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旅路

第七話 襲撃された町

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 最初の町、名前は「ラワカ」というみたいだった。

 結論から言えば、1番最初にあったケモミミ美少女、彼女の知識はとてつもなかった。

 彼女の名前は「イレーナ」というらしい。その綺麗なケモミミとしっぽの正体は、見ている限りキツネみたいだった。そして、小柄なことを話題にすると、とても怒ってしまったので、今後は小さいと言わないようにしておこう。



 王都を目指すためには、ラワカから「ツクヨシ」という街を経由して目指す必要があるらしい。王都の名前は「ローフリング」というみたいだ。



 キツネってこんなに白い種類いたっけな…。



 すでに、ラワカを出発してから6日を過ぎていたが、その旅は快適そのものだった。



「ワタシたちは、生きる術を知っているだけ。素っ裸で森に放り出されても生きていけます」



 ─美少女の『素っ裸』頂きました。



「そうなのか、とても頼りになる。助かったよ。オレだけだったら、彼女たちに苦しい思いをさせていたかもしれない…本当にありがとう」



「そ、そこまでかしこまらなくていいですっ」



 最近は警戒を解いてくれているのか、なんだかもじもじと照れるようなしぐさが見られるようになって、やはりケモミミは最高だぜ!



「そろそろ朝だな、今日で街につくんだよね?」

「ええ、そうですね。順調に進めば昼前には到着できるはず」



「おおー。新しい街かぁ、ワクワクするなぁ」



 初日に感じていた違和感は、もう微塵も感じないようになっていた。これが『夢であるか?』なんて、もう気にしないことに決めたのだ。そう、あまりにもリアルすぎる。動物を狩る感覚も、焚火に当たっている感覚も、彼女たちの反応や、たまに繋いでくる手の柔らかさも、すべてが本物と全く遜色ないものになっていた。



「最初は『夢であれ』なんて言ってたけど、やっぱケモミミ美女のいる世界は最高だな」



「信希は、時々おかしなことを言いますね?ケモミミとか夢がどうとか」

「あ、口に出てた?」



「ええ、はっきりと」



「そうだな、もう話してもいいだろ。オレは異世界と呼ばれるところから来たみたいなんだよね」

「異世界か…。わ、わかりません…、聞いたことがない」



 知識を豊富そうに持っているイレーナが聞いたことがないなら、オレは結構なイレギュラーになりそうだな。



「ケモミミは、みんなに付いてる耳のことを言ってるんだよ。獣の耳略してケモミミだよ」

「ふむ、この耳の何がそんなに良いの?」



 そう言うとイレーナは、耳をパタパタとさせながら触っている。



「うぐっ、触りたい…ちょっとだけ…ちょっとだけでいいからっ」

「ヤダッ!」



 イレーナは、オレに触られるのをとても嫌がる。ヤダッ!と言いつつ、自分の美しく白い毛並みの耳を押さえている。



 か、かわいい。至高のケモミミがいっぱいだ…。



「我慢する」

「と、当然です!」



 彼女は、結構キャラ作りしてるのか?たまに素っぽい喋り方になるよなー。まぁ、かわいいから全然気にしないんだけども。



「おはよぉー」

「ああ、シアンおはよう」



「2人とも休んでいいよぉ、少しだけど見張り交代しておくからぁ…」



 眠たそうなシアンは、オレたちを気遣って休むことを提案してくれた。



「ん、じゃあ、みんなが起きるまで休憩しておくよ。レストとポミナが起きたらオレも起こして?」

「では、ワタシも仮眠します」



「ん、ごゆっくりぃー」



 ──。



 あれから、みんなが起きて出発したのは少し前の話だが、次の街に行くラストスパートをかけていた。



「さすがにそろそろ疲れてきたなー。長い旅ってもっときついんだよなー…」



「そうですね、このくらいの距離の旅は日常ですから。馬車などがあれば、もっと楽に移動できまけど、なにぶん高額ですから」



「そっかぁー、もっと楽に移動したいよなー」



 そんな他愛のない話をしていると、道の先の方から、走ってきている人が目に留まった。



「あれは人間かなぁ?こっちに向かって走ってきてるけど」

「珍しい、大体このあたりまで人がくることなんてないはずですけど…」



「おーい!助けてくれーー!」



「なんだか、助けを求めてるみたいだね」

「ああ、少しだけ急いでみようか」



 オレの掛け声と同時に、みんなが小走りになる。



「どうした?なにかあったのか?」

「ああ!この先の街が魔獣に襲われちまった!」



 なんだこいつ、こっちに逃げていって助けを求められるのか…?

 思わず、そんな考えが浮かんできて、イレーナの方を見る。



「本当だと思いますけど、信希さんはどうしますか?」

「信じる根拠は、欠けてしまうなって思っているだけだよ」

「ふふ、あなたは、そういった考え方をするんですね」



「ところで、その街にはケモミミ美女はいますか?」



「は?ケモミミ…?」

「ボクたちみたいな獣人のことだよ!」



「ああ、獣人か、そうだな幾名かは居たはずだ!」



「よし、理由はどうでもいいでしょう。救援に向かいます、全力で走っていくので、ついてこれない方はゆっくり後をつけてきてください。ではっ!!」



─ブオォッ!



 自分でも信じられないくらいの加速力と速度だ。高速道路で車を運転している以上の速度を感じるな。



 とりあえずそんなことはどうでもいいか、ケモミミ美女が待ってるぞぉおお!!



「ボクも一緒にいくぅ!」

「おおーシアン、速く走れるとは思っていたけどこれほどとは!すごいな!」



「すぐ疲れちゃうけどっ!」

「十分スゴイよ、急ごうか」

「うんっ!」



 ──。



「シアン、街ってここだよな?」

「そうだと思うけど、魔物なんていないね?」



 キョロキョロと、かわいらしく周囲を確認しているシアン。



「少し話を聞いてみるか。それに、残してきた3人が少し心配だ」

「うんっ!」



 あの人間に、3人が襲われることはないだろうけど、一応確認だけはしておくべきだな、本当に街が襲撃されているのなら話は変わってくるからな。



 オレは、すこしばかり考えすぎかもしれないと自覚しつつ、最初に見つけた住人らしき人物に尋ねることにした。

「あの、この街に魔物の襲撃があったのは本当ですか?」



「ああ!つい先ほど魔物がいたんだ、すぐに討伐されていたみたいだがなぁ」



 よかった、どうやら本当に襲撃があったみたいだ。



「オレたちは、助けを求めている人に遭遇してから、すぐこの街に来たんだが、ずいぶんと早い討伐だったのか?」



「そういうことか、我々だけだったらかなりの被害が出ていただろうが、強い人が偶然にも居たみたいで、すぐに討伐してくれたみたいだよ」



 強い人…か、もう少しだけ話を聞いておくか。



「それは、どんな人だったのか分かるかな?」

「さぁ、そこまでは…すこし負傷していたって聞いただけかな。強い冒険者でも、魔獣相手になら負傷することも珍しくないから…」



「その人は、まだこの街にいるのかな?」

「あー、どうだろう。すぐに出ていったって話だけど…。僕は、現場で見ていないからな」



「そうか、色々教えてくれてありがとう。何事もないみたいで安心した」



 ひらひらと手をあげて去っていく彼にお礼を言って、街中に足を進める。もう少し詳しい情報を聞いておきたいところだ。



 街の中心あたりについた時だろうか、見たことのない感じのものに遭遇する。



「あれは…、シアン何か知ってる?」

「ん-、何かの信仰みたいだけど…見たことも聞いたこともないよ」



 信仰か?火を焚いて、いかにもそれ風な『巫女』のような姿をしている人を中心に何かを唱えているようだ。



「とてもだが、割って入れる状況じゃないな…」



 さて、どうしたもんか。



「─信希ぃ!追いついたのぉ」



 これからどうしようか考えている時に、レストのかわいらしい声が聞こえてくる。声の方向を確認すると、先ほど助けを求めてきた人は居なくなっていて、3人だけがこちらに向かってきていた。



「ケモミミの美少女はいたのぉ?」

「少しだけしか見ていないが、見当たらないな…」



「残念なの…?」

「それよりも、魔物の襲撃に1人で立ち向かった人が居るらしい。そちらの方が気になっているかな」



 もしも、ケモミミ様を助けてくれている存在であれば、一つお礼を言っておきたいところだ。



「その人は、まだこの街にいるのですか?」

「いや、聞いた話だけど、すでにどこかに行ってしまったらしい。イレーナはその人に用があった感じ?」



「用と言うことでもないです、確認はしておきたいところかな」

「どうやら、怪我を負ってしまったみたいだけど…」



「なるほど、少し調べてみましょう」



 ─それから、何かの信仰をしている人たちにズカズカと話を聞きに行くイレーナに「すげぇな…」と感心しつつ、詳しい話を聞いてきたイレーナの言葉に耳を疑った。



「どうやら、鬼人がこの近くにいるらしい。その人が助けてくれたそうだです。少し負傷していたようで、住処である山のふもとへすぐさま戻っていったらしいのです」

「鬼人…、どんな外見をしているんだ…?」



「んー、ワタシも直接は見たことがないけど、額に角を持っている種族であるはず…」

「すげぇ…、ケモミミ様だけでなく様々な種族がこの世界には居るんだな…」



 そういえば、最初に居た町でもエルフやトカゲのような外見の人たちが居たな…。



「少しだけでいいから、会って話をしてみたいな…」

「やれやれ…、どうやら人間以外にとても興味があるみたいですね…?」



「みんなは、この街で待っていてイイヨ!」

「えー、ボクも行く!」

「レストもぉー」

「じゃ、じゃあ、わたしも…」



 むむ。どうして、みんな着いてきたがるんだろうか…?



「そっか、じゃあ今度はゆっくり歩いて行こうか。イレーナ、その住処とやらの方向は分かるのかな?」



「え、ええ。あちらの方向に出て、右のほうに見えている山の方角だそうですね」

「おっけー!ありがとう。イレーナは、街で待ってる?」



「いや…、ワタシも行きます。信希が何をするかわからないから…」

「そ、そっか。じゃあ行こうか」



「「おっー!」」



 3人のかわいらしい掛け声とともに、鬼人の住処へ行ってみることにした。



 ──。
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