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転機

第九十六話 獣人のこれから

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「まず始めに、この国のため獣人や孤児たちのために、行動を起こしてくれたことに感謝させてください」

「気にしなくていいよ、それに普通にしてくれ。御使い様なんて役目を持ってるだけで、今は普通の人間なんだから。それに堅苦しいのは苦手なんだ」



「かしこまりました。では、いつも通りにさせてもらいます。信希さん本当にありがとう」



 そこまで真剣に感謝され続けると照れくさくなってくるな…。



「王様がルーファーでよかったよ。流石に獣人全員を面倒見切れるほどの余裕はないからな…」

「そうですか、ならばよかったです」



「じゃあ、これからの話を詰めて行こうか」

「そうしましょう。皆、よく聞いて分からないことがあれば必ず聞くように」

「「御意に──」」



 それから、どのくらいの時間会議をしていただろうか…。少なくとも、昨日も出されていた紅茶を四杯くらいは飲んでいたからな…。



 会議で決まった内容はだいたいこんな感じだ。

 孤児院を開く場所として、王城の近くの広場と王城の一部を利用して建物を建てる。仮の物件はオレが用意することになった。孤児になっている人数が分からないので、とりあえずは五十人くらいが生活できる規模建物を作るの予定だ。随時追加していくらしい。



 次に、教育と管理は国営になることになった。この国王の直轄であるならかなり安心できそうだ。教育の水準はオレの要望が通って、この世界で生きるのに問題ない程度の知識と経験を。シアン、レスト、ポミナの事で説明しながら生き方も知らない獣人が居ることを説明した。



 食料問題も出てくる。孤児院にいる子供たちには、自分たちで働くことの大切さを知ってもらうために、自分たちで野菜や牧畜といった食料を育てるための活動をしてもらうことになる。それが教育にも繋がってくる、そして生きるための知識でもあるわけだ。足りない分は国が賄っていくらしい。オレも少しは協力するべきだな…。



 そして、騎士たちになるものを育てるためにもなるということで、剣術や体術も学ぶ事になるらしい。これは王様がそれくらいの見返りがないと、貴族たちも納得しないという配慮らしいのでしょうがないな。

 主に男性には剣術や体術、女性には裁縫や家事、自分にできた子供の教育といったものが施されるらしい。切り分けるのではなく、望む者にはどちらの教育もしてくれるみたいだ。



 その他、この国や世界で当たり前の常識も教えられるみたいだ。



 衣食住に関しては素早く準備して、農業用地や家畜の準備など、やることの課題は山積みだけど、ひと月以内に軌道に乗せるように全力で行動してくれるみたいで本当に助かった。オレも長期間の滞在は望ましくないからな。



「こんな感じだろうか」

「うん。とりあえずはこれで様子見って感じだね。あとは随時足りないものを追加していけば、それなりに上手くいくんじゃないかな」



「信希さん、それで報酬の話なのだが全員を退出させてからということで…」

「報酬?まぁ…、わかった」



「では、皆迅速に行動するように頼む!報告は大臣に、補佐もしっかり頼む」

「「御意に──」」



 ガタガタと音を立てながら、これだけの人数がこの会議に参加していたのかと思わされながら圧倒されていると、ユフィが追加のお菓子やお茶を準備していて、まだ帰れないんだろうなと覚悟を決めることになった…。



 オレの要望はかなり通った。

 これだけの施設であれば、もしもこれから他の国に行ったときに獣人の孤児を見つけても、すぐに保護できるようになったのはかなり大きな収穫ではないだろうか。



「ん…待てよ…」

「信希?どうかしましたか…?」



 待て待て…、待ってくれ。

 もしかしてだけど、この獣人の孤児院を作ったということは、ケモミミの楽園を作ることに成功したのでは…?



「まさか…、こんなに簡単に天国を作ることが出来るなんて…」

「……」



 いやいや、そう考えるのは早計だ。落ち着くんだ…。

 獣人の孤児たちが多いことはとても悲しいことだ。そして、そうさせないために孤児院なるものを作っていたはずだ。

 そう、ここに間違いはない。

 だけど…、かわいいケモミミおにゃのこたちが集まるのは必然…。野郎たちも自然と集まってくるのは癪だが…。いや、お前の目的はそうじゃなかっただろ。



「信希、もしかして、孤児たちの女の子をどうにかしようと思っていますか?」

「いやいやっ!待ってくれ!そんなことをするわけがないじゃないか!?」



「本当ですかぁぁぁ?」



 イレーナの方を確認した時には、いつも通りの可愛いジト目を向けられていたが、子供たちをどうにかしようなんて考えてすらいなかった。



「もしかしたら、かわいいケモミミをいっぱい見ることが出来るんじゃないかって、そう思っただけだよ…」

「つまり、孤児院にはちょこちょこ来るつもりなんですね?」



「それはもちろん!どんな風になっているかの確認は必要だし、子供たちの教育や訓練にも興味があるしな」

「まぁまぁ、イレーナ信希の言うことも一理あるじゃろて、それにイレーナも一緒に来ればいいだけのことよ」

「そう…ですね」



 ふぅ…。なんとかなったみたいだ。

 ミィズのフォローに感謝しつつ、最高のケモミミ楽園が出来ればいいなと考えた。

 もしもそうなったら、孤児が沢山いることになるから、それはそれで困るんだけど…。



「とりあえず、形だけでも作れるみたいで一安心って感じだな」

「うまく行ったみたいでよかったです」

「そうだな。ヨーファとカフィンが、ちゃんと生活できるようになったのは私も素直に嬉しい」



 そうだな、これでヨーファとの約束も果たせることになる。

 これから先も、問題が出てくるからある程度の管理…。いや、そこまで口出しするのは良くないのだろうか。視察程度を繰り返すのがいいんだろうか。

 これも自分の課題としておこう。



 そんなことを考えているうちに、会議に参加していた貴族連中は部屋を出ていき、必要な会話や王への報告をしている連中も話を済ませたようだった。



 ──。
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