち上がって身支度をする一行と一緒に立ち上がりながら等加は笑顔をシリウスに投げかけた。
一瞬意味がわからず困惑するシリウスにアルアスルとタスクが詰め寄る。
「トウカさんをウチにください!!!」
「…え!?」
さらなる困惑を呼ぶアルアスルとタスクの言い方に莉音の苦笑いとたてのりの鉄拳が炸裂した。
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