アンコール マリアージュ

葉月 まい

文字の大きさ
20 / 25

やっと気付いてくれました?!

しおりを挟む
 「はあ、もう、魂が抜けた…」

 披露宴は無事にお開きとなり、身支度を整えた新郎新婦を見送ると、オフィスに戻った真菜は、デスクにバタリと突っ伏した。

 「齊藤 真菜…、もはや胸が一杯です」

 ボーッと呆けていると、久保にバシッと背中を叩かれた。

 「いったーい!」
 「何ボーッとしてるの!ほら、取材行ってらっしゃい。記者さん、サロンでお待ちよ」
 「取材?取材…って。ああー!」

 真菜は、ガバッと立ち上がると、急いでオフィスを出た。

 「す、す、すみません!私ったら、途中から取材の事すっかり忘れてしまって…。菊池さんのことも、放ったらかしにしてしまいましたよね。本当にすみません」

 サロンのテーブルで、何やら熱心にパソコンに打ち込んでいた菊池が、顔を上げて真菜に微笑む。

 「いいえー。とっても素晴らしい式と披露宴だったわ。もう私、興奮しちゃって、手が止まらないの。すっごくいい記事になりそう」

 お時間あるかしら?少しお話聞かせてもらえる?と言われ、はいと頷いた真菜は、菊池の斜め向かいに座っている人物に気付いた。

 (誰?…って、真さんかいっ!忘れてた…この人も今日来てたんだ)

 はあ、とため息をつきながら、真菜は真の隣の椅子に座った。

 「じゃあ、真菜さんがウェディングプランナーを目指したのは、結婚式に憧れてたから?」  
 「はい。子どもの頃からお姫様ごっこが好きで、結婚式にも人一倍憧れが強かったんです。自分の時は、どんなドレスでどんな髪型にしようかなー、とか、式場はどこがいいかな?どんな式にしようかなって」
 「なるほどねー」

 真菜の話を聞きながら、菊池はパソコンをカタカタと打ち込んでいく。

 「では、数あるウェディング会社の中から、このアニヴェルセル・エトワールを就職先に選んだのはなぜ?」
 「はい。他の式場では、例えばプランナーは打ち合わせだけ、ドレス選びは衣裳係に、当日のサポートは介添えに任せるって所が多かったんです。でもここは、新郎新婦のお二人を、初めましての時から、挙式後におめでとうございましたとお見送りするまで、ずっと担当させてもらえます。私、せっかく担当させてもらえたお客様は、挙式と披露宴までずっと関わらせてもらいたくて、当日もお二人のそばでお手伝いしたくて。だからここで働こうと思いました」
 「なるほど。それであんなにも、今日の新郎新婦とも打ち解けていたのね。私、もらい泣きしちゃいましたよ。さっきの披露宴」

 す、すみません、と真菜は気まずくなってうつむく。

 「いいえ、本当に素敵でしたよ。では続いて専務の齊藤さんにもお話聞かせてもらえますか?御社では、現場のスタッフをどの様に指導されているのですか?こちらのスタッフの方は、皆様、とても優れていらっしゃるとお見受けしましたが」
 「いえ、弊社では、本社の人間が現場のスタッフを直接指導する事はありません。マニュアルや決まりなども一切なく、全て現場に任せています」

 真が、淡々と話し出す。

 「へえー、それは驚きました。でもなぜですか?スタッフの質、と言っては失礼ですが、接客態度など、きちんと出来ているか気になりませんか?」
 「お客様のことを1番良く分かっているのは、現場にいるスタッフです。本社の人間は、お客様と接する機会もほとんどなく、挙式や披露宴でも、細部まで気が回りません。おかしな話、本社の役員達がお客様を担当しても、挙式や披露宴を滞りなく執り行う事は出来ないでしょう。私は現場のスタッフ1人1人を信頼し、そして尊敬しています。彼らはそれぞれのプロとして仕事をこなしてくれており、お客様から感謝のお言葉を頂く事も多いです」

 菊池は大きく頷く。

 「それは、今日1日拝見していて私も良く分かりました。こちらのスタッフの方々は、誰かに指示される事は全くなく、いつも自ら進んで行動されていました。そして連携も素晴らしい。きっとお互いを信頼し合っているからなのでしょうね」
 「ありがとうございます」

 真剣に話をしていた菊池は、やがてパソコンを打つ手を止めて、顔を上げた。

 「では最後に、せっかくですから、真菜さんと専務がお話されてる様子を写真に撮らせて頂けますか?お互い笑顔でお願いします」
 「は?!」

 真菜は、すっとんきょうな声を上げる。

 「いえ、あの、専務は雲の上の存在ですから、私の様な下々の者とお話なんてそんな、滅相もない」

 真菜がブンブン手を振っていると、隣から、
 よく言うよ、と声がした。

 「…はい?今、何かおっしゃいました?」
 「別に。どの口が言ってんだって思っただけだ」
 「この口ですけど、何か?」

 小声でいがみ合う真菜と真を、まあまあと菊池がなだめる。

 「えっと、さっきまで非常に良いお話を聞かせて頂いてましたが、どうしたんでしょうかねえ、ははは。では、とにかくお二人並んだお写真だけ撮らせて下さいね」

 もう少し近付いて、と言われ、仕方なく真菜は真と肩を並べる。

 と、ふいに真が声をかけてきた。

 「おい、お前、その顔どうにかしろ」
 「はいー?私に喧嘩売ってます?」
 「そうじゃない。いくらなんでも酷すぎるぞ」
 「失礼な!うら若き乙女に、顔が酷すぎるとは。例えお偉い方のお言葉でも、黙って聞き流す訳にはいきませぬ」
 「その変な口調もやめろ。とにかく、鏡見て来い」

 真菜がムッとすると、菊池も恐る恐る口を挟む。

 「確かに。あの…真菜さん?ちょっとこれ見て?」

 そう言って菊池が差し出したコンパクトミラーを覗き込み、真菜は、ギャー!と悲鳴を上げた。

 「ったくもう、どんなに涙もろい新婦様だって、ここまで目を腫らした事はなかったわよ?もはや、私のメイクでも隠し切れん」

 そう言って希は、ガーゼで包んだ保冷剤を真菜の両目に当てた。

 「あー、気持ちいいー」

 真菜は上を向いたまま、希に身を任せている。

 久保はサロンに行き、真菜の顔を修復しますので、少々お待ち頂けますか?と、菊池と真に声をかけた。

 仕方なく、二人はそのまま座って待つ。

 菊池は自社の雑誌、ドリーム ウェディングをペラペラめくりながら、真に話しかけた。

 「御社のブライダルフェアのお写真、いつも素敵ですよねー。このカップル、凄い美男美女ですけど、いつもこのモデルさんに頼んでいらっしゃるんですか?」
 「そういう訳ではないです。別のモデルがやる時もありますし…」

 そこまで言ってから、真は急に、あー!と声を上げて、菊池を驚かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

深冬 芽以
恋愛
あらすじ  俵理人《たわらりひと》34歳、職業は秘書室長兼社長秘書。  女は扱いやすく、身体の相性が良ければいい。  結婚なんて冗談じゃない。  そう思っていたのに。  勘違いストーカー女から逃げるように引っ越したマンションで理人が再会したのは、過去に激しく叱責された女。  年上で子持ちのデキる女なんて面倒くさいばかりなのに、つい関わらずにはいられない。  そして、互いの利害の一致のため、偽装恋人関係となる。  必要な時だけ恋人を演じればいい。  それだけのはずが……。 「偽装でも、恋人だろ?」  彼女の甘い香りに惹き寄せられて、抗えない――。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には "恋"も"愛"も存在しない。 高校の同級生が上司となって 私の前に現れただけの話。 .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ Иatural+ 企画開発部部長 日下部 郁弥(30) × 転職したてのエリアマネージャー 佐藤 琴葉(30) .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚ 偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の 貴方を見つけて… 高校時代の面影がない私は… 弱っていそうな貴方を誘惑した。 : : ♡o。+..:* : 「本当は大好きだった……」 ───そんな気持ちを隠したままに 欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。 【誘惑の延長線上、君を囲う。】

2人のあなたに愛されて ~歪んだ溺愛と密かな溺愛~

けいこ
恋愛
「柚葉ちゃん。僕と付き合ってほしい。ずっと君のことが好きだったんだ」 片思いだった若きイケメン社長からの突然の告白。 嘘みたいに深い愛情を注がれ、毎日ドキドキの日々を過ごしてる。 「僕の奥さんは柚葉しかいない。どんなことがあっても、一生君を幸せにするから。嘘じゃないよ。絶対に君を離さない」 結婚も決まって幸せ過ぎる私の目の前に現れたのは、もう1人のあなた。 大好きな彼の双子の弟。 第一印象は最悪―― なのに、信じられない裏切りによって天国から地獄に突き落とされた私を、あなたは不器用に包み込んでくれる。 愛情、裏切り、偽装恋愛、同居……そして、結婚。 あんなに穏やかだったはずの日常が、突然、嵐に巻き込まれたかのように目まぐるしく動き出す――

ヒ・ミ・ツ~許嫁は兄の親友~(旧:遠回りして気付いた想い)[完]

麻沙綺
恋愛
ごく普通の家庭で育っている女の子のはずが、実は……。 お兄ちゃんの親友に溺愛されるが、それを煩わしいとさえ感じてる主人公。いつしかそれが当たり前に……。 視線がコロコロ変わります。 なろうでもあげていますが、改稿しつつあげていきますので、なろうとは多少異なる部分もあると思いますが、宜しくお願い致します。

美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長 『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。 ノースサイド出身のセレブリティ × ☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員 名取フラワーズの社員だが、理由があって 伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。 恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が 花屋の女性の夢を応援し始めた。 最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

処理中です...