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笑顔の日々
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瑠璃はそれから、徐々に普通の生活に戻し始め、仕事も短時間勤務で復帰した。
まだ安定期前だが、奈々にはこっそり妊娠を打ち明ける。
えー!?瑠璃ちゃん、おめでとう!と、奈々は感極まったように涙ぐみながら喜んでくれた。
そして、ふと真顔になる。
「だからしばらく瑠璃ちゃんお休みしてたのね。今はもう大丈夫?」
「うん、平気。お医者様にも仕事していいって言われてるし」
「そう。でも、くれぐれも体調気をつけてね。何かあったら、すぐに知らせてね」
「奈々ちゃんにそう言ってもらえると、とっても心強いわ」
あ、それと…と瑠璃は付け加える。
「課の皆さんには、安定期に入ったらお知らせするね」
「うん、分かった。誰にも言わないから」
「ありがとう。でも奈々ちゃんの彼氏さんにはお話しておくね」
「えっ、やだ!もう、瑠璃ちゃんたら!」
奈々は真っ赤になって声を上げる。
「奈々ちゃん、付き合ってもうすぐ1年になるのに、まだ初々しいのね。ラブラブだね」
そう言うとさらに赤くなる。
「もう、瑠璃ちゃんったら、なんか急に大人っぽくなって。いいなー、愛されてるって感じ」
「うふふ。それはお互い様でしょう?」
「そうだね」
二人は照れたように笑い合った。
♢
11月も後半に入ったある日の夜。
早瀬は閉店後の『トータルビューティーサロン』の扉を押す。
(ここに来るのは久しぶりだな)
そう思ったが、前回は逆に、ここに来るのも慣れたもんだと思っていたっけ。
(人の気持ちって変わるもんだな)
なんとなくそう考えながら、店内を見回す。
相変わらず広い店内にたくさんのスタッフがいて、見つけるのは困難だ。
と思っていたら、後ろから声をかけられた。
「早瀬さん、叶恵ちゃんならバックオフィスよ」
「今井チーフ。ありがとうございます」
頭を下げると、どうぞごゆっくり~と見送られた。
事務所へのドアを開け、廊下を進むと、窓から叶恵が机に向かっているのが見えた。
コンコンとドアをノックする。
「はーい…あ!早瀬さん」
叶恵はパッと笑顔になって立ち上がる。
「お疲れ様。ちょっといいかな?」
「もちろん、どうぞ」
向かいの椅子を勧めてくれる。
「なんだか久しぶりですね」
「ああ、そうだね」
「でも半年前までは、お互いすれ違う時に挨拶する程度だったのに。そう思うとなんだか不思議ですね」
「俺もさっき似たような事を考えてたんだ」
ふふっと二人でなんとなく微笑み合う。
「その後、どうですか?瑠璃さんは」
「うん。俺も直接は会ってないけど、お元気だと思う。だって、一生さんが分かりやすくデレデレしてるもん」
ブッと叶恵は吹き出す。
「分かりやすくデレデレって!でもその表現、分かりやすい」
「でしょ?だってその通りなんだもん。急に手を止めて、ホワワーンて顔するし、そうそう今日なんてね」
早瀬が身を乗り出すと、叶恵も、うんうん、と近づく。
「早瀬、お前の名前って響だよな?っていきなり言うの。はい、そうですが?って返事したら、漢字1文字の名前もいいな、だって」
「あっはは!それ絶対、赤ちゃんの名前考えてますよね?分かりやすーい!」
「でしょ?しかもその後、メモ帳に何やらたくさん文字書いてるの。俺、コーヒー置きながらさり気なくのぞき込もうとしたら、慌てて、くしゃくしゃポイッて」
叶恵はもう、どうにも止められないといったように笑い転げている。
「あー、おかしい。まったくもう、ちゃんと仕事してるんですか?お二人とも」
目元に浮かぶ涙を拭いながら、叶恵が呆れたように言う。
「してますよー、最低限はね」
「とか言って、私達も今かなり脱線してましたね。えーっと、何のお話でしたっけ?」
あ、そうそう、と早瀬はファイルから紙を取り出す。
「ずっとパーティーを断ってきたけど、そろそろ一生さんだけ、いくつか参加することになったんだ。11月末に1つと12月に2つ。どれも一生さんの衣装だけ用意してくれたら、当日俺がここに取りに来るから」
「はい、かしこまりました。あーあ、早く瑠璃さんのヘアメイク復活したいなあ」
「んー、まあしばらくはね。でもまた必ずお願いする日が来るからさ」
がっかり気味の叶恵をなだめるように言う。
「それに、ほら!クリスマス・イブのパーティーはキャンセルになったよ。君は午後からフリーなんじゃない?」
「えー、余計なお世話ですよー。一人で街をウロウロするくらいなら、仕事してた方がよっぽどいいですって…」
そこまで言って、ふと叶恵は真顔になる。
「ん?どうかした?」
早瀬が聞くと、叶恵はパッと顔を上げた。
「早瀬さん!ご提案があります。私に仕事もらえませんか?」
はい?と早瀬は首をかしげた。
♢
叶恵と話し込み、すっかり遅くなって総支配人室に戻ると、一生の姿はもうなかった。
あれ以来、瑠璃を連れて白石の運転する車で帰るため、一生の帰宅はかなり早くなっている。
その日の業務報告など、どうしても必要な時は、電話で相談する事になっていた。
(今日は特に電話をかける要件はないか…)
デスクの上の書類を確認していると、ふと、花瓶に新しい花が生けられているのに気づく。
そして花瓶の前に、小さな細長い箱とカードが置かれていた。
『Happy Birthday!
いつもありがとう 一生&瑠璃より』
と書かれている。
ふっと思わず笑みを漏らし、小さな箱を開けてみる。
中には、シックな色で光沢のある万年筆が入っていた。
よく見ると、HIBIKIと刻印されている。
早速メモ帳にペン先を走らせてみる。
とても書き心地が良かった。
(大切にしよう)
早瀬は、万年筆をもう一度両手で持つと、嬉しさに微笑んだ。
まだ安定期前だが、奈々にはこっそり妊娠を打ち明ける。
えー!?瑠璃ちゃん、おめでとう!と、奈々は感極まったように涙ぐみながら喜んでくれた。
そして、ふと真顔になる。
「だからしばらく瑠璃ちゃんお休みしてたのね。今はもう大丈夫?」
「うん、平気。お医者様にも仕事していいって言われてるし」
「そう。でも、くれぐれも体調気をつけてね。何かあったら、すぐに知らせてね」
「奈々ちゃんにそう言ってもらえると、とっても心強いわ」
あ、それと…と瑠璃は付け加える。
「課の皆さんには、安定期に入ったらお知らせするね」
「うん、分かった。誰にも言わないから」
「ありがとう。でも奈々ちゃんの彼氏さんにはお話しておくね」
「えっ、やだ!もう、瑠璃ちゃんたら!」
奈々は真っ赤になって声を上げる。
「奈々ちゃん、付き合ってもうすぐ1年になるのに、まだ初々しいのね。ラブラブだね」
そう言うとさらに赤くなる。
「もう、瑠璃ちゃんったら、なんか急に大人っぽくなって。いいなー、愛されてるって感じ」
「うふふ。それはお互い様でしょう?」
「そうだね」
二人は照れたように笑い合った。
♢
11月も後半に入ったある日の夜。
早瀬は閉店後の『トータルビューティーサロン』の扉を押す。
(ここに来るのは久しぶりだな)
そう思ったが、前回は逆に、ここに来るのも慣れたもんだと思っていたっけ。
(人の気持ちって変わるもんだな)
なんとなくそう考えながら、店内を見回す。
相変わらず広い店内にたくさんのスタッフがいて、見つけるのは困難だ。
と思っていたら、後ろから声をかけられた。
「早瀬さん、叶恵ちゃんならバックオフィスよ」
「今井チーフ。ありがとうございます」
頭を下げると、どうぞごゆっくり~と見送られた。
事務所へのドアを開け、廊下を進むと、窓から叶恵が机に向かっているのが見えた。
コンコンとドアをノックする。
「はーい…あ!早瀬さん」
叶恵はパッと笑顔になって立ち上がる。
「お疲れ様。ちょっといいかな?」
「もちろん、どうぞ」
向かいの椅子を勧めてくれる。
「なんだか久しぶりですね」
「ああ、そうだね」
「でも半年前までは、お互いすれ違う時に挨拶する程度だったのに。そう思うとなんだか不思議ですね」
「俺もさっき似たような事を考えてたんだ」
ふふっと二人でなんとなく微笑み合う。
「その後、どうですか?瑠璃さんは」
「うん。俺も直接は会ってないけど、お元気だと思う。だって、一生さんが分かりやすくデレデレしてるもん」
ブッと叶恵は吹き出す。
「分かりやすくデレデレって!でもその表現、分かりやすい」
「でしょ?だってその通りなんだもん。急に手を止めて、ホワワーンて顔するし、そうそう今日なんてね」
早瀬が身を乗り出すと、叶恵も、うんうん、と近づく。
「早瀬、お前の名前って響だよな?っていきなり言うの。はい、そうですが?って返事したら、漢字1文字の名前もいいな、だって」
「あっはは!それ絶対、赤ちゃんの名前考えてますよね?分かりやすーい!」
「でしょ?しかもその後、メモ帳に何やらたくさん文字書いてるの。俺、コーヒー置きながらさり気なくのぞき込もうとしたら、慌てて、くしゃくしゃポイッて」
叶恵はもう、どうにも止められないといったように笑い転げている。
「あー、おかしい。まったくもう、ちゃんと仕事してるんですか?お二人とも」
目元に浮かぶ涙を拭いながら、叶恵が呆れたように言う。
「してますよー、最低限はね」
「とか言って、私達も今かなり脱線してましたね。えーっと、何のお話でしたっけ?」
あ、そうそう、と早瀬はファイルから紙を取り出す。
「ずっとパーティーを断ってきたけど、そろそろ一生さんだけ、いくつか参加することになったんだ。11月末に1つと12月に2つ。どれも一生さんの衣装だけ用意してくれたら、当日俺がここに取りに来るから」
「はい、かしこまりました。あーあ、早く瑠璃さんのヘアメイク復活したいなあ」
「んー、まあしばらくはね。でもまた必ずお願いする日が来るからさ」
がっかり気味の叶恵をなだめるように言う。
「それに、ほら!クリスマス・イブのパーティーはキャンセルになったよ。君は午後からフリーなんじゃない?」
「えー、余計なお世話ですよー。一人で街をウロウロするくらいなら、仕事してた方がよっぽどいいですって…」
そこまで言って、ふと叶恵は真顔になる。
「ん?どうかした?」
早瀬が聞くと、叶恵はパッと顔を上げた。
「早瀬さん!ご提案があります。私に仕事もらえませんか?」
はい?と早瀬は首をかしげた。
♢
叶恵と話し込み、すっかり遅くなって総支配人室に戻ると、一生の姿はもうなかった。
あれ以来、瑠璃を連れて白石の運転する車で帰るため、一生の帰宅はかなり早くなっている。
その日の業務報告など、どうしても必要な時は、電話で相談する事になっていた。
(今日は特に電話をかける要件はないか…)
デスクの上の書類を確認していると、ふと、花瓶に新しい花が生けられているのに気づく。
そして花瓶の前に、小さな細長い箱とカードが置かれていた。
『Happy Birthday!
いつもありがとう 一生&瑠璃より』
と書かれている。
ふっと思わず笑みを漏らし、小さな箱を開けてみる。
中には、シックな色で光沢のある万年筆が入っていた。
よく見ると、HIBIKIと刻印されている。
早速メモ帳にペン先を走らせてみる。
とても書き心地が良かった。
(大切にしよう)
早瀬は、万年筆をもう一度両手で持つと、嬉しさに微笑んだ。
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