初めまして、幼馴染殿

三月 深

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19.対面

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昼休みに一年生の教室の前を通るということが何よりの間違いだった。

今から私のクラスに行こうとしていたらしい一年生が片っ端から直接渡してくる。

突っ返すわけにもいかず全て受け取っていると、もはや持っていられるレベルではなくなってしまった。

それでもまだ渡してくる者が居るものだから、私の周りには人だかりが出来、一年四組に行くどころではない。

仕方ない、たーこでも呼ぶか…、と思ったその時背後から

「すみませーん!道をあけて下さい!」

と声が聞こえてきた。

振り返れば、何やら小さな女の子がこっちに人を押し退けて来ているのがわかる。

そうして私の前に来たのは、その、黒田ことりだった。

たーこの資料によると百四十八センチしかないらしいその小さな体をぐっと伸ばして私を見上げて言う。

「その様子だと、私に用事ですよね」
「あ、あぁ、まぁそうだが…」

すると彼女は「ついて来て下さい」と言って、その小さな制服のポケットから何かを取り出して右の上腕に付ける。

そして廊下の道を塞ぐ生徒に言い放った。

「生徒会本部です!ただちに道をあけて下さい!」

と。

  ◆

黒田ことりの言葉により開かれた道を通って、私が連れてこられたのは生徒会室だった。

重々しい扉で閉じられたその部屋の中に入るのは初めてだ。

「生徒会役員だったたんだな」

という私の言葉に、黒田がくるりとこちらを向いて

「はい」

と頷く。

「道をあけてくれたのはありがとう」
「いえ、贈り物は全て教室に運んでおくので」

キリッとしたすまし顔でそんなことを言う。

贈り物、とやらにカッターの刃を仕込んだとは思えない演技だ。

「やっぱり生徒会役員というのはかなりの権限を持っているんだな」
「まぁ、本部役員ですから」

昨日クラスに来て散々騒いでいったことなど忘れたかのよう。

「その本部役員さんとやらは人の喰うカップケーキにカッターの刃を仕込むことも許されるのかな?危うく幼馴染みが口内を怪我するところだったよ」
「まさか。あれは忠告です」

黒田はゆったりとした動きで、机に手を置く。

「忠告というと?」
「生徒会からの、忠告です」

どういうことだ。と言おうとすると、キーンコーンカーンコーン…と始業のチャイムが鳴った。

「ほら、昼休みは終わりです。教室に戻りましょう、先輩」

昼休みは大した収穫は無いようだった。

  ◆

その放課後、私は大量のカップケーキを抱えてヒロと家に帰ろうとした所、一通のメールが届いた。

『黒田ことりです。放課後、奈良木先輩と共に生徒会室にいらしてください』

なんとも簡素なメールだ。

あの子は何を考えているのだろうか。

ていうか何処でメールアドレスを知ったんだ?

「どうしたの、はるねちゃん?」

と、ヒロが隣から携帯を覗きこんでくる。

「ヒロ、目的地変更だ。殺人予告の犯人殿に会いに行こう」
「えっ、黒田さん?」
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