魔法のいらないシンデレラ 2

葉月 まい

文字の大きさ
18 / 22

笑顔の日々

しおりを挟む
瑠璃はそれから、徐々に普通の生活に戻し始め、仕事も短時間勤務で復帰した。

まだ安定期前だが、奈々にはこっそり妊娠を打ち明ける。

えー!?瑠璃ちゃん、おめでとう!と、奈々は感極まったように涙ぐみながら喜んでくれた。

そして、ふと真顔になる。

「だからしばらく瑠璃ちゃんお休みしてたのね。今はもう大丈夫?」
「うん、平気。お医者様にも仕事していいって言われてるし」
「そう。でも、くれぐれも体調気をつけてね。何かあったら、すぐに知らせてね」
「奈々ちゃんにそう言ってもらえると、とっても心強いわ」

あ、それと…と瑠璃は付け加える。

「課の皆さんには、安定期に入ったらお知らせするね」
「うん、分かった。誰にも言わないから」
「ありがとう。でも奈々ちゃんの彼氏さんにはお話しておくね」
「えっ、やだ!もう、瑠璃ちゃんたら!」

奈々は真っ赤になって声を上げる。

「奈々ちゃん、付き合ってもうすぐ1年になるのに、まだ初々しいのね。ラブラブだね」

そう言うとさらに赤くなる。

「もう、瑠璃ちゃんったら、なんか急に大人っぽくなって。いいなー、愛されてるって感じ」
「うふふ。それはお互い様でしょう?」
「そうだね」

二人は照れたように笑い合った。



11月も後半に入ったある日の夜。

早瀬は閉店後の『トータルビューティーサロン』の扉を押す。

(ここに来るのは久しぶりだな)

そう思ったが、前回は逆に、ここに来るのも慣れたもんだと思っていたっけ。

(人の気持ちって変わるもんだな)

なんとなくそう考えながら、店内を見回す。

相変わらず広い店内にたくさんのスタッフがいて、見つけるのは困難だ。

と思っていたら、後ろから声をかけられた。

「早瀬さん、叶恵ちゃんならバックオフィスよ」
「今井チーフ。ありがとうございます」

頭を下げると、どうぞごゆっくり~と見送られた。

事務所へのドアを開け、廊下を進むと、窓から叶恵が机に向かっているのが見えた。

コンコンとドアをノックする。

「はーい…あ!早瀬さん」

叶恵はパッと笑顔になって立ち上がる。

「お疲れ様。ちょっといいかな?」
「もちろん、どうぞ」

向かいの椅子を勧めてくれる。

「なんだか久しぶりですね」
「ああ、そうだね」
「でも半年前までは、お互いすれ違う時に挨拶する程度だったのに。そう思うとなんだか不思議ですね」
「俺もさっき似たような事を考えてたんだ」

ふふっと二人でなんとなく微笑み合う。

「その後、どうですか?瑠璃さんは」
「うん。俺も直接は会ってないけど、お元気だと思う。だって、一生さんが分かりやすくデレデレしてるもん」

ブッと叶恵は吹き出す。

「分かりやすくデレデレって!でもその表現、分かりやすい」
「でしょ?だってその通りなんだもん。急に手を止めて、ホワワーンて顔するし、そうそう今日なんてね」

早瀬が身を乗り出すと、叶恵も、うんうん、と近づく。

「早瀬、お前の名前って響だよな?っていきなり言うの。はい、そうですが?って返事したら、漢字1文字の名前もいいな、だって」
「あっはは!それ絶対、赤ちゃんの名前考えてますよね?分かりやすーい!」
「でしょ?しかもその後、メモ帳に何やらたくさん文字書いてるの。俺、コーヒー置きながらさり気なくのぞき込もうとしたら、慌てて、くしゃくしゃポイッて」

叶恵はもう、どうにも止められないといったように笑い転げている。

「あー、おかしい。まったくもう、ちゃんと仕事してるんですか?お二人とも」

目元に浮かぶ涙を拭いながら、叶恵が呆れたように言う。

「してますよー、最低限はね」
「とか言って、私達も今かなり脱線してましたね。えーっと、何のお話でしたっけ?」

あ、そうそう、と早瀬はファイルから紙を取り出す。

「ずっとパーティーを断ってきたけど、そろそろ一生さんだけ、いくつか参加することになったんだ。11月末に1つと12月に2つ。どれも一生さんの衣装だけ用意してくれたら、当日俺がここに取りに来るから」
「はい、かしこまりました。あーあ、早く瑠璃さんのヘアメイク復活したいなあ」
「んー、まあしばらくはね。でもまた必ずお願いする日が来るからさ」

がっかり気味の叶恵をなだめるように言う。

「それに、ほら!クリスマス・イブのパーティーはキャンセルになったよ。君は午後からフリーなんじゃない?」
「えー、余計なお世話ですよー。一人で街をウロウロするくらいなら、仕事してた方がよっぽどいいですって…」

そこまで言って、ふと叶恵は真顔になる。

「ん?どうかした?」

早瀬が聞くと、叶恵はパッと顔を上げた。

「早瀬さん!ご提案があります。私に仕事もらえませんか?」

はい?と早瀬は首をかしげた。



叶恵と話し込み、すっかり遅くなって総支配人室に戻ると、一生の姿はもうなかった。

あれ以来、瑠璃を連れて白石の運転する車で帰るため、一生の帰宅はかなり早くなっている。

その日の業務報告など、どうしても必要な時は、電話で相談する事になっていた。

(今日は特に電話をかける要件はないか…)

デスクの上の書類を確認していると、ふと、花瓶に新しい花が生けられているのに気づく。

そして花瓶の前に、小さな細長い箱とカードが置かれていた。

『Happy Birthday!
いつもありがとう     一生&瑠璃より』

と書かれている。

ふっと思わず笑みを漏らし、小さな箱を開けてみる。

中には、シックな色で光沢のある万年筆が入っていた。

よく見ると、HIBIKIと刻印されている。

早速メモ帳にペン先を走らせてみる。

とても書き心地が良かった。

(大切にしよう)

早瀬は、万年筆をもう一度両手で持つと、嬉しさに微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

2月31日 ~少しずれている世界~

希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった 4年に一度やってくる2月29日の誕生日。 日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。 でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。 私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。 翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

地味な陰キャの私。秘密の図書室で、完璧な王子様の”裏の顔”を知ってしまいました

久遠翠
恋愛
教室の隅で息を潜める、分厚い眼鏡の陰キャ女子・山崎静。彼女の唯一の安らぎは、月に一度だけ訪れる旧校舎の「第三図書準備室」。そこは、誰にも邪魔されない彼女だけの聖域――のはずだった。 ある日、その聖域に足を踏み入れたのは、スポーツ万能、成績優秀、誰もが憧れる学園の完璧王子・橘慶一郎。住む世界が違うはずの彼が読んでいたのは、静が愛してやまない超マイナーSF小説だった!? 「もしかして、あなたも――」 この出会いをきっかけに、出席番号25番同士の二人は、毎月25日だけの「秘密の友達」になる。完璧な仮面の下に重度のオタクな素顔を隠す王子と、分厚い眼鏡の下に類いまれなる才能を隠す少女。古書の匂いが満ちる静かな部屋で、二人の心は少しずつ近づいていく。 これは、冴えない少女が本当の自分を見つけ、最高の恋を手に入れる、甘くて少しだけ切ないシンデレラストーリー。ギャップ萌え満載の、心温まる放課後ラブコメディ!

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。 お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、 “氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。 最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、 実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき―― 舞子の中で、恋が芽生えはじめる。 でも、彼には誰も知らない過去があった。 そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。 ◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか? ◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか? そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。 笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。 関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。 仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。 「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。

処理中です...