太陽の向こう側

しのはらかぐや

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1章 結成

37.番外編小噺 たてのりの剣①※下ネタで下品

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シュテルンツェルトから馴染みの宿屋に戻った一行は受付横の空間に集まり円になって地べたに座っていた。
今後どうするかの会議をするためだが、一番広いタスクの部屋でさえも狭すぎて全員は到底入れなかったのだ。
金も十分に確保できたのだからもう少しいいところに泊まろうという意見にアルアスルは猛反対した。

「こんな安うしてくれるとこないで!金なんかどんだけあってもええねん、貯めるべきやで!」

パーティの財布を握る大蔵省には誰も勝てず、引き続きこの宿に泊まることが決定したせいでこのようなことになったのである。
幸いにも他の宿泊者はいないため他人に見られる心配はないがかなり見窄らしい状況だ。

「ほな、次どうするかやけど…」

アルアスルの話をしっかりと聞いているのは莉音だけだ。
たてのりは剣の手入れに勤しんでおり、タスクもそれになにかとアドバイスをしている。
等加はアルアスルの話に適当な相槌を打ちながらたてのり達の様子を興味深そうに眺めていた。

「その剣、前に助けてくれたときは大きくなってたよね。どういう仕組みなの?」

尋ねる等加にたてのりは少し得意げに剣を掲げた。
装飾も派手ではなく、軽さと切れ味に特化したシンプルな大剣だ。
元々も莉音くらいの大きさはあるがモンスターの脳天から顎を一刺しにした際はタスクの背よりも大きくなっていた。

「俺の剣は俺の魔力を吸ってサイズが変わる。あの時は敵が大きかったから、多めに魔力を流してサイズをあげた」

「たてのりはエルフの血が入ってるくせに魔力全然使わへんからな」

タスクはたてのりの大剣を丁寧に傷等ないか確認しながら笑う。
剣の話をしているたてのりは普段に比べて表情が明るい。
数少ないメンバーに鍛冶屋を抱えるくらいである。ほとんどオタクといっても過言ではない。

「こらぁそこ!誰も話聞いてへんやんけ!」

一般的な常識のない箱入りの莉音と2人では話が進まなくなったアルアスルは談笑する3人に怒号を飛ばす。
つまらなさそうに無視を決め込むたてのりにアルアスルは尻尾を大きく振って地団駄を踏んだ。

「勃起剣ばっか触ってないで参加しろ!」

その言葉にその場は凍りついて水を打ったように静まった。
タスクがいかにも笑いを堪えているといった様子で小刻みに震えながら等加と莉音に視線を飛ばす。

「…ぼ、ぼ、ぼっ…」

「勃起剣?」

知識として知りながらも教会で過ごした人生では一度も耳にしたことのない、下品極まりない単語に驚き言い淀む莉音ときょとんとしながら聞き返す等加にたてのりは舌打ちをしてアルアスルの首を締め上げた。

「ネコ!!!」

「ぐえーっ!なんやたてのん!勃起剣ばっか触ってんのはほんまのことやろが!」

「次言ったらその尻尾切り落とすぞ!」

言い合う2人を傍目に等加と莉音は笑いを堪えすぎて涙目になるタスクに近づいた。

「…なに?あれ」

「いやぁ、それがな…」

タスクは声を顰めると2人に昔話を聞かせた。
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