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3章 サマク商国
57.鉄塊の仲間
しおりを挟む技を付与していない単純な太刀筋とはいえ、攻撃力に特化したたてのりの剣を正面から受け止められる存在はほとんどいない。
やわな装備や中途半端な力では装備ごと斬られるか吹き飛ばされるのが普通だ。
セバスチャンは表情ひとつ変えずに赤く点灯する左腕一本でたてのりの剣を受け止めている。
「う、嘘やろ…どんだけ硬い素材でできてんねん…」
「あれは素材じゃないね。腕に上等の防御膜を張っているんだ」
等加は興味深そうに口元に笑みを湛える。
たてのりは鮮やかな緑の瞳いっぱいに喜びの狂気を滲ませて飛びすさり、最初の攻撃よりも素早く強く踏み込んでセバスチャンに再び斬りかかった。
セバスチャンは莉音の前から一歩も引かず堂々と剣を受け止めた。
金属が擦れて火花が散る。
セバスチャンは力一杯腕を払ってたてのりの剣を払い、よろめいたたてのりを蹴飛ばした。
「ふぅっ……」
「たてのん!」
プレートを身につけていないたてのりは鳩尾を抉られてうめきながら吹き飛ぶ。
受け身も取れずに砂埃を上げながら転がってそのまま池の中に落下した。
「…死んだんちゃうか?プレートつけてへんし、紙防御やぞ」
「…ぷあっ!ゲホゲホ!」
「無事みたいだね」
よろよろと岸に上がる姿は無事とは言い難い。
盛大に咽せたたてのりはそれでもどこか嬉しそうだった。
「…もしかして、そういうヘキの人?」
眉を顰める等加にアルアスルは笑いを堪えながら適当に頷いた。
「…ある意味そうやな。戦闘狂ってやつや…」
放っておけば何度でも斬りかかりそうなたてのりを制してタスクはセバスチャンを見る。
セバスチャンは顔色どころか相変わらず表情も変えずに莉音の前に立っていた。
胸の辺りにあるネクタイを模した場所から光が漏れ、どこからか排気音のような音がしている。
「すごいな、やっぱりそういう風に作られてるんや…」
「あ、あの、せ、セバスチャン…さん…?ありがとう…」
等加より少しだけ大きいくらいの小柄なセバスチャンを見上げて莉音は礼を言う。
そこで莉音に向けてセバスチャンは初めて表情を崩し完璧な笑顔を向けた。
「いえ。ご無事でなによりです」
「ひえ…」
あまりに眩しい笑顔に全員の目が釘付けになる。
しかし、顔を上げた次の瞬間にはもう表情筋が存在しないとでも言わんばかりの皺ひとつない無表情に変わっていた。
「こいつ、おもろない?俺が世話するし連れて行こうや」
「ボディガード…つまり盾役やろ?う~ん欲しいけど…これ以上人が増えたらもう養えへんぞ…」
アルアスルは頭の中でそろばんを弾いて計算している様子だ。
全身の水を絞ったたてのりは上機嫌でアルアスルの肩を組むと珍しくねだるような素振りを見せた。
「俺も連れて行きたい。ダメか?アル」
「……」
アルアスルは面白くなさそうにたてのりを睨みつけると据わった目でため息をついた。
「しゃあないな~!もう!ほな連れてこ!ちゃんと面倒見るんやぞ!」
「アルにゃん、子供が犬猫拾ってきたお母さんみたいなこと言ってるね」
「いやまさしくそうやろ…」
等加と莉音がアルアスルに聞こえないくらいの声量で内緒話をする。
たてのりとタスクは嬉しそうにセバスチャンの肩を掴んでついてくるようにと説得していた。
「セバスチャン、この後俺らパーティで世界巡るねん。一緒に来てや」
あまりにも簡単すぎる説明だが、セバスチャンは詳細も聞くことなく恭しく礼をした。
「はい、マスター。仰せのままに」
セバスチャンにとって修理と初期設定をいじったタスクは創造者である。
完全に主従関係が出来上がってしまっていた。
「皆様を登録されますか?」
「うーん、設定は便利やけどちょっと堅苦しすぎるよなぁ」
鍛冶屋で下っ端として育ったタスクは慣れない扱いに頬を掻いて困惑する。
無抵抗に背中を開いたセバスチャンの内部を弄りながらタスクは流れてきた汗を拭った。
「完全にリセットしてみるか」
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