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転機

第九十四話 王との出会い

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 オレたちが乗り込むとすぐに出発した馬車は、特に何が起きるわけでもなく王城へたどり着くことが出来た。

 本来のオレであれば、王様に会うなんて面倒なことは絶対にお断りなんだけど…。今回はヨーファとカフィンに加え、この国に何人もいるであろう獣人の孤児たちのために行動しているのだから仕方ないと言い聞かせて頑張ろう…。



「信希様、そろそろ到着いたします」

「ああ。わかったよ」



 馬車の中で会話は特になく、オレが孤児たちの事を考えるには十分な時間だった。

 考えていることの半分くらいでもうまく行けばいいんだけど…。この国の連中が、どのくらいのレベルでどういった貴族がいるのかで変わってきそうな案件でもあるよな…。



「信希…?お願いですから国を滅ぼすようなことは…」

「大丈夫だって、ヨーファとカフィンのためでもあるんだから。あとはこの国がどう出てくるかって感じだよ」



「かっかっか。確かに信希の言葉は信用ならんよな。特にケモミミ様が絡んでいる時は、ワシらの全力でも止めることなどできだろうからな」

「確かにな」



「みんなして…、少しは成長してないかなぁ?ねぇ、イレーナ?」

「どうでしょうね?今回の話し合いでよくわかるかもしれませんね」



 よーし、じゃあ本気を見せてあげようじゃないの。交渉術ってやつだ!

 それから少しだけ気になったことを聞いてみる。



「ち、ちなみにみんなからのアシストはあったりするのかな…?」

「アシストですか?ワタシたちは、信希がどういう交渉をするのかも知りませんけど…?」



「デ、デスヨネー…」

「まぁ、ワシら余計な口出しをしない方がうまくまとまるかもしれぬぞ?」

「そうだな。どうしようもなくなった時は、私らを頼ってくれていい。出来る限りで助力しよう」



「ありがとうね…?」



 少しだけ不安になってしまったが、これもオレが言い出したことだ。頑張って良い結果を持ち帰れるようにしよう。



「到着したようです。もう降りても平気なので、私から失礼します」



 ユフィの言葉で、オレたちが王城に到着したことを確認する。



「今日は正面の入り口なんだね…。あ、みんな手を貸すよ」



 馬車を降りた時の光景に少しだけ驚いてしまった。

 騎士風の連中がずらりと並んでいて、城の入口まで列を作っている。



 彼女たちはお礼を言いつつ馬車から降りていき、全員が降りたところで馬車が城とは反対の方向へ進んでいった。



「圧巻ですね…」

「流石に御使い様といった感じだな」

「私も初めて見たから驚いている」



 それぞれの感想を聞きながら、やっぱりすごい光景なんだろうなと思わされる。



「こちらへどうぞ」

「うん。ありがとう」



 ユフィは慣れているのか、臆することもなくオレたちの案内を徹底しているようだった。

 そのまま、城への入り口だろう大きな門をくぐり、階段を進み少しだけ廊下を進んだところでユフィが立ち止まる。



「こちらで少々お待ちを」



 ユフィはそう言うと、入口の近くに居た連中に目配せをして、扉を少しだけ開いていた。そしてすぐに──



「お待たせいたしました。王の準備も整っております」



 少しばかり仰々しい音を立てて開く扉の先は、かなりの人数で埋め尽くされていて、広い部屋の先にはいかにも王様といった風貌をした男が椅子に座っていた。

 そして、オレたちが見えると同時にその男は立ち上がり、小高い所にある玉座から降りていた。

 入口の扉を開けたまま、ユフィは何も言わずにオレたちが動き出すのを待っているみたいだった。



「じゃあ、いこうか」



 みんなの返事が聞こえなくて少しだけ不安に感じたが、今はそれどころではない。ちゃんと自分の役目に集中していく。



「信希様、イレーナ様、ロンドゥナ様、もう一名の御方は存じ上げませんが…、よくぞお越しくださいました。ご足労いただき感謝いたします」

「彼女はミィズ。鬼人と言えば伝わるかな?」



「失礼いたしました。ミィズ様ですね。本日はお越しいただきありがとうございます」



 王様自らの対応としては、随分と丁寧な挨拶だなと感じた。

 その言葉を発した後に、顔をあげる王様の表情を見ていると驚くべき事実を確認する。



 あの時、ヨーファとカフィンを港で見つけて、連れて帰っている時に話しかけてきたあの男だった。



「私は、ルーファー・イール・グランシア・イダンカ。この国の国王です」



 そう言いながら、オレをまっすぐに見つめてウインクをしてくる。

 まさかとは思うが、あの時会ったことは黙っておいてほしいということだろうか…。いや、これは逆に利用できるかもしれないから黙っておこう。



「オレは林信希だ。格式ばったのは苦手なんだ、失礼が無いようにいつも通り会話させてもらうぞ」

「もちろんですとも、我々に気を使っていただきありがとうございます。それで、今日は『お願い』があると伺っておりますが、どんな内容なのか伺ってもよろしいですか」



「もちろんだ、手短に行こう。この国には獣人の孤児たちがいるみたいじゃないか?その子供たちを保護して、教育と生活できる環境を整えてもらいたい」

「なるほど…、その『子供たち』は獣人だけしか含まれないのでしょうか?」



「というと?」



 まさかとは思うが、人間種の孤児もいるとでもいうのだろうか…。

 そもそもが、獣人が多く孤児になっている時点で、人口量も多い人間は人間同士で面倒見ていればいいと思うが…。



「孤児は他の国からも流れてくることがあります。人間種も、もちろん獣人も」

「その辺は管理してくれる人に任せるつもりだ。獣人を優先してくれれば問題ない」



「なるほど──」



 王がオレと会話している時に『そいつ』は声をあげた。



「何を偉そうにしているのだ!御使い様の名を語る蛮族が!獣人などを優先させるわけがないだろう!!」



 その声のする方へ視線を向けるが、どいつが舐めたこと言ってるのか確認できなかった。



「へぇ、オレがどうしてここにいるのかも分からないやつがここにいるんだ?」

「信希様、どうかご容赦いただきたく──」



「必要ないよ」



 別にイラついているわけではない。むしろ、これはチャンスだと思った。



「『獣人を優先させない』だったか?そもそも何故獣人の孤児がたくさんいるんだろうなぁ?」

「そんなの決まっておるだろう!あやつらは無能な生き物だからだ!!」



 声の持ち主は確認できた。如何にも偉そうで、確実にオレの嫌いなタイプの人間だ。



「おいおい、それはここに居る白狐人族にも言っているのか?」

「っはん!そやつらも、どうせお前が準備した偽物だろう!自分の事を御使い様に見せるために必死なのだろう!」



「へぇ、そいつは面白い冗談だ──」



 オレが怒っていると思ったのか、イレーナが駆け寄ってくる。



「ま、信希っ!ワタシは大丈夫ですから、どうかっ──」

「大丈夫。怒ってないから」



 オレはそう言いつつ、イレーナに笑顔を向けて彼女が安心するようにしてみる。



 そして、どうして対応しないのかとばかりに王様へ視線を向けると、真剣な眼差しでこちらを見つめていた。



「はぁ、やれやれだな」

「信希…?」



 いまだに心配そうにオレにしがみ付いているイレーナの手を握りしめて、オレは言葉を続ける。



 ──。
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