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2章 西ドワーフの村
48.神父
しおりを挟む翌朝、すっかり復活した莉音とたてのりを含む一行は様子を見に村へと足を運んでいた。
「ところで神父さんと莉音ってどんな関係なん?」
「一緒にお風呂入ってたってほんまなん?」
神聖な森を抜けながら好奇心丸出しで不躾な話をするタスクとアルアスルにたてのりのげんこつが飛ぶ。
神父は困り眉をさらに下げて苦笑しながら不思議そうにする莉音を見た。
「莉音と私は家族のようなものですよ」
「そうやなぁ、教会の聖女と神父はみんな家族みたいなもんやねえ」
笑う莉音の後ろを歩く等加が不思議そうに神父の顔を覗き込んだ。
「でも、ドワーフ教会の神父が他種族って珍しいね。神父はヒューマンだろ?」
神父の背丈はたてのりと同じか少し低いくらいで、ドワーフにしては高すぎで亜種にしては小さい。
体つきもドワーフの男性のように筋骨隆々ではなく細身ですらっとした手足をしている。瞳も髪もヒューマンに多い薄い鳶色をしており、ドワーフ系列の種族ではないことは火を見るより明らかだった。
「そうですね、私はヒューマンです。昔はツェントルムの教会にいたのですが…」
ツェントルムの教会といえば街の端にあるにも関わらずよく目立つ建物だ。
大きく絢爛豪華で、宗教がどれほどに強大な権力と財産を持っているのかと目の前を通る度にアルアスルが悪態をついていたため全く建物に興味のないたてのりですらも覚えているくらいである。
「あの教会か」
アルアスルは権力と財産の象徴を思い出して嫌そうに眉間に皺を寄せる。
神父は自分の腕を撫でると少しだけ悲しいような辛いような複雑な表情を浮かべた。
「権力が絡むことももちろんありますけどね、あそこは穢れなく綺麗なところで…私は相応しくないと追い出されまして」
たてのり以外は神父の動作や言わんとすることが何かと察して口を噤む。
神に従事する者は祈りで癒しの力を得るものだ。つまり回復要員として重宝される。
その回復の力は何かを失うことでより強大となるのは種族を問わない常識である。
基本的には自身の五感が鈍くなることが殆どで、その中でも視力を殆ど失うというのはかなり大きな代償だ。
莉音が片田舎の出でありながら強大な回復や蘇生まで取得しているのはそのせいである。
「祝福を得て、皆の力になれるといえども…代償がこれでは教会は許さないのでね」
神父は服の首元をつまんで少しだけ中を見せた。肌は爛れて鱗状に硬化してしまっている。
神に従事する者がかかる病で奪われるのはもちろん五感と決まっているわけではない。皮膚の健康とてありえることだ。
皮膚病の患者はその見た目から酷く差別をされている。
対象者を教会に置くというのは許されざることだったのだろう。
アルアスルはより一層馬鹿馬鹿しいと鼻を鳴らした。
「おかしいよな?主からの祝福に貴賤なんかあるわけないのに。あての目はよくて神父さまのお体はあかんとか…何がちゃうねん」
「あぁいうとこの連中はそんなもんなんだよ。体裁ばかり気にしてるのさ」
憤る莉音を等加がさも権力を馬鹿にしたような声で宥める。
神父は何も言わずにただ微笑んだ。
「それで追い出された私は通りすがりのドワーフの教会に少しお世話になって、そのまま拾ってもらったのですよ。このような私を温かく迎え入れてくださって」
「へー、つまり恩人なんやな」
「えぇ、もちろん。ですから…」
神父の足が止まる。
視線の先には壊れた建物や荒れた畑、それを必死に直す村人の姿があった。
「私はこの村のために何でもする所存です」
神父は畑の近くに置いてあったヒューマンには重たい農具を持ち上げると、村人に声をかけて仕事を手伝いに向かった。
「あーっ神父さま!あかんで、肌に障るど!」
「大丈夫ですよ。屋根の修理など高いところは手伝わせてください」
働く神父の様子に一行は少しだけ笑い、各々できることを探した。
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