56 / 95
56.新しい執事
しおりを挟む
横たわるアリシアはゆっくりと体を起こして行く。
周りを見回すと、四方を氷の壁で覆われた寝室のベッドの上に居る。
寒さは感じない、何が起きたのか思い返しても、胸を貫かれた自分に響が駆け寄り、抱き抱えられた所までしか思い出せないのだ。
頭お抱え考え込むアリシアが意識を集中していると、四方を取り囲む氷の壁に画像が浮び上がって来る。
えッ! ここは………レオンの中かしら? ティスさん?
右の壁に浮ぶ映像には、ポットに泣き縋るティスの姿があった。
そしてその奥には、別のポットに縋り付くクロエが、福笑いのように崩れた泣き顔で、ポットの中を覗きながら話し掛けていた。
響さん? どうして………さっき助けてくれたのは………
そのポットの中にうっすらと見える横顔は、先程アリシアの前に現れた響の横顔であった。
その頃、ランベル王国、王都サリュースの冒険者組合と『ファルコン』では、ワーウルフの襲撃で冒険者七名、ガズール帝国からの使者一名が亡くなり、残された十名も重軽傷を負っていた。
その中には、首を跳ねられた謎の悪魔、右腕を無くしたマゼンタも含まれており、マゼンタの出血は多かった事もあり、今だ生死の境を彷徨ていた。
「ワーウルフの襲撃を王国警備隊に連絡して! ここに居る冒険者は、アリシアの行方を捜索! 四人一組で捜索にあたって! 情報は全て冒険者組合の、私の所へ集めて欲しい!」
『ファルコン』に食事に来ていたマリア組合長は、今回の襲撃の内容を確認し、次々と冒険者達に指示を出して行く。その指示を受けた冒険者達も、捜索の区画割を済ませて次々と飛び出して行く。
「マギー、今日はこれで店を閉めて、戸締りをしっかりとするんだよ! 念のために冒険者二人をおいて行くから………まぁ、あの二人のメイドが居れば、大丈夫だろうけどね! まったく、ジュリアンの奴は、肝心な時に居ないんだから………」
「はい、マリア様、ありがとうございます」
マギーは、アルン村の生き残りだ。
マリア組合長は、マギーに近づき奥に居る二人のメイドを見て、他のメイドとは違う雰囲気を感じたようだった。
それもその筈である。その二人こそシ-ドル公爵家襲撃の際に、アリス騎士団長と共に生き残ったメイド騎士なのである。ジュリアン達がいない時の、アリシアと店の警護のために配置されていたのだ。
しかし、アリシアの出前にあれだけの冒険者が付いて行った事で、彼女達の警戒心も薄れていた。
今二人のメイド騎士は、メンテナンスでアリス騎士団長と連絡が取れず。店の警護の為アリシア捜索に行けない事を、死んでしまいたい程悔やんでいた。
せめてどちらか一人でも付いていればと………。
「公爵様、王国警備隊より。旧シ-ドル公爵家跡の付近で、ワーウルフと冒険者の戦闘があったとの報告が参りました。前任の奴も亡くなったようなので、これより私がお側に付きます」
ム-ス公爵の側には、亡くなった執事と同じ容姿と服装をした老齢の執事が立っていた。一人の執事が死んでも、その後埋める悪魔の代わり等は、幾らでもいたのである。
「あの執事を倒した奴とは、どのような奴なんだ! あの執事は、儂が知る限りでも、相当な手練れだったはずだ………ワーウルフも三匹もいたんだぞ! それをあっさり殺す奴が、近くに居るのか? ガルニアは、なんと言っているのだ?」
「落ち着きなされませ。今調べております。私は前任者よりも強ようございますので、ご安心を」
その老齢な執事の目は、ム-ス公爵を恐怖に追い込むのに、十分な鋭さを放っていた。
「そっ、そうかぁ~それなら安心だ………」
「公爵様、ガズール帝国は我ら秘密結社アーネストが、ほぼ手中に治めました。近くこのランベル王国に、兵を進める事になるでしょう。その時には、貴方様もカ-ル・オクタ-ビア大公に、取って変わって頂きませんと、主ガルニアが痺れを切らしてしまいますぞ」
ム-ス公爵の新しい執事は、手始めに前の執事とは違うと言う事を、公爵に理解させるのであった。
ム-ス公爵家は、平民からの成り上がり貴族であり、ここまでになる為に数代に渡って、悪魔ガルニアが手を尽くして来た経緯があったのだ。隣国のガズール帝国が他の者の手により、秘密結社アーネストの手に落ちた事で、悪魔ガルニアも焦り始めていた。そのような所での今回の失態である。悪魔ガルニアも、後が無くなっていたのだ。
「分かっておる。それよりも手筈は大丈夫なんだろうな? ガズール帝国の軍勢に、攻められたのではたまらんからなぁ~」
「はい、それは無論の事でございます。ガズール帝国の軍勢三万がランベル王国へ侵攻。それを迎え撃つ為のランベル王国の軍勢が、近衛部隊千、王国警備隊八千、貴族混成部隊一万五千、ム-ス公爵家五千、合わせて二万九千と言う所でしょうか。戦が始まれば互角の戦いとなりましょう………」
「儂の兵五千がどちらに付くかで、この戦はどうとでもなる………」
ム-ス公爵は、短く太い指を胸の前で合わせて、大きく膨れた腹を突き出すように椅子にのけ反ると、自分がこの国の実権を握った時の事を、思い描いているようであった。
周りを見回すと、四方を氷の壁で覆われた寝室のベッドの上に居る。
寒さは感じない、何が起きたのか思い返しても、胸を貫かれた自分に響が駆け寄り、抱き抱えられた所までしか思い出せないのだ。
頭お抱え考え込むアリシアが意識を集中していると、四方を取り囲む氷の壁に画像が浮び上がって来る。
えッ! ここは………レオンの中かしら? ティスさん?
右の壁に浮ぶ映像には、ポットに泣き縋るティスの姿があった。
そしてその奥には、別のポットに縋り付くクロエが、福笑いのように崩れた泣き顔で、ポットの中を覗きながら話し掛けていた。
響さん? どうして………さっき助けてくれたのは………
そのポットの中にうっすらと見える横顔は、先程アリシアの前に現れた響の横顔であった。
その頃、ランベル王国、王都サリュースの冒険者組合と『ファルコン』では、ワーウルフの襲撃で冒険者七名、ガズール帝国からの使者一名が亡くなり、残された十名も重軽傷を負っていた。
その中には、首を跳ねられた謎の悪魔、右腕を無くしたマゼンタも含まれており、マゼンタの出血は多かった事もあり、今だ生死の境を彷徨ていた。
「ワーウルフの襲撃を王国警備隊に連絡して! ここに居る冒険者は、アリシアの行方を捜索! 四人一組で捜索にあたって! 情報は全て冒険者組合の、私の所へ集めて欲しい!」
『ファルコン』に食事に来ていたマリア組合長は、今回の襲撃の内容を確認し、次々と冒険者達に指示を出して行く。その指示を受けた冒険者達も、捜索の区画割を済ませて次々と飛び出して行く。
「マギー、今日はこれで店を閉めて、戸締りをしっかりとするんだよ! 念のために冒険者二人をおいて行くから………まぁ、あの二人のメイドが居れば、大丈夫だろうけどね! まったく、ジュリアンの奴は、肝心な時に居ないんだから………」
「はい、マリア様、ありがとうございます」
マギーは、アルン村の生き残りだ。
マリア組合長は、マギーに近づき奥に居る二人のメイドを見て、他のメイドとは違う雰囲気を感じたようだった。
それもその筈である。その二人こそシ-ドル公爵家襲撃の際に、アリス騎士団長と共に生き残ったメイド騎士なのである。ジュリアン達がいない時の、アリシアと店の警護のために配置されていたのだ。
しかし、アリシアの出前にあれだけの冒険者が付いて行った事で、彼女達の警戒心も薄れていた。
今二人のメイド騎士は、メンテナンスでアリス騎士団長と連絡が取れず。店の警護の為アリシア捜索に行けない事を、死んでしまいたい程悔やんでいた。
せめてどちらか一人でも付いていればと………。
「公爵様、王国警備隊より。旧シ-ドル公爵家跡の付近で、ワーウルフと冒険者の戦闘があったとの報告が参りました。前任の奴も亡くなったようなので、これより私がお側に付きます」
ム-ス公爵の側には、亡くなった執事と同じ容姿と服装をした老齢の執事が立っていた。一人の執事が死んでも、その後埋める悪魔の代わり等は、幾らでもいたのである。
「あの執事を倒した奴とは、どのような奴なんだ! あの執事は、儂が知る限りでも、相当な手練れだったはずだ………ワーウルフも三匹もいたんだぞ! それをあっさり殺す奴が、近くに居るのか? ガルニアは、なんと言っているのだ?」
「落ち着きなされませ。今調べております。私は前任者よりも強ようございますので、ご安心を」
その老齢な執事の目は、ム-ス公爵を恐怖に追い込むのに、十分な鋭さを放っていた。
「そっ、そうかぁ~それなら安心だ………」
「公爵様、ガズール帝国は我ら秘密結社アーネストが、ほぼ手中に治めました。近くこのランベル王国に、兵を進める事になるでしょう。その時には、貴方様もカ-ル・オクタ-ビア大公に、取って変わって頂きませんと、主ガルニアが痺れを切らしてしまいますぞ」
ム-ス公爵の新しい執事は、手始めに前の執事とは違うと言う事を、公爵に理解させるのであった。
ム-ス公爵家は、平民からの成り上がり貴族であり、ここまでになる為に数代に渡って、悪魔ガルニアが手を尽くして来た経緯があったのだ。隣国のガズール帝国が他の者の手により、秘密結社アーネストの手に落ちた事で、悪魔ガルニアも焦り始めていた。そのような所での今回の失態である。悪魔ガルニアも、後が無くなっていたのだ。
「分かっておる。それよりも手筈は大丈夫なんだろうな? ガズール帝国の軍勢に、攻められたのではたまらんからなぁ~」
「はい、それは無論の事でございます。ガズール帝国の軍勢三万がランベル王国へ侵攻。それを迎え撃つ為のランベル王国の軍勢が、近衛部隊千、王国警備隊八千、貴族混成部隊一万五千、ム-ス公爵家五千、合わせて二万九千と言う所でしょうか。戦が始まれば互角の戦いとなりましょう………」
「儂の兵五千がどちらに付くかで、この戦はどうとでもなる………」
ム-ス公爵は、短く太い指を胸の前で合わせて、大きく膨れた腹を突き出すように椅子にのけ反ると、自分がこの国の実権を握った時の事を、思い描いているようであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる