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2章 西ドワーフの村
41.夜襲
しおりを挟む起こした焚き火を囲んで全員が寝静まった中、アルアスルは火に枝を焚べながらひとり起きていた。
橙かかった薄い茶色の髪が赤い炎に照らされ燃えるように輝き、のぞく金の瞳の中では黒目が大きくなったり小さくなったりを繰り返していた。
夜起きている方が性に合っていて夜目のきくアルアスルは野宿の際は火の番である。
基本的には夜に強い等加とアルアスルで交代制になっていた。
「ふあ~」
火がないとまだ寒い季節で、山には危ない獣も多い。
アルアスルは適当に火に小枝や枯れ葉を投げ込んでは火を絶やさないように見張っていた。
連日の不寝番で眠気が溜まって欠伸をするアルアスルの耳に、ふと、パチパチと火の粉が弾ける音に混じった僅かな足音が聞こえた。
「…?」
鹿やネズミなどの足音かと思っていたが、その音は火に向かって近づいてきている感じがする。
モンスターのように大きな地響きではなく、肉食動物のような獣の臭いもしない。草食の動物のような軽さでもない。
訝しんだアルアスルはそっと立ち上がって音のする方の闇を警戒した。
「ウゥウ…」
確実に、近くに何かがいる。
嗅覚に優れたアルアスルの鼻でもそれが何かわからなかった。
ヒューマンの皮膚のような匂いがするが、足音は四足歩行を表している。
未知の気配に背中が粟立ったアルアスルがたてのりを起こそうと闇から視線を外した瞬間、闇から何かがすごい勢いで飛び出した。
「…ッ!猫地蔵!」
咄嗟に後方へ砂を掴み寝ているメンバーの方へと投げる。
砂は散らばり宙で大きな猫を描いて何かの襲撃を防いだ。
弾き飛ばされたそれはもんどりをうって砂埃を上げながら倒れこむ。
気味の悪いヒューマンが四足歩行をしているように見えたが違った。
皮膚や手足の形状はヒューマンのものに似ているが関節の数や向きが違って奇妙に長細い。腹の辺りには血の色の斑模様と骨が浮かんでおり、変に下の方についた顔は猿に見えるが口が耳まで裂け、そこから涎のような泡が溢れていた。
何よりヒューマンにはあるはずのない鱗でできた尻尾が生えている。それが地面に叩きつけられる衝撃を緩和したようだった。
「なんやこいつ…!?たてのん、たてのん!」
防御壁の中でアルアスルはたてのりを叩き起こす。
尋常ではない様子にたてのりは飛び起きてすぐ横の剣を取った。
「ネコ、どうした…なんだこれは…」
「ウゥウ、ウゥ…」
たてのりも比較的夜目が効くほうだ。
その上でこの奇妙な生き物は焚き火を怖がらず体勢を整えるとこちらへの距離を縮めてきたためよく見えた。
「わからへん!でも、なんか…!」
アルアスルは焚き火の光が届かない闇に目を凝らす。
感じたことのない気配は闇の中にいくつもあった。
「なんかいっぱいいる!」
叫ぶアルアスル目掛けて奇妙な生き物は愚直に突進してくる。
防御壁はタンク職でない以上それほどの効果を持ち得ない。二度目の体当たりにアルアスルの防御壁は砕け散った。
「チッ…竜驤虎視!」
たてのりは大きく一歩踏み込むとアルアスルの前に躍り出て思い切り剣を薙ぎ払う。
攻撃と同時に怯みも付与する軽いデバフ付きの技だが、奇妙な生き物は怯むことも恐れることもなくただ真っ直ぐに突っ込み剣に触れて切り裂かれた。
死体は灰になることなくその場で血を吹き出しながら動かなくなる。
血が赤く生ぬるいことがその生き物の気持ち悪さをより一層際立てていた。
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