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目的の旅
第五十九話 馬車魔改造計画Ⅵ
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イレーナに科学の説明をしていたせいですっかり脱線してしまったが、オレは魔法具の制作をしていく。
「炎と水生成は作っているけど、どちらも足りないだろうから作り直しだな」
「馬車で見せてくれた魔法具ですよね?使えないんですか?」
「ん-どっちも力不足なんだよね、旅の途中で使えたらいいと思って作ったやつだから」
「なるほど…?」
説明はしているけど、用途が分からないからそれは納得できないよな。
「完成した時にわかるかも」
「そうですか」
「やっぱり料理に使う炎なら、安定しているに越したことはないよな。じゃあ…」
やっぱり元居た世界に習って、ガスコンロのようにしてしまうのが一番便利だろうか…。
魔力を使うことでガスを発生させる。
魔力を使うことで炎を発生させて調節する。
「どっちがいいかな…」
「難しい事ですか?」
「イレーナにも見てもらおうか…ちょっとだけ危ないかもしれないから離れるね」
「危険なんですか?大丈夫ですか?」
「ああ、小規模にするから大丈夫」
オレはガスのイメージを作っていく。
天然ガスとかはそもそも意味が分からないから、ガソリンが揮発しているイメージをしていく。大きくなりすぎないように慎重に…。
そして、点火できるように火花を作る。
─ポンッ
「信希…今のは?」
「これがさっきも言ってた『ガス』って物質だね」
オレは次に、既に燃えている炎に燃焼物を追加していく炎をイメージしていく。
手のひらにイメージを集中させることで炎が発現する。そしてしばらく燃焼させて消していく。
「それが炎の魔法…」
「そうだね、どっちの方法でも炎を使うのに変わらないんだけど、どっちを使おうか迷ってね」
「どんな違いがあるんですか?」
「最終的には同じ方法なんだけど、前者は爆発する可能性があるんだよなぁ。でも元居た世界で使ってた方法だから…」
「爆発するんですか…?」
「さっきは少量のガスに点火したんだ。もし気付かずに漏れ出ていたりしたら、間違いなく爆発する」
「危ないかもしれませんね…?後者だとどうなるんですか?」
「ああ、あれは点いている炎に燃料を追加していくイメージの魔法だから安全とはいかないかもしれないけど、ガスよりは安全。だけど火力が安定するかどうかが不安な要素なんだよね」
「なるほど…料理をすると言っていましたね…」
「そうだね」
「実際に使ってみないと分かりませんけど、今のワタシたちも焚火で料理していますし、ある程度の不安定な炎に慣れているかと思いますけど…?」
「それもそうか、出来るだけ不安を減らしていくことにするよ」
イレーナの助言もあって、後者の方法を選択することにする。
できるだけ便利な方がいいけど、安全優先で。
「火力は申し分ないように、焚火より大きめをイメージしておこう」
オレは手早く魔法具を作っていく。
「おおっ!すごいです」
「うん、いい感じだね」
出来上がった水晶から、焚火よりも強い炎が立ち上っている。
「次は水生成だな」
そう、家の中で使うのなら配管の中を通すように馬車の中を創造している。
だから配管の中に水圧を掛けないといけないんだよね。
「水圧をかけて一定になったら停止するように作ってみよう」
「水圧…」
イレーナが水圧について聞きたそうだったので、先ほどのペットボトルと先日作った魔法具を組み合わせて手早く説明した。中で水を出し続け入口を手で塞いでもらうだけで水圧を理解することが出来るんだから、イレーナは天才という言葉が似合うのかもしれない。
「さて、この魔法具の問題は常時発動ってところなんだよな…」
オレは魔法具を作り始めて、常時発動の魔法具を作ったことがない。
どんな風にすればいいのか、また原理から考える必要がありそうだ──
「信希?常時発動なら馬車の中の空間はどうなっているんですか?」
「あ…」
もしかしなくても、オレは間抜けなのかもしれない。
「ちょ、ちょっと馬車を見てくる」
「はい」
馬車に駆け寄って、先ほど作った魔法具が稼動しているか確認してみる。
「ちゃんと広いままだ」
だとしたら…。ああ、そうだ。オレの魔力に依存させることで常時発動の概念を作っていたじゃないか。
あれをそのまま使えばいいだけだ。
オレはすぐにイレーナのいるところに戻る。
「できそうですか?」
「ああ、これまでにもやっていた方法があった」
「それはよかったです」
あとは水圧を感知するようにできればいいんだけど…。
水晶の中に空間をイメージして、そこから水を出すとして…。出ていった水たちで水圧が上昇したら、水晶の中から水が出てこなくなるのはどうだろう。
「よし…作ってみるか」
先日作った水生成の魔法具よりも難易度は高くなっているけど、イメージとしてはかなり鮮明にすることが出来ているので上手くいってほしい…。
「出来たか…?またペットボトルを使って試してみるか…」
ペットボトルの中で水を出し続け、破裂寸前に水が止まってくれればいいんだけど…。
ペットボトルの中に水晶を入れて、魔法具を発動させてみる。
水生成の部分は問題なく成功しているみたいだ。かなりの水量を使うことを想定しているので、放出される水の量も多めに設定した。
ペットボトルが満水になる手前でキャップを閉めて様子を確認する。万が一があるので、少し離れたところにペットボトルを置いておく…。
「頼む成功してくれ」
「何がどうなっているですか…?」
一分ほど経過したが爆発する様子はない…。
「行けてそうだな」
「…?」
オレは再びペットボトルのキャップを外していく。
キャップが外れると勢いよく水が溢れてくる。
「うはぁ、濡れちゃったよ」
ちゃんと機能しているのが確認できたので問題ない。
「信希…?これはどういう…?」
「これも完成した時によくわかるかもしれないね」
「そうですか…よく覚えておきます」
次はお湯だな。水と合わせて使うことを考えたら四十五度くらいのお湯がいいんじゃないだろうか。
給湯器なんかのお湯は何度で作られているんだろうか。流石にそこまでは知らない…。
「お湯はお湯だよな…どうやってイメージするか…飲むこともあるだろうから、温泉ってわけにはいかないな。次作る機会があったら天然温泉も作りたいな…」
だとしたら、水生成と一緒で湧き水をイメージしてそれを温めればいいか。そして、水圧検知も合わせて…。
少しだけイメージが難しいが、オレは水晶に魔法を刻んでいく。
「よし、いい感じだな」
オレは出来上がったお湯生成の魔法具も試運転させておく。
もう一つペットボトルを取り出し、同じように中で発動させていく。
「うん。問題ないな」
「同じ魔法具ですか?」
「ん?ああ。こっちはお湯だよ」
「本当だっ。でも、ちょっと熱すぎませんか?」
「うん、大丈夫だよちょっと熱めにしておいて問題ない」
「な、なるほど…?」
「信希…?」
「ん?どうした?」
「信希は水をどうやって魔法で作っているんですか?」
「ああ、オレは湧き水をイメージしてる。湧き水って分かる?」
「はい。もちろんです…けど、それで水魔法が使えるんですか…?」
「うん、使えてるけど…。イレーナは出来ない?」
「やったことがないので何とも…」
「試してみたらどう?」
「や、やってみます…」
イレーナは少し緊張しているような様子で水魔法に挑戦するみたいだった。
「あんまり緊張しすぎないようにね?」
「はい…」
うぅむ、うぅむとイレーナが唸っているので、その様子が可愛くてついつい手が止まってしまうのも仕方がないだろう。
「ん-…難しいです」
「そうだなぁ、オレは目の前に湧き水の源泉をイメージしてるんだよね。『ここから水が出ます!』って感じが一番しっくりくるかも」
「なるほどっ!」
「出来るだけ鮮明にね」
イレーナはこれまでに見たことのないくらいに集中しているようだった。
三十秒ほど経過しただろうか、イレーナは「むぅー」と言いながら頑張っている。とても可愛い。最高かもしれません。
「水が出てくるイメージが出来たら、水を出したいところに魔力を集中させる感じ」
「あっ──」
「おお!できたじゃん!」
イレーナの掲げていた両手の当たりから、水道よりは弱いけどちゃんと水が生成されていた。
「ほ、本当にできちゃいました…」
「やっぱりイメージだったんだね。すごいじゃないかイレーナ!」
「信希のおかげです!ありがとうございますっ──」
よほど嬉しかったのか、イレーナはオレに勢いよく抱き着いてくる。
えー…。最高です。このハグが頂けるのなら、私はなんでも教えて差し上げます…。
「よかったな。オレも嬉しいよ」
「はいっ!ありがとうございますっ!」
ふぅ…。彼女の笑顔は何度も見てきたが、これまでにない最高の笑顔だ…。可愛すぎる…。イレーナ可愛い…。可愛いイレーナ…。
オレたちはしばらく『イレーナの初めての魔法』に喜びあっていた。
──。
「炎と水生成は作っているけど、どちらも足りないだろうから作り直しだな」
「馬車で見せてくれた魔法具ですよね?使えないんですか?」
「ん-どっちも力不足なんだよね、旅の途中で使えたらいいと思って作ったやつだから」
「なるほど…?」
説明はしているけど、用途が分からないからそれは納得できないよな。
「完成した時にわかるかも」
「そうですか」
「やっぱり料理に使う炎なら、安定しているに越したことはないよな。じゃあ…」
やっぱり元居た世界に習って、ガスコンロのようにしてしまうのが一番便利だろうか…。
魔力を使うことでガスを発生させる。
魔力を使うことで炎を発生させて調節する。
「どっちがいいかな…」
「難しい事ですか?」
「イレーナにも見てもらおうか…ちょっとだけ危ないかもしれないから離れるね」
「危険なんですか?大丈夫ですか?」
「ああ、小規模にするから大丈夫」
オレはガスのイメージを作っていく。
天然ガスとかはそもそも意味が分からないから、ガソリンが揮発しているイメージをしていく。大きくなりすぎないように慎重に…。
そして、点火できるように火花を作る。
─ポンッ
「信希…今のは?」
「これがさっきも言ってた『ガス』って物質だね」
オレは次に、既に燃えている炎に燃焼物を追加していく炎をイメージしていく。
手のひらにイメージを集中させることで炎が発現する。そしてしばらく燃焼させて消していく。
「それが炎の魔法…」
「そうだね、どっちの方法でも炎を使うのに変わらないんだけど、どっちを使おうか迷ってね」
「どんな違いがあるんですか?」
「最終的には同じ方法なんだけど、前者は爆発する可能性があるんだよなぁ。でも元居た世界で使ってた方法だから…」
「爆発するんですか…?」
「さっきは少量のガスに点火したんだ。もし気付かずに漏れ出ていたりしたら、間違いなく爆発する」
「危ないかもしれませんね…?後者だとどうなるんですか?」
「ああ、あれは点いている炎に燃料を追加していくイメージの魔法だから安全とはいかないかもしれないけど、ガスよりは安全。だけど火力が安定するかどうかが不安な要素なんだよね」
「なるほど…料理をすると言っていましたね…」
「そうだね」
「実際に使ってみないと分かりませんけど、今のワタシたちも焚火で料理していますし、ある程度の不安定な炎に慣れているかと思いますけど…?」
「それもそうか、出来るだけ不安を減らしていくことにするよ」
イレーナの助言もあって、後者の方法を選択することにする。
できるだけ便利な方がいいけど、安全優先で。
「火力は申し分ないように、焚火より大きめをイメージしておこう」
オレは手早く魔法具を作っていく。
「おおっ!すごいです」
「うん、いい感じだね」
出来上がった水晶から、焚火よりも強い炎が立ち上っている。
「次は水生成だな」
そう、家の中で使うのなら配管の中を通すように馬車の中を創造している。
だから配管の中に水圧を掛けないといけないんだよね。
「水圧をかけて一定になったら停止するように作ってみよう」
「水圧…」
イレーナが水圧について聞きたそうだったので、先ほどのペットボトルと先日作った魔法具を組み合わせて手早く説明した。中で水を出し続け入口を手で塞いでもらうだけで水圧を理解することが出来るんだから、イレーナは天才という言葉が似合うのかもしれない。
「さて、この魔法具の問題は常時発動ってところなんだよな…」
オレは魔法具を作り始めて、常時発動の魔法具を作ったことがない。
どんな風にすればいいのか、また原理から考える必要がありそうだ──
「信希?常時発動なら馬車の中の空間はどうなっているんですか?」
「あ…」
もしかしなくても、オレは間抜けなのかもしれない。
「ちょ、ちょっと馬車を見てくる」
「はい」
馬車に駆け寄って、先ほど作った魔法具が稼動しているか確認してみる。
「ちゃんと広いままだ」
だとしたら…。ああ、そうだ。オレの魔力に依存させることで常時発動の概念を作っていたじゃないか。
あれをそのまま使えばいいだけだ。
オレはすぐにイレーナのいるところに戻る。
「できそうですか?」
「ああ、これまでにもやっていた方法があった」
「それはよかったです」
あとは水圧を感知するようにできればいいんだけど…。
水晶の中に空間をイメージして、そこから水を出すとして…。出ていった水たちで水圧が上昇したら、水晶の中から水が出てこなくなるのはどうだろう。
「よし…作ってみるか」
先日作った水生成の魔法具よりも難易度は高くなっているけど、イメージとしてはかなり鮮明にすることが出来ているので上手くいってほしい…。
「出来たか…?またペットボトルを使って試してみるか…」
ペットボトルの中で水を出し続け、破裂寸前に水が止まってくれればいいんだけど…。
ペットボトルの中に水晶を入れて、魔法具を発動させてみる。
水生成の部分は問題なく成功しているみたいだ。かなりの水量を使うことを想定しているので、放出される水の量も多めに設定した。
ペットボトルが満水になる手前でキャップを閉めて様子を確認する。万が一があるので、少し離れたところにペットボトルを置いておく…。
「頼む成功してくれ」
「何がどうなっているですか…?」
一分ほど経過したが爆発する様子はない…。
「行けてそうだな」
「…?」
オレは再びペットボトルのキャップを外していく。
キャップが外れると勢いよく水が溢れてくる。
「うはぁ、濡れちゃったよ」
ちゃんと機能しているのが確認できたので問題ない。
「信希…?これはどういう…?」
「これも完成した時によくわかるかもしれないね」
「そうですか…よく覚えておきます」
次はお湯だな。水と合わせて使うことを考えたら四十五度くらいのお湯がいいんじゃないだろうか。
給湯器なんかのお湯は何度で作られているんだろうか。流石にそこまでは知らない…。
「お湯はお湯だよな…どうやってイメージするか…飲むこともあるだろうから、温泉ってわけにはいかないな。次作る機会があったら天然温泉も作りたいな…」
だとしたら、水生成と一緒で湧き水をイメージしてそれを温めればいいか。そして、水圧検知も合わせて…。
少しだけイメージが難しいが、オレは水晶に魔法を刻んでいく。
「よし、いい感じだな」
オレは出来上がったお湯生成の魔法具も試運転させておく。
もう一つペットボトルを取り出し、同じように中で発動させていく。
「うん。問題ないな」
「同じ魔法具ですか?」
「ん?ああ。こっちはお湯だよ」
「本当だっ。でも、ちょっと熱すぎませんか?」
「うん、大丈夫だよちょっと熱めにしておいて問題ない」
「な、なるほど…?」
「信希…?」
「ん?どうした?」
「信希は水をどうやって魔法で作っているんですか?」
「ああ、オレは湧き水をイメージしてる。湧き水って分かる?」
「はい。もちろんです…けど、それで水魔法が使えるんですか…?」
「うん、使えてるけど…。イレーナは出来ない?」
「やったことがないので何とも…」
「試してみたらどう?」
「や、やってみます…」
イレーナは少し緊張しているような様子で水魔法に挑戦するみたいだった。
「あんまり緊張しすぎないようにね?」
「はい…」
うぅむ、うぅむとイレーナが唸っているので、その様子が可愛くてついつい手が止まってしまうのも仕方がないだろう。
「ん-…難しいです」
「そうだなぁ、オレは目の前に湧き水の源泉をイメージしてるんだよね。『ここから水が出ます!』って感じが一番しっくりくるかも」
「なるほどっ!」
「出来るだけ鮮明にね」
イレーナはこれまでに見たことのないくらいに集中しているようだった。
三十秒ほど経過しただろうか、イレーナは「むぅー」と言いながら頑張っている。とても可愛い。最高かもしれません。
「水が出てくるイメージが出来たら、水を出したいところに魔力を集中させる感じ」
「あっ──」
「おお!できたじゃん!」
イレーナの掲げていた両手の当たりから、水道よりは弱いけどちゃんと水が生成されていた。
「ほ、本当にできちゃいました…」
「やっぱりイメージだったんだね。すごいじゃないかイレーナ!」
「信希のおかげです!ありがとうございますっ──」
よほど嬉しかったのか、イレーナはオレに勢いよく抱き着いてくる。
えー…。最高です。このハグが頂けるのなら、私はなんでも教えて差し上げます…。
「よかったな。オレも嬉しいよ」
「はいっ!ありがとうございますっ!」
ふぅ…。彼女の笑顔は何度も見てきたが、これまでにない最高の笑顔だ…。可愛すぎる…。イレーナ可愛い…。可愛いイレーナ…。
オレたちはしばらく『イレーナの初めての魔法』に喜びあっていた。
──。
応援ありがとうございます!
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