魔法のいらないシンデレラ

葉月 まい

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会議

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パンフレットの制作は順調に進んでいた。

今日は古谷も交え、四季の写真を選ぶ。

春は、4月に撮影したものがたくさんあるのでそこから厳選する。

夏と秋は、昨年古谷が撮っていた、ホテルから見える花火と紅葉の写真。

冬はコンテストの写真に加え、雪化粧のホテルの写真も使う。

これでひと通り、総合パンフレットと外国語用パンフレットの写真は揃った。

あとは、これをデザインし、完成したら、また別のパンフレットに取り組むことになる。

先はまだまだ長いけれど、瑠璃はとても楽しみだった。

古谷が、帰りがけにホテルの庭を撮影するというので、瑠璃もついて行くことにした。

SNSにアップする、花の写真を撮りたかった。

瑠璃がスマートフォンでバラの写真を撮っていると、古谷がアドバイスしてくれる。

「この花なら、真上から撮った方がいいかな」

瑠璃の手に自分の手を添え、角度や距離を微調整すると、うん、ここ!と合図する。

瑠璃はすかさず画面をタップした。

「うわー、きれい!花びらの1枚1枚まで生命が宿っている感じ」
「ああ、本当に。みずみずしくていいですね。スマホでもこんなによく撮れるのか」

二人で小さな画面に顔を寄せ合っていると、ふと背後に人の気配を感じた。

「あ、総支配人!」

瑠璃と古谷は、急いで通路の端により、お疲れ様でございますと頭を下げる。

「ああ、いや…お疲れ様」

軽く手を挙げると、一生は二人の前を通り過ぎた。

*

「はい、じゃあ会議始めるよ」

青木の言葉に、企画広報課の全員が前方のホワイトボードに目を向ける。

そこには、
『7月 季節のお便り』
・夏休み
・花火大会
と、今日の議題が書かれている。

5月のお便りを発行し、次の発行は7月。

その内容を詰めるのだ。

「宿泊部からは、毎年恒例のプール付きプランと花火が見えるお部屋のプランが上がっている。我々の企画は、何かいいアイデアないかな?」

青木がぐるっと部屋を見渡す。

「夏休み…お子様向け…縁日とかどうですか?チェックインの時に、チケットみたいなのをお渡しして」
「あー、いいね!宴会場借りて、綿あめとか射的とか輪投げ…」
「チケットなくなったら、現金で1回100円とかにすると、制限なく楽しめていいかも」

男性陣のアイデアを、青木がホワイトボードに書き込んでいく。

「宴会場は、新館の方を使いましょう。ゆったり過ごしたいご年配のお客様もいらっしゃるから、本館ではあまりイベントで盛り上がらないように」

新館、宴会場…と、青木は次々と書き込む。

(なんだか楽しそう!私もお店番やりたいな)

瑠璃もワクワクしながら、ノートにペンを走らせる。

「花火大会の方はどうだ?何かアイデアある?」

青木の問いかけに、皆はうーんと考え込む。

「花火大会っていっても、臨海公園で上がる花火だしな。俺らが打ち上げる訳じゃないし」
「あはは、当たり前だろ?お前、花火職人にでもなって、ホテル目がけて打ち上げる気なのか?」
「ちげーよ!ま、気分的には、ドカーンと打ち上がりたいけどな」

皆が笑う中、あの…と奈々が控えめに手を挙げる。

「お、なに?奈々ちゃん」
「はい、あの…私、去年この花火大会見に行ったんです。その時にこのホテルの前を通ったら、屋台みたいなのが少しあって…」
「ああ、人通りが多くなるからね。毎年ちょっとした飲み物とかをテントの下で販売するんだ」
「ええ、それなんですけど。私、ホテルの屋台だから、なにかホテルらしいもの売ってるのかなって、少し期待して買いに行ったんです。そしたら、普通のペットボトルの飲み物で、少しがっかりして…」

瑠璃は想像してみた。

確かに、道端にずらっと並ぶ屋台の中、ホテルの屋台を見つけたら、どんなものか少し期待してしまうだろう。

「なるほど。そこまで考えたことなかったな。どんなものなら、ホテルらしいだろうか…え?あっ!総支配人!」

青木の言葉に、えっ?と皆が一斉に振り返る。

いつの間に入ってきたのだろうか、うしろのドアの近くで一生と早瀬が並んでこちらの様子を見ていた。

「お疲れ様でございます!」

課の全員が立ち上がって頭を下げると、ああ、お構いなく。続けて、と一生は片手を挙げる。

「は、はい。ではあの…皆の者、意見を…」

青木の口調がおかしくなるが、誰も笑わない。

(す、すごい緊張感)

瑠璃が固まっていると、またもや奈々が遠慮がちに手を挙げた。

「はい!奈々ちゃん、どうぞ!」

青木がすかさず指名する。

「はい、あの。レストランのハヤシライスって…テイクアウト出来ないでしょうか」
「え、ハヤシライスって、うちのホテルの名物の?」
「はい。屋台であの美味しいハヤシライスを売っていたら、私なら絶対買います」
「あー、そりゃ買うわ。俺も買う」
「だよな。あのハヤシライスを食べたくても、レストランに入るのはちょっと勇気がいるし」

皆の頷く顔を見ながら、青木は少し考え込む。

「ただなあ、ホテルとしてどうなんだろう。格が下がらないかな。料理長は渋るかも…」

確かに…と、皆も考え込む。

「あの、安っぽくならなければいいんじゃないでしょうか?」

瑠璃が恐る恐る口を開く。

「パッケージを工夫して、他の屋台とはひと味違う感じに出来れば…」

瑠璃の提案に、
「おお、それいいかも」
「高級感ある感じのな」
「インスタ映えするものとか?」
お互い顔を見合わせながら、口々に意見を言う。

「でも、パッケージにコストかかり過ぎるのもなあ。売上利益はきっちり出したいし」
「あの。それでしたら、市販の良さそうな容器に、ホテルの名前やロゴをデザインしたシールを貼るのはどうでしょう?デザイン次第では高級感を出せると思います」

奈々の提案に、皆の顔は明るくなった。

「よし、それでいってみよう」
「俺、パッケージをリサーチします」
「シールデザイン、奈々ちゃん頼むな」
「はい!」
「じゃあ、準備出来たら、調理部に提案してみるよ。いい返事もらえるといいな」

青木の言葉に、皆は大きく頷いた。

*

ふう、と総支配人室の椅子に深くもたれながら、一生は息を吐いた。

「お疲れ様でございます」

早瀬がコーヒーを淹れてくれる。

「ありがとう。なあ、早瀬」
「はい」
「いつもあんな感じなのか?企画広報課って」

一生は、さっきまで見ていた会議の様子を思い返していた。

あのあとも活発に意見を交換し、瑠璃の提案で、屋台ではアクセサリーも取り扱ってはどうか?となった。

花火大会は浴衣の人が多いから、ちょっとした和風の髪飾りやピアス、帯飾りもいいかも?と女子二人が言い、男性陣は、新鮮だなーと二人の意見を聞いていた。

「浴衣姿のかわいい彼女に、俺ならなんでも買ってあげたくなるわ」
「そうだよな、うん」
「あとさ、定番だけど、光るプレスレットとか、花火がハートに見えるホログラムメガネとかも、お子様向けにあるといいかも」

ワイワイと賑やかに話し合い、和風のアクセサリーは瑠璃が、お子様向けの光るグッズは、山下という男性社員がリサーチすることになり、会議は終了した。

「初めて会議を見学したけど、いつもあんなに活発なのか?」

一生の質問に、早瀬が答える。

「そうですね…私も少ししか参加したことはありませんが、あそこまで色々意見が出ることはなかったと思います。今まであの課は、男性社員ばかりでしたし」

なるほど…と一生は頷く。

「新入社員は、小山さんといったか?あの女性の」
「はい。小山 奈々さんです」

青木がよく、奈々ちゃん瑠璃ちゃんと話をするので、早瀬も覚えてしまった。

「ふうーん。女性二人が良い風になっているな」
「はい。ところで今日の会議、花火大会の日の屋台について意見が出ましたが、どう思われますか?アクセサリーや小物の販売はともかく…」
「ああ。ハヤシライスか?」

一生は背もたれから体を起こし、テーブルに両肘をつく。

「俺はいいと思う。安っぽさでマイナスイメージになってはいけないが、今日の意見だと、ホテルのイメージを損なわないよう工夫するみたいだしな。上手くやれば、新たなホテルの一歩に繋がると思う」

一生の言葉に早瀬も頷く。

「そうですね。調理部に良いプレゼンが出来て、賛同を得られるといいですね」
「ああ。企画広報課のお手並み拝見といこう。楽しみだな」

期待を込めて、一生は早瀬に笑いかけた。

*

(うーん…)

パソコンの画面に目を通した瑠璃は、難しい顔で考え込む。

それに気づいた隣の席の奈々が、どうしたの?と声をかけてきた。

「あ、うん。この間メールした、例の老舗ガラス工房なんだけどね」
「お返事が来たの?」
「そう。これ…」

そう言って、ノートパソコンの角度を変えて奈々に見せる。

「どれどれ?」

近くにいた他の社員も、瑠璃達を取り囲んでのぞき込む。

花火大会の屋台で扱うアクセサリーについて、風鈴のピアスがいいと思い、調べた瑠璃は、京都に古くからあるガラス工房に興味を引かれた。

量産して手軽にネット販売しているお店も多い中、この工房は1つ1つ宙吹きで作り、絵付けも全て手作業と、職人のこだわりが感じられる。

このホテルで扱うにはピッタリだと思い、青木に提案してみると、
「いいね、早速コンタクト取ってみて 」
と言われ、まずはメールでご挨拶してみたのだった。   

「えー、なになに。ご丁寧なメールをありがとうございました。拝見しましたが、こちらは昔ながらの小さな古い工房です。そちら様のような、都会の高級なホテルにはおよそ似つかわしくありません。私どものやり方で、コツコツと丹精込めて作っておりまして、このやり方を変えるつもりもございません…」
「ほー、つまり門前払いって感じか?」
「あるよなー、俺らにもこういうこと」

うんうんと、他の社員も頷く。

「きっとこの職人さんは、今まで色々なところから声をかけられたんだろうな。デパートとか、通販サイトとか」
「ああ。その度にこうやって断ってきたんだろう」
「時代の流れには飲まれず、伝統を守るって気概なんだろうな」

瑠璃は、皆の意見にじっと耳を傾けていた。

「で、どうする?瑠璃ちゃん。諦めて他を当たる?」

加藤の言葉に、瑠璃は首を振る。

「いえ、まだ諦めきれません。私、この工房に行ってみます」

おお?!と皆がどよめく。

「瑠璃ちゃん、意外にガッツあるね」
「京都だぜ?本当に行くの?」
「はい。行ってもよろしいでしょうか?」

瑠璃は青木に顔を向ける。

うーん…と少し目をつぶってから、青木はニッと笑った。

「うん、行っておいで。瑠璃ちゃんに任せる」
「はい!ありがとうございます」

立ち上がって頭を下げる瑠璃に、山下が声をかける。

「瑠璃ちゃん、俺達営業マンが1つアドバイスするとしたら…。こういう職人さんほど、本物だぜ」

そう言って、瑠璃にウインクしてみせた。

*

「そしてこちらが、営業部からの出張申請書です」
「分かった。あとでサインしておく」

早瀬の言葉に、パソコンを操作したまま一生は答える。

いつものように、その日のホテルの報告を、総支配人室で聞いていた。

「はい。ですがこの一枚だけは、先に目を通して頂けますか?」
「ん?なんだ」

手を止めて早瀬から受け取った書類に目を通す。

「えっ!この二人が?」

申請書にあった名前は、小山 奈々と早乙女 瑠璃。
出張先は京都だった。

「どういうことだ?この二人が、何しに京都へ?」
「老舗のガラス工房を訪れる、とあります」
「ガラス工房?」
「はい。おそらく、花火大会の屋台で扱うアクセサリーの件で」
「そ、その交渉をやらせるのか?瑠璃さんに?」
「そのようです」

一生は言葉を続けようと口を開いたが、佐知のセリフを思い出し、諦めて天井を仰いだ。

(口出しは出来ない。ただ、心配だ…)

ふうと小さくため息をついた。
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