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キュリアス USA
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次の日。
ホテルのロビーにあるカフェで簡単にモーニングを食べると、真里亜と文哉はスーツに着替えてミーティングに行く準備をする。
「えっと、セキュリティシステムについての英語資料がこちらです。AMAGIコーポレーションについての案内はこちら。キュリアス ジャパンの新社屋に関するものと、現在開発中のシステムはこちらに」
次々と文哉の前に資料を並べながら、一緒に確認していく。
「あとは全てパソコンのフォルダに入れて来ましたので、必要があればその都度お見せします」
「分かった」
約束の10分前になり、二人はロビーに下りる。
ちょうど10時に、サムの運転でカレンが現れた。
「グッモーニング!やっぱり日本人ね。パンクチュアルで助かるわ」
明るくカレンが二人に笑いかけた。
それだけで、なんだか周りが華やかになるような、自信とパワーに満ち溢れている。
「さあ、では本社に行きましょう。CEOがお待ちかねよ」
「は、はい!よろしくお願いいたします」
真里亜は一気に緊張感が高まる。
15分ほどで、車はガラス張りの高いビルの前に到着した。
「着いたわよ。どうぞ」
カレンに続いてビルの中に入る。
「わあ、モダンでおしゃれですね。美術館みたい」
真里亜は思わず感嘆の声を上げる。
「そうね。私も毎日ここで働くのが楽しいわ。オフィスやデスクも、とても落ち着く空間なの。プライベートを大事にしているけど、仲間とリラックスして会話出来るスペースもあるし。明日、詳しくご案内するわね。今日は会議室だけでごめんなさい」
「いえ、そんな。ありがとうございます」
吹き抜けの開放感溢れるロビーを進み、渡されたセキュリティカードでゲートを通る。
更にはガードマンの手荷物検査やX線検査も受けた。
「とっても厳重なんですね」
「ええ、そうなの。気分を悪くさせたならごめんなさいね」
「とんでもない。おかげで安心です」
「そうよね。私もそう思うわ。ニューヨークは、特にテロや事件に敏感な街だから」
「はい」
昨日訪れた、あの現場を思い出す。
やはり忘れてはいけないのだ。
二度とあんなことが起こらないよう、あらゆるセキュリティシステムを強固にしていきたい。
国や人種を超えて、互いに協力しながら。
真里亜と文哉は、気持ちを新たにしてより一層気を引き締めた。
エレベーターで最上階まで上がり、明るい日差しが射し込む広い会議室に案内される。
中では、既に何人もの人達が楽しそうにおしゃべりをしていた。
カレンが Hi ! と部屋に入ると、皆も次々とカレンに笑顔で話しかける。
早速カレンは、文哉と真里亜を皆に紹介した。
誰もが気さくに、ハイ!フミヤ、マリアと握手してくれる。
「Her last name is Abe. You see ? It's gonna be Abe Maria」
カレンが真里亜のフルネームを説明すると、皆は、ワオ!と驚いて盛り上がる。
Ave Maria~と歌い始めた男性の声が素晴らしくて、真里亜は、え?もしやテノール歌手?と目を丸くする。
ひとしきり話が盛り上がり、ようやく落ち着いたところで、カレンが白髪の男性を見ながら文哉と真里亜に言った。
「彼がCEOのジョンよ」
えっ?!と、二人は驚いて固まる。
(まさか、さっきからいたなんて…)
てっきり、何人ものスタッフを従えて、あとから重々しく登場するものだとばかり思っていた。
慌てて挨拶すると、ジョンは気さくに、ニューヨークへようこそ!と握手を求めてくれる。
「さあ、適当に座って。お料理もどうぞ」
カレンに促されて、二人は大きな円卓の席に座った。
部屋の前方にケータリングの料理が並ぶテーブルがあり、皆がプレートに思い思いに料理を盛り付けるのをなんとなく眺めていると、Here you are ! と、二人の前にも料理を載せたプレートが置かれた。
「え?!すみません。Thank you」
慌てて真里亜は、笑顔で礼を言う。
いつになったらミーティングが始まるのだろうと、食事をしながらおしゃべりしている皆を見ていると、ジョンが文哉の隣に座って話しかけてきた。
楽しそうに笑いかけるジョンに、文哉も明るく答えている。
真里亜は、美味しくてヘルシーな料理を頂きながら、そんな二人の様子を見守る。
すると、真里亜の隣にカレンがやって来た。
「すごいわね、彼。私が通訳するつもりだったけど、全く出番なしだわ。あー、暇になっちゃった」
そう言ってカレンは明るく笑う。
文哉は、CEOとも対等にフランクに英語で会話していて、真里亜もそんな文哉に感心した。
カレンは本当にやることがなくなったらしく、真里亜に話しかけてくる。
「ねえ。阿部 真里亜の名前は、やっぱり残してあるの?」
「えっ?どういう意味ですか?」
「えーっと、ほら、日本語で何て言うんだっけ?あ、夫婦別姓!」
は?と、真里亜は瞬きを繰り返す。
「えっと、私の話ですか?」
「そうよ。阿部 真里亜って名前、結婚して変わっちゃうのはもったいないもの。どうしてるの?」
「いえ、あの。私、結婚してません」
「じゃあ、あれだ。事実婚!そうなんでしょ?」
「いえいえ。私は誰ともおつき合いしていませんし、結婚なんてまだまだ…」
カレンは、真里亜の話の途中で、えー?!と驚きの声を上げる。
「あなた達、つき合ってもいないの?」
「え?はい。単なる上司と秘書です」
「嘘でしょう?信じられない。二人でニューヨークまで来ておいて、恋人でもないなんて…」
カレンは、CEOと笑顔で話している文哉をじっと見る。
「なぜなの?こうして見ると、仕事が出来るいい男に見えるけど?」
「は?ええ。副社長は女性にもモテますし、仕事も出来ます」
「いや、でも。一緒にニューヨークに来たあなたにアプローチしないんでしょ?理解出来ないわ」
はあ…と、真里亜は気の抜けた返事をする。
「あのね、ここにいるスタッフ全員が、あなた達をカップルだと思ってるわよ。もちろんCEOもね」
「ええー?!どうしてですか?」
「どうしてって…。まあ、文化の違いかな?もしつき合ってないって知ったら、どうしてなんだ?彼は偏屈なのか?なんて聞かれるかも。ニューヨークまで一緒に来てくれた女性なのに、口説けないのか?情けないなって」
「そ、そんな…」
真里亜は思わず両手で頬を押さえる。
「どうしましょう。副社長がそんなふうに思われるなんて…。私、どうしたら」
「じゃあ、つき合ってるフリをするのね。彼にハニーって呼ばれたら、イエス、ダーリンって答えればいいのよ」
「は、は、は、ハニー?!」
真里亜はもはや仰け反って倒れそうになる。
「真里亜ってしか呼んでくれないの?」
「いえ、あの。おい、お前、としか」
はあーー?!と、今度はカレンが仰け反っている。
「おい、お前?!そんなの、昭和の初期で終わってると思ってたわ。私だったら、そんなふうに呼ばれた瞬間、ほっぺた引っぱたいて別れるわよ?」
「いえ、ですから。私は副社長とはおつき合いしていませんし…」
「それにしてもよ!ちょっと、日本は大丈夫?時代錯誤も甚だしいわ」
カレンは腕組みして、文哉を横目で睨みつける。
「いえ、あの。副社長は、私にとって素晴らしい方なんです。ですから、そんなふうに思わないでください」
「あなたがそう言えば言うほど、彼がますます悪者に見えてくるわ」
「ひえー!違うんです。あの、副社長はとても優しくて紳士的で、その、あっ!マフラーを貸してくれたり…」
必死で訴える真里亜に、カレンはジロリと視線を向ける。
「マフラーを貸してくれたー?!だから何よ」
「いえ、その。私にとっては、それで充分なんです」
「はあー?!マリア、あなたね、自分を卑下し過ぎよ。分かったわ、こうなったらフミヤをギャフンと言わせてあげる」
ギャフン?!って実際に使う人、初めて見ました、とは言えず、真里亜はとにかく大人しく黙ることにした。
*****
ランチミーティングを無事に…かどうかはイマイチよく分からないが、とにかく終えて、文哉と真里亜はホテルまで送ってもらった。
「じゃあ、また夜にね。あ、マリア。あとであなたの部屋に私から荷物を贈るわ。19時に迎えに来るわね」
荷物って?と思いながら、真里亜はカレンとサムに礼を言って車を見送る。
文哉と二人でエレベーターに乗り、部屋の前で別れて真里亜は自分の部屋に入った。
「はあー、疲れた」
ベッドにボフッと頭から飛び込む。
別に何かした訳ではないし、CEOと英語で会話していた文哉の方がよほど気を張って疲れただろう。
だが、緊張感から開放されてホッとしたのもあり、真里亜はぐったりとベッドに突っ伏したまま、いつの間にか眠っていた。
*****
コンコン、とノックの音がして目が覚める。
「…副社長?」
目をこすりながら身体を起こし、ベッドの横のドアを見た時、またノックの音がした。
「あれ?このドアじゃない。入り口のドア?」
真里亜はベッドから降りると、ドアのチェーンを掛けてから少し開いてみた。
ハーイ!と、ホテルのスタッフの女性がにこやかに立っている。
ハイ!と返事をしたものの、その後にペラペラーッと続く英語が聞き取れない。
だがそのスタッフは、真里亜に紙袋を手渡すと、Have a nice day!と笑顔で去って行った。
バーイ…と後ろ姿に呟いてからドアを閉め、紙袋を開けてみる。
中には、カードと長方形の箱が入っていた。
何だろう?と、まずはカードを読んでみる。
『マリアへ
今夜はこのドレスを着て来てね!
フミヤをギャフンと言わせてみせるわ
カレン』
はい?と、真里亜は目が点になる。
ドレスって、これのこと?と、箱を取り出して開けてみる。
ラメの入ったブラックの生地が見え、わー、素敵!と思ったのは最初だけだった。
「ちょ、何これ?!」
広げてみると、胸元はVの字で大きく開いており、ノースリーブでタイトなラインは、ロング丈とはいえ、足のサイドにスリットまで入っている。
おまけに背中もかなり広く開いていた。
「いやいや、カレンさん。こんなの無理ですって!」
思わず一人で大きな声を出してしまう。
今夜は色々な企業を招いてパーティーが開かれるとのことで、カレンからドレスアップして来るように言われていた。
真里亜は、紺色の丈の長いワンピースを日本から持って来ており、それを着て行くつもりだった。
形はシンプルだが生地はしっかりとした、フォーマルな衣装を扱うショップで購入したものだ。
その上にシルバーのラメ入りのショールを合わせれば、もちろん他の女性よりは見劣りするが、浮いてしまうことはないだろうと思っていた。
「えー?これを着なきゃだめ?カレンさんに怒られちゃうかな…」
ブラックのドレスを手に迷っている間に時間が過ぎ、仕方なくメイクを始める。
いつもより華やかに、色をたくさん使い分けて丁寧にメイクをする。
髪型は、このカレンのドレスを着るならばアップにしない方がいいだろうと、サイドを軽くねじって後ろでまとめるだけにした。
あとは…、本当にこのドレスを着るかどうかだ。
「うーん…。とにかく一度着てみるか」
案外控えめなドレスかもよ?と思いながら背中のファスナーを上げた途端、その考えは即座に打ち消された。
「うわっ!放送事故?!」
胸は谷間がくっきり分かり、背中も半分ほど見えている。
腰のラインもピタッと身体に沿っていて、足のスリットは太ももまで露わになってしまう。
「こりゃいかん!絶対にいかん!」
慌てて着替えようとした時、ノックの音と共に文哉の声がした。
「時間だぞ、支度出来たか?」
ひえっ!と、真里亜は首をすくめる。
「はい、今行きます!」
着替える時間はないか…と、とりあえずショールで背中と胸を隠す。
「これならなんとかなるかな?いや、足と腰のラインがヤバイか。あー、どうしよう」
「おい、まだか?遅れるぞ!」
「はいっ!すみません!」
もう行くしかない。
真里亜はバッグを掴むと、部屋を繋ぐドアを少し開けてそっと文哉に話しかけた。
「副社長…あの。わあ、とってもかっこいいですね!」
話をするはずが、文哉のタキシード姿があまりに素敵で、真里亜は思わず目を奪われる。
「いいから、早く出て来い!何をやっている?」
文哉が苛立った声で言う。
「あのですね、わたくし今夜は奥ゆかしい日本女性として振る舞いたいと存じます」
「はあ?!何を言っている?」
「ですから、副社長の後ろを半歩下がって静々とついて行きます。副社長は決して振り返らないでください。私の姿を見てはなりませぬ」
「なんだそれ?鶴の恩返しか?」
「左様でございます。姿を見られれば、私はあなた様の前から姿を消さねばなりません」
「アホなこと言ってないで、早く出て来い!」
文哉が強引にドアを開けようとして、真里亜は必死で抵抗する。
「わー!行きますから!先に、前を歩いてください!」
「ったく…」
文哉は諦めたようにくるりと踵を返して歩き始めた。
真里亜はその後ろにささっと近づき、静かについて行く。
廊下に出ると文哉は急に立ち止まり、真里亜のウエストを抱き寄せた。
ひえっ!と真里亜が身体をこわばらせた時、文哉が、ん?と真里亜を見下ろそうとした。
真里亜は文哉の頬に手を添えて、グイッと前に戻す。
「ですから、見てはなりませぬ」
はあ…と大きくため息をつくと、文哉は前を向いたまま真里亜の腰を抱いて歩き始めた。
*****
「グッイブニーング!お待たせ」
約束の時間にホテルのロビーに現れたカレンは、真っ赤なドレスをセクシーに着こなし、髪も夜会巻きで大人の女性の魅力に溢れていた。
ロビーにいた男性が、カレンを見てヒューと口笛を吹いている。
「うわー、カレンさん。とってもお綺麗です!」
「ありがとう!マリア、どうしてショール掛けてるのよ?取ったら?」
「いえ!あの、私、そう!冷え性なんですよ。あはは!暑くなったら取りますから」
「ふーん、なるほど。マリアはそういう作戦なのね。いいわ、それでいきましょう」
「私の作戦?って、鶴の恩返し?」
「は?何それ。とにかく、早く乗って。遅れちゃうわ」
「あ、はい!」
サムの運転するリムジンで、皆は会場のホテルに向かった。
「ひゃー!なんて素敵なの」
案内されたパーティー会場は、まるでお城の舞踏会のように豪華だった。
照明はグッと落とされ、窓からはマンハッタンの夜景が見下ろせる。
そして何より、皆の装いが目も眩むほど華やかだった。
立食パーティーで、既に皆はグラスを片手におしゃべりを楽しんでいる。
「うちと関係がある企業が集まってるの。AMAGIコーポレーションも、CEOから紹介されると思うわ」
カレンの言葉に真里亜は、ひえっと首をすくめる。
やがてガヤガヤとした雰囲気の中、
「Ladies and gentlemen」
と前方でタキシード姿の男性がマイクで話し始め、早速CEOのジョンを紹介した。
正装したジョンが前に立ち、にこやかに、クリスマスホリデイを楽しんでいるか?と尋ね、皆がそれに頷いてイエス!と声を上げる。
今夜も皆でこのパーティーを楽しんで欲しい、と話し、ゲストを簡単に紹介していく。
次々と挙げられる企業名は、世界トップクラスの有名企業で、真里亜はその度に、ええー?!あの方が?と驚いていた。
「From Japan. AMAGI corporation. Fumiya and Maria」
突然名前を呼ばれ、真里亜はハッと我に返る。
文哉が笑顔でぐるっと周りを見渡し、右手を軽く胸に当てて会釈する。
真里亜も笑顔で拍手に応えた。
ひと通り紹介が終わると、ジョンの音頭で乾杯となる。
あとは皆、気ままに楽しく食事やおしゃべり、ダンスを楽しんでいた。
文哉も何人かの人に声をかけられ、名刺交換をしている。
その姿を少し後ろから見守っていると、マリア!とカレンの声がした。
振り向くと、早く、こっち!と手招きしている。
「どうかしましたか?」
「ええ。ついに作戦実行よ」
「作戦って?」
「いいから。ちょっと」
カレンは部屋から真里亜を連れ出し、化粧室に行く。
「んー、まずはヘアスタイルね」
カレンは鏡の前に真里亜を立たせると、両手で真里亜の髪を束ね、ねじりながらアップでまとめる。
自分のバッグの中からキラキラとスワロフスキーが輝くヘアクリップを取り出すと、真里亜の髪を挟んで留めた。
「あとは、このショール!」
カレンにサッとショールを取り払われ、真里亜は焦って抗議する。
「カレンさん!だめですって!」
「何がだめなのよ?こんなので隠してる方がよっぽどだめよ。マリア、あなた日本のAMAGIコーポレーションを背負って来てるのよ?それなのにこっちの人達に、うわー、ダサい!って思われてもいいの?」
「うっ、それは困ります」
「でしょ?だったらこれでいいの。はい!早く会場に戻るわよ。欧米の男達にマリアを見せつけてやって、フミヤをギャフンと言わせてみせるんだから!」
あ、そういうことなのね…と、真里亜は小さく頷く。
「でも、私はカレンさんみたいな魅力的な女性ではないので、そんな展開にはならないと思いますけど…」
「あらやだ!だったら試してみましょうよ。誰かがあなたに言い寄って来たら私の勝ち。いいわね?」
カレンの勢いに呑まれて、真里亜はまた会場に連れ戻された。
カレン!どこに行ってたの?と声をかけてきた男性が、隣にいる真里亜を見て、オオー、ビューティフル!と大げさに驚いてみせる。
「フフン!ほらね」
勝ち誇ったようにカレンが真里亜の耳元でささやく。
男性は名前を名乗るとうやうやしくお辞儀をする。
真里亜も微笑んで名乗ると、男性は真里亜の右手を取り、手の甲にキスをした。
やがて別の男性がシャンパングラスを持って来て真里亜に渡すと、同じように挨拶してから真里亜の手を取り口づける。
またたく間に真里亜は色んな男性に取り囲まれ、ダンスに誘われたり、二人で外に出ないか?とささやかれたりした。
「いえ、あの、私は…。ちょっと、カレンさん!」
離れたところでニヤニヤしながら見ていたカレンに、思わず助けを求める。
「んー、マリア。あともう少しがんばって。フミヤがまだ気づいてないのよ」
「がんばるって、そんな。助けてくださいー!」
真里亜を取り囲む男性は、増える一方だった。
*****
CEOのジョンと、かなり打ち解けて話せるようになった文哉に、ジョンは具体的な仕事の話をしていた。
今後はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、そして中国や日本の企業とも連携しながら、独自のセキュリティシステム開発チームを作りたい。
日本からは、AMAGIコーポレーションを招くよと言われ、文哉も、大変光栄ですと頭を下げた。
詳しいことは今後キュリアス ジャパンを通じて連絡する。またいつでもニューヨークに遊びに来てくれ、と言われて文哉も笑顔で頷く。
ようやくジョンが離れて行き、ふうと肩の力を抜いた文哉は、ふと後ろを振り返った。
そこにいるはずの真里亜がいない。
(あれ?あいつ、どこに行った?)
会場内を見渡してみるが、それらしい姿は見えない。
(おかしいな…)
キョロキョロしながら歩いていると、壁際でグラスを片手に何やら嬉しそうにしているカレンを見つけた。
カレンは文哉の視線に気づき、ニヤッと笑ってから親指でクイッと部屋の中央を指差す。
なんだ?とその先に目をやると、何人もの男性に囲まれている女性の後ろ姿が見えた。
黒髪をアップでまとめ、ブラックのドレスの背中は大きく開いている。
うなじから首筋、そして背中のラインまでをスーッと撫でたくなるような、真っ白で美しい肌。
少し動くと両サイドのスリットからのぞく足のラインも綺麗で、肩から素肌をさらしているスラリと長い両腕もとても大人っぽい。
映画のワンシーンみたいだな、と文哉がぼんやり眺めていると、やがて横から話しかけてきた男性の方に女性は身体の向きを変えた。
胸の谷間がはっきり分かり、文哉は思わずドキッとする。
(うわっ、目のやり場に困るな。って、ん?)
眉間にしわを寄せながらマジマジと女性の顔を見つめる。
(え、ちょっと待て。もしかして、あいつなのか?!)
文哉は何かを考えるよりも先に、ツカツカと近づいて行く。
「副社長」
驚いたように声を上げる真里亜の肩を、グイッと抱き寄せた。
Excuse me. と言いながら男性の輪の中から真里亜を連れ出すと、壁際まで連れて来る。
「あ、あの、副社長?」
ムッとした表情のままの文哉に、真里亜がおずおずと声をかける。
「お前な、なんでそんなに無防備なんだ!少しは考えろ!」
「ご、ごめんなさい」
強い口調に驚いて、真里亜が目を潤ませながら謝ると、文哉はハッとして慌てて否定した。
「いや、違う。すまん、俺が悪かった」
どうしてこんなにカッとなってしまったのか分からないが、一刻も早く男達の前から真里亜を連れ出したかった。
「あ、えっと。俺のそばから離れるな。いいか?」
「はい、すみません」
潤んだ瞳で見上げられ、文哉は頭がクラッとした。
身体のラインがはっきりと分かる大胆なドレスに豊かな胸の谷間。
ホテルの部屋を出た時に、真里亜の腰に手を回してそのくびれた感触に驚いたことを思い出す。
今も手に残る、あの艶めかしい腰のライン。
セクシーなドレス姿に加えて、今自分を見つめてくる瞳は涙で少し潤んでいる。
(はあ、ためだ。おかしくなる)
少し頭を冷やさなければ、と部屋を出ようとして、文哉はふと足を止めた。
「カレンさんと一緒にいろ。すぐに戻る」
「はい、分かりました」
真里亜に言い残してから、文哉はすぐさま視線を逸らして部屋を出た。
*****
「カレンさん!」
真里亜はカレンに駆け寄って声をかける。
「あの、ショールを返していただけますか?」
「あら、もったいない。せっかくあんなにモテてたのに」
「いえ、本当に必要なんです。お願いします」
「そうね、フミヤはもう充分自覚したみたいだし。はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
真里亜はカレンからショールを受け取ると、肩から掛けて胸と背中を隠し、急いで部屋を出た。
「副社長!」
通路の壁にもたれていた文哉を見つけると、慌ててそばに行く。
「大丈夫ですか?ご気分は?」
「大丈夫だ。心配するな」
文哉は、真里亜がショールを掛けていることにホッとして、いつもの落ち着いた口調に戻った。
「良かったです。あの、何か召し上がりますか?」
「ん?ああ、そうだな。お前は?何か食べたか?」
「いえ、まだ何も」
「そうか。じゃあ、おいで」
文哉は真里亜の肩を抱くと、そっと部屋のドアを開けて会場の中に促す。
大きなカーテンがタッセルでまとめられている横に椅子があり、文哉は真里亜をそこに座らせた。
「ここで待ってろ」
「はい」
料理が並ぶカウンターに行くと、文哉は真里亜が好きそうな物を選んでプレートに盛り付けた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。副社長は?」
「今取ってくるよ」
もう一度カウンターへ行き、戻って来ると、真里亜は料理に手をつけずに待っていた。
「じゃあ食べるか」
「はい、いただきます」
カーテンの影で人目につかないその席で、二人はゆっくりと美味しい料理を味わう。
「副社長。CEOとのお話はいかがでしたか?」
「ああ。感触は良かったよ。詳しいことはあとで話すが、国際的なセキュリティシステム開発チームにAMAGIも入れてもらえそうだ」
「そうなんですね!すごい」
「これから社内で、またチームを立ち上げないとな。英語が堪能な人材と、システムエンジニアの人数も増やしたい」
それを聞いて、真里亜はふと藤田を思い出した。
「副社長。システムエンジニアを増やすのは、社内から選考するのもアリですか?」
「ん?そうだな。もちろんそれも考えよう。新入社員に1からAMAGIの経営理念を理解してもらうよりも、既に社員として働いてくれている人の方が好ましい。エンジニアとしての力量と本人の熱意次第で、即戦力になってもらえれば」
「そうですね」
真里亜は嬉しそうに頷く。
(藤田くん、チャンスだよ!がんばって掴み取ってね!)
心の中で、真里亜は藤田にエールを贈った。
*****
「カレンさん、今日は本当にありがとうございました」
パーティーもお開きとなり、ホテルまで送ってもらうと、真里亜は改めてカレンに礼を言う。
「ヘアクリップも、ありがとうございました。それとこのドレスは、ホテルのクリーニングに出してからお返ししますね」
「いいのよ。ドレスもヘアクリップもプレゼントするわ。受け取ってちょうだい」
「でも、こんな高価なものを…」
「気にしないでってば。それより明日は、また10時に迎えに来るわね。オフィスを案内するだけだから、カジュアルなスタイルで大丈夫よ。じゃあねー!」
カレンは軽やかに車に戻ると、手を振って去って行った。
真里亜は文哉とエレベーターに乗り部屋に向かう。
「日本は今、昼頃か。社長に少し電話で報告しておこう」
「かしこまりました。資料を持ってすぐお部屋に伺います」
部屋の前で別れると、すぐさま真里亜はシャツとジーンズに着替え、タブレットに少し入力してから文哉の部屋に繋がる部屋をノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
部屋に入ると、文哉は真里亜を2度見する。
「どうかしましたか?」
「いや、あの。着替えたんだな」
「え?はい」
「そうか」
文哉はジャケットとタイを外し、シャツの袖をまくるとデスクの前に座る。
真里亜は文哉に、タブレットに入力した箇条書きの項目を見せた。
「CEOとの話の内容、今後の展望、社に戻ってからやるべきことなど、ざっくりですがこちらでよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだな。分かりやすい。いつの間にこれを?」
「えっと、今の間です」
「なんだそれ、ははっ!」
文哉はおかしそうに笑ってから、日本にいる社長に電話をかける。
真里亜は、文哉の言葉に合わせて必要な資料を並べていった。
5分程で電話を終えると、文哉は真里亜に頷いてみせた。
「社長からも、改めてジョンにコンタクトを取って挨拶するらしい」
「そうですか、良かったです」
「ああ。これで一段落だな」
「そうですね。残すは明日のオフィス見学だけですし。副社長、お疲れ様でした」
「お前もな。お疲れ様」
うーん、と伸びをしてから、文哉はデスクに片肘をついて真里亜を斜めに見上げる。
「お前、冬休みは特に予定ないか?」
「え?あ、はい」
「だったら、クリスマスが終わるまでこっちにいないか?」
えっ、と真里亜は驚く。
「社長もそうしたらどうだ?と言っていた。せっかくニューヨークにいるのに、クリスマス目前に帰国するなんて、3つ星レストランに入って料理を食べずに帰るようなものだって」
「ふふっ、それはもったいないですね」
「だろ?じゃあ、26日にここを発つ便で帰ろうか」
「はい。ありがとうございます」
真里亜は思いがけず楽しい休暇になりそうで、胸がワクワクした。
ホテルのロビーにあるカフェで簡単にモーニングを食べると、真里亜と文哉はスーツに着替えてミーティングに行く準備をする。
「えっと、セキュリティシステムについての英語資料がこちらです。AMAGIコーポレーションについての案内はこちら。キュリアス ジャパンの新社屋に関するものと、現在開発中のシステムはこちらに」
次々と文哉の前に資料を並べながら、一緒に確認していく。
「あとは全てパソコンのフォルダに入れて来ましたので、必要があればその都度お見せします」
「分かった」
約束の10分前になり、二人はロビーに下りる。
ちょうど10時に、サムの運転でカレンが現れた。
「グッモーニング!やっぱり日本人ね。パンクチュアルで助かるわ」
明るくカレンが二人に笑いかけた。
それだけで、なんだか周りが華やかになるような、自信とパワーに満ち溢れている。
「さあ、では本社に行きましょう。CEOがお待ちかねよ」
「は、はい!よろしくお願いいたします」
真里亜は一気に緊張感が高まる。
15分ほどで、車はガラス張りの高いビルの前に到着した。
「着いたわよ。どうぞ」
カレンに続いてビルの中に入る。
「わあ、モダンでおしゃれですね。美術館みたい」
真里亜は思わず感嘆の声を上げる。
「そうね。私も毎日ここで働くのが楽しいわ。オフィスやデスクも、とても落ち着く空間なの。プライベートを大事にしているけど、仲間とリラックスして会話出来るスペースもあるし。明日、詳しくご案内するわね。今日は会議室だけでごめんなさい」
「いえ、そんな。ありがとうございます」
吹き抜けの開放感溢れるロビーを進み、渡されたセキュリティカードでゲートを通る。
更にはガードマンの手荷物検査やX線検査も受けた。
「とっても厳重なんですね」
「ええ、そうなの。気分を悪くさせたならごめんなさいね」
「とんでもない。おかげで安心です」
「そうよね。私もそう思うわ。ニューヨークは、特にテロや事件に敏感な街だから」
「はい」
昨日訪れた、あの現場を思い出す。
やはり忘れてはいけないのだ。
二度とあんなことが起こらないよう、あらゆるセキュリティシステムを強固にしていきたい。
国や人種を超えて、互いに協力しながら。
真里亜と文哉は、気持ちを新たにしてより一層気を引き締めた。
エレベーターで最上階まで上がり、明るい日差しが射し込む広い会議室に案内される。
中では、既に何人もの人達が楽しそうにおしゃべりをしていた。
カレンが Hi ! と部屋に入ると、皆も次々とカレンに笑顔で話しかける。
早速カレンは、文哉と真里亜を皆に紹介した。
誰もが気さくに、ハイ!フミヤ、マリアと握手してくれる。
「Her last name is Abe. You see ? It's gonna be Abe Maria」
カレンが真里亜のフルネームを説明すると、皆は、ワオ!と驚いて盛り上がる。
Ave Maria~と歌い始めた男性の声が素晴らしくて、真里亜は、え?もしやテノール歌手?と目を丸くする。
ひとしきり話が盛り上がり、ようやく落ち着いたところで、カレンが白髪の男性を見ながら文哉と真里亜に言った。
「彼がCEOのジョンよ」
えっ?!と、二人は驚いて固まる。
(まさか、さっきからいたなんて…)
てっきり、何人ものスタッフを従えて、あとから重々しく登場するものだとばかり思っていた。
慌てて挨拶すると、ジョンは気さくに、ニューヨークへようこそ!と握手を求めてくれる。
「さあ、適当に座って。お料理もどうぞ」
カレンに促されて、二人は大きな円卓の席に座った。
部屋の前方にケータリングの料理が並ぶテーブルがあり、皆がプレートに思い思いに料理を盛り付けるのをなんとなく眺めていると、Here you are ! と、二人の前にも料理を載せたプレートが置かれた。
「え?!すみません。Thank you」
慌てて真里亜は、笑顔で礼を言う。
いつになったらミーティングが始まるのだろうと、食事をしながらおしゃべりしている皆を見ていると、ジョンが文哉の隣に座って話しかけてきた。
楽しそうに笑いかけるジョンに、文哉も明るく答えている。
真里亜は、美味しくてヘルシーな料理を頂きながら、そんな二人の様子を見守る。
すると、真里亜の隣にカレンがやって来た。
「すごいわね、彼。私が通訳するつもりだったけど、全く出番なしだわ。あー、暇になっちゃった」
そう言ってカレンは明るく笑う。
文哉は、CEOとも対等にフランクに英語で会話していて、真里亜もそんな文哉に感心した。
カレンは本当にやることがなくなったらしく、真里亜に話しかけてくる。
「ねえ。阿部 真里亜の名前は、やっぱり残してあるの?」
「えっ?どういう意味ですか?」
「えーっと、ほら、日本語で何て言うんだっけ?あ、夫婦別姓!」
は?と、真里亜は瞬きを繰り返す。
「えっと、私の話ですか?」
「そうよ。阿部 真里亜って名前、結婚して変わっちゃうのはもったいないもの。どうしてるの?」
「いえ、あの。私、結婚してません」
「じゃあ、あれだ。事実婚!そうなんでしょ?」
「いえいえ。私は誰ともおつき合いしていませんし、結婚なんてまだまだ…」
カレンは、真里亜の話の途中で、えー?!と驚きの声を上げる。
「あなた達、つき合ってもいないの?」
「え?はい。単なる上司と秘書です」
「嘘でしょう?信じられない。二人でニューヨークまで来ておいて、恋人でもないなんて…」
カレンは、CEOと笑顔で話している文哉をじっと見る。
「なぜなの?こうして見ると、仕事が出来るいい男に見えるけど?」
「は?ええ。副社長は女性にもモテますし、仕事も出来ます」
「いや、でも。一緒にニューヨークに来たあなたにアプローチしないんでしょ?理解出来ないわ」
はあ…と、真里亜は気の抜けた返事をする。
「あのね、ここにいるスタッフ全員が、あなた達をカップルだと思ってるわよ。もちろんCEOもね」
「ええー?!どうしてですか?」
「どうしてって…。まあ、文化の違いかな?もしつき合ってないって知ったら、どうしてなんだ?彼は偏屈なのか?なんて聞かれるかも。ニューヨークまで一緒に来てくれた女性なのに、口説けないのか?情けないなって」
「そ、そんな…」
真里亜は思わず両手で頬を押さえる。
「どうしましょう。副社長がそんなふうに思われるなんて…。私、どうしたら」
「じゃあ、つき合ってるフリをするのね。彼にハニーって呼ばれたら、イエス、ダーリンって答えればいいのよ」
「は、は、は、ハニー?!」
真里亜はもはや仰け反って倒れそうになる。
「真里亜ってしか呼んでくれないの?」
「いえ、あの。おい、お前、としか」
はあーー?!と、今度はカレンが仰け反っている。
「おい、お前?!そんなの、昭和の初期で終わってると思ってたわ。私だったら、そんなふうに呼ばれた瞬間、ほっぺた引っぱたいて別れるわよ?」
「いえ、ですから。私は副社長とはおつき合いしていませんし…」
「それにしてもよ!ちょっと、日本は大丈夫?時代錯誤も甚だしいわ」
カレンは腕組みして、文哉を横目で睨みつける。
「いえ、あの。副社長は、私にとって素晴らしい方なんです。ですから、そんなふうに思わないでください」
「あなたがそう言えば言うほど、彼がますます悪者に見えてくるわ」
「ひえー!違うんです。あの、副社長はとても優しくて紳士的で、その、あっ!マフラーを貸してくれたり…」
必死で訴える真里亜に、カレンはジロリと視線を向ける。
「マフラーを貸してくれたー?!だから何よ」
「いえ、その。私にとっては、それで充分なんです」
「はあー?!マリア、あなたね、自分を卑下し過ぎよ。分かったわ、こうなったらフミヤをギャフンと言わせてあげる」
ギャフン?!って実際に使う人、初めて見ました、とは言えず、真里亜はとにかく大人しく黙ることにした。
*****
ランチミーティングを無事に…かどうかはイマイチよく分からないが、とにかく終えて、文哉と真里亜はホテルまで送ってもらった。
「じゃあ、また夜にね。あ、マリア。あとであなたの部屋に私から荷物を贈るわ。19時に迎えに来るわね」
荷物って?と思いながら、真里亜はカレンとサムに礼を言って車を見送る。
文哉と二人でエレベーターに乗り、部屋の前で別れて真里亜は自分の部屋に入った。
「はあー、疲れた」
ベッドにボフッと頭から飛び込む。
別に何かした訳ではないし、CEOと英語で会話していた文哉の方がよほど気を張って疲れただろう。
だが、緊張感から開放されてホッとしたのもあり、真里亜はぐったりとベッドに突っ伏したまま、いつの間にか眠っていた。
*****
コンコン、とノックの音がして目が覚める。
「…副社長?」
目をこすりながら身体を起こし、ベッドの横のドアを見た時、またノックの音がした。
「あれ?このドアじゃない。入り口のドア?」
真里亜はベッドから降りると、ドアのチェーンを掛けてから少し開いてみた。
ハーイ!と、ホテルのスタッフの女性がにこやかに立っている。
ハイ!と返事をしたものの、その後にペラペラーッと続く英語が聞き取れない。
だがそのスタッフは、真里亜に紙袋を手渡すと、Have a nice day!と笑顔で去って行った。
バーイ…と後ろ姿に呟いてからドアを閉め、紙袋を開けてみる。
中には、カードと長方形の箱が入っていた。
何だろう?と、まずはカードを読んでみる。
『マリアへ
今夜はこのドレスを着て来てね!
フミヤをギャフンと言わせてみせるわ
カレン』
はい?と、真里亜は目が点になる。
ドレスって、これのこと?と、箱を取り出して開けてみる。
ラメの入ったブラックの生地が見え、わー、素敵!と思ったのは最初だけだった。
「ちょ、何これ?!」
広げてみると、胸元はVの字で大きく開いており、ノースリーブでタイトなラインは、ロング丈とはいえ、足のサイドにスリットまで入っている。
おまけに背中もかなり広く開いていた。
「いやいや、カレンさん。こんなの無理ですって!」
思わず一人で大きな声を出してしまう。
今夜は色々な企業を招いてパーティーが開かれるとのことで、カレンからドレスアップして来るように言われていた。
真里亜は、紺色の丈の長いワンピースを日本から持って来ており、それを着て行くつもりだった。
形はシンプルだが生地はしっかりとした、フォーマルな衣装を扱うショップで購入したものだ。
その上にシルバーのラメ入りのショールを合わせれば、もちろん他の女性よりは見劣りするが、浮いてしまうことはないだろうと思っていた。
「えー?これを着なきゃだめ?カレンさんに怒られちゃうかな…」
ブラックのドレスを手に迷っている間に時間が過ぎ、仕方なくメイクを始める。
いつもより華やかに、色をたくさん使い分けて丁寧にメイクをする。
髪型は、このカレンのドレスを着るならばアップにしない方がいいだろうと、サイドを軽くねじって後ろでまとめるだけにした。
あとは…、本当にこのドレスを着るかどうかだ。
「うーん…。とにかく一度着てみるか」
案外控えめなドレスかもよ?と思いながら背中のファスナーを上げた途端、その考えは即座に打ち消された。
「うわっ!放送事故?!」
胸は谷間がくっきり分かり、背中も半分ほど見えている。
腰のラインもピタッと身体に沿っていて、足のスリットは太ももまで露わになってしまう。
「こりゃいかん!絶対にいかん!」
慌てて着替えようとした時、ノックの音と共に文哉の声がした。
「時間だぞ、支度出来たか?」
ひえっ!と、真里亜は首をすくめる。
「はい、今行きます!」
着替える時間はないか…と、とりあえずショールで背中と胸を隠す。
「これならなんとかなるかな?いや、足と腰のラインがヤバイか。あー、どうしよう」
「おい、まだか?遅れるぞ!」
「はいっ!すみません!」
もう行くしかない。
真里亜はバッグを掴むと、部屋を繋ぐドアを少し開けてそっと文哉に話しかけた。
「副社長…あの。わあ、とってもかっこいいですね!」
話をするはずが、文哉のタキシード姿があまりに素敵で、真里亜は思わず目を奪われる。
「いいから、早く出て来い!何をやっている?」
文哉が苛立った声で言う。
「あのですね、わたくし今夜は奥ゆかしい日本女性として振る舞いたいと存じます」
「はあ?!何を言っている?」
「ですから、副社長の後ろを半歩下がって静々とついて行きます。副社長は決して振り返らないでください。私の姿を見てはなりませぬ」
「なんだそれ?鶴の恩返しか?」
「左様でございます。姿を見られれば、私はあなた様の前から姿を消さねばなりません」
「アホなこと言ってないで、早く出て来い!」
文哉が強引にドアを開けようとして、真里亜は必死で抵抗する。
「わー!行きますから!先に、前を歩いてください!」
「ったく…」
文哉は諦めたようにくるりと踵を返して歩き始めた。
真里亜はその後ろにささっと近づき、静かについて行く。
廊下に出ると文哉は急に立ち止まり、真里亜のウエストを抱き寄せた。
ひえっ!と真里亜が身体をこわばらせた時、文哉が、ん?と真里亜を見下ろそうとした。
真里亜は文哉の頬に手を添えて、グイッと前に戻す。
「ですから、見てはなりませぬ」
はあ…と大きくため息をつくと、文哉は前を向いたまま真里亜の腰を抱いて歩き始めた。
*****
「グッイブニーング!お待たせ」
約束の時間にホテルのロビーに現れたカレンは、真っ赤なドレスをセクシーに着こなし、髪も夜会巻きで大人の女性の魅力に溢れていた。
ロビーにいた男性が、カレンを見てヒューと口笛を吹いている。
「うわー、カレンさん。とってもお綺麗です!」
「ありがとう!マリア、どうしてショール掛けてるのよ?取ったら?」
「いえ!あの、私、そう!冷え性なんですよ。あはは!暑くなったら取りますから」
「ふーん、なるほど。マリアはそういう作戦なのね。いいわ、それでいきましょう」
「私の作戦?って、鶴の恩返し?」
「は?何それ。とにかく、早く乗って。遅れちゃうわ」
「あ、はい!」
サムの運転するリムジンで、皆は会場のホテルに向かった。
「ひゃー!なんて素敵なの」
案内されたパーティー会場は、まるでお城の舞踏会のように豪華だった。
照明はグッと落とされ、窓からはマンハッタンの夜景が見下ろせる。
そして何より、皆の装いが目も眩むほど華やかだった。
立食パーティーで、既に皆はグラスを片手におしゃべりを楽しんでいる。
「うちと関係がある企業が集まってるの。AMAGIコーポレーションも、CEOから紹介されると思うわ」
カレンの言葉に真里亜は、ひえっと首をすくめる。
やがてガヤガヤとした雰囲気の中、
「Ladies and gentlemen」
と前方でタキシード姿の男性がマイクで話し始め、早速CEOのジョンを紹介した。
正装したジョンが前に立ち、にこやかに、クリスマスホリデイを楽しんでいるか?と尋ね、皆がそれに頷いてイエス!と声を上げる。
今夜も皆でこのパーティーを楽しんで欲しい、と話し、ゲストを簡単に紹介していく。
次々と挙げられる企業名は、世界トップクラスの有名企業で、真里亜はその度に、ええー?!あの方が?と驚いていた。
「From Japan. AMAGI corporation. Fumiya and Maria」
突然名前を呼ばれ、真里亜はハッと我に返る。
文哉が笑顔でぐるっと周りを見渡し、右手を軽く胸に当てて会釈する。
真里亜も笑顔で拍手に応えた。
ひと通り紹介が終わると、ジョンの音頭で乾杯となる。
あとは皆、気ままに楽しく食事やおしゃべり、ダンスを楽しんでいた。
文哉も何人かの人に声をかけられ、名刺交換をしている。
その姿を少し後ろから見守っていると、マリア!とカレンの声がした。
振り向くと、早く、こっち!と手招きしている。
「どうかしましたか?」
「ええ。ついに作戦実行よ」
「作戦って?」
「いいから。ちょっと」
カレンは部屋から真里亜を連れ出し、化粧室に行く。
「んー、まずはヘアスタイルね」
カレンは鏡の前に真里亜を立たせると、両手で真里亜の髪を束ね、ねじりながらアップでまとめる。
自分のバッグの中からキラキラとスワロフスキーが輝くヘアクリップを取り出すと、真里亜の髪を挟んで留めた。
「あとは、このショール!」
カレンにサッとショールを取り払われ、真里亜は焦って抗議する。
「カレンさん!だめですって!」
「何がだめなのよ?こんなので隠してる方がよっぽどだめよ。マリア、あなた日本のAMAGIコーポレーションを背負って来てるのよ?それなのにこっちの人達に、うわー、ダサい!って思われてもいいの?」
「うっ、それは困ります」
「でしょ?だったらこれでいいの。はい!早く会場に戻るわよ。欧米の男達にマリアを見せつけてやって、フミヤをギャフンと言わせてみせるんだから!」
あ、そういうことなのね…と、真里亜は小さく頷く。
「でも、私はカレンさんみたいな魅力的な女性ではないので、そんな展開にはならないと思いますけど…」
「あらやだ!だったら試してみましょうよ。誰かがあなたに言い寄って来たら私の勝ち。いいわね?」
カレンの勢いに呑まれて、真里亜はまた会場に連れ戻された。
カレン!どこに行ってたの?と声をかけてきた男性が、隣にいる真里亜を見て、オオー、ビューティフル!と大げさに驚いてみせる。
「フフン!ほらね」
勝ち誇ったようにカレンが真里亜の耳元でささやく。
男性は名前を名乗るとうやうやしくお辞儀をする。
真里亜も微笑んで名乗ると、男性は真里亜の右手を取り、手の甲にキスをした。
やがて別の男性がシャンパングラスを持って来て真里亜に渡すと、同じように挨拶してから真里亜の手を取り口づける。
またたく間に真里亜は色んな男性に取り囲まれ、ダンスに誘われたり、二人で外に出ないか?とささやかれたりした。
「いえ、あの、私は…。ちょっと、カレンさん!」
離れたところでニヤニヤしながら見ていたカレンに、思わず助けを求める。
「んー、マリア。あともう少しがんばって。フミヤがまだ気づいてないのよ」
「がんばるって、そんな。助けてくださいー!」
真里亜を取り囲む男性は、増える一方だった。
*****
CEOのジョンと、かなり打ち解けて話せるようになった文哉に、ジョンは具体的な仕事の話をしていた。
今後はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、そして中国や日本の企業とも連携しながら、独自のセキュリティシステム開発チームを作りたい。
日本からは、AMAGIコーポレーションを招くよと言われ、文哉も、大変光栄ですと頭を下げた。
詳しいことは今後キュリアス ジャパンを通じて連絡する。またいつでもニューヨークに遊びに来てくれ、と言われて文哉も笑顔で頷く。
ようやくジョンが離れて行き、ふうと肩の力を抜いた文哉は、ふと後ろを振り返った。
そこにいるはずの真里亜がいない。
(あれ?あいつ、どこに行った?)
会場内を見渡してみるが、それらしい姿は見えない。
(おかしいな…)
キョロキョロしながら歩いていると、壁際でグラスを片手に何やら嬉しそうにしているカレンを見つけた。
カレンは文哉の視線に気づき、ニヤッと笑ってから親指でクイッと部屋の中央を指差す。
なんだ?とその先に目をやると、何人もの男性に囲まれている女性の後ろ姿が見えた。
黒髪をアップでまとめ、ブラックのドレスの背中は大きく開いている。
うなじから首筋、そして背中のラインまでをスーッと撫でたくなるような、真っ白で美しい肌。
少し動くと両サイドのスリットからのぞく足のラインも綺麗で、肩から素肌をさらしているスラリと長い両腕もとても大人っぽい。
映画のワンシーンみたいだな、と文哉がぼんやり眺めていると、やがて横から話しかけてきた男性の方に女性は身体の向きを変えた。
胸の谷間がはっきり分かり、文哉は思わずドキッとする。
(うわっ、目のやり場に困るな。って、ん?)
眉間にしわを寄せながらマジマジと女性の顔を見つめる。
(え、ちょっと待て。もしかして、あいつなのか?!)
文哉は何かを考えるよりも先に、ツカツカと近づいて行く。
「副社長」
驚いたように声を上げる真里亜の肩を、グイッと抱き寄せた。
Excuse me. と言いながら男性の輪の中から真里亜を連れ出すと、壁際まで連れて来る。
「あ、あの、副社長?」
ムッとした表情のままの文哉に、真里亜がおずおずと声をかける。
「お前な、なんでそんなに無防備なんだ!少しは考えろ!」
「ご、ごめんなさい」
強い口調に驚いて、真里亜が目を潤ませながら謝ると、文哉はハッとして慌てて否定した。
「いや、違う。すまん、俺が悪かった」
どうしてこんなにカッとなってしまったのか分からないが、一刻も早く男達の前から真里亜を連れ出したかった。
「あ、えっと。俺のそばから離れるな。いいか?」
「はい、すみません」
潤んだ瞳で見上げられ、文哉は頭がクラッとした。
身体のラインがはっきりと分かる大胆なドレスに豊かな胸の谷間。
ホテルの部屋を出た時に、真里亜の腰に手を回してそのくびれた感触に驚いたことを思い出す。
今も手に残る、あの艶めかしい腰のライン。
セクシーなドレス姿に加えて、今自分を見つめてくる瞳は涙で少し潤んでいる。
(はあ、ためだ。おかしくなる)
少し頭を冷やさなければ、と部屋を出ようとして、文哉はふと足を止めた。
「カレンさんと一緒にいろ。すぐに戻る」
「はい、分かりました」
真里亜に言い残してから、文哉はすぐさま視線を逸らして部屋を出た。
*****
「カレンさん!」
真里亜はカレンに駆け寄って声をかける。
「あの、ショールを返していただけますか?」
「あら、もったいない。せっかくあんなにモテてたのに」
「いえ、本当に必要なんです。お願いします」
「そうね、フミヤはもう充分自覚したみたいだし。はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
真里亜はカレンからショールを受け取ると、肩から掛けて胸と背中を隠し、急いで部屋を出た。
「副社長!」
通路の壁にもたれていた文哉を見つけると、慌ててそばに行く。
「大丈夫ですか?ご気分は?」
「大丈夫だ。心配するな」
文哉は、真里亜がショールを掛けていることにホッとして、いつもの落ち着いた口調に戻った。
「良かったです。あの、何か召し上がりますか?」
「ん?ああ、そうだな。お前は?何か食べたか?」
「いえ、まだ何も」
「そうか。じゃあ、おいで」
文哉は真里亜の肩を抱くと、そっと部屋のドアを開けて会場の中に促す。
大きなカーテンがタッセルでまとめられている横に椅子があり、文哉は真里亜をそこに座らせた。
「ここで待ってろ」
「はい」
料理が並ぶカウンターに行くと、文哉は真里亜が好きそうな物を選んでプレートに盛り付けた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。副社長は?」
「今取ってくるよ」
もう一度カウンターへ行き、戻って来ると、真里亜は料理に手をつけずに待っていた。
「じゃあ食べるか」
「はい、いただきます」
カーテンの影で人目につかないその席で、二人はゆっくりと美味しい料理を味わう。
「副社長。CEOとのお話はいかがでしたか?」
「ああ。感触は良かったよ。詳しいことはあとで話すが、国際的なセキュリティシステム開発チームにAMAGIも入れてもらえそうだ」
「そうなんですね!すごい」
「これから社内で、またチームを立ち上げないとな。英語が堪能な人材と、システムエンジニアの人数も増やしたい」
それを聞いて、真里亜はふと藤田を思い出した。
「副社長。システムエンジニアを増やすのは、社内から選考するのもアリですか?」
「ん?そうだな。もちろんそれも考えよう。新入社員に1からAMAGIの経営理念を理解してもらうよりも、既に社員として働いてくれている人の方が好ましい。エンジニアとしての力量と本人の熱意次第で、即戦力になってもらえれば」
「そうですね」
真里亜は嬉しそうに頷く。
(藤田くん、チャンスだよ!がんばって掴み取ってね!)
心の中で、真里亜は藤田にエールを贈った。
*****
「カレンさん、今日は本当にありがとうございました」
パーティーもお開きとなり、ホテルまで送ってもらうと、真里亜は改めてカレンに礼を言う。
「ヘアクリップも、ありがとうございました。それとこのドレスは、ホテルのクリーニングに出してからお返ししますね」
「いいのよ。ドレスもヘアクリップもプレゼントするわ。受け取ってちょうだい」
「でも、こんな高価なものを…」
「気にしないでってば。それより明日は、また10時に迎えに来るわね。オフィスを案内するだけだから、カジュアルなスタイルで大丈夫よ。じゃあねー!」
カレンは軽やかに車に戻ると、手を振って去って行った。
真里亜は文哉とエレベーターに乗り部屋に向かう。
「日本は今、昼頃か。社長に少し電話で報告しておこう」
「かしこまりました。資料を持ってすぐお部屋に伺います」
部屋の前で別れると、すぐさま真里亜はシャツとジーンズに着替え、タブレットに少し入力してから文哉の部屋に繋がる部屋をノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
部屋に入ると、文哉は真里亜を2度見する。
「どうかしましたか?」
「いや、あの。着替えたんだな」
「え?はい」
「そうか」
文哉はジャケットとタイを外し、シャツの袖をまくるとデスクの前に座る。
真里亜は文哉に、タブレットに入力した箇条書きの項目を見せた。
「CEOとの話の内容、今後の展望、社に戻ってからやるべきことなど、ざっくりですがこちらでよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだな。分かりやすい。いつの間にこれを?」
「えっと、今の間です」
「なんだそれ、ははっ!」
文哉はおかしそうに笑ってから、日本にいる社長に電話をかける。
真里亜は、文哉の言葉に合わせて必要な資料を並べていった。
5分程で電話を終えると、文哉は真里亜に頷いてみせた。
「社長からも、改めてジョンにコンタクトを取って挨拶するらしい」
「そうですか、良かったです」
「ああ。これで一段落だな」
「そうですね。残すは明日のオフィス見学だけですし。副社長、お疲れ様でした」
「お前もな。お疲れ様」
うーん、と伸びをしてから、文哉はデスクに片肘をついて真里亜を斜めに見上げる。
「お前、冬休みは特に予定ないか?」
「え?あ、はい」
「だったら、クリスマスが終わるまでこっちにいないか?」
えっ、と真里亜は驚く。
「社長もそうしたらどうだ?と言っていた。せっかくニューヨークにいるのに、クリスマス目前に帰国するなんて、3つ星レストランに入って料理を食べずに帰るようなものだって」
「ふふっ、それはもったいないですね」
「だろ?じゃあ、26日にここを発つ便で帰ろうか」
「はい。ありがとうございます」
真里亜は思いがけず楽しい休暇になりそうで、胸がワクワクした。
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彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。
仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。
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