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王都
第二十二話 王都散策Ⅰ
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宿の食堂も、窓から見える外も、少し騒がしくなってきたころにはすっかり日は昇っていたが、イレーナとオレ以外は皆眠っているようだった。
「イレーナどうする?みんなを起こす?」
「せっかく休めているんだったら、起こさなくてもいいと思いますけど…」
「じゃあ、二人で王都見て回ろうか?」
「はいっ!置き手紙をしておきましょう」
イレーナの返事は、それまでの会話よりも少しだけ嬉しそうに、そしてとても可愛らしい笑顔をこちらに向けてくれる。
不意にそんな笑顔を向けられると、嫌でも意識してしまう…。オレは誤魔化すように席を立つ。
「じゃあオレも準備してくるね」
「はい、入口で待ってますね」
──。
すぐに準備を済ませ入口に向かうと、すでにイレーナは待ってくれていた。
他のみんなはまだ眠っていたようで『信希と出かけてきます』とだけ置き手紙を残してきたようだった。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
オレはこの世界に来てから初めての観光に、心を躍らせながら扉を開けた。
「ん…?あれ…?」
「信希?」
ちょっと待て…これってもしかしなくても…デートなのか?デートじゃないか?男と女が二人で街を散策って、デートだよね?あれ…?
「これってデートになる…?」
「でぇと?とは何でしょうか?」
「いや、何でもない!行こっか」
「はいっ」
ぱたぱたっと、イレーナはオレの側に寄ってくると─
「い、イレーナ…?」
「ダメですか…?」
オレの手を取り、上目遣いでそう問いかけてくる…。
「それは反則だって…、もちろん良いんだけど…」
「はい…」
「どこか行ってみたいところとかない?」
「特に…、あ。魔法具店には行きたいです。あっちだと思います」
「行ってみよう。それより魔法具って?」
イレーナの行きたい店へ向かいながら、魔法具について聞いてみる。
「はい。魔法を封じ込めている水晶みたいなもので、数度しか使えないものが多いですが便利なものが多いんです」
「ほぉー。今も持ってたりするの?」
「いえ…、この前使ってしまいましたから」
「使ったんだ?いつ?」
「そ、その…」
なんだか急にもじもじし始めるイレーナに、聞いちゃまずいかなと思いつつも、手を繋ぐ方がオレにとっては恥ずかしいと感じることなので、どうしたの?とイレーナを見つめる。
「信希がワタシの耳に触った時です…」
「なっ…それってどんな魔法具だったの…?」
「…清潔クリーンです…」
「クリーン?」
「全身を清潔にしてくれる魔法です…」
「…」
それってつまり…?
「魔法具を使ったのって、あの時の前?後?」
「もちろん前ですっ!」
「ごめん、気付かなかった…」
「別に…気付いてほしかったわけじゃないですから…」
オレに触らせるために、魔法具を使ったってこと…?それってなんだかものすごく愛おしい事じゃないかと考えてしまう…。
「なんだか嬉しいよ。ありがとうね?」
オレはそう言いつつ、繋いでいる手とは逆の手でイレーナの頭を優しくなでる。
「はい…。言うつもりじゃなかったのに…」
「それってかなり高価だったりする?」
「それほど高価なものじゃありません。高価だと使われる機会も限られますから…」
「そ、そうだよね」
少しぎこちなくなってしまい、二人とも無言で魔法具店に到着するまで手を繋いだまま歩を進める。
「ここです」
「入ってみよう」
魔法具店に入る。
店の中は元の世界で言う宝石店の様な感じで、綺麗な店舗の中に多くの仕切りがある箱が沢山並んでいて、その中に水晶がまとめられていた。
「イレーナはどんな効果が欲しいの?」
「使ってしまったものを補充と…そうですね、少し見てみます」
「オレも見てみよう」
二人ともが同時に『そうするだろう』と思っているかの様に繋いでいた手を離す。
この魔法具店には色々な種類の商品が販売されていた。
焚火を付ける程度の炎を何度でも発現できる水晶
使い切りだが十リットル程度の水を発生できる水晶
数度に亘り少量の水を凍らせることができる水晶
擦り傷を治療できる使い切りの水晶
その種類は本当に多く、あまり使えそうにないものから旅や冒険には必需品とも言える物も沢山販売されている。
値段も銅貨数枚から金貨数枚といった具合に、とても幅広く用途や使用回数によって変わっているようだ。
その中でもひと際興味の引かれる商品を見つける。
亜空間に何度でも接続でき、中に生物以外を保存できる水晶
「すごいな、こんなものまであるのか。値段は─」
金貨四十枚…か流石に高いな…。
「信希?ワタシの買い物は終わりましたけど…。それに興味が?」
「ああ、どんなものなんだろうって」
「大きな商会の方たちがこぞって使われている水晶ですね。話に聞いたことがあるだけですが、とても便利なものらしいです」
「なるほどねー」
行商なんかは、こういった魔法具を持ってるだけでかなりのアドバンテージになるよな。
「そういえば、イレーナも魔法具を作ったりできるの?魔法を使えるって言ってたよね」
そう言うと、イレーナは少し慌てたように近づいてきて─
「魔法が使える人は希少な存在です。あまり大きな声で…」
「ごめんっ、気が回らなかった」
「大丈夫ですよ。ワタシも言ってませんでしたね、すみません」
少しだけ店員の視線を感じたので、魔法関係で別の話題に逸らそうと試みる。
「魔法具を作るのは難しい?」
「そうですね…。魔法が使える人なら作れるとか…ですが大変な修練も必要だそうですよ?」
オレの意図を汲んでくれるかのように、イレーナは誤魔化してくれる。
「そうなんだね」
「封じ込める水晶は安価で大量に取引されています、使い切りでも再び魔法を封じることもできるみたいですから」
「へえー、買ってみようかな」
「ふふ、信希ならできるかもしれませんね?」
イレーナはそう言うと、店員の方へ歩いて行き封入用の水晶を十個ほど購入してくれた。
「では、次に行きましょうか」
「ああ、ありがとう」
店を出たオレたちは、どちらからというわけでもなく再び手を繋ぐ。
「さっきのお金は─」
「水晶十個で10ゴールドですから気にしなくてもいいですよ」
「あとで渡すよ」
「はい」
──。
「イレーナどうする?みんなを起こす?」
「せっかく休めているんだったら、起こさなくてもいいと思いますけど…」
「じゃあ、二人で王都見て回ろうか?」
「はいっ!置き手紙をしておきましょう」
イレーナの返事は、それまでの会話よりも少しだけ嬉しそうに、そしてとても可愛らしい笑顔をこちらに向けてくれる。
不意にそんな笑顔を向けられると、嫌でも意識してしまう…。オレは誤魔化すように席を立つ。
「じゃあオレも準備してくるね」
「はい、入口で待ってますね」
──。
すぐに準備を済ませ入口に向かうと、すでにイレーナは待ってくれていた。
他のみんなはまだ眠っていたようで『信希と出かけてきます』とだけ置き手紙を残してきたようだった。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
オレはこの世界に来てから初めての観光に、心を躍らせながら扉を開けた。
「ん…?あれ…?」
「信希?」
ちょっと待て…これってもしかしなくても…デートなのか?デートじゃないか?男と女が二人で街を散策って、デートだよね?あれ…?
「これってデートになる…?」
「でぇと?とは何でしょうか?」
「いや、何でもない!行こっか」
「はいっ」
ぱたぱたっと、イレーナはオレの側に寄ってくると─
「い、イレーナ…?」
「ダメですか…?」
オレの手を取り、上目遣いでそう問いかけてくる…。
「それは反則だって…、もちろん良いんだけど…」
「はい…」
「どこか行ってみたいところとかない?」
「特に…、あ。魔法具店には行きたいです。あっちだと思います」
「行ってみよう。それより魔法具って?」
イレーナの行きたい店へ向かいながら、魔法具について聞いてみる。
「はい。魔法を封じ込めている水晶みたいなもので、数度しか使えないものが多いですが便利なものが多いんです」
「ほぉー。今も持ってたりするの?」
「いえ…、この前使ってしまいましたから」
「使ったんだ?いつ?」
「そ、その…」
なんだか急にもじもじし始めるイレーナに、聞いちゃまずいかなと思いつつも、手を繋ぐ方がオレにとっては恥ずかしいと感じることなので、どうしたの?とイレーナを見つめる。
「信希がワタシの耳に触った時です…」
「なっ…それってどんな魔法具だったの…?」
「…清潔クリーンです…」
「クリーン?」
「全身を清潔にしてくれる魔法です…」
「…」
それってつまり…?
「魔法具を使ったのって、あの時の前?後?」
「もちろん前ですっ!」
「ごめん、気付かなかった…」
「別に…気付いてほしかったわけじゃないですから…」
オレに触らせるために、魔法具を使ったってこと…?それってなんだかものすごく愛おしい事じゃないかと考えてしまう…。
「なんだか嬉しいよ。ありがとうね?」
オレはそう言いつつ、繋いでいる手とは逆の手でイレーナの頭を優しくなでる。
「はい…。言うつもりじゃなかったのに…」
「それってかなり高価だったりする?」
「それほど高価なものじゃありません。高価だと使われる機会も限られますから…」
「そ、そうだよね」
少しぎこちなくなってしまい、二人とも無言で魔法具店に到着するまで手を繋いだまま歩を進める。
「ここです」
「入ってみよう」
魔法具店に入る。
店の中は元の世界で言う宝石店の様な感じで、綺麗な店舗の中に多くの仕切りがある箱が沢山並んでいて、その中に水晶がまとめられていた。
「イレーナはどんな効果が欲しいの?」
「使ってしまったものを補充と…そうですね、少し見てみます」
「オレも見てみよう」
二人ともが同時に『そうするだろう』と思っているかの様に繋いでいた手を離す。
この魔法具店には色々な種類の商品が販売されていた。
焚火を付ける程度の炎を何度でも発現できる水晶
使い切りだが十リットル程度の水を発生できる水晶
数度に亘り少量の水を凍らせることができる水晶
擦り傷を治療できる使い切りの水晶
その種類は本当に多く、あまり使えそうにないものから旅や冒険には必需品とも言える物も沢山販売されている。
値段も銅貨数枚から金貨数枚といった具合に、とても幅広く用途や使用回数によって変わっているようだ。
その中でもひと際興味の引かれる商品を見つける。
亜空間に何度でも接続でき、中に生物以外を保存できる水晶
「すごいな、こんなものまであるのか。値段は─」
金貨四十枚…か流石に高いな…。
「信希?ワタシの買い物は終わりましたけど…。それに興味が?」
「ああ、どんなものなんだろうって」
「大きな商会の方たちがこぞって使われている水晶ですね。話に聞いたことがあるだけですが、とても便利なものらしいです」
「なるほどねー」
行商なんかは、こういった魔法具を持ってるだけでかなりのアドバンテージになるよな。
「そういえば、イレーナも魔法具を作ったりできるの?魔法を使えるって言ってたよね」
そう言うと、イレーナは少し慌てたように近づいてきて─
「魔法が使える人は希少な存在です。あまり大きな声で…」
「ごめんっ、気が回らなかった」
「大丈夫ですよ。ワタシも言ってませんでしたね、すみません」
少しだけ店員の視線を感じたので、魔法関係で別の話題に逸らそうと試みる。
「魔法具を作るのは難しい?」
「そうですね…。魔法が使える人なら作れるとか…ですが大変な修練も必要だそうですよ?」
オレの意図を汲んでくれるかのように、イレーナは誤魔化してくれる。
「そうなんだね」
「封じ込める水晶は安価で大量に取引されています、使い切りでも再び魔法を封じることもできるみたいですから」
「へえー、買ってみようかな」
「ふふ、信希ならできるかもしれませんね?」
イレーナはそう言うと、店員の方へ歩いて行き封入用の水晶を十個ほど購入してくれた。
「では、次に行きましょうか」
「ああ、ありがとう」
店を出たオレたちは、どちらからというわけでもなく再び手を繋ぐ。
「さっきのお金は─」
「水晶十個で10ゴールドですから気にしなくてもいいですよ」
「あとで渡すよ」
「はい」
──。
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