夕陽を映すあなたの瞳

葉月 まい

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知らぬ間に大人に

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 「慎也!こっちこっち!」

 カフェに入って来た慎也を、愛理は、待ってましたとばかりに手招きする。

 「よ、お待たせーってなんか、熱烈歓迎されてるな、俺」
 「別にあんたを歓迎してるんじゃないの!誰かにこの話を聞いて欲しいの!早く伝えたくて…」
 「わ、分かったから。ちょっと待て。コーヒーくらい買わせろ」

 慎也は愛理の手を振りほどくと、カウンターでコーヒーを買って戻る。

 「で?何をそんなに話したいんだ?」

 席に座ると、愛理はグイッと顔を近づいてきた。

 「ね、慎也は同窓会のあと、昴と何か話した?」
 「ん?いや。ちょこっと、お疲れーみたいなメッセージは送ったけど。それがなんだ?」
 「あのね、どうやら同窓会の日、心が昴のマンションに泊まったらしいの」

 ええー?!と、慎也は驚いて仰け反る。

 「嘘だろ?よりによってあいつらが?」
 「本当よ。だって私、心から聞いたんだもん」
 「え、心が言ったのか?昴のマンションに泊まったって?本当に?」
 「本当だったら!同窓会の次の日、お疲れ様ー、昨日は終電間に合った?って電話したのね。そしたら心、それが間に合わなくてさー、結局伊吹くんのところに泊めてもらったのって」
 「マ、マジかよ!」
 「そう。しかもね!私がびっくりして、え、心、昴と何かあった?ひと晩泊めてもらって、何かあったんじゃない?って聞いたの。そしたらね」

 うんうん、と慎也は先を促す。

 「心、ひと言サラッと言ったのよ。『別に?寝ただけ』って」

 ヒーーー!!と、慎也は後ろに倒れ込む。

 「あ、あの二人が…、あの昴とあの心が…。しかも、何その大人なセリフ。寝ただけって。なんか、そんなのでいちいち騒ぐ俺達をお子ちゃま扱いするみたいな…」
 「そうなのよ!だから私もそれ以上聞けなくてさ。だって、『寝たけど、それが何か?』みたいな雰囲気なんだもん」
 「うっひゃー!何?あいつらって純情ぶってるけど、実は1周回って、もの凄い大人なのか?」
 「そうかも…。私、心のこと今度から師匠って呼ぼうかな」
 「俺も、昴師匠って呼ぼう」

 真顔で頷いたあと、愛理は肝心の用事を思い出す。

 今日二人で会うのには訳があった。

 「それで、どうする?集まったお金、何に使う?」

 同窓会が終わったあと、幹事の二人にお礼がしたいと、皆がこっそり500円ずつ送金してくれたのだった。

 合計金額17000円になり、このお金で二人に何かお返しをと、使い道を愛理と慎也で相談することにした。

 「どこかフレンチレストランにでも招待しようかと思ってたけど…。二人がそんな関係なら、ホテル宿泊券とかでも買う?」

 慎也が真剣に聞き、愛理も真顔で答える。

 「でも17000円だと、そんなにいいホテルには使えないんじゃ?」
 「だからさ、そこはほら、恋人達の大人のホテ…うぐっ」

 慎也の口を、愛理がガバッと押さえる。

 「バカ!何言ってんのよ?」 

 誰かに聞かれなかったか、慌てて周りをキョロキョロする。

 「まったくもう…。あの二人がそんな所に行くはずないでしょ?」
 「分からんぞ。だって『寝たけど、何か?』な二人だぞ?」
 「そ、そうね。そう言えばそうだわ」

 愛理はだんだん自信をなくす。

 「私、なんだか心のこと、知らない人みたいに感じちゃう。なんでも話せる仲だと思ってたのに…。いつの間にか私の知らない、大人の心になっちゃった」
 「おい、そんな大げさな…」

 涙ぐむ愛理を、慎也がなぐさめる。

 「心だって、別にお前のこともう友達じゃないとか、そんなふうに思ってる訳じゃないだろ?」
 「それは、そうかもしれないけど…」
 「よし、分かった!じゃあ、またあいつらと会おう!俺、昴にも聞いてみるからさ。な?」
 「うん…」

 ようやく愛理が頷き、慎也も、よしと頷いた。

*****

 「かんぱーい!」

 4人は笑顔でグラスを合わせる。

 数日前、慎也が昴に、愛理が心に連絡して、4人で同窓会の幹事の打ち上げをすることになり、今日こうして居酒屋に集まったのだった。

 「いやー、大成功だったな。同窓会」
 「ほんと!昴も心も、忙しい中ありがとうね」

 慎也と愛理に言われ、心と昴はいやいやと手を振る。

 「そんな、こちらこそだよ。慎也くんも愛理も、幹事じゃないのに手伝ってくれて、ありがとう!」
 「ああ、そうだな。本当に心強かったよ。それに、同窓会やろうって声かけしてくれてありがとう。おかげでみんなにまた会えて、楽しかったよ」

 今度は慎也達が恐縮する。

 「いやいや、そんな…って、なんだこのやり取り。もう今日は4人でパーッと飲もうぜ!」
 「そうだね!」

 そしてもう一度、乾杯した。

*****

 「あ、そうだ。久住、これベッドの下から出てきたんだ。久住のじゃないか?」

 そう言ってポケットに手を入れた昴は、心の手のひらに小さな物を載せる。

 「なあに?これ」

 キラキラ輝く何かの飾りのようだったが、心に思い当たる節はない。

 「それ、久住が同窓会の日に着てたワンピースの飾りじゃないかな」
 「あー!そう言えばそうかも。あの時、私、ベッドの下にポーイってワンピース脱ぎ捨てちゃったもんね」
 「うん。その時に取れたんだと思うよ」
 「そうだね。ありがとう!」
 「どういたしまして」

 会話を終えて正面を向いた心は、向かい側に座る愛理を見て驚いた。

 「え、愛理?どうしたの?顔が真っ赤だよ」
 「本当だ。熱でもあるんじゃないか?」

 心配する心と昴に、愛理は必死に否定する。

 「ち、違うの!そんなんじゃない。大丈夫だから」
 「そう?でもなんか、涙目になってるし…」
 「こ、これは、その、ちょっとセンチメンタルになっちゃって…。心が、私の知らない所に行っちゃったみたいな」

 ん?と、心は首をひねる。

 すると、愛理の隣の慎也が、ポンポンと愛理の頭をなでた。

 愛理は、ううっと慎也の肩に顔を埋める。

 え?と、さらに心は首をひねった。

 「ねえ、愛理と慎也くんって、またつき合い始めたのかな?」

 心が昴の耳元に口を寄せてそう言うと、昴も小さく頷いた。

 「そうかもな。慎也は何も言ってこないけど、多分同窓会でまた盛り上がったのかも」
 「そうね。でも、良かったよね」
 「ああ、そうだな」

 二人でふふっと微笑み合い、また正面を向くと、今度は慎也も顔を赤くしている。

 (やだ!愛理も慎也くんも、つき合いたての初々しい高校生みたいね)

 心はもう一度、ふふっと昴に微笑みかけた。

*****

 「それで?慎也、俺達に何か話があるって言ってなかったか?」

 しばらくして、昴が切り出す。

 「あ、そ、そうですよね。師匠」
 「は?なんだ、その師匠って」
 「いえ、こちらのことでして。あー、その。今回お二人には、幹事として色々お世話になり、皆が何かお礼をしたいと、少しずつお金を送金してくれたのであります」
 「ええー?!みんなが?」
 「はい。それでですね、お二人にお食事券をお贈りしようと思ったのですが、その…、大人なお二人にはもっと違う形の方がいいかと悩みまして。ここはズバリお二人に聞いてみようとなった次第でございます」

 慎也の妙な口調のせいで話がすんなり頭に入ってこないが、どうやらクラスメイト達が、お金を出し合ってくれたらしい。

 心は恐縮した。

 「そんな、いいのに。気を遣ってもらうほどのことはしてないよ。それに当日もみんな、ありがとう!って声かけてくれたし。それで充分だよ。ね?伊吹くん」
 「ああ、そうだな。じゃあそのお金は、次回の同窓会の費用に充てたらどう?」
 「あー、いいね!うん、そうしよう」

 昴の意見に同意して、心は慎也に言う。

 「そうしてくれる?慎也くん。またみんなで集まりたいし、その時の為にとっておいて。ね?」
 「そ、そんな…。いいんですか?師匠。さすがは大人なお二人だなあ」

 隣の愛理も、うんうんと頷いている。

 心はまた首をひねって、昴と顔を見合わせた。

*****

 「あー、楽しかった!お腹もいっぱいだし」

 お店を出て、4人で駅へと歩きながら心は満足そうに言う。

 「また一緒に飲もうぜ!せっかくこうやって再会したんだしさ。これからはもっと頻繁に会おう」
 「そうだよ。この4人で飲むの楽しいし」

 慎也と愛理の言葉に、心や昴も頷く。

 じゃあここでと別れたあと、昴が心に声をかけた。

 「そうだ、久住。俺、明後日から2週間、海外出張なんだ。もし良かったらこれ…」

 そう言ってマンションのカードキーを渡す。

 「え、いいの?」
 「うん。あ、別に留守番のことは気にしないで。久住がもし行きたくなった時の為に、お守り代わりに持ってて」

 お守り?と、心は少し首をかしげてから、ふふっと笑う。

 「うん。なんだか心強い。じゃあ、預かるね。ありがとう!」
 「ああ」

 微笑み合う二人を、離れた場所から見ていた愛理と慎也は、またもや、ヒー!!と仰け反る。

 「な、何?今なんか渡してたよね?あれって?」
 「も、もしや…。昴の部屋のカードキーか?」
 「ひゃー!!」

 そして近くのカフェに入り、また愛理は涙ぐみながら慎也と遅くまで語り合ったのだった。
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