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王都

第二十九話 作戦会議Ⅰ

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 イレーナの報告を受けてから、すぐにこの街を出れるように身支度を整える。

 大方、荷物がまとまったところでイレーナたちが「朝食にしましょう」と呼びに来てくれた。



 ──。



 もう慣れたように食堂へ行き席へ着く。



「みんなはもう話は聞いた?」

「信希、ここで話すのはやめておこう。あとで部屋に集まってからにしないか?」



「なるほど、わかったよ」



 今、この宿で朝食を取っている人たちの中にも関係者が居るのかもしれないとミィズが教えてくれる。

 少し考えるふりをして、みんなと雑談をすることにする。



「今日は何をしようか?どこか行きたいところとかある?」

「はいはいっ!ボク信希と出かけてない!」

「わたしもです…」



「昨日はお酒飲んでたからね、どこか行ってみたいところある?」

「ん-…?」

「い、一緒に居れればそれでも…」



 シアンとポミナは、オレと一緒に居る時間が少なかったから寂しかったみたいだ。

 そういえば昨日の夜も、シアンは寂しそうにオレのことを見ていた。



「オレも昨日のうちに色々やっちゃったからな」

「ダメェ?」



「ダメじゃないよ?行きたいところが無かったらオレに考えがある」

「なになに?どんな?」



「レストとユリアは服を買ったりしたんだけど、他のみんなはどう?」

「ボクも服持ってない!」

「わたしもこの服しか…」



「イレーナたちは?」

「ワタシは装束と旅路用と寝巻がありますから十分ですかね」

「ワシも必要ないかの」



「わかった。じゃあシアンとポミナ、あとで一緒に行こうね」

「うんっ」

「はい、お願いします…」



 そんな話をしていると、料理が運ばれてきたので各々食事をしていく。

 それからは特に大切な話をすることもなく、全員の食事が終わったので一度部屋に戻ることになった。



 ──。



「信希、一度ワタシたちの部屋へ行きましょう」

「ああ、わかった」



 イレーナはそう言うと、立ち上がり部屋へ向かっていく。



「みんなも行こうか」

「「はーい」」



 食事の片づけをして、全員で移動していく。

 食事中も少し気にしてみてはいたが、この宿の中には『オレたちを監視』しているようなヤツは居ないと予想した。オレ自身、そういったことは素人なので確証を持っているわけではないが、『想像の力』を利用するとなると話は別だ。



 自分の感覚を強化するイメージは、予想していたよりも便利だった。

 元居た世界でも何度か経験したことのある感覚で近いものがある。よくスポーツ界などで使われることの多い『ゾーン』に近い状態が続いている状態だ。

 少し違うところとしては完璧に制御出来ていることだろうか。

 視界が広くなり、視線を感じやすくなり、他のテーブルでの会話が聞こえたり、みんながどんな風に食事しているか、様々なことを瞬間的に理解できるこの力は「あまりにも強力だな」と感じざるを得なかった。



 この力を持ってしても、宿の中でオレたちのテーブルを見ていたり監視されているような感覚を覚えることは無かった。



 そんなことを考えているうちに、みんなの泊っている部屋の前に来ていた。



「どーぞー」

「ありがとう」



 そう言いながらレストが部屋の入り口を開けてくれる。

 みんなが部屋の中に入ったことを確認して、ミィズが最後に入って部屋に鍵をかける。



「信希?どうしました?」



 誰かが監視しているって話だから、そういった知識はアニメやゲームでそれなりに詳しい自信がある。

 こういう時の定石として、窓の外は必ず確認していく。

 食事の時にも使っていた感覚が鋭くなる力のせいか、これまで街の中を歩いていた時になぜ気付けなかったんだろうと思うくらいに、監視している人物をすぐに見つけることができた。

 もちろん『見つけた』なんて反応するつもりもないので、ただ外を見ているように豪快に伸びをして見せる。



「いい天気だな!」

「信希?」



 イレーナたちを無視しつつ、周囲の確認を続ける。

 この世界にオレの知らない技術や魔法がある以上、盗聴の可能性をゼロにすることは出来ない。

 これは少し問題で、ここで話している声を聴かれているのであれば間違いなく奴らはオレたちの行動を理解しているはずだ。

 あまり長く外を見続けていてもおかしいので、窓を閉じて振り返る。



 参ったな…。情報戦をしている以上、なるべくなら不確定な要素を取り除きたい。

 待てよ、これもオレの想像の力で何とかなるんじゃないか…?



 オレは、この部屋全体から音が漏れないように出来ないか試してみる。

 防音室を作るように、この部屋の壁にカーテンをするようになるべくイメージを鮮明にしていく。



「シアン?この部屋から少し出て、オレの声が聞こえないか試してみてくれないか?」

「うんっ!いいよ!どのくらい離れればいいの?」

「そうだな、階段くらいまで行ってくれれば問題ない。オレはシアンが部屋を出たら大声を出しているから、階段まで行って戻って来てくれればいいよ」

「うん!わかったぁ!」



 シアンに目的を告げずに、この部屋の防音が出来ているかの確認をしていく。



 そしてシアンが部屋を出てから、ある程度大きめの声で「あー」と続けていると再度ドアが開く。



「信希ぃ?全然聞こえなかった!」

「そうか、ありがとうね」



 シアンにこの役目を頼んだのは、このメンバーの中で聴覚が一番優れていると感じたからだ。

 多分だが、シアンは普段から部屋の向こう側の音まで聞こえていると予想している。



「信希?どうしたんですか…?」



 イレーナは不思議そうな顔でオレのことを見て尋ねてくる。



「ああ、外を確認したときに、こっちを監視しているヤツを見つけたから盗聴の心配をして、この部屋に防音を施してみた」

「と、盗聴…?」



 この世界にそういった知識はないみたいだ。

 だったらイレーナやユリアはどうやって監視しているヤツに気付くことができたんだ…?



「知らない?オレのいた世界では、監視や尾行している対象の会話を盗み聞きしたりすることを盗聴って言うんだよ」

「そ、そんなことが…」



「この世界でも、魔法やオレの知らない技術があるから、一応使っておこうと思って」

「もしかして、昨晩の会話も聞かれていたりしますかね?」



「ん-、イレーナが知らなかったくらいだから、この世界にはそうした技術が無いのかもしれない。でも、聞かれている可能性も考慮した方がいいかもしれないね。どんなことを離したか聞いてもいい?」



 それから、イレーナに昨晩話したという内容を聞き、もしも「聞かれていたら」という可能性も視野に入れることにした。



 ──。
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